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第五章 推理対決

第1話

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二人が二十階へ戻って来たときには、既に全員が椅子に座って待っていた。
三〇帖程の折りたたみパーテーションで仕切られたスペースの中央に、縦長の折りたたみテーブルを四つ付けて、回りに椅子が並べられている。
一〇名程の制服の捜査員がU字型に座り、辰巳警部と玄武はU字の上の位置に並んで座っていて、その背後にホワイトボードが置かれていた。

眉毛の太い玄武が、訝しげに横目で入ってくる二人を目で追った。
二人は壁に立て掛けてあるパイプ椅子を広げながら、一番遠い位置のU字の下の位置に並んで座った。

「みんな集まったようなので始めるか。では、みんなが考えた仮説と、今までの捜査によって判明した事実から、矛盾を排除していきたい」
と、捜査主任の辰巳警部の地底を這う様な低い声であった。

一同を一通り見回してから、
「では、玄武君に、個々の仮説の説明をしてもらおう」

「はい」と言って、立ち上がった小柄な玄武が前へ出て、
「ではまず、当時の事件前後に、関係者が何処にいたのかを説明します」
と、ホワイトボードに事前に書いておいた図を指さした。

「午後七時過ぎ、被害者の馬場は、十一階から7号機のエレベーターに乗り込みました。仮にその時刻を、午後七時〇分三〇秒としておきます」
と、玄武がホワイトボードに時刻を付け足すと、

「同時刻、既に本郷は十三階から、8号機のエレベーターに乗って一階へ向かっている途中。三木塚は十一階のエレベーターホールで馬場とすれ違って、自席に向かっていて、吉川はレストランハウスから、ビジネスビルに戻って来たところになります」と続けた。

<犯行前>


「そして犯行後、仮に午後七時一分二〇秒に、馬場を乗せた7号機のエレベーターが一階に到着し、馬場が中で殺されているところを、吉川が一階ホールで発見する。本郷を乗せた8号機のエレベーターは少し前に一階に着いて、本郷はビルの外を歩いている。三木塚は二十階で煙草を買って、十一階の席に戻って来たところだと思われます」

<犯行後>


そこまでの説明をすると、玄武は一同を見渡してから、ホワイトボードを裏返した。
玄武が、事前に書いておいた以下が現れた。


A.馬場雷太の自殺説
 十一階から一人で乗った馬場雷太が、
 エレベーターの中で何らかの方法で自殺をした。
【理由】吉川志季との別れ話、
 もしくは本郷研次郎に貸した三百万円を返してもらえない事を苦にしての自殺

B.本郷研次郎の犯行説
 十三階でエレベーターに乗った本郷研次郎が、一〇階から二階の間に、
 何らかの方法で止めておいて、馬場雷太の乗っているエレベーターを
 横に並べて停止させる。
 それから本郷研次郎は、エレベーターの天井から屋根に登り、
 隣のエレベーターへ乗り移って、中にいる馬場雷太を殺害し、
 再び元のエレベーターへ引き返して、先に一階に着いて帰宅する。
【動機】三百万円の借金

C.吉川志季の犯行説
 一階でエレベーターのドアが開くと、馬場雷太が一人で乗っていた。
 吉川志季は、袋の中に隠していた氷のつるぎを取り出して、胸をひと突きする。
 そして、氷の剣はエレベーターホールにある、灰皿の水の中に砕いて入れる。
【動機】別れてもらえない事による犯行

D.三木塚瑛太の犯行説
 三木塚が、馬場と十一階の通路ですれ違ったときに、
 「吉川志季」の話があるので、地下一階で待っていてほしいと地下へ呼び出す。
 三木塚は、自席に戻ってアリバイを作ってから、すぐに地下へ行って、
 そこにいる馬場の胸をひと突きし、凶器を隠し持ったまま、自席へ戻る。
 その後、殺された馬場を乗せたエレベーターは、一階へ上がる。
【動機】吉川志季への愛(自由にしてあげたい気持ち)
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