上 下
5 / 7

第4章:継母イリスの失墜

しおりを挟む


王宮内では、いつしか噂が飛び交っていた。「公爵令嬢アスタルテ・ルミナスが戻ってきた」と。それはまるで嵐の前触れのように、ひっそりとした不安感を宮廷の隅々にまで広げていた。だが、誰もがその噂を信じることができなかった。追放されたはずのアスタルテが、再びこの場所に戻ってくるなど、想像もつかなかったからだ。とりわけ、継母イリスはそれを一笑に付した。彼女にとってアスタルテは過去の存在に過ぎず、再び現れることはありえないと信じ込んでいた。

「アスタルテ? あの娘はもう二度と戻れないわ。私の手で完全に追い出したのだから」

イリスはそう言って、まるで自分が全てを掌握しているかのように微笑んだ。彼女は長年、宮廷での権力を築き上げてきた。美しさと知恵を武器に、彼女は多くの高官や貴族たちを操ってきた。しかし、それも全ては彼女の自己利益のためであり、アスタルテが消えたことで、彼女の立場はさらに強固になったかのように見えた。

しかし、アスタルテは確かに戻ってきていた。7人の王たちの助けを得て、彼女は静かに宮廷内での影響力を増していた。彼女はただの追放者ではなくなっていた。新たな力を手に入れ、そして彼女を取り巻く者たちの信頼も得ていた。


---

ある日、イリスは宮廷内で噂を耳にした。彼女がこれまで築いてきた影響力に陰りが見え始め、次々と高官たちが彼女から距離を置き始めているというのだ。最初は何かの誤解だと考えたが、次第にそれが現実であることを感じ始めた。彼女の支持者たちが少しずつ離れ、彼女に対する不信感が広がっている。理由は明らかだった。アスタルテが戻ってきたのだ。

「何が起きているの? あの娘が本当に戻ってきたというの?」
イリスの心には焦りが広がった。しかし、彼女はまだアスタルテを侮っていた。追放された娘に何ができるというのか、彼女はそう信じ込んでいた。

だが、アスタルテは確実に、静かに宮廷内での地盤を固めていた。彼女はイリスに直接挑むのではなく、まずは周囲の信頼を得ることに専念した。彼女はかつての弱い自分ではなく、知恵と勇気を持つ女性へと成長していた。貴族たちは彼女の変化に気づき、その強さと冷静さに惹かれ、次々と彼女の味方となっていった。


---

アスタルテは、まずイリスがどのように宮廷内で影響力を得てきたのかを詳しく調査し始めた。リュシアンの冷静な判断力とセドリックの風のように迅速な行動力を駆使して、彼女はイリスの背後にある不正を暴いていった。イリスは贈収賄に手を染め、さらには密かに貴族たちとの裏取引を行っていた証拠が次々と見つかった。

「これは使えるわ……」
アスタルテは冷静にその証拠をまとめ、宮廷内での次なる手を打つ準備を進めた。彼女は焦らず、慎重に、しかし確実にイリスの影響力を削ぎ落としていった。

やがて、イリスの背後で進んでいた陰謀が次々と明るみに出る。最初は些細な噂から始まり、次第にそれが確かな証拠に基づく告発へと変わっていった。彼女が長年築き上げてきた信頼は、まるで砂の城のように崩れ始めた。かつて彼女に従っていた高官たちも、次々と離れていく。

「まさか、こんなことになるなんて……」
イリスは焦燥感に駆られながらも、どうにかして状況を立て直そうとしたが、もはや手遅れだった。アスタルテが巧妙に仕掛けた策略は、完全にイリスの地位を揺るがしていた。


---

ある日、ついに決定的な瞬間が訪れた。王宮内で開かれた貴族たちの集会で、イリスの背後にある不正が公然と告発された。証拠が次々と提出され、彼女が長年にわたって行ってきた悪行が白日の下に晒されたのだ。

「これは……何かの間違いよ! 私がそんなことをするはずがない!」
イリスは必死に弁解しようとしたが、貴族たちの冷たい視線が彼女に突き刺さった。かつては彼女を持ち上げていた者たちも、今や彼女を見限り、無言でその場を去っていった。

アスタルテはその場に姿を現すことなく、静かに遠くから見守っていた。彼女はすでに勝利を確信していた。イリスが自滅するのを、ただ冷静に見つめていた。


---

イリスはついに王宮から追放されることが決まった。彼女の美しさと策略はもはや通用しなくなり、すべてを失った彼女は孤独に苛まれた。かつての栄華はどこにもなく、彼女は宮廷から退去を命じられた。

追放される日、彼女はかつて自分が使っていた鏡を手に取り、自らの美しさをじっと見つめた。美しさこそが彼女の唯一の武器であり、全てを手に入れるための手段だった。しかし、その美しさも、今や虚しく感じられた。

「私には……美しさしかなかった……」

彼女はそう呟きながら、鏡を見つめ続けた。だが、その美しさへの執着が彼女をさらに深い孤独と絶望に引きずり込んでいった。何もかもを失ったイリスは、ついに自らの美しさに囚われたまま、心を壊していった。


---

アスタルテはその後も冷静に行動を続け、イリスの完全なる失墜を確認した後、次なる標的であるレオニスに目を向けた。彼女の復讐は、まだ終わってはいなかった。

「イリスは終わった……次はレオニスの番ね。」
彼女の瞳には、確固たる決意が宿っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

聖女の代役の私がなぜか追放宣言されました。今まで全部私に仕事を任せていたけど大丈夫なんですか?

水垣するめ
恋愛
伯爵家のオリヴィア・エバンスは『聖女』の代理をしてきた。 理由は本物の聖女であるセレナ・デブリーズ公爵令嬢が聖女の仕事を面倒臭がったためだ。 本物と言っても、家の権力をたてにして無理やり押し通した聖女だが。 無理やりセレナが押し込まれる前は、本来ならオリヴィアが聖女に選ばれるはずだった。 そういうこともあって、オリヴィアが聖女の代理として選ばれた。 セレナは最初は公務などにはきちんと出ていたが、次第に私に全て任せるようになった。 幸い、オリヴィアとセレナはそこそこ似ていたので、聖女のベールを被ってしまえば顔はあまり確認できず、バレる心配は無かった。 こうしてセレナは名誉と富だけを取り、オリヴィアには働かさせて自分は毎晩パーティーへ出席していた。 そして、ある日突然セレナからこう言われた。 「あー、あんた、もうクビにするから」 「え?」 「それと教会から追放するわ。理由はもう分かってるでしょ?」 「いえ、全くわかりませんけど……」 「私に成り代わって聖女になろうとしたでしょ?」 「いえ、してないんですけど……」 「馬鹿ねぇ。理由なんてどうでもいいのよ。私がそういう気分だからそうするのよ。私の偽物で伯爵家のあんたは大人しく聞いとけばいいの」 「……わかりました」 オリヴィアは一礼して部屋を出ようとする。 その時後ろから馬鹿にしたような笑い声が聞こえた。 「あはは! 本当に無様ね! ここまで頑張って成果も何もかも奪われるなんて! けど伯爵家のあんたは何の仕返しも出来ないのよ!」 セレナがオリヴィアを馬鹿にしている。 しかしオリヴィアは特に気にすることなく部屋出た。 (馬鹿ね、今まで聖女の仕事をしていたのは私なのよ? 後悔するのはどちらなんでしょうね?)

婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む

柴野
恋愛
 おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。  周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。  しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。 「実験成功、ですわねぇ」  イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

処理中です...