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第1章:婚約破棄の宣言

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ローゼリア・フェルシュタインは、幼い頃から「公爵令嬢」として何不自由のない生活を送ってきた。彼女の生まれは貴族社会の中でも特に名門であり、幼少期から貴族としての教育を受け、優雅な振る舞いと洗練された美しさで知られていた。そして、彼女には幼い頃から決まっていた婚約者がいた。隣国の王子、エドガー・クラウスである。

エドガー王子は外見も内面も完璧と評される美男子で、多くの貴族令嬢たちが彼に憧れていた。しかし、王子は幼少期からすでにローゼリアと婚約しており、彼女は将来、隣国の王妃になる運命にあると誰もが信じて疑わなかった。

その日、ローゼリアは心を躍らせながら大広間で待っていた。今日は正式に婚約が発表される日。父親や母親も彼女の結婚を心待ちにしており、王宮からの使者が到着するのを今か今かと待っていた。

「ローゼリア様、本日はお美しいですわ」

侍女のエミリアが、ローゼリアの淡いピンクのドレスを整えながら微笑んだ。鏡の中に映る自分を見て、ローゼリアも微かに頬を染める。この日をどれほど待ち望んだことだろう。エドガー王子は常に完璧で、彼が隣にいる未来を想像するたびに胸が高鳴った。王子はとても優雅で礼儀正しく、彼女を大切にしてくれると信じて疑わなかった。

「ありがとう、エミリア。今日が特別な日になるわ」

そう言ってローゼリアは窓の外を見やった。王宮の使者が到着する頃だろうか。彼女は少しだけ緊張しながらも、期待に胸を膨らませていた。

しかし、その期待は、次に王宮から届いた知らせによって一瞬で打ち砕かれることになる。

「ローゼリア様、大変です! 王宮から…エドガー王子からの使者が…」

エミリアが慌てて大広間に駆け込んできた。彼女の青ざめた表情を見た瞬間、ローゼリアは何かが起こったことを察した。侍女が持ってきたのは、エドガー王子からの手紙だった。封を開けたローゼリアは、その中に書かれていた内容に目を疑った。

『ローゼリア・フェルシュタインへ

この度、我々の婚約を正式に解消することをここに宣言する。長らく考慮してきたが、君は私の理想の伴侶ではないと判断した。私が王として未来を共にするに相応しい女性は、君ではない。すでに私には、他の婚約者候補がいることを伝えておく。

エドガー・クラウス』

その手紙を読んだ瞬間、ローゼリアは心臓が一瞬止まったかのように感じた。婚約を解消? 理由は彼女が理想の伴侶ではないから? あまりにも突然で、あまりにも非情な言葉が並んでいた。エドガー王子が他に婚約者候補がいるとはどういうことだろう。そんな話は今まで一切聞かされたことがなかった。

「そんな…信じられない…」

ローゼリアは震える手で手紙を握りしめ、目の前が真っ暗になった。婚約解消だなんて、どうしてこんなことに。エドガー王子は、彼女を愛してくれているはずではなかったのか?

その時、父親であるフェルシュタイン公爵が厳しい表情で彼女の前に立った。

「ローゼリア、何が書いてあったのだ?」

「父上…エドガー王子からの手紙です…婚約を解消すると…」

その言葉を聞いた瞬間、フェルシュタイン公爵の顔色が一気に険しくなった。公爵家の名誉は、娘の結婚によってさらに強固なものになるはずだった。婚約破棄など、彼らの家にとっては大きな打撃だった。

「なんということだ…これは一体どういうことだ! 王宮に説明を求めなければならん!」

ローゼリアは父の怒声を聞きながらも、まるで夢の中にいるような気持ちだった。信じていた未来が一瞬で崩れ去るというのは、こんなにも耐えがたいものなのか。

その後、王宮からの使者が公爵家に訪れ、エドガー王子が正式に婚約解消の理由を説明する場が設けられた。ローゼリアは震える足を引きずりながらその場に出席したが、エドガー王子は冷淡な態度を崩さなかった。

「ローゼリア、君はとても素晴らしい女性だと思う。しかし、私が王として共に歩むべき女性は、リディアだ。彼女こそが私の理想なのだ」

エドガー王子の隣には、美しく華やかなリディアが立っていた。彼女は誇らしげに微笑み、まるで勝利を確信したかのようだった。

「リディアは、君とは違って私の理想を全て満たしている。君が悪いわけではないが、私はもっと刺激的で、魅力的な女性を求めているんだ」

ローゼリアはただ立ち尽くすことしかできなかった。彼女の心は引き裂かれ、王子の言葉が鋭く胸に突き刺さる。これまで信じていた全てが嘘だったのか? 彼は一度でも彼女を愛してくれたのだろうか? それとも、彼の言葉も態度も、最初から偽りだったのだろうか。

「私は…一体何のために…」

涙が込み上げてくるのを必死に堪え、ローゼリアはその場を去った。彼女の胸には深い絶望と怒りが渦巻いていた。すべてを失った今、彼女は一体どこに向かえば良いのだろう。家族の名誉も、自分の誇りも、この婚約破棄によって傷つけられた。

しかし、その時、彼女の心の中で何かが静かに燃え上がっていた。屈辱的な扱いを受けたことで、ローゼリアは新たな決意を固めた。彼女はこのまま終わるわけにはいかない。エドガー王子やリディアに屈することなく、自分の力で新たな未来を切り開くのだ。

「必ず、見返してやる…」

彼女は涙を拭い、深く息を吸い込んだ。そして、決意の光を宿した瞳で前を向いた。これからは、自分の力で生きていく。ローゼリアは新たな旅立ちを迎えるため、次の一歩を踏み出したのだった。

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