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第2章: 辺境での新生活
2-1: 屋敷での歓迎
しおりを挟む長い旅路を経て、アルレシャとファフニール侯爵を乗せた馬車は、ついに辺境の領地へと到着した。アルレシャが窓から外を覗くと、広がる風景は王都とはまったく異なるものであった。乾いた風が肌を撫で、険しい山々が遠くに連なっている。木々は少なく、風景全体が荒々しく、厳しい自然に囲まれていた。辺境の地に足を踏み入れた瞬間、彼女は改めてここがどれだけ過酷な土地であるかを実感した。
やがて、彼らの馬車は大きな屋敷の前で止まった。王都の豪華な邸宅とは異なる、重厚で実用的な造りの建物が目の前に広がる。門の前には、侯爵の屋敷に仕える使用人たちが整列しており、彼らが一斉に頭を下げる姿が見えた。
「お前の新しい家だ」ファフニール侯爵が短く言い、馬車を降りるよう促した。
アルレシャは深呼吸をしてから、馬車から降りた。彼女の目に映る屋敷の風景は、想像していたよりも厳格で堅実なものだった。豪奢さや装飾にこだわらない、まさに実務的な作りが強調されている。彼女はその佇まいに、辺境での生活が簡単なものではないことを改めて感じた。
「ようこそ、お嬢様!お待ちしておりました!」と、明るい声が響いた。
玄関口に並んでいたメイドたちが駆け寄り、アルレシャを取り囲む。彼女たちは予想外に活気があり、親しみやすい雰囲気を持っていた。その中の一人が特に活発に話しかけてきた。
「まあ、お嬢様、こんな可愛らしい方がいらっしゃるなんて…信じられません!お坊ちゃまがこんな素敵な方をお連れするなんて、本当に驚きですわ!」
「ほんとに!こんなに綺麗で上品なお嬢様がここに来るなんて、信じられないくらい嬉しいですわ!」もう一人のメイドが口を開いた。
アルレシャはその歓迎に少し戸惑いながらも、笑顔を返した。「ありがとうございます…まだ慣れていませんが、どうぞよろしくお願いいたします。」
メイドたちはアルレシャの言葉に大きく頷き、さらに彼女を歓迎する気持ちを表していた。彼女たちは確かにファフニール侯爵の強引さには慣れているようで、どこか安心感があった。アルレシャは彼女たちの親切さに少しだけ心が和らぐのを感じた。
しかし、そんな穏やかな雰囲気も束の間、ファフニール侯爵が厳しい声で言葉を放った。「俺の女に3メートル以内に近づくな。分かったか?」
メイドたちは一瞬怯んだが、すぐにクスクスと笑い出した。「さすが、侯爵様ですねぇ…」
「本当にお嬢様のことが大切なんですね!」
アルレシャは顔を真っ赤にしながら、そんなやり取りに戸惑った。「ファフニール侯爵様…そんな風におっしゃらなくても…」
しかし、ファフニール侯爵は彼女の言葉に反応せず、ただ前を向いたまま屋敷へと進んでいった。「行くぞ、アルレシャ。」彼の言葉は命令のようにも聞こえたが、その裏には彼なりの気遣いがあることを、アルレシャは少しだけ感じ取った。
アルレシャはそのまま彼の後を追い、屋敷の中へと足を踏み入れた。中に入ると、外見の厳格さとは裏腹に、温かみのある空間が広がっていた。石造りの壁に暖炉の火が灯り、家具も質素ながらも落ち着いたデザインが施されている。辺境の厳しい環境の中でも、ここが彼女の新しい家になるのだと実感する瞬間だった。
「ここが私の新しい生活…」アルレシャは小さく呟いた。王都とはまったく違う世界に戸惑いを感じつつも、彼女はこれから始まる日々をしっかりと受け止める覚悟を決めた。
屋敷内を見渡しながら、アルレシャはこれから待ち受けるであろう未知の生活に対する一抹の不安を抱えつつも、ピスケス公爵家の娘として、この地での役割を果たさねばならないという決意を新たにしていた。
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