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第二章:覚醒と新たな人生

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翌朝、ユーデリアは、窓から差し込む柔らかな朝日で目を覚ました。昨夜、婚約破棄という人生の大きな転換点を迎えたはずなのに、不思議と心は静かだった。エリオットに婚約を破棄され、これからどうするかと考えても、焦りや悲しみは湧いてこなかった。むしろ、自分自身が軽くなったような気がしていた。

ユーデリアは、ベッドから起き上がり、ふと机の上に置かれたペンダントに目を留めた。昨日、手にした時に不思議な感覚を覚えたそのペンダントは、今も淡い光を放っているように見えた。

「このペンダント……」

手に取ってみると、昨日の感覚が再び蘇る。体の中で何かが目覚めようとしているような、力強い鼓動を感じた。ペンダントは、ユーデリアが幼い頃、祖母から譲り受けたもので、ずっと肌身離さず持っていたが、これまで特に何も感じたことはなかった。

「祖母が言っていた。これは大切なものだから、絶対に手放してはいけないと……」

ユーデリアはペンダントを見つめながら、祖母の言葉を思い返した。祖母は、フェルンハイム家の中でも異質な存在で、家族からは敬遠されていたが、ユーデリアにとっては唯一の心の支えだった。幼い頃から厳格な父や兄、冷たい母に囲まれて育ったユーデリアにとって、祖母だけが優しく接してくれる存在だった。

「このペンダントには、古代の魔法の力が宿っている、と祖母は言っていたわね……」

ユーデリアは自分の胸元にペンダントをそっと当てた。その瞬間、昨日のように、体の中に何かが流れ込んでくる感覚があった。温かく、しかし力強いエネルギーが体を満たしていく。

「これは……いったい……?」

彼女は目を閉じ、その力に身を委ねた。次の瞬間、彼女の体の周りに微かな光の輪が広がり、周囲の空気がわずかに揺れ動いた。まるで、長い間閉じ込められていた力が解放されたかのように、ペンダントから魔力が溢れ出していた。

「信じられない……これが私の力……?」

ユーデリアは驚きながらも、その力を受け入れた。祖母が言っていた「古代の魔法の力」が、彼女の中に宿っているというのは本当だったのだ。この力は、ただの飾りではなく、フェルンハイム家の遠い祖先が代々受け継いできた貴重な遺産だったのだ。

「これがあれば、私はもう誰にも依存しなくて済む……」

ユーデリアは決意を固めた。これまで自分は家族や婚約者に頼るしかないと信じていたが、今は違う。自分自身の力で新たな人生を切り開ける。彼女の心の中には、これまで感じたことのない自信と希望が芽生えていた。

その日の午後、ユーデリアはフェルンハイム家を出ることを決意した。すでに荷物はまとめてあり、あとは出発するだけだった。父や兄に挨拶をする必要はない。彼らは婚約破棄のことを知っても、何も言ってこなかった。彼女にとって、その無関心さはむしろ解放感を与えてくれた。

フェルンハイム家の門を出るとき、ユーデリアは一瞬振り返った。幼い頃から住み慣れた屋敷だが、そこにはもう何の愛着も感じなかった。ただの空虚な場所だ。彼女は深呼吸をし、前を向いて歩き始めた。

新たな生活を始めるために、ユーデリアはまず王都の魔術学院に向かうことにした。この学院は、王国中の魔法使いが集まる場所で、彼女のように特別な力を持つ者が集う場所だった。これまで彼女は自分に魔力があるとは知らなかったが、今やその力が確実に存在していることを確信していた。

魔術学院への道は賑やかで、ユーデリアの心は少し弾んでいた。学院の大きな門にたどり着くと、その荘厳な佇まいに少し圧倒されながらも、彼女は胸を張って門をくぐった。

受付で入学の手続きを進めると、学院の事務員が驚いた表情でユーデリアを見つめた。

「フェルンハイム公爵家の令嬢が、魔術学院に?」

「ええ、何か問題がありますか?」

ユーデリアは落ち着いた声で答えた。貴族の女性が魔術学院に入学するのは珍しいことだった。通常、貴族令嬢は社交界にデビューし、政略結婚を通じて家の名を高めることが求められている。しかし、ユーデリアにとって、そんな伝統にはもはや興味がなかった。

「いいえ、ただ少々驚いたもので……手続きを進めさせていただきます。魔力の測定を行いますので、こちらへどうぞ。」

事務員に案内され、ユーデリアは魔力測定の部屋に向かった。部屋には大きな水晶玉が置かれており、それに手を触れることで魔力の量を測定するという仕組みだった。

「では、こちらに手を置いてください。」

ユーデリアは指示に従い、水晶玉にそっと手を当てた。すると、瞬時に水晶玉が輝き始め、周囲が眩い光に包まれた。事務員は驚愕の表情でユーデリアを見つめている。

「こ、これは……! あなたの魔力量は驚異的です! 通常の人間ではあり得ないほどの数値が出ています……」

ユーデリア自身もその結果に驚いたが、内心では納得していた。彼女が感じていた力は、普通の魔力ではなかったのだ。祖母が言っていた通り、彼女の中には古代の魔法の力が眠っていた。

「これで、入学の手続きは完了しました。どうか、学院での生活を楽しんでください。」

事務員が少し戸惑いながらも、彼女を歓迎した。ユーデリアは礼を述べ、学院内を歩き始めた。これから始まる新しい生活に、期待と不安が入り混じっていたが、彼女の中には確かな決意があった。

「私は、自分の力で生きていく。誰にも頼らず、そして、誰にも振り回されない。」

ユーデリアはそう心に誓い、学院の中庭に向かって歩き出した。彼女の新たな人生は、今ここから本当に始まったのだ。


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