上 下
10 / 39
第一章 刑事バディ登場

第4話

しおりを挟む
「それで、お前の推理では本郷研次郎が犯人なんだな」  
と、安由雷が顔を向けると、悠真は前を見たままで大きく首を振った。

「そう思うでしょ。ところが本郷じゃないんですよ、犯人は」
「なんで?」

「本郷は、十三階からエレベーターに乗って、少し後に十一階から乗った馬場よりも、一足先に別のエレベーターで一階に着いて、家に帰っているんですよ。本当に一足違いですけどね。ですから本郷が馬場を殺すには、お互いに乗っているエレベーターが下に向かって動いている十階から二階の間で、乗り移る事が出来ない限り、犯行は不可能なんです」

「……んで」

「んで、……ですけど。さっき、あと二人容疑者がいると言いましたよね。その内の一人は殺された馬場と同じ会社からの出向できていて、馬場の隣に座っている吉川志季よしかわしき、二十五歳。吉川は、馬場と付き合っていたんですけど、最近は別会社から出向している三木塚瑛太みきづかえいたに好意を寄せていて、馬場に何度も別れ話をしているんですが、なかなか承知をしてもらえないので困っていたとの事です。三人目の容疑者は、勿論この三角関係の三木塚瑛太、二十七歳なんですけどね」

「愛は消えたというのに、……女々しいやつだな」
「でも、吉川という女性も髪が長く、目の間は少し広いんですけど、愛嬌のある可愛い子でしたよ。馬場も彼女を失いたくはなかったんじゃないですかね」

「何でお前、顔まで知ってんだよ!?」  

安由雷が少しムキになって言った。悠真は、逆に驚いた顔で、
「先輩、封筒に資料と一緒に入っていた、写真も見てないんですか」  
安由雷は、頭を掻きながら、車窓の外へと視線を移した。

「で、お前の推理だと、犯人は?」
「犯人は、ですね」  

悠真は、少しじらすと、
「……吉川志季と、三木塚瑛太なんですよ」
と、自信ありげに言った。

「共犯?」
「そうです。実際に一階のエレベータホールで馬場を殺したのは吉川なんですが、使用した凶器を隠したのは、三木塚なんです。先輩は何処に凶器を隠せば、絶対に見つからないと思いますか?」  

悠真の問いに、わずかに長いまつ毛を伏せると、
「絶対に見つからない為には、……最初から隠さなければいいんじゃないか」と、安由雷が返した所で、車の中が急に暗くなった。

「先輩、ここです。松芝総研は」  
二人を乗せた車は、松芝総研株式会社の地下駐車場へ降りていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

没落貴族イーサン・グランチェスターの冒険

水十草
ミステリー
【第7回ホラー・ミステリー小説大賞奨励賞 受賞作】 大学で助手をしていたテオ・ウィルソンは、美貌の侯爵令息イーサン・グランチェスターの家庭教師として雇われることになった。多額の年俸と優雅な生活を期待していたテオだが、グランチェスター家の内情は火の車らしい。それでもテオには、イーサンの家庭教師をする理由があって…。本格英国ミステリー、ここに開幕!

白い男1人、人間4人、ギタリスト5人

正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます 女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。 小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

Confesess(自白屋娘)6 狙われたConfesess 決死の脱出劇 下巻

蓮時
ミステリー
米国大使館に捕まったConfesess。米空軍基地、そしてCIAの工作員拠点からの脱出なるか

処理中です...