上 下
4 / 5

第4章: リリスの訴えと公爵の決断

しおりを挟む


公爵邸の広間に、緊張した空気が漂っていた。リリスは静かに立ち尽くし、その目は真っ直ぐに父である公爵を見つめていた。一方、行列店の店主はやや興奮気味で、何とか状況を有利に進めようと焦っていた。

「店主、家の娘が迷惑をかけたということだが?」公爵の声は冷静でありながら、その一言には威厳が感じられた。

「その通りです、公爵様。この子は、ボロ菓子店の味方をして、当店の営業を妨害したのです」と店主は主張する。

公爵はリリスに視線を向けた。「うちの娘が?」

「そうです、お嬢様が道端で『食べたら良くないものが入っている』と言い出したんです。これは明らかに営業妨害です!」店主の言葉には、焦りと怒りが混ざり合っていた。

公爵は眉をひそめ、リリスに尋ねた。「そうなのか、リリス?」

リリスは大きく頷き、その小さな手で「のっと いーと」と書かれた紙を公爵に見せた。その真剣な表情に、公爵も真剣な顔つきになる。

店主は焦り、声を荒げた。「そんなの言いがかりだ!私たちのクッキーは王都でも評判で、そんな危険なものは一切入っていません!」

公爵は冷静に言葉を返した。「ほう、うちの娘が嘘をついていると?」

「いえ、そんなつもりは…。ただ、根拠あっての発言でなければ、いくら公爵様のお嬢様とはいえ、それはいいがかりとしか言えません」と店主は弱気になりつつも反論を続けた。

「では、はっきりさせようじゃないか。成分表を開示し給え」と公爵が提案した。

「それは…企業秘密です」と店主はしどろもどろに答えた。

「開示できないというのなら、貴店の営業は認められない」と公爵は毅然とした態度で言い放った。

店主は驚愕した表情で、「そんな、無茶な…。開示せよと言われましても、私も知らんのです。クッキー生地は王都の本店から送られて来るので、成分についても本店側から開示されていないのです」と弁解した。

公爵は一瞬黙考し、そして冷静に結論を下した。「わかった。では、本店の方に開示要求をするとしよう。問題がないと明確になるまで、貴店の営業を認めない。」

「そんな、大損害じゃないですか!」店主は絶望的な声を上げた。

「問題がないと明らかになれば、損害は当家で補償しよう」と公爵は提案した。

その一言で店主は一瞬考え込み、やがて諦めたように頷いた。「それなら…」

こうして、公爵の提案により話し合いは一旦ついた。しかし、この後、事態は思わぬ方向に進展することになる。

---

それから2週間後、王都の本店から送られたクッキー生地に、有害な添加物が含まれていたことが明らかになった。この事実により、王都の本店も含め、行列店は営業停止に追い込まれることとなった。

リリスの訴えが公爵家の一同に正当であると証明され、彼女の公正さと洞察力は改めて評価されることとなった。

「リリス、よくやった。お前のおかげで、領民の健康を守ることができた」と公爵は彼女を褒め称え、その小さな手をそっと握りしめた。

リリスは微笑みながら、公爵の手を強く握り返した。その笑顔には、ただ純粋に領民たちを思う優しさと、彼女が持つ揺るぎない正義感が込められていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ポータルズ -最弱魔法を育てようー

空知音
ファンタジー
ポータルズ。 そう呼ばれている世界群。 ここでは、各世界がポータルと呼ばれる門で繋がっている。 主人公は、くつろぐことが人生最大のテーマ。 その彼がポータルを通り、地球から異世界に転移してしまう。 視界に一つの点が見えるだけ、という最弱の「点魔法」を育てながら、異世界を生き抜けるだろうか。 ゆる~い主人公による、わくわくドキドキの冒険が今始まる。 どこか懐かしく、温かい。 読んだら元気が出る。  そんな作品を目指します。 R15は、戦闘シーンがあるので念のためです。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ
ファンタジー
 前世の妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生した主人公、実は悪役令嬢でした・・・・・・。え?そうなの?それなら破滅は避けたい!でも乙女ゲームなんてしたことない!妹には「悪役令嬢可愛い!!」と永遠聞かされただけ・・・・・・困った・・・・・・。  どれがフラグかなんてわかんないし、無視してもいいかなーって頭の片隅に仕舞い込み、あぁポテサラが食べたい・・・・・・と思考はどんどん食べ物へ。恋しい食べ物達を作っては食べ、作ってはあげて・・・・・・。あれ?いつのまにか、ヒロインともお友達になっちゃった。攻略対象達も設定とはなんだか違う?とヒロイン談。  なんだかんだで生きていける気がする?主人公が、豚汁騎士科生たちやダメダメ先生に懐かれたり。腹黒婚約者に赤面させられたと思ったら、自称ヒロインまで登場しちゃってうっかり魔王降臨しちゃったり・・・・・・。もうどうにでもなれ!とステキなお姉様方や本物の乙女ゲームヒロインたちとお菓子や食事楽しみながら、青春を謳歌するレティシアのお食事日記。 ※爵位や言葉遣いは、現実や他作者様の作品と異なります。 ※誤字脱字あるかもしれません。ごめんなさい。 ※戦闘シーンがあるので、R指定は念のためです。 ※カクヨムでも投稿してます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

目が覚めたら異世界?にいたんだが

睦月夜風
ファンタジー
普通の中学生の睦月夜風は事故で気を失い目が覚めたらさまざまな種族がいる世界神龍郷に来ていた

処理中です...