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第四章: 騎士団長との出会い

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魔力の暴走を経験してから数日が経ったが、私の心はまだ完全に落ち着いていなかった。自分の中に秘められた強大な力を制御することができず、さらにそれを知る者たちがいるという現実は、私にとって重いものだった。レオナルド王子が助けてくれたことで一時的には収まったものの、今後も同じようなことが起こる可能性がある。

そんな不安を抱えながら、私は毎日のように庭でのんびりと過ごしていた。何も考えず、ただ自然の中で過ごすことが、唯一の心の癒しだった。しかし、平穏な日々が長く続くことはなかった。

ある日、いつもと同じように庭を歩いていると、突然背後から騎士のような足音が聞こえた。振り返ると、そこには屈強な体つきの男が立っていた。彼の鎧は光を反射して輝いており、その目は鋭く私を見据えていた。彼はすぐに一礼し、口を開いた。

「お嬢様、初めまして。私はこの国の騎士団長、カイルと申します。お嬢様の護衛として、王家から派遣されました。」

その堂々とした態度に、私は少し圧倒されたが、彼の真剣な表情を見てすぐにその場に緊張感が走った。

「護衛……? なぜ、私に護衛が?」

驚きと戸惑いが頭をよぎる。確かに私の魔力が暴走したことを知っている者はいるが、まさか王家が私のために護衛をつけるとは予想外だった。これではまるで、私が国家の機密か何かであるかのようだ。

カイルは一歩前に出て、低い声で答えた。

「お嬢様の持つ力は、この国にとって非常に重要なものです。それに、お嬢様の身に危険が及ぶ可能性もあります。我々騎士団は、国王陛下の命を受け、お嬢様を全力でお守りすることとなりました。」

「危険……私が?」

その言葉に、再び胸がざわめいた。私が持つ魔力が何かしらの脅威になることは自覚しているが、それが外部の者にとっても危険だということなのだろうか。さらに言えば、王家がそこまで私に対して関心を持っているというのも、警戒心を呼び起こさせる。

「でも、私はただの侯爵令嬢で、そんなに大それた存在ではありません。ましてや、何もしていませんし……」

カイルは冷静な顔つきで私の言葉を遮った。

「お嬢様、過小評価は禁物です。貴女の力はまだ完全には解明されていませんが、それが巨大な可能性を秘めていることは明らかです。そして、それを狙う者たちもまた存在しています。私の任務は、お嬢様の安全を確保すること。そのために、日々お側でお守りいたします。」

彼の強い意志が伝わり、私は言葉を失った。騎士団長としての彼の責務は非常に重いものだと理解したが、同時に私は自分の自由が奪われていく感覚を覚えた。今までの穏やかな日々が崩れ去り、これからは監視される生活になるのではないかという不安が膨らんでいく。

「日々、そばで……ですか?」

私は少し緊張しながら確認すると、カイルは淡々と頷いた。

「はい、お嬢様。必要とあらば、いつでもお側におります。もちろん、お嬢様のご希望に従い、可能な限り自由を尊重しますが、危険が迫った際にはすぐに行動に移らせていただきます。」

彼の言葉には揺るぎない決意が込められていた。私は彼の言葉に対して反論することもできず、ただ静かに頷いた。しかし、内心では大きな葛藤が生まれていた。私は何も望んでいない。ただ静かな日常を送りたいだけだ。そんな思いとは裏腹に、周囲は私を特別視し、重要な存在とみなしている。

「わかりました、カイル団長。私もあなたの任務を尊重します。ただ……できるだけ静かに過ごせるようにお願いします。」

私は慎重に言葉を選んで伝えた。カイルは再び一礼し、厳粛な表情を崩さなかった。

「もちろんです、お嬢様。ご安心ください。」


---

その日から、私の周囲には常にカイル団長の存在があった。彼は私が庭を散策する際も、館内を移動する際も、常に一定の距離を保ちながら見守っていた。無言で淡々と任務をこなす彼の姿に、最初は不安を感じていたが、次第に慣れていった。

しかし、ある日、事件が起こった。私はいつものように庭を歩いていたが、突然、森の奥から何者かが近づいてくる気配を感じた。瞬時にカイル団長が私の前に立ち、剣を抜いた。

「お嬢様、下がってください!」

その叫び声と共に、森の茂みから数人の男たちが現れた。彼らは武装しており、明らかにただならぬ気配を放っていた。私に向けられるその視線には、敵意と何かしらの狙いが込められているのがはっきりと感じ取れた。

「お嬢様に手を出すことは許さない!」

カイル団長は即座に敵と対峙し、その場で激しい戦闘が始まった。彼の剣技はまさに圧倒的で、瞬く間に数人の男たちを打ち倒していく。その姿は凛々しく、彼がただの護衛ではないことを思い知らされた。

しかし、私も黙って見ているわけにはいかなかった。何かしなければ、と思った瞬間、私の中で再び魔力が渦巻き始めた。今度こそ、私はその力を制御しなければならない。

「お願い、私の力よ……」

私は静かに目を閉じ、内なる力に集中した。そして、心の中でその力を呼び起こすと、周囲に緑色の光が広がり、男たちが一瞬動きを止めた。

「これが……私の力……?」

私は自分でも驚きながら、再び集中を続けた。その結果、男たちは次々に意識を失い、その場に倒れていった。すべてが終わった時、カイル団長は息を整えながら私の元に戻ってきた。

「お嬢様、無事で何よりです。」

彼は深く頭を下げ、私の力が発揮されたことに感謝の意を表した。しかし、私はただ戸惑っていた。この力が私の望む平穏な生活を遠ざけているという現実が、ますます明確になったからだ。

「これでいいのだろうか……」

私は静かに呟いたが、カイル団長はその声を聞き逃さず、優しく答えた。

「お嬢様、その力を恐れる必要はありません。それは守るための力です。お嬢様自身も、そして周囲の人々も守ることができる力です。」

その言葉に、私は少しだけ救われた気がした。しかし、この先の道はまだ険しいものになるだろうという予感が、胸の奥で消えることはなかった。

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