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第4章: リリスの訴えと公爵の決断
しおりを挟む公爵邸の広間に、緊張した空気が漂っていた。リリスは静かに立ち尽くし、その目は真っ直ぐに父である公爵を見つめていた。一方、行列店の店主はやや興奮気味で、何とか状況を有利に進めようと焦っていた。
「店主、家の娘が迷惑をかけたということだが?」公爵の声は冷静でありながら、その一言には威厳が感じられた。
「その通りです、公爵様。この子は、ボロ菓子店の味方をして、当店の営業を妨害したのです」と店主は主張する。
公爵はリリスに視線を向けた。「うちの娘が?」
「そうです、お嬢様が道端で『食べたら良くないものが入っている』と言い出したんです。これは明らかに営業妨害です!」店主の言葉には、焦りと怒りが混ざり合っていた。
公爵は眉をひそめ、リリスに尋ねた。「そうなのか、リリス?」
リリスは大きく頷き、その小さな手で「のっと いーと」と書かれた紙を公爵に見せた。その真剣な表情に、公爵も真剣な顔つきになる。
店主は焦り、声を荒げた。「そんなの言いがかりだ!私たちのクッキーは王都でも評判で、そんな危険なものは一切入っていません!」
公爵は冷静に言葉を返した。「ほう、うちの娘が嘘をついていると?」
「いえ、そんなつもりは…。ただ、根拠あっての発言でなければ、いくら公爵様のお嬢様とはいえ、それはいいがかりとしか言えません」と店主は弱気になりつつも反論を続けた。
「では、はっきりさせようじゃないか。成分表を開示し給え」と公爵が提案した。
「それは…企業秘密です」と店主はしどろもどろに答えた。
「開示できないというのなら、貴店の営業は認められない」と公爵は毅然とした態度で言い放った。
店主は驚愕した表情で、「そんな、無茶な…。開示せよと言われましても、私も知らんのです。クッキー生地は王都の本店から送られて来るので、成分についても本店側から開示されていないのです」と弁解した。
公爵は一瞬黙考し、そして冷静に結論を下した。「わかった。では、本店の方に開示要求をするとしよう。問題がないと明確になるまで、貴店の営業を認めない。」
「そんな、大損害じゃないですか!」店主は絶望的な声を上げた。
「問題がないと明らかになれば、損害は当家で補償しよう」と公爵は提案した。
その一言で店主は一瞬考え込み、やがて諦めたように頷いた。「それなら…」
こうして、公爵の提案により話し合いは一旦ついた。しかし、この後、事態は思わぬ方向に進展することになる。
---
それから2週間後、王都の本店から送られたクッキー生地に、有害な添加物が含まれていたことが明らかになった。この事実により、王都の本店も含め、行列店は営業停止に追い込まれることとなった。
リリスの訴えが公爵家の一同に正当であると証明され、彼女の公正さと洞察力は改めて評価されることとなった。
「リリス、よくやった。お前のおかげで、領民の健康を守ることができた」と公爵は彼女を褒め称え、その小さな手をそっと握りしめた。
リリスは微笑みながら、公爵の手を強く握り返した。その笑顔には、ただ純粋に領民たちを思う優しさと、彼女が持つ揺るぎない正義感が込められていた。
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