上 下
21 / 39
第四章 捜査・情報収集

第4話

しおりを挟む
参考人として、最後に呼んだのは、その深海魚に好意を寄せている奇特な三木塚瑛太であった。
三木塚は、小柄で、頭部が薄くなりかけている髪の毛を、中心から左右に分けていた。相当、緊張をしている様子がうかがえる。

「では、あなたが十五階から下りて来て、十一階に着いた時間を教えてください」
「大体、午後の……七時頃だと思います」  
と、三木塚は気の弱そうな小さな声で言った。語尾が上がる独特な訛を持っている。

「そのとき、亡くなられた馬場雷太さんと、ホールですれ違いましたよね」
「ええ、席が同じ、十一階の東館フロアですから」

「馬場さんは、そのとき一人でしたか?」
「ええ、私たちが降りてきたエレベーターに、急いで乗って行きました。他に人はいませんでした」

「いま、私たちと?」
「ええ、エレベーターに三人で乗って下りてきました。でも他の二人も、各階止まりの低層階用エレベーターに乗り換えるために、十一階で降りました」

「その内の一人が、もう一度戻って、馬場さんの乗っているエレベーターに乗り込んだとかは」
「それは無いです。降りた二人もエレベーターの前で立っていましたし」

「反対の西館フロアから、誰かが走り込んで来たとかは?」
「そんな気配は全然なかったとです」

「それから、あなたはどうしました?」
「えーと、また二十階に行きました」
と、三木塚の言葉に、安由雷が首を傾げた。

「二十階へ?……少し詳しく聞かせてください」
「あっ、すいません」
三木塚が、頭をちょこんと下げた。安由雷が黙って頷く。

「えーと、席に戻って、十五階から回収したリストを机の上に置いて、デバッグリストのチェック前に、喫煙所へ一服しに行こうと思ったんですけど、タバコが切れてまして……」

「それで」
「それで、小銭をもって、すぐにエレベーターで二十階にある自動販売機に向かいました。タバコを買って戻ってくると、正面に座っている坂田君が、何か下で事故があったらしいと言っとりました」
と、三木塚はハンカチで、しきりに鼻の頭の汗を拭いている。


「あなたは十五階から戻ってくると、またすぐに二十階に行った訳ですね。その時、エレベーターには誰か乗っていましたか」と、また突然、悠真の質問であった。

「いいえ、私一人でした」
三木塚は横を見たが、悠真と目が合うと、すぐに視線を逸らして、
「あの、最近は六時を過ぎると残業をしている人は少なくて、あの時、十一階で四人が集まるなんてことは珍しくて、……大体六時以降のエレベーターは空いとります」と、付け足した。
三木塚は、とても臆病な感じがした。これでは、馬場と女を賭けた命がけの一騎打ちなどは、到底できまいと安由雷は思った。  

『携帯に愛欲写真を大切に持っている、女々しい殺された男』
『三百万円の借金をかかえた、眼鏡のギョロ目既婚男』
『空に向かって、デカイ鼻の穴から煙を吐く深海魚女』
『鼻の頭に汗をかき、いつも何かにおびえている小心者男』    
―――安由雷は、楽しみにしていた事も空振りして、なぜか無性に悲しい気持ちになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

没落貴族イーサン・グランチェスターの冒険

水十草
ミステリー
【第7回ホラー・ミステリー小説大賞奨励賞 受賞作】 大学で助手をしていたテオ・ウィルソンは、美貌の侯爵令息イーサン・グランチェスターの家庭教師として雇われることになった。多額の年俸と優雅な生活を期待していたテオだが、グランチェスター家の内情は火の車らしい。それでもテオには、イーサンの家庭教師をする理由があって…。本格英国ミステリー、ここに開幕!

白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます 女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。 小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

Confesess(自白屋娘)6 狙われたConfesess 決死の脱出劇 下巻

蓮時
ミステリー
米国大使館に捕まったConfesess。米空軍基地、そしてCIAの工作員拠点からの脱出なるか

処理中です...