上 下
22 / 39
第四章 捜査・情報収集

第5話

しおりを挟む
安由雷は、もう一人、特別に話が聞きたいと、ある男を呼んでもらった。
その男は、尾藤淳であった。Tコンピュータ社の社員で、殺された馬場雷太の正面の席に座っていた。
尾藤は、今年入社したばかりの新人で、馬場から仕事の指導をしてもらっていた。
ニキビ顔で髪の毛は茶色く、片耳にピアスをしていて、サイドを刈り上げて前髪だけが長かった。洗ったままの自然な髪型で、見るからに現代っ子である。  

安由雷は、早速質問を開始した。
「あなたは、社員の本郷研次郎さんを知っていますか?」
「いいえ」と、尾藤は落ち着かない様子で、首を左右に振った。

「亡くなられた馬場さんが、誰かにお金を貸している事は聞いていましたか?」
「いいえ」  
尾藤は、自分の世界意外は全く興味がない感じの男であった。

「馬場さんは、どんな人でしたか?」  
尾藤は、少し考えていたが、
「これ、本当の事、言っていいんすか?外にはもれないすか」
「ええ、約束しますよ」と、安由雷は頷いた。
 
悠真は、歳が一番近かったが、自分とは世代が違う事を感じていた。
悠真は尾藤を見ていて、『今の若い者は』なんて言葉が、自分の口から飛び出してしましそうな気がした。

「そうっすねぇ。あの人、頭が堅いくせして、優柔不断で。よくおれが夜食の買い出しに行かされるんすけど……」

「はぁ、夜食の買い出しに」

「そんで、おれが買い出しに行っている途中に、あの人の気が変わると携帯に電話してきて、パンの変更や追加をしてくるんすよ」

「パンの変更……」

「そうっす。パンを買う前ならいいんすけど、買い終わって戻っている途中でも電話してくる時があって、そんときは無視してやるんすけど、ほんと面倒くさい人っすよ」
最近まで一緒に働いていた先輩を、あの人と言う尾藤を、安由雷には理解ができなかった。
そんな尾藤は、さっきから右足の貧乏ゆすりが止まらない様子で……。
腕時計を覗いたり、窓の外に視線を向けたりと、とにかく落ちつきのない男であった。

「あの日、午後六時過ぎに、馬場さんに電話が来ましたよね。覚えていますか?」
「ええ、六時四十五分頃だったすよ」

「何か話している事で、記憶に残っている事はないですか?」
「そうっすねぇ。何度も言ったんですけど、「七時か、判った」ってあの人が言ってたっすよ」

「その他には?」  
尾藤は、下を向いて頭を掻きながら考えているようだった。貧乏ゆすりは続いている。
「これも、前の刑事さんに言ったすけど、「奥さん……」とか」
「奥さん?」  
安由雷は、身を乗り出した。これは、資料には書かれていない。

「あっ、そうそう、……着いたとか、……奥さんが着いたのかとか、そんなこと言ってたっす」  
安由雷の頭に、閃光が走った。
「ありがとうございました」と、安由雷は、ゆっくりと立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

6人の容疑者

ぷりん
ミステリー
ある古本屋で、一冊の本が盗まれたという噂を耳にした大学生の楠木涼。 その本屋は普段から客が寄り付かずたまに客が来ても当たり前に何も買わずに帰っていくという。 本の値段も安く、盗む価値のないものばかりなはずなのに、何故盗まれたのか。 不思議に思った涼は、その本屋に行ってみようと思い、大学の帰り実際にその本屋に立ち寄ってみることにしたが・・・。 盗まれた一冊の本から始まるミステリーです。 良ければ読んでみてください。 長編になる予定です。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

朱糸

黒幕横丁
ミステリー
それは、幸福を騙った呪い(のろい)、そして、真を隠した呪い(まじない)。 Worstの探偵、弐沙(つぐさ)は依頼人から朱絆(しゅばん)神社で授与している朱糸守(しゅしまもり)についての調査を依頼される。 そのお守りは縁結びのお守りとして有名だが、お守りの中身を見たが最後呪い殺されるという噂があった。依頼人も不注意によりお守りの中身を覗いたことにより、依頼してから数日後、変死体となって発見される。 そんな変死体事件が複数発生していることを知った弐沙と弐沙に瓜二つに変装している怜(れい)は、そのお守りについて調査することになった。 これは、呪い(のろい)と呪い(まじない)の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

量子迷宮の探偵譚

葉羽
ミステリー
天才高校生の神藤葉羽は、ある日突然、量子力学によって生み出された並行世界の迷宮に閉じ込められてしまう。幼馴染の望月彩由美と共に、彼らは迷宮からの脱出を目指すが、そこには恐ろしい謎と危険が待ち受けていた。葉羽の推理力と彩由美の直感が試される中、二人の関係も徐々に変化していく。果たして彼らは迷宮を脱出し、現実世界に戻ることができるのか?そして、この迷宮の真の目的とは?

処理中です...