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第四章:ざまあの果てに
しおりを挟むエリオットがライアンを見捨ててから数日が経過した。彼は自らの商会の仕事に没頭し、忙しい日々を過ごしていたが、心の奥にはかつての幼馴染への感情が渦巻いていた。ライアンを裏切り、孤立させることができたという満足感と共に、どこか冷たい感情が芽生えていたのだ。彼はかつての自分の純粋さを失ったことを自覚し、かつての友情をどうしても手放せずにいた。
一方、ライアンは絶望の淵に立たされていた。彼はデューク家の崩壊に直面し、自らの支持者を失い、孤独感に苛まれていた。周囲からの視線も冷たく、彼のかつての華やかさはどこにもなく、ただの無力な貴族として人々に見られていた。そんな中、彼はエリオットに助けを求めたものの、返ってきたのは冷たい言葉ばかりだった。
「ライアン、今さら何を言っても無駄だ。君が選んだ道は、君自身の責任だ」
その言葉がライアンの心に刺さり、彼は完全に打ちひしがれてしまった。エリオットが言った通り、彼は過去の選択によってすべてを失ってしまったのだ。幼い頃のように無邪気に笑い合った日々が、今は遠い昔の夢のように感じられ、何もかもが崩れ去ってしまった。ライアンは孤独を抱えながら、どこに行けばいいのかも分からない状態になってしまった。
エリオットは、そんなライアンの姿を知りながら、冷酷にその状況を楽しんでいた。彼の心の中には復讐が根付いており、ライアンの苦しみを見つめることは、彼にとって快感のようなものであった。しかし、エリオットは同時に、ライアンを見捨てた後の自分に不安を抱くようになっていた。かつては心を通わせた相手に対する思いが、彼の心を曇らせていたからだ。
そんなある日、エリオットのもとに一通の手紙が届いた。その手紙には、ライアンが自らの苦境から逃れるために、デューク家の元に戻ろうとしているという内容が記されていた。彼は再び、かつての仲間に手を差し伸べようとしているのだ。エリオットはその手紙を読み、心の中で複雑な感情が渦巻いた。
「やはり、ライアンはまだ自分の道を選ぼうとしているのか」
エリオットは、自分の中にあるかつての友情と、復讐の念との間で揺れ動いていた。ライアンが過去の失敗を繰り返そうとしている姿に、彼はどこか憐れみを感じていた。だが、エリオットは冷静になり、復讐の目的を思い出す。彼は、ライアンがデューク家の元に戻ることが、自らの破滅を招く可能性があると確信していた。
エリオットは、ライアンに会うための計画を練り始めた。彼はライアンに対して、自らの商会が持つ情報を提供し、彼を助けるふりをすることに決めた。エリオットは、ライアンが再び失敗を繰り返す様子を観察し、彼の破滅を見届けることで、自己満足を得るつもりだったのだ。
数日後、エリオットはライアンに連絡を取り、会う約束をした。再会の場所は、彼らがかつて共に過ごした思い出の地、庭園だった。そこには、若い頃の思い出が詰まった場所であり、彼らが無邪気に笑い合った場所でもあった。エリオットは、その場所でライアンを迎え入れることで、過去の友情を思い出させると同時に、彼を再び破滅へと導こうとしていた。
約束の日、ライアンは緊張した面持ちで庭園に現れた。彼は少し老けて見えたが、それでもかつての面影は残っていた。エリオットは冷静に、しかし内心では期待感を抱きながらライアンを迎えた。
「ライアン、来てくれてありがとう」
「エリオット…君が僕を呼んでくれるなんて、驚いたよ」
エリオットは彼の言葉に微笑みを浮かべながら、心の中では復讐の計画を進めることを決意した。彼は、ライアンに自らの商会が持つ情報を提供し、彼の状況を少しでも改善しようとした。しかし、その意図の裏には、ライアンをさらに追い込む計画が隠されていた。
「ライアン、君がデューク家に戻りたいなら、少し手助けが必要かもしれない。僕の商会が持っている情報を使えば、君の立場を改善できるかもしれない」
ライアンは驚いた表情を浮かべ、エリオットに感謝の意を表した。「本当に助けてくれるのか?僕はもうどうしていいかわからないんだ」
エリオットはその言葉を聞きながら、内心でほくそ笑んだ。ライアンが自らの助けを求める姿を見て、彼は充実感を感じる。彼は過去の裏切りの復讐を果たすため、冷酷にライアンを操っていくつもりだった。
「もちろん、僕の商会にはたくさんの情報があるから。デューク家の動向も把握している。必要な情報を提供することで、君の立場を強化できるはずだ」
ライアンは感謝の気持ちを隠しきれない様子で頷き、エリオットの言葉を信じて協力を求めてくる。しかし、エリオットは心の中で冷笑しながら、彼の信頼を裏切る計画を進めていく。
次の日、エリオットは商会の仲間たちを集め、ライアンをどう利用するかを考える会議を開いた。彼はライアンを再びデューク家の元へ戻すための情報を、意図的に誤った方向に誘導することに決めた。ライアンの行動を操ることで、彼が再びデューク家に戻る際に失敗し、孤立する様子を観察することができるからだ。
数日後、ライアンはエリオットの提供した情報を元に、デューク家に接触を図った。しかし、エリオットが巧妙に仕組んだ罠によって、デューク家の信頼を失い、彼は再び追い詰められてしまう。ライアンが戻るはずの道が完全に封じられ、彼は再び絶望の淵に立たされることとなった。
エリオットはその様子を見ながら、心の中で勝ち誇った気持ちを抱いていた。かつての友情が裏切りに変わり、そして今、ライアンが苦しむ様子を見届けることで、彼は復讐の満足感を得るのだった。
しかし、ライアンが完全に孤立し、絶望的な状況に追い込まれたその瞬間、エリオットの心の中にある種の違和感が生まれ始めた。ライアンの無力感や、彼が完全に崩れ去っていく様子を目の当たりにすることで、エリオットは自分自身の行動を振り返る機会を持ったのだ。
「これが本当に望んでいたことなのか?」
エリオットは自分の心の中で問いかけた。かつては友人だったはずのライアンを完全に破滅させたところで、本当に満足できているのかという疑念が湧き上がってきたのだ。彼は確かに復讐を果たした。しかし、その先に待っていたのは、自分もまた過去に縛られ、冷酷な復讐者へと変わってしまった現実だった。
その夜、エリオットは一人で過去の思い出を振り返っていた。ライアンと共に過ごした日々、笑い合った時間、未来を語り合った夢…。彼はそのすべてを失い、復讐の達成と引き換えに何も得られなかったことに気づき始めていた。そして、その虚しさが彼の心を締め付けた。
翌日、エリオットはもう一度ライアンに会うことを決意した。彼はライアンが今どんな状態であれ、最後に一言だけ伝えなければならないと思ったのだ。それは、憎しみからではなく、自分が過去と決別するための最後の行動だった。
エリオットがライアンを訪れると、彼は驚くほどやつれ、人生に絶望しきった表情をしていた。かつての自信に満ち溢れたライアンの姿はどこにもなく、ただ後悔と苦しみの影だけが残っていた。エリオットはその様子を見て、かつてのライアンへの憎しみが薄れ、代わりにかすかな哀れみを感じるようになった。
「ライアン…」
エリオットが静かに声をかけると、ライアンはかすかに顔を上げた。その目には失意と悲しみが浮かんでいた。エリオットは一瞬、言葉に詰まったが、やがて心を決めて口を開いた。
「僕は、君に復讐を果たしたつもりだった。でも、今になって分かったんだ。僕もまた君を憎むあまり、自分自身を見失っていたんだ」
ライアンは驚いたようにエリオットを見つめ、疲れ切った声で呟いた。「僕は…君にひどいことをした。本当に、心から後悔している」
エリオットはその言葉を聞き、胸の奥にあったわだかまりが少しずつ解けていくのを感じた。彼はライアンを許すつもりはなかったが、同時に、復讐に燃えた自分自身もまた変わらなければならないと気づいたのだ。
「ライアン、もう過去には戻れない。けれど、僕もここで終わりにしようと思う」
そう言うと、エリオットは静かに背を向け、ライアンのもとを去っていった。ライアンもまた、彼の背中を見送りながら、二度と戻らない過去に別れを告げた。
それからしばらくして、エリオットは自分の商会での活動にさらに力を注ぎ、貴族のしがらみや復讐心から解放された新しい人生を歩み始めた。彼は自らの手で築き上げた影響力を使い、困っている人々を助け、正義と信念を持って未来を切り開いていくことを決意した。
そしてライアンもまた、彼なりに新しい道を模索し始めた。かつての栄光や地位は失われたが、彼もまた過去を悔い改め、静かに生きる道を選んだ。二人の道は交わることなく、別々の人生を歩んでいったが、どこかで互いの存在を感じながら、穏やかな日々を送ることを望むようになった。
こうして、エリオットとライアンの関係は復讐から解放され、それぞれが新しい人生を歩むための一歩を踏み出したのだった。
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