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第三章: 華やかな仮面舞踏会

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アクシオムとレイヴンの結婚から数週間が経過し、二人の存在はすっかり社交界の注目の的となっていた。王太子と侯爵令嬢の結婚は、誰もが予想していなかった組み合わせであり、噂話は後を絶たなかった。アクシオムは表向きは王太子妃としての役割を全うし、どんな批判や憶測にも微笑を絶やさず冷静に対処していた。だが、その心の奥底には、まだ復讐の炎が燃え続けていた。

ある日、宮廷で仮面舞踏会が開かれることになった。貴族たちは華やかな衣装と仮面を身にまとい、夜を楽しむために集まってきた。この舞踏会には、アクシオムとレイヴンも招かれていた。二人はそれぞれに豪華な装いと美しい仮面を選び、会場へと足を踏み入れた。彼らの姿が現れると、会場にいる全員がその美しさと気高さに息をのんだ。

アクシオムは純白のドレスに身を包み、銀色の仮面をつけていた。その姿はまるで月夜に輝く女神のようで、会場の注目を一身に集めた。隣に立つレイヴンは黒いタキシードと漆黒の仮面をつけ、冷徹な王太子としてのオーラを放っていた。彼ら二人が並ぶ姿はまさに完璧で、誰もが息を飲む美しさと威厳に満ちていた。

舞踏会が進む中、アクシオムは冷ややかな微笑みを浮かべながら周囲の貴族たちと軽く挨拶を交わし、王太子妃としての立場を全うしていた。しかし、内心ではアレスとリディアがこの場にいることを知っていたため、二人の姿を探しながら周囲を観察していた。

すると、仮面の中から鋭い視線が自分を捉えたのを感じ、アクシオムはふと顔を上げた。そこにはアレスが立っていた。彼もまた、豪華な衣装と仮面で顔を覆い、周囲の目を引いていたが、その瞳には嫉妬と苛立ちが浮かんでいた。彼はアクシオムの視線を受けて微かに笑みを浮かべたが、その表情には複雑な感情が隠されていた。

「アクシオム、ずいぶんと王太子妃としての生活を楽しんでいるようだね」

皮肉を込めた言葉が投げかけられるが、アクシオムは冷静に受け流した。彼女は微笑を浮かべながら、冷ややかな視線でアレスを見つめ返す。

「楽しんでいるかどうかはご想像にお任せしますわ、アレス様。ただ、あなたのおかげで素晴らしい未来が開けたことには感謝しています」

その冷ややかな言葉に、アレスは一瞬表情を曇らせたが、すぐに取り繕い、強がるように笑みを浮かべた。

「そうか、君も随分と強くなったものだ」

彼の言葉には皮肉と苛立ちが含まれていたが、アクシオムはそれに動じることなく、淡々と返答した。

「ええ、これも全て貴方の教えのおかげですわ」

アクシオムの冷静な態度に、アレスは言葉を失い、しばしの沈黙が続いた。その時、アクシオムの隣に立つレイヴンが冷ややかに口を開いた。

「アレス、君もまだ王太子妃に対する礼儀をわきまえていないのか?」

その冷たい一言に、アレスは一瞬怯むように顔を曇らせた。レイヴンの威圧的な存在感と冷徹な言葉に、アレスは反論することもできず、ただ軽く頭を下げて去っていった。その後ろ姿を見送りながら、アクシオムは冷ややかな微笑を浮かべ、内心で満足感を覚えた。彼が屈辱を味わう瞬間を目の当たりにし、自分の決意が少しずつ報われていると感じたからだ。

舞踏会は再び華やかな雰囲気を取り戻し、アクシオムとレイヴンは共に踊りの輪に加わった。彼の腕に導かれ、アクシオムは舞台の中心で華麗に舞った。その姿は誰もが目を奪われる美しさで、まさに舞踏会の主役として君臨していた。

「冷静だったな、アクシオム」

踊りながらレイヴンが低い声で囁く。その言葉に、アクシオムは微かに微笑んで答えた。

「ありがとうございます、殿下。これも王太子妃としての心得を教えていただいたおかげです」

彼女の返答に、レイヴンは微かに満足げな表情を浮かべた。彼もまた、彼女が強く冷静に振る舞う姿を評価していたのかもしれない。二人はそのまま美しいダンスを踊り続け、周囲からの注目を一身に集めていた。

舞踏会の夜が更け、アクシオムとレイヴンは最後までその場を支配するかのように振る舞い続けた。やがて、二人は舞踏会の会場を後にし、冷たい夜風に包まれながら宮廷を出た。その道中、アクシオムはレイヴンに向かって静かに話しかけた。

「殿下、私はこの婚姻に満足しています」

その言葉には本音も含まれていたが、同時に彼女自身の新たな覚悟が宿っていた。復讐のために偽装結婚という道を選んだ彼女だったが、レイヴンと共にいることで自分が強くなり、アレスに屈することなく生きる道を見出せていると感じていたからだ。

レイヴンは一瞬彼女を見つめ、冷静な表情で頷いた。

「君がそのように思っているのなら、それでいい。私も君を信頼している。共にいる限り、お互いの利益を守ることができるだろう」

その言葉に、アクシオムは微かに微笑み、再び前を見据えた。彼女の心には新たな決意が宿り、アレスへの復讐を超えて、自分の未来を切り開く覚悟が生まれていた。

こうして、アクシオムとレイヴンは表向きは冷徹で完璧な夫婦として振る舞いながらも、互いに利益を求め合い、共に社交界を駆け抜ける存在として立ち上がるのであった。そして、アクシオムは心の奥底で復讐の炎を消さぬまま、王太子妃としての新たな生活を始める準備を整えていた。

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