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第四章:真の聖女の帰還と新たな未来
しおりを挟むヴィヴィオが王都を救ったその後、王国には一時的な平和が訪れた。しかし、彼女の心にあるのは達成感ではなく、深い疲労と孤独だった。かつて信頼していた人々の裏切り、それでもなお手を差し伸べた自分の行動。そんな葛藤を抱えながら、彼女は王都を静かに去り、再び辺境の村へと帰る道を選んだ。
村へ帰る途中、ヴィヴィオは道中で旅の商人たちや他の村人たちに感謝の言葉をかけられるようになった。彼女の名声はもはや辺境の地だけでなく、王国全土に知れ渡っていた。
「聖女様、本当にありがとうございました。王都を救ってくださったおかげで、私たちの村にも安全が戻りました。」
「どうかお元気で。私たちはいつでも感謝しています。」
その言葉に微笑みを返しながらも、ヴィヴィオの心は穏やかではなかった。
(私はもう、聖女ではない。ただの追放者だったはずなのに……。)
そんな思いを抱えながらも、彼女は村へ戻ることに喜びを感じていた。村は彼女を温かく迎え、彼女の帰還を心から喜んでくれた。
「おかえりなさい、ヴィヴィオさん!村のみんなで、歓迎の宴を用意しました!」
村人たちの笑顔を見て、彼女は初めて心から安堵の表情を浮かべた。
一方、王都では、ヴィヴィオが去った後も彼女の影響が残っていた。偽聖女アリシアは追放され、王族や貴族たちはその責任を問われていた。特に第一王子アルヴィスは、ヴィヴィオを追放した責任者として大きな批判を浴びることとなった。
「アルヴィス殿下、どうしてヴィヴィオ様を追放などしたのですか!あの方こそが真の聖女だったのではありませんか!」
「国を危機に追いやった張本人は、あなたです!」
アルヴィスは民衆や貴族たちからの厳しい非難に耐えながらも、頭を垂れていた。彼自身も、ヴィヴィオを追放したことが最大の過ちだったと理解していた。
「私は……彼女に償うことができるだろうか。」
彼は王としての責務と、個人としての後悔の狭間で揺れていた。
再び辺境の村で平穏な生活を取り戻したヴィヴィオ。しかし、その日々も長くは続かなかった。ある日、村に隣国の使者が訪れ、彼女にこう告げた。
「ヴィヴィオ様、我が国の王がお会いしたいと仰っています。どうか、一度いらしていただけませんか?」
ヴィヴィオは驚きながらも、その申し出を受けるかどうか悩んだ。彼女は辺境での生活に満足しており、再び表舞台に立つことには消極的だった。しかし、使者が話した王の言葉が彼女の心を動かした。
「ヴィヴィオ様の力をもって、ぜひ我が国の平和を守るお力添えをいただきたいのです。」
彼女は迷いながらも、隣国の王に会うことを決めた。
---
◇
隣国の宮殿は、王都のものとは異なり、華美ではないが落ち着いた雰囲気を持っていた。そこで出迎えたのは、若き王であるレオネルだった。
「初めまして、ヴィヴィオ様。あなたの噂は隣国にも届いております。私たちの国でも、あなたのような存在が必要です。」
彼の言葉は、王都で聞いたどの貴族や王族の言葉よりも真摯で、温かさがあった。ヴィヴィオはその誠実さに心を動かされながらも答えた。
「私は追放された身です。王国にとって不要とされた私に、何ができるでしょうか。」
その言葉に、レオネル王は静かに首を振った。
「必要なのは、肩書きではなく、あなた自身です。あなたの力と意志があれば、それで十分なのです。」
その言葉に、ヴィヴィオの胸の中で、何かが動いた。彼女はこれまで、自分の存在価値を失ったように感じていた。しかし、レオネルの言葉は、そんな彼女に新たな希望を与えた。
「……分かりました。私でよければ、お力添えさせていただきます。」
ヴィヴィオがそう答えると、レオネルは安心したように微笑んだ。
隣国での生活を始めたヴィヴィオは、次第にその地でも信頼を得ていった。彼女の力は再び人々を救い、彼女の存在は「希望の光」として語り継がれるようになった。
そして、王国では再び魔物が出現し始め、ヴィヴィオを追放したことへの後悔が強まっていた。第一王子アルヴィスは、再び彼女に助けを求めるべきだと考えていたが、もはや彼女が戻ることはないと知っていた。
一方、隣国でのヴィヴィオは、レオネル王とともに新たな平和を築き上げていった。その中で、彼女は「自分のために生きる」決意を新たにし、かつての傷から少しずつ立ち直っていった。
---
エピローグ
追放され、一度は全てを失ったヴィヴィオ。しかし、彼女は新たな地で自らの価値を見出し、真の幸福を手に入れることができた。王国では、彼女の存在が「聖女ヴィヴィオ」として伝説となり、その名は永遠に語り継がれることとなる。
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