シン雪女伝説

ハロウィン

百鬼夜行

昼でも薄暗い森の中、木々の影が揺れる中で、不気味な集団が蠢いていた。彼らのリーダーと思しき者が、低く押し殺した声で周囲に語りかける。

「最近、我々はすっかり影が薄くなった。西洋の妖怪ばかりが持て囃されて…このハロウィンの人気に便乗して、存在感を示すのだ」

その言葉に応じるように、集団は次々と咆哮を上げ始めた。その声は森全体に反響し、まるで森そのものが震えているかのようだった。

夜が更け、ハロウィンの賑やかなパレードが街を埋め尽くす頃、モンスターたちは群衆に紛れ込み始めた。しかし、彼らは突然暴れ出し、まるで子供たちが
「トリックオアトリート」
と叫びながら家々を回るように、いたずら半分に軽トラを囲み、それをひっくり返したりして騒ぎ立てた。無邪気な悪ふざけのつもりが、次第に暴力的な騒ぎへと発展していく。

その時、突然現れたのは、和装に身を包んだ妖怪たちの一団　百鬼夜行だった。彼らは暗闇から姿を現し、真剣な表情で
「ギブミーチョコレート！」　「お菓子をくれないと呪っちゃうぞ！」
ハロウィンの伝統を取り入れたような言葉を口にしながら近づいてきた。

百鬼夜行の妖怪たちは、どこか本物の恐ろしさを漂わせつつも、古風な口調とともに異様なまでに真剣な顔でお菓子を求めていた。その光景を見た雪姉は、静かに呟く。

「『ギブミーチョコレート』とは、第二次世界大戦後の進駐軍の兵士にお菓子をねだる戦後直後の日本の子供たちのようじゃ。今の子どもたちには馴染みがないかもしれんが、まぁ…お菓子をくれと言っているから、意味は合っているのかのう。」

百鬼夜行の妖怪たちが西洋のハロウィン文化に影響されている様子を見て、雪姉は少し苦笑いを浮かべた。彼女の目には、古い伝統と新しい文化が奇妙に融合した光景が映っていたが、それでも妖怪たちの目的は変わらない――お菓子を求めてやって来たのだ。

お雪は焦りながら雪姉に訴える。

「雪姉、呑気なこと言ってる場合じゃないよ？ハロウィンパレードを西洋百鬼夜行なんて言ったから、元祖の百鬼夜行が召喚されたんじゃないの？」

雪姉は一瞬呆然とし、それから困惑した表情で口を開いた。

「我のせい…？」

その周りでは、元祖百鬼夜行が次々と姿を現し、西洋のモンスターたちと入り乱れて騒ぎ始めていた。お雪たちの目の前で、ますます混沌としていくパレードの光景が広がっていく。

お雪は、ますます混乱していく状況を見つめながら、眉をひそめた。

「これって単に騒いでるだけなんじゃない？さすがに、ちょっと度が過ぎてるように見えるけど…」

雪姉もその場の騒動を見ながら、首をかしげた。百鬼夜行や西洋のモンスターたちが入り乱れ、騒ぎがどんどんエスカレートしている様子に、どこか不安を感じつつも、彼女は冷静さを保とうと努めていた。

「うむ…たしかに騒ぎすぎじゃ。だが、このままでは収拾がつかぬかもしれぬな…」

そう言いながら、雪姉はふと目を細め、深い森の中へと目を向けた。彼女には、この夜が単なるお祭りでは終わらない、奇妙で恐ろしい一夜になる予感がしていた。