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第六章 お手並み拝見

第4話

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―――本郷研次郎は、割と簡単に自供をした。
頼りにしていた自分のアリバイ・トリックが、いとも容易く崩されてしまっては、他に逃れる術が無かった。


■自供内容は以下のものである。  
あの日の午前中に、二〇階に馬場さんを呼んで「今日家内に、実家へ借金の工面に行かせていて、午後七時頃に、お金を持ってここに来る予定なので、着いたら電話をする」と言っておきました。借金の事は、家族には内緒にしてほしいと頼んでいたので、私が今回やっと家族を巻き込んで、本気で返済をする気になったんだと思ったのか、馬場さんを騙すのは簡単でした。(後日の捜査で、本郷の妻は、借金の事を一切聞いてはいなかった)

午後六時四五分頃に、二〇階のレストランの内線電話から「家内から連絡があり、もうすぐ車で着くので、午後七時に地下一階へ下りてきてほしい」と伝えました。 

私は、地下一階に彼より先に着いて、エレベーターのドアが閉まらないように、観音開きの扉の真ん中に、自分のカバンを置いてエレベーターホールへ出て待ちました。(本郷は、午後六時以降に地下一階の警備員が不在になることを知っていた)
  
私はカバンの中から、コンビニのビニール袋を出して、中からナイフを取り出しました。そしてビニール袋を裏返して、右手に被せ、その手でナイフを握りました。

少し待つと、隣のチャイムが短く鳴って、エレベーターが到着しました。開いた扉の中には、少し笑顔の馬場さんが、一人で立っていました。
  
もしもエレベーターから降りて来た人が馬場さんでなければやり過ごし、もしも馬場さんと一緒に誰かがエレベーターに乗っていたら、『未だ家内が到着していない』と言い訳をして、何れも次の機会を伺うつもりでしたが、今回は馬場さんが一人で乗っていました。

運よくと言っても、馬場さんを屋上に一人で呼び出そうとしてみたり、二人で飲みに行って泥酔をさせようとしてみたり、これまでに三度ほど実行を試みましたが、想定通りに事が進まなかったので見送りました。それなので、今回が、四度目の正直になります。

馬場さんが、エレベーターから出ようとした瞬間、私は背中に隠していた右腕を、弧を描くように、脇腹の下でスナップを効かせて、彼の胸を、背中に突き抜けるほどの渾身の力を籠めて、まっすぐにひと突きしました。
そして素早く引き抜くと、笑顔だった馬場さんは、後ろに崩れるように、あっけなく尻餅を着きました。

その時にかなり大きな音と、エレベーターが揺れたので、少し動揺をしましたが、気を取り直して、私は右手に持っている少し血の付いたビニール袋をナイフを包み込むように、裏返して袋の中に入れました。

それで、ビニール袋の口を固く縛って、元のエレベーターに戻り、カバンの中に仕舞いました。

そして私は、支え棒としていたカバンを引き抜いて、一階ホールへと上がりました。
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