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第二章: 王子たちとの出会い

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その日の午後、私は異世界での穏やかな時間を楽しもうとしていた。しかし、そんな私の日常は、突然の来訪者たちによって一変することとなった。侯爵家の使用人たちが忙しそうに動き回っている様子が、窓の外から見える。何が起こったのだろうかと思っていると、クラリスが私の部屋にやってきた。

「お嬢様、今日、王都から三人の王子様がお越しになるとのことです。急なご連絡で申し訳ございませんが、すぐにお支度を整えていただけますでしょうか?」

「王子様……?」

思わず驚いた声が漏れる。異世界転生後、私は侯爵家の令嬢としてそれなりの地位を得ていたが、まさか王子たちと会うことになるとは思ってもいなかった。私はスローライフを楽しみたいと思っていたのに、そんな大層な来客に対応しなければならないなんて、これでは気が休まらないではないか。

「わかったわ。すぐに準備するから、少し待っていて」

クラリスにそう言うと、彼女はすぐに準備を整えるために出て行った。私は鏡の前に立ち、深呼吸をする。この世界では侯爵家の娘という立場であり、きちんとした振る舞いが求められる。だが、それにしても王子たちとは……一体どういう目的で来るのだろうか? 私は少しの不安を抱えながら、慎重に着替えを進めた。

美しいドレスをまとい、髪を整えると、準備が整った。クラリスに案内されて、私は応接間へ向かった。緊張感が漂う廊下を歩きながら、心の中で何度も言い聞かせる。「冷静に、冷静に」と。過労死して転生してきたのだ、今さら王子たちに会ったところで何が変わるわけでもない、と自分に言い聞かせた。

応接間の扉が開かれると、そこにはすでに三人の王子が待っていた。彼らはそれぞれ異なる雰囲気を纏い、まるで異なる色の花のようにその場に立っていた。

一番左に立っていたのは、長男のレオナルド王子。彼は端正な顔立ちをしており、背が高く、鋭い目つきをしていた。その瞳には冷徹さが感じられ、彼が国の将来を背負う責任感の強さを物語っている。彼の存在感は圧倒的で、まるで自分の周囲に誰も寄せ付けないかのような威圧感さえ漂っていた。

次に、中央にいたのは次男のルイ王子。彼は柔らかな笑みを浮かべ、社交的で親しみやすい印象を与える。金色の髪が太陽の光を浴びて輝いており、目元にはどこか優しさが漂っている。彼は私に向かって一礼し、親しみのある声で挨拶した。

「お初にお目にかかります、アリシア侯爵令嬢。私、ルイと申します。お会いできて光栄です」

その穏やかな態度に、私は思わず緊張が少し和らいだ。しかし、最後に目を向けた三男のヴィクター王子は、また全く違った雰囲気を持っていた。彼は野心に満ちた鋭い目つきをしており、何か企んでいるかのような笑みを浮かべていた。彼は一歩前に出て、私に挨拶をした。

「アリシア侯爵令嬢、初めまして。ヴィクターです。今日は君に直接会いたくてね」

彼の言葉には何か含みがあり、私はその言葉に一瞬戸惑った。なぜ王子たちが私に会いに来たのか、まだその理由は明かされていない。しかし、彼らの視線は一様に私に注がれており、まるで私の動向を見守っているかのようだった。

「本日はお三方、わざわざお越しいただきありがとうございます。私に何かご用でしょうか?」

私はできるだけ落ち着いた声で尋ねた。これ以上の緊張を隠すためには、こちらから先に話を進めるしかない。

レオナルド王子が冷静に口を開いた。

「実は、侯爵家がこの国において重要な役割を担っていることを理解している。それに加えて、アリシア、君がただの令嬢ではないという噂も聞いている」

「私が……ただの令嬢ではない?」

私は思わず眉をひそめた。確かにこの世界に転生してから、何か不思議な力を感じることはあった。しかし、それがどういう意味を持つのか、自分自身でもまだよくわかっていない。そんな私の戸惑いを見透かしたかのように、ルイ王子が柔らかく微笑みながら続けた。

「君には特別な力があるのではないかと、我々は考えている。実際、この国では特別な魔力を持つ者が極めて希少だ。だからこそ、君の存在は重要なんだ」

彼の言葉に、私はさらに混乱した。確かに、時折自分が何か異常な魔力を持っていることに気づくことはあったが、それを表に出すつもりはなかった。この世界では普通の生活を送りたい、ただそれだけだ。

「ですが、私は特別な力など持っておりません。ただの侯爵家の娘です」

私はできるだけ平静を装いながら答えたが、ヴィクター王子の目は鋭く光った。

「本当にそうか? 隠しているつもりなら、それは無駄だ。私たちは君の力を必要としているんだ。国のためにね」

その言葉に、私は驚きと恐怖を感じた。まさか、自分の隠れた力がここまで注目されるとは思っていなかった。このままでは、私のスローライフは崩壊してしまうかもしれない。だが、私は決して屈するつもりはなかった。

「申し訳ありませんが、私は何もお力になれることはございません」

そう言って頭を下げると、レオナルド王子は鋭い目で私を見つめたが、それ以上は追及しなかった。しかし、彼らの視線が去ることはなく、緊張感が漂ったまま時間が過ぎた。

やがて、三人の王子たちはそれぞれに軽く礼をして退室していった。私は彼らが去った後も、しばらくその場に立ち尽くしていた。王子たちが私に注目していることは明らかだった。そして、私の力が何であれ、それが彼らの興味を引いているということも。

「どうしよう……」

私は心の中で呟いた。この世界で静かなスローライフを送りたいという望みは、もしかしたら簡単には叶わないのかもしれない。だけど、それでも私はこの生活を諦めるつもりはない。

「何があっても、私は私の生き方を守る」

そう決意しながら、私は深く息をついた。王子たちとの出会いが、私の運命を大きく揺るがすことになる予感がしたが、今はただ、目の前の一歩を踏み出すことに集中するしかなかった。

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