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第四章 捜査・情報収集
第5話
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安由雷は、もう一人、特別に話が聞きたいと、ある男を呼んでもらった。
その男は、尾藤淳であった。Tコンピュータ社の社員で、殺された馬場雷太の正面の席に座っていた。
尾藤は、今年入社したばかりの新人で、馬場から仕事の指導をしてもらっていた。
ニキビ顔で髪の毛は茶色く、片耳にピアスをしていて、サイドを刈り上げて前髪だけが長かった。洗ったままの自然な髪型で、見るからに現代っ子である。
安由雷は、早速質問を開始した。
「あなたは、社員の本郷研次郎さんを知っていますか?」
「いいえ」と、尾藤は落ち着かない様子で、首を左右に振った。
「亡くなられた馬場さんが、誰かにお金を貸している事は聞いていましたか?」
「いいえ」
尾藤は、自分の世界意外は全く興味がない感じの男であった。
「馬場さんは、どんな人でしたか?」
尾藤は、少し考えていたが、
「これ、本当の事、言っていいんすか?外にはもれないすか」
「ええ、約束しますよ」と、安由雷は頷いた。
悠真は、歳が一番近かったが、自分とは世代が違う事を感じていた。
悠真は尾藤を見ていて、『今の若い者は』なんて言葉が、自分の口から飛び出してしましそうな気がした。
「そうっすねぇ。あの人、頭が堅いくせして、優柔不断で。よくおれが夜食の買い出しに行かされるんすけど……」
「はぁ、夜食の買い出しに」
「そんで、おれが買い出しに行っている途中に、あの人の気が変わると携帯に電話してきて、パンの変更や追加をしてくるんすよ」
「パンの変更……」
「そうっす。パンを買う前ならいいんすけど、買い終わって戻っている途中でも電話してくる時があって、そんときは無視してやるんすけど、ほんと面倒くさい人っすよ」
最近まで一緒に働いていた先輩を、あの人と言う尾藤を、安由雷には理解ができなかった。
そんな尾藤は、さっきから右足の貧乏ゆすりが止まらない様子で……。
腕時計を覗いたり、窓の外に視線を向けたりと、とにかく落ちつきのない男であった。
「あの日、午後六時過ぎに、馬場さんに電話が来ましたよね。覚えていますか?」
「ええ、六時四十五分頃だったすよ」
「何か話している事で、記憶に残っている事はないですか?」
「そうっすねぇ。何度も言ったんですけど、「七時か、判った」ってあの人が言ってたっすよ」
「その他には?」
尾藤は、下を向いて頭を掻きながら考えているようだった。貧乏ゆすりは続いている。
「これも、前の刑事さんに言ったすけど、「奥さん……」とか」
「奥さん?」
安由雷は、身を乗り出した。これは、資料には書かれていない。
「あっ、そうそう、……着いたとか、……奥さんが着いたのかとか、そんなこと言ってたっす」
安由雷の頭に、閃光が走った。
「ありがとうございました」と、安由雷は、ゆっくりと立ち上がった。
その男は、尾藤淳であった。Tコンピュータ社の社員で、殺された馬場雷太の正面の席に座っていた。
尾藤は、今年入社したばかりの新人で、馬場から仕事の指導をしてもらっていた。
ニキビ顔で髪の毛は茶色く、片耳にピアスをしていて、サイドを刈り上げて前髪だけが長かった。洗ったままの自然な髪型で、見るからに現代っ子である。
安由雷は、早速質問を開始した。
「あなたは、社員の本郷研次郎さんを知っていますか?」
「いいえ」と、尾藤は落ち着かない様子で、首を左右に振った。
「亡くなられた馬場さんが、誰かにお金を貸している事は聞いていましたか?」
「いいえ」
尾藤は、自分の世界意外は全く興味がない感じの男であった。
「馬場さんは、どんな人でしたか?」
尾藤は、少し考えていたが、
「これ、本当の事、言っていいんすか?外にはもれないすか」
「ええ、約束しますよ」と、安由雷は頷いた。
悠真は、歳が一番近かったが、自分とは世代が違う事を感じていた。
悠真は尾藤を見ていて、『今の若い者は』なんて言葉が、自分の口から飛び出してしましそうな気がした。
「そうっすねぇ。あの人、頭が堅いくせして、優柔不断で。よくおれが夜食の買い出しに行かされるんすけど……」
「はぁ、夜食の買い出しに」
「そんで、おれが買い出しに行っている途中に、あの人の気が変わると携帯に電話してきて、パンの変更や追加をしてくるんすよ」
「パンの変更……」
「そうっす。パンを買う前ならいいんすけど、買い終わって戻っている途中でも電話してくる時があって、そんときは無視してやるんすけど、ほんと面倒くさい人っすよ」
最近まで一緒に働いていた先輩を、あの人と言う尾藤を、安由雷には理解ができなかった。
そんな尾藤は、さっきから右足の貧乏ゆすりが止まらない様子で……。
腕時計を覗いたり、窓の外に視線を向けたりと、とにかく落ちつきのない男であった。
「あの日、午後六時過ぎに、馬場さんに電話が来ましたよね。覚えていますか?」
「ええ、六時四十五分頃だったすよ」
「何か話している事で、記憶に残っている事はないですか?」
「そうっすねぇ。何度も言ったんですけど、「七時か、判った」ってあの人が言ってたっすよ」
「その他には?」
尾藤は、下を向いて頭を掻きながら考えているようだった。貧乏ゆすりは続いている。
「これも、前の刑事さんに言ったすけど、「奥さん……」とか」
「奥さん?」
安由雷は、身を乗り出した。これは、資料には書かれていない。
「あっ、そうそう、……着いたとか、……奥さんが着いたのかとか、そんなこと言ってたっす」
安由雷の頭に、閃光が走った。
「ありがとうございました」と、安由雷は、ゆっくりと立ち上がった。
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