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第三章: 「ざまぁの瞬間」
しおりを挟むシャウラがアルベルト王子の申し出について考えを巡らせる日々が続く中、宮廷から急報が届いた。なんと、アレクシス王太子とその新たな婚約者であるクロエ・フォン・リーヴェが、敵国との密通疑惑に巻き込まれ、王国全体が大混乱に陥っているというのだ。
「クロエが……密通?」
その知らせにシャウラは驚愕した。クロエは、社交界の華として誰もが憧れる存在だった。特にアレクシスは彼女に夢中で、シャウラを侮辱し、婚約を破棄してまで彼女を選んだのだから、今このような事態に陥るとは思いもよらなかった。
さらに噂によれば、クロエは敵国と密かに連携し、王国を内部から崩壊させる計画を進めていたという。その証拠が次々と明るみに出ており、宮廷は大混乱に陥っていた。アレクシスもその疑惑の渦中にあり、信頼を失いかけているという。
「まさか、彼が……」
シャウラは複雑な感情に襲われた。かつての婚約者がこのような騒動に巻き込まれるとは夢にも思っていなかった。だが、アレクシスがどれほど後悔していようとも、シャウラには彼に対する感情はもはや残っていなかった。ただ一つ心に残るのは、彼の冷たい言葉を受けたあの日の屈辱だけだった。
しばらくして、王国の使者がシャウラの屋敷に訪れた。なんと、アレクシス王太子が彼女に助けを求めてきたのだ。シャウラは驚きつつも、冷静に対応することを決めた。
「どういうことですか?」
使者は頭を下げながら、シャウラに説明を始めた。クロエの裏切りが明らかになり、王国はその危機的状況を打破するため、シャウラの力を借りたいと言っているのだという。特に、アレクシス自身が彼女に対して直接助けを請うているという事実に、シャウラは思わず笑みをこぼした。
「アレクシスが、私に?」
かつて婚約を破棄し、自分を見下した男が今、困窮して彼女に助けを求めているという状況は、皮肉としか言いようがなかった。シャウラは、その冷たい笑みを隠そうともせず、ゆっくりと椅子に座り直した。
「そうですか。ですが、私はすでに王宮を去った身。何の理由があって、今さら助けなければならないのでしょうか?」
使者は狼狽した様子で答えた。
「殿下は……あなたの力を信じておられます。かつての婚約者として、今一度、王国のために力を貸していただけないかと……」
シャウラは使者の言葉に耳を傾けながらも、心の中で次第に冷ややかな感情が沸き上がっていた。彼女を侮辱し、捨てたアレクシスが、今さら彼女の力を頼りにしているとは。
「いいえ、私は彼を助けません。」
シャウラは毅然とした声で答えた。使者の顔には驚愕が走った。彼女はまっすぐに使者の目を見つめ、続けた。
「私はもう、王太子との婚約者ではありません。そして、私にとって彼は過去の人です。私を捨てた人間に助けを求める資格はありません。」
使者は言葉を失い、ただただ立ち尽くすばかりだった。シャウラの決意は固く、その声には迷いのかけらもなかった。彼女は立ち上がり、使者に背を向けた。
「帰って、彼に伝えてください。シャウラ・エストルドは、もう彼を助けることはありません、と。」
その言葉が使者の心に深く刻まれたのは言うまでもない。シャウラはそのまま部屋を後にし、彼女の背中を見送る使者の姿は、そのまま屋敷の外へと消えていった。
シャウラは部屋に戻り、一人になって窓の外を見つめた。庭に咲く花々が風に揺れ、静かな時間が流れていた。彼女はその静けさの中で、自分の心を再確認した。
「私はもう、過去に縛られることはない……」
シャウラはそうつぶやきながら、胸の奥で新たな決意を固めた。彼女の未来は、もうアレクシスのものではなく、自分自身の力で切り開くべきものだ。そして、彼女には新たな仲間がいた。アルベルト王子という、信頼できる人物が。
その夜、シャウラはアルベルトに手紙を送った。彼の申し出を受け入れ、共に歩む決意を告げる内容だった。彼女は自分の力を使って、人々を守り、王国を救うために動き出すことを決めたのだ。
「これからは、私の力を人々のために使う……」
シャウラは手紙を封じ、メッセージを託した使者を送り出した。彼女の心はすでに次なるステージに向かっていた。過去に縛られることなく、未来を切り開くために。
ざまぁの瞬間は確かに訪れた。だが、それはシャウラの中で復讐や憎しみではなく、彼女自身の成長と解放を意味していた。アレクシスは彼女に助けを求めたが、彼女はそれを断り、過去を断ち切った。そして、新たな道を歩み始めたのだ。
彼女の未来は、もはや他人のものではなかった。彼女自身の力で、その道を切り開くことを決意していた。
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