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第5章: 国の危機と再会
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一方、マリアを追放したエルディア王国では、疫病が蔓延し、国が崩壊の危機に瀕していた。エリーゼは聖女としてその力を振るい、できる限りの努力をしたが、疫病を抑えることはできず、民衆の間には不安が広がっていた。彼女の強力な魔力も、この未曾有の疫病には通用しなかったのである。
エリーゼは、一人一人の病人を治療することはできたが、爆発的に広がる感染を止めることはできなかった。そのため、次第にエリーゼの力にも限界があることが明らかになり、国中に失望が広がっていった。民衆は、王国がこの疫病によって滅びるのではないかという恐怖に怯えていた。
そんな中、マリアを追放したアレクシス王子に対して非難の声が上がり始めた。「エリーゼにできないことが、魔力ゼロのマリアにできるはずがない」と彼は反論し、マリアの力を再び認めることを拒んだ。しかし、民衆の中には、マリアが真の聖女であり、彼女こそが国を救う存在であると信じる者たちも少なくなかった。
やがて、教会はエルディア王国を救うために、隣国オルディス王国へ助けを求めることを決定した。
オルディス王国で穏やかな日々を過ごしていたマリアのもとに、エルディアの教会からの救援要請が届いたことを、オルディスの教会が伝えに来た。エルディアでは疫病が爆発的に広がり、国全体が崩壊の危機に瀕しているという。
オルディス教会は治癒魔術師を数名派遣することを決定したが、マリアは少人数の治癒魔術師ではこの疫病の猛威を抑えることは難しいだろうと感じた。彼女は深く考えた末、自らエルディアに赴き、直接助けに行くことを決意した。
マリアはハルバート王子のもとへ赴き、自分がエルディアへ行く許可を求めた。しかし、王子はマリアの身を案じ、快い返事をすぐにすることができなかった。
「マリア、君の安全が第一だ。エルディアは君を追放した国であり、危険が伴うだろう」
王子の言葉には深い心配が込められていた。宮廷神官長もまた、マリアの決意に懸念を示した。
「マリア様、あなたを追放した国であり、危険が伴います。どうか、よくお考えください」
しかし、マリアは静かに、しかし強い決意を持って答えた。
「それでも、民には何の責任もございません。彼らは苦しんでいます。私が行くことで少しでも彼らの助けになるのであれば、それが私の使命です」
その言葉に、ハルバート王子も神官長も心を動かされた。マリアの強い信念と優しさが、彼らの胸に響いたのである。
宮廷神官長はハルバート王子に向き直り、提案をした。
「王子、マリア様には神官騎士を護衛としておつけいたします。どうか、マリア様の御心のままに従いましょう」
ハルバート王子はその提案を受け入れ、深く頷いた。
「マリア、君がそこまで言うのなら、私も許可しよう。だが、くれぐれも気をつけてくれ。君の安全が何より大切だ」
マリアは感謝の意を込めて王子に微笑み、エルディアへの出発の準備を始めた。彼女の心には、かつて自分を拒絶した国を救うという決意が宿っていた。
エルディア王国に到着したマリアは、疫病に苦しむ人々の前で祈りを捧げ、奇跡を起こしていった。その光景を目の当たりにしたアレクシス王子は驚愕し、叫んだ。
「バカな!お前には魔力なんてないはずではないか!」
王子の言葉に、周囲にいた教会の神官たちは口々に反論した。
「それは殿下が行った不正のせいではありませんか?!」
その言葉が飛び交う中、場の緊張は高まっていった。両者が対立する中、マリアは静かに前に進み出て、落ち着いた声で答えた。
「殿下の言われる通り、私には魔力はございませんでした」
その言葉に、一瞬、神官たちも王子も息を呑んだ。しかし、神官たちはすぐに言葉を返した。
「しかし!今、奇跡の御業をお見せくださったではありませんか?」
彼らの問いに、マリアは微笑みながら答えた。
「私にできるのは、祈りを神に伝えることだけです。それが神に届き、この奇跡をおこなわせていただいたのです」
神官たちはその言葉に驚きと感嘆の声を上げた。
「マリア様は、神の御使いでいらっしゃったのですね?」
神の御使いとは、神に最も近しい存在であり、聖女より遥かに格上の存在だと言われている。数千年に一度しか現れないとされ、その力は神そのものに匹敵するほどである。
マリアはゆっくりと頷きながら続けた。
「殿下が言われる通り、私は聖女ではありませんでした。でも、それは決して人々を欺こうとしたわけではありません。私は、ただ神に祈りを捧げ、御意志を伝える役割を果たしていただけなのです」
その言葉に、神官たちは深く頷き、民衆もまた彼女の真意を理解した。驚愕の事実を知った人々の間には、尊敬と感謝の念が広がっていった。
マリアが神の御使いであることが明らかになった後、その場にいた全員が驚愕し、深い感銘を受けていた。しかし、次の瞬間、アレクシス王子が突然、信じられないようなことを言い出した。
「私は、エリーゼとの婚約を解消し、改めてマリアと婚約する」
その言葉が発せられた瞬間、広間には静寂が訪れた。誰もが呆然とし、言葉を失った。
エリーゼは一瞬、王子の態度に怒りを覚えたものの、マリアが神の御使いであることを理解し、仕方ないとも思い、表面上は冷静さを保っていた。彼女の心中には、混乱と失望が渦巻いていたが、それを表に出すことはなかった。
しかし、冷静さを保てなかったのは、むしろマリアであった。一言で言えば、彼女は激怒していた。
「殿下、何をおっしゃっているのですか?」と、マリアは抑えきれない怒りを込めて問いかけた。
彼女の声には、これまで見せたことのない鋭さと怒りが含まれていた。神の御使いとしての冷静な態度を崩し、彼女はアレクシス王子に対して、強い抗議の意を示した。
「殿下、何をおっしゃっているのですか?」
マリアの問いかけに、アレクシス王子は驚いたように彼女を見つめた。しかし、彼の表情には依然として自信が満ちていた。
「マリア、君こそが本当の聖女ではないとしても、神の御使いであることが証明された。私が君と婚約するのは、国の未来のためにも必要なことだ」
王子はその言葉を誇らしげに述べたが、その言葉はマリアの怒りに火を注ぐだけだった。
「殿下、私は神の御使いとして、神の御意志に従う者です。婚約など、私の使命には何の関係もありません。エリーゼ様を蔑ろにしてまで、私を再び婚約者にするなどという考えは、到底受け入れられません!」
マリアの声は、鋭く響き渡った。彼女の怒りは、自らの使命に対する誇りと、エリーゼへの同情から来るものであった。神の御使いとして、人々を導くことが彼女の唯一の目的であり、個人的な欲望に従うつもりはなかっ
アレクシス王子は、マリアの断固たる態度に焦りを感じ、さらに言葉を続けた。
「私の妻になれるのだぞ、つまり王妃だ。なんの不服があるというのだ?」
彼の言葉には、王としての権威を利用しようとする意図が見え隠れしていた。しかし、その一言がマリアの怒りをさらに煽ることとなった。
「殿下!御免被ります。あなたの妻だなんて最悪ですわ。」
その言葉を聞いた瞬間、周囲の人々は驚愕し、再び広間が静まり返った。マリアの強い口調には、もう一切の妥協を許さない決意が込められていた。
「それに私、すでにハルバート王子殿下の婚約者ですの!」
その言葉は、アレクシス王子にとって追い打ちをかけるようなものであった。彼は一瞬、言葉を失い、呆然とマリアを見つめた。自分の提案が完全に拒絶されたことを理解し、王子はその場で何も言えなくなってしまった。
広間にいる者たちも、マリアの決然とした態度に驚きを隠せなかった。彼女が既にハルバート王子と婚約しているという事実は、多くの人々にとって衝撃的なものであった。
「殿下、私は神の御使いとして、そしてハルバート王子殿下の婚約者として、自らの道を進む覚悟です。どうか、それを理解していただきたい」
マリアはそう言い放ち、もう一度深く頭を下げた。
アレクシス王子は、再び言葉を失い、その場に立ち尽くした。彼の心中には、失意と後悔が渦巻いていたが、それでもマリアの決意を尊重せざるを得なかった。
この瞬間、マリアは自らの意思と信念を貫き、エリーゼと共に自分の未来を見据えたのであった。
マリアはアレクシス王子の前で深く一礼し、静かに言った。
「では、失礼します。婚約者が、私の帰りを待っていますので」
その言葉を残し、マリアはその場を立ち去ろうとした。その瞬間、突然エリーゼが声を上げた。
「お待ちください、マリア様!どうか、お供をさせていただけないでしょうか?」
その予想外の申し出に、マリアは驚き、戸惑いの表情を浮かべた。
「はい?え?」
エリーゼは決然とした態度で、王子に向き直り、言葉を続けた。
「殿下、婚約解消、謹んでお受けいたします。これより私は、聖女として神の御使いたるマリア様に生涯お仕えすることを決めました。それが、聖女たる私の勤めでございます」
その言葉に、広間の空気が一瞬にして変わった。エリーゼの決意に満ちた宣言は、周囲にいた人々を驚かせた。彼女は、これまで信じてきたものを超えて、新たな使命を見つけたのだ。
マリアはエリーゼの真摯な眼差しを受け止め、しばらく沈黙していたが、やがて微笑んで頷いた。
「エリーゼ様…あなたの決意、受け入れます。共に、神の御意志を果たしましょう」
こうして、エリーゼはマリアに付き従うことを誓い、二人は共にその場を後にした。アレクシス王子は、二人の姿が消えていくのを見つめながら、ただ静かに立ち尽くしていた。
マリアとエリーゼがその場を去った後、広間には一瞬の静寂が訪れた。そして気がつくと、そこにいたはずの教会の神官たちや、アレクシス王子の取り巻きであった貴族たちさえも、いつの間にか姿を消していた。
広い広間には、アレクシス王子一人だけが取り残されていた。彼はただ静かに立ち尽くし、自らの決断と行動の結果を考え込んでいた。
周囲の支持を失い、一人きりになった王子の心には、今まで感じたことのない孤独感が押し寄せてきた。自分が犯した過ちと、それに対する後悔が彼を苛み、彼は深い溜息をつくしかなかった。
彼の心中には、今までの傲慢な態度や、マリアやエリーゼに対する扱いに対する反省が湧き上がっていたが、もはや彼の側にそれを聞いてくれる者は誰一人いなかった。
エリーゼは、一人一人の病人を治療することはできたが、爆発的に広がる感染を止めることはできなかった。そのため、次第にエリーゼの力にも限界があることが明らかになり、国中に失望が広がっていった。民衆は、王国がこの疫病によって滅びるのではないかという恐怖に怯えていた。
そんな中、マリアを追放したアレクシス王子に対して非難の声が上がり始めた。「エリーゼにできないことが、魔力ゼロのマリアにできるはずがない」と彼は反論し、マリアの力を再び認めることを拒んだ。しかし、民衆の中には、マリアが真の聖女であり、彼女こそが国を救う存在であると信じる者たちも少なくなかった。
やがて、教会はエルディア王国を救うために、隣国オルディス王国へ助けを求めることを決定した。
オルディス王国で穏やかな日々を過ごしていたマリアのもとに、エルディアの教会からの救援要請が届いたことを、オルディスの教会が伝えに来た。エルディアでは疫病が爆発的に広がり、国全体が崩壊の危機に瀕しているという。
オルディス教会は治癒魔術師を数名派遣することを決定したが、マリアは少人数の治癒魔術師ではこの疫病の猛威を抑えることは難しいだろうと感じた。彼女は深く考えた末、自らエルディアに赴き、直接助けに行くことを決意した。
マリアはハルバート王子のもとへ赴き、自分がエルディアへ行く許可を求めた。しかし、王子はマリアの身を案じ、快い返事をすぐにすることができなかった。
「マリア、君の安全が第一だ。エルディアは君を追放した国であり、危険が伴うだろう」
王子の言葉には深い心配が込められていた。宮廷神官長もまた、マリアの決意に懸念を示した。
「マリア様、あなたを追放した国であり、危険が伴います。どうか、よくお考えください」
しかし、マリアは静かに、しかし強い決意を持って答えた。
「それでも、民には何の責任もございません。彼らは苦しんでいます。私が行くことで少しでも彼らの助けになるのであれば、それが私の使命です」
その言葉に、ハルバート王子も神官長も心を動かされた。マリアの強い信念と優しさが、彼らの胸に響いたのである。
宮廷神官長はハルバート王子に向き直り、提案をした。
「王子、マリア様には神官騎士を護衛としておつけいたします。どうか、マリア様の御心のままに従いましょう」
ハルバート王子はその提案を受け入れ、深く頷いた。
「マリア、君がそこまで言うのなら、私も許可しよう。だが、くれぐれも気をつけてくれ。君の安全が何より大切だ」
マリアは感謝の意を込めて王子に微笑み、エルディアへの出発の準備を始めた。彼女の心には、かつて自分を拒絶した国を救うという決意が宿っていた。
エルディア王国に到着したマリアは、疫病に苦しむ人々の前で祈りを捧げ、奇跡を起こしていった。その光景を目の当たりにしたアレクシス王子は驚愕し、叫んだ。
「バカな!お前には魔力なんてないはずではないか!」
王子の言葉に、周囲にいた教会の神官たちは口々に反論した。
「それは殿下が行った不正のせいではありませんか?!」
その言葉が飛び交う中、場の緊張は高まっていった。両者が対立する中、マリアは静かに前に進み出て、落ち着いた声で答えた。
「殿下の言われる通り、私には魔力はございませんでした」
その言葉に、一瞬、神官たちも王子も息を呑んだ。しかし、神官たちはすぐに言葉を返した。
「しかし!今、奇跡の御業をお見せくださったではありませんか?」
彼らの問いに、マリアは微笑みながら答えた。
「私にできるのは、祈りを神に伝えることだけです。それが神に届き、この奇跡をおこなわせていただいたのです」
神官たちはその言葉に驚きと感嘆の声を上げた。
「マリア様は、神の御使いでいらっしゃったのですね?」
神の御使いとは、神に最も近しい存在であり、聖女より遥かに格上の存在だと言われている。数千年に一度しか現れないとされ、その力は神そのものに匹敵するほどである。
マリアはゆっくりと頷きながら続けた。
「殿下が言われる通り、私は聖女ではありませんでした。でも、それは決して人々を欺こうとしたわけではありません。私は、ただ神に祈りを捧げ、御意志を伝える役割を果たしていただけなのです」
その言葉に、神官たちは深く頷き、民衆もまた彼女の真意を理解した。驚愕の事実を知った人々の間には、尊敬と感謝の念が広がっていった。
マリアが神の御使いであることが明らかになった後、その場にいた全員が驚愕し、深い感銘を受けていた。しかし、次の瞬間、アレクシス王子が突然、信じられないようなことを言い出した。
「私は、エリーゼとの婚約を解消し、改めてマリアと婚約する」
その言葉が発せられた瞬間、広間には静寂が訪れた。誰もが呆然とし、言葉を失った。
エリーゼは一瞬、王子の態度に怒りを覚えたものの、マリアが神の御使いであることを理解し、仕方ないとも思い、表面上は冷静さを保っていた。彼女の心中には、混乱と失望が渦巻いていたが、それを表に出すことはなかった。
しかし、冷静さを保てなかったのは、むしろマリアであった。一言で言えば、彼女は激怒していた。
「殿下、何をおっしゃっているのですか?」と、マリアは抑えきれない怒りを込めて問いかけた。
彼女の声には、これまで見せたことのない鋭さと怒りが含まれていた。神の御使いとしての冷静な態度を崩し、彼女はアレクシス王子に対して、強い抗議の意を示した。
「殿下、何をおっしゃっているのですか?」
マリアの問いかけに、アレクシス王子は驚いたように彼女を見つめた。しかし、彼の表情には依然として自信が満ちていた。
「マリア、君こそが本当の聖女ではないとしても、神の御使いであることが証明された。私が君と婚約するのは、国の未来のためにも必要なことだ」
王子はその言葉を誇らしげに述べたが、その言葉はマリアの怒りに火を注ぐだけだった。
「殿下、私は神の御使いとして、神の御意志に従う者です。婚約など、私の使命には何の関係もありません。エリーゼ様を蔑ろにしてまで、私を再び婚約者にするなどという考えは、到底受け入れられません!」
マリアの声は、鋭く響き渡った。彼女の怒りは、自らの使命に対する誇りと、エリーゼへの同情から来るものであった。神の御使いとして、人々を導くことが彼女の唯一の目的であり、個人的な欲望に従うつもりはなかっ
アレクシス王子は、マリアの断固たる態度に焦りを感じ、さらに言葉を続けた。
「私の妻になれるのだぞ、つまり王妃だ。なんの不服があるというのだ?」
彼の言葉には、王としての権威を利用しようとする意図が見え隠れしていた。しかし、その一言がマリアの怒りをさらに煽ることとなった。
「殿下!御免被ります。あなたの妻だなんて最悪ですわ。」
その言葉を聞いた瞬間、周囲の人々は驚愕し、再び広間が静まり返った。マリアの強い口調には、もう一切の妥協を許さない決意が込められていた。
「それに私、すでにハルバート王子殿下の婚約者ですの!」
その言葉は、アレクシス王子にとって追い打ちをかけるようなものであった。彼は一瞬、言葉を失い、呆然とマリアを見つめた。自分の提案が完全に拒絶されたことを理解し、王子はその場で何も言えなくなってしまった。
広間にいる者たちも、マリアの決然とした態度に驚きを隠せなかった。彼女が既にハルバート王子と婚約しているという事実は、多くの人々にとって衝撃的なものであった。
「殿下、私は神の御使いとして、そしてハルバート王子殿下の婚約者として、自らの道を進む覚悟です。どうか、それを理解していただきたい」
マリアはそう言い放ち、もう一度深く頭を下げた。
アレクシス王子は、再び言葉を失い、その場に立ち尽くした。彼の心中には、失意と後悔が渦巻いていたが、それでもマリアの決意を尊重せざるを得なかった。
この瞬間、マリアは自らの意思と信念を貫き、エリーゼと共に自分の未来を見据えたのであった。
マリアはアレクシス王子の前で深く一礼し、静かに言った。
「では、失礼します。婚約者が、私の帰りを待っていますので」
その言葉を残し、マリアはその場を立ち去ろうとした。その瞬間、突然エリーゼが声を上げた。
「お待ちください、マリア様!どうか、お供をさせていただけないでしょうか?」
その予想外の申し出に、マリアは驚き、戸惑いの表情を浮かべた。
「はい?え?」
エリーゼは決然とした態度で、王子に向き直り、言葉を続けた。
「殿下、婚約解消、謹んでお受けいたします。これより私は、聖女として神の御使いたるマリア様に生涯お仕えすることを決めました。それが、聖女たる私の勤めでございます」
その言葉に、広間の空気が一瞬にして変わった。エリーゼの決意に満ちた宣言は、周囲にいた人々を驚かせた。彼女は、これまで信じてきたものを超えて、新たな使命を見つけたのだ。
マリアはエリーゼの真摯な眼差しを受け止め、しばらく沈黙していたが、やがて微笑んで頷いた。
「エリーゼ様…あなたの決意、受け入れます。共に、神の御意志を果たしましょう」
こうして、エリーゼはマリアに付き従うことを誓い、二人は共にその場を後にした。アレクシス王子は、二人の姿が消えていくのを見つめながら、ただ静かに立ち尽くしていた。
マリアとエリーゼがその場を去った後、広間には一瞬の静寂が訪れた。そして気がつくと、そこにいたはずの教会の神官たちや、アレクシス王子の取り巻きであった貴族たちさえも、いつの間にか姿を消していた。
広い広間には、アレクシス王子一人だけが取り残されていた。彼はただ静かに立ち尽くし、自らの決断と行動の結果を考え込んでいた。
周囲の支持を失い、一人きりになった王子の心には、今まで感じたことのない孤独感が押し寄せてきた。自分が犯した過ちと、それに対する後悔が彼を苛み、彼は深い溜息をつくしかなかった。
彼の心中には、今までの傲慢な態度や、マリアやエリーゼに対する扱いに対する反省が湧き上がっていたが、もはや彼の側にそれを聞いてくれる者は誰一人いなかった。
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