3 / 5
第二章:隠された力の目覚め
しおりを挟む侯爵家を追放されたビビアンは、途方に暮れていた。身を寄せるあてもなく、馬車は家族の領地を抜け、遠く離れた辺境の森へと向かっていた。この森は古くから「呪われた森」として知られ、誰も近づこうとしない不気味な場所だった。だが、ビビアンにはもう選択肢がなかった。彼女は森へ逃げ込み、そこで自分のこれからを見つめ直すしかなかったのだ。
森の中は昼間でも暗く、木々が覆い茂り、太陽の光がほとんど届かない。馬車を降りて歩き出したビビアンは、冷たい風に吹かれながらも、一歩一歩進んでいった。道は険しく、足元も不安定だったが、彼女は立ち止まることなく歩き続けた。振り返ると、かつての生活は遠くなり、もう戻ることはできないと悟った。
「私は……本当に何もできないまま終わるのだろうか?」
ビビアンの心には、絶望と孤独が渦巻いていた。これまでの人生は、他人に期待されることばかりで、彼女自身の願いや夢など顧みられなかった。だが今、全てを失ったことで、ビビアンは初めて自分自身と向き合う時間を得たのだ。
しばらく歩いているうちに、ビビアンは体力を消耗し、古びた石の祠(ほこら)を見つけた。祠は苔むし、長い間人の手が入っていないようだったが、彼女にとっては雨風を凌げる唯一の場所だった。彼女はそこに腰を下ろし、疲れ切った体を休めた。
「もう、どうすればいいのか……」
ビビアンは目を閉じ、無力感に押しつぶされそうになっていた。しかし、その時、彼女の体が突然熱を帯び始めた。まるで内部から何かが目覚めるような感覚に襲われ、息が詰まるような不安が彼女を包み込んだ。
「な、何が……?」
ビビアンは驚き、周囲を見回したが、特に異変はない。しかし、自分の体の中で何かが変わろうとしているのを確かに感じた。胸の奥深くで、かつて感じたことのない力がうごめいている。それは静かに、しかし確実に目覚めつつあった。
「まさか……これが……?」
彼女は幼い頃、母アメリアから聞かされた言葉を思い出した。
「ビビアン、あなたには特別な力があるかもしれない。でも、その力は自分で目覚めさせなければならないのよ」
当時はただのおとぎ話だと思っていたが、今、その言葉が現実のものとして蘇ってきた。ビビアンは祠の中で静かに目を閉じ、自分の内側に集中した。すると、彼女の体を包む熱が次第に強くなり、やがてその熱が全身を貫いた。
その瞬間、ビビアンの中に眠っていた魔力が解き放たれた。まるで堰(せき)が切れたかのように、彼女の体を通して強力なエネルギーが流れ出し、周囲の空気を揺るがすほどの力となった。
「これが……私の力……?」
ビビアンは驚きと戸惑いを感じつつも、その圧倒的な魔力に圧倒されていた。彼女が無能とされてきたのは、単にその力が抑え込まれていたからに過ぎなかったのだ。自分の内に秘められた力を初めて解放した彼女は、今までの人生がすべて無意味だったわけではないことを悟り始めていた。
「私は、ただの無能令嬢なんかじゃない……」
ビビアンは、力が彼女に新たな生きる意味を与えていることを実感し始めた。かつて無能と蔑まれた自分は、もういない。これからは自分自身の力で運命を切り開いていくのだ。
---
ビビアンが目覚めた力は、彼女の一族に伝わる古代の強大な魔法だった。その力は代々受け継がれてきたが、時代の変化とともに忘れ去られていたものだった。ビビアンは、その力を唯一受け継ぐ者であり、彼女が目覚めさせた魔力は、かつての大魔導師たちと同等のものだった。
「こんな力が、私の中に……?」
ビビアンは自分自身を信じられない思いでいたが、その力を操ることはまだ完全ではなかった。彼女には、これからその力を制御し、使いこなすための訓練が必要だった。しかし、力を得たことでビビアンの心には新たな自信が生まれていた。
「私は、ここで終わるわけにはいかない……」
ビビアンは祠を後にし、再び森を歩き始めた。これから自分がどう生きるべきか、何をすべきかを考える時間だった。そして、彼女は自分を裏切った者たちへの復讐心を抑えきれなくなりつつあった。
「必ず、見返してやる……」
ビビアンは固く決意し、これまでの人生に終止符を打ち、新たな道を歩むことを誓った。その道の先には、彼女を待つ試練や困難が待ち受けているだろうが、もう彼女は無力な令嬢ではなかった。ビビアンはその力をもって、自らの運命を切り開き、彼女を追放した人々に対して「ざまあ」と言える日を夢見ていた。
---
ビビアンは森を抜け、再び人里に下り立った。彼女の中で目覚めた力が彼女を新たな運命へと導く。まだその力を完全に制御する術は知らなかったが、彼女には今までの人生で失ったものを取り戻すための強い意志があった。
「これからは私の時代だ……」
ビビアンは心の中でそう誓い、強く歩み始めた。彼女の物語はここから本格的に動き出す。誰も予想しなかったビビアンの逆襲が、これから始まるのだった。
10
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?
朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。
何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!
と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど?
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
婚約破棄する王太子になる前にどうにかしろよ
みやび
恋愛
ヤバいことをするのはそれなりの理由があるよねっていう話。
婚約破棄ってしちゃダメって習わなかったんですか?
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/123874683
ドアマットヒロインって貴族令嬢としては無能だよね
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/988874791
と何となく世界観が一緒です。
追放されし花嫁、アプリオの逆襲
(笑)
恋愛
伯爵家を追放された令嬢アプリオは、流れ着いた小さな村で新たな生活を始める。かつての身分や過去を捨て、薬草師として村人たちと穏やかに過ごしながら、彼女は自分の本当の価値を見出していく。しかし、ある日、王都での危機が彼女を再び呼び戻すことになり、アプリオは自らの意志で過去と向き合うことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる