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第16話 信玄の石棺だったのか!?
16ー④
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時貞が入院した二日後に、ある出来事があった。
ドクター時代に考古学を多少学んだ水篠物産の岩城部長が、自らも、その辺の調査をやらしてほしいと云って来た。
水篠会長も、断る理由が無いので許可をした。が、時貞の気持ちを考えて、一応は本人に確認するようにと指示を出した。
時貞は、その話を訊くと快く承諾した。そして、自分が纏めた調査資料などを、全てプリンターに出力すると、水篠物産の代理人に手渡した。
当日、水篠物産本社の最上階の会議室に、碧以外の全員が顔を揃えた。
出席者の簡単な紹介が済んで、水篠会長の挨拶が始まる頃に、スタッフに案内された碧が、遅れて会議室に入って来た。
顔を向けた全員へ軽い会釈をして、龍信の隣に座ると、 時貞の異変に気が付いた。
「あれ、教授、髪の毛、切ったんだ」と、碧が小さな声で云った。
時貞は、無言で頷くと、微笑んで返した。
時貞は、一織から、少しは身だしなみにも気を遣うようにと云われて、昨日、一織専属の、有名なヘアスタイリストを病室に呼んで、散髪をしてもらっていた。
しかし、服装は相変わらずで、いま皇居の周りをジョギングして来ましたと云うような、ラフな格好であった。
<当日の時貞>
水篠会長の短い挨拶が終わると、いよいよ調査の報告となった。
部屋の隅では、チャンネル9のテレビカメラが回っていた。
「では、最初に岩城部長の説明から訊きたいと思いますが、神童教授、宜しいでしょうか」と、今回の進行役の、水篠物産の杉山和宏課長が、前に立って云った。
杉山課長が、時貞に顔を向けた。
時貞は、微笑むと頷いた。先攻を要望したのは、岩城部長であった。
岩城部長は立ち上がると、一段高くなった壇上に用意されているホワイトボードの前まで歩いて来た。
会議室のテーブルの周りに、U字型に椅子が並べられており、その底辺に水篠会長とチャンネル9の一条常務が並んで座っている。
正面には、ホワイトボードとスライド映写機があり、その後ろに、旧家の土蔵より出土した、胸の高さほどの古びた石箱が置いてあった。
「では、最初に、わたしの考えた調査報告を説明させて頂きます。主題としては、大きく分けて二つあります。ひとつは、あの石箱が何で、何故に諏訪湖に沈める必要があったのか。そして、もう一つは、何故、その箱の中に武田信玄の首を飲み込んだ怪物が入っていたのか。です」と、壇上から、岩城部長が会場を見渡した。
左側に座っている神童教授が目に入った。目があって、時貞は微笑んだ。岩城部長は、眉を顰めると、目を逸らした。
プライドの高い岩城部長に取って、前回の敗北は一生忘れられない恨みに変わっていた。今回が時貞に対する唯一の、汚名返上のチャンスであった。
神童教授が考えている事を、教授よりも早く報告してしまえば、自分の勝利である。後で発表する神童教授が、自分の考えに賛同すればそれで良い。しかし、先に神童教授に発表されては、後から自分も、愚かな同じ役回りを演じなくてはならなくなる。―――それは自分のプライドが許さなかった。
「では、まずあの石箱が何で、何故に沈められたのかと云う事から説明をします。先に結論から云いますと、諏訪湖に沈めたのは、信玄の遺言であり、……あれは間違い無く、武田信玄の石棺です」
と、岩城部長が云い切った。席上からは、『やっぱり』などの声が漏れた。
ドクター時代に考古学を多少学んだ水篠物産の岩城部長が、自らも、その辺の調査をやらしてほしいと云って来た。
水篠会長も、断る理由が無いので許可をした。が、時貞の気持ちを考えて、一応は本人に確認するようにと指示を出した。
時貞は、その話を訊くと快く承諾した。そして、自分が纏めた調査資料などを、全てプリンターに出力すると、水篠物産の代理人に手渡した。
当日、水篠物産本社の最上階の会議室に、碧以外の全員が顔を揃えた。
出席者の簡単な紹介が済んで、水篠会長の挨拶が始まる頃に、スタッフに案内された碧が、遅れて会議室に入って来た。
顔を向けた全員へ軽い会釈をして、龍信の隣に座ると、 時貞の異変に気が付いた。
「あれ、教授、髪の毛、切ったんだ」と、碧が小さな声で云った。
時貞は、無言で頷くと、微笑んで返した。
時貞は、一織から、少しは身だしなみにも気を遣うようにと云われて、昨日、一織専属の、有名なヘアスタイリストを病室に呼んで、散髪をしてもらっていた。
しかし、服装は相変わらずで、いま皇居の周りをジョギングして来ましたと云うような、ラフな格好であった。
<当日の時貞>
水篠会長の短い挨拶が終わると、いよいよ調査の報告となった。
部屋の隅では、チャンネル9のテレビカメラが回っていた。
「では、最初に岩城部長の説明から訊きたいと思いますが、神童教授、宜しいでしょうか」と、今回の進行役の、水篠物産の杉山和宏課長が、前に立って云った。
杉山課長が、時貞に顔を向けた。
時貞は、微笑むと頷いた。先攻を要望したのは、岩城部長であった。
岩城部長は立ち上がると、一段高くなった壇上に用意されているホワイトボードの前まで歩いて来た。
会議室のテーブルの周りに、U字型に椅子が並べられており、その底辺に水篠会長とチャンネル9の一条常務が並んで座っている。
正面には、ホワイトボードとスライド映写機があり、その後ろに、旧家の土蔵より出土した、胸の高さほどの古びた石箱が置いてあった。
「では、最初に、わたしの考えた調査報告を説明させて頂きます。主題としては、大きく分けて二つあります。ひとつは、あの石箱が何で、何故に諏訪湖に沈める必要があったのか。そして、もう一つは、何故、その箱の中に武田信玄の首を飲み込んだ怪物が入っていたのか。です」と、壇上から、岩城部長が会場を見渡した。
左側に座っている神童教授が目に入った。目があって、時貞は微笑んだ。岩城部長は、眉を顰めると、目を逸らした。
プライドの高い岩城部長に取って、前回の敗北は一生忘れられない恨みに変わっていた。今回が時貞に対する唯一の、汚名返上のチャンスであった。
神童教授が考えている事を、教授よりも早く報告してしまえば、自分の勝利である。後で発表する神童教授が、自分の考えに賛同すればそれで良い。しかし、先に神童教授に発表されては、後から自分も、愚かな同じ役回りを演じなくてはならなくなる。―――それは自分のプライドが許さなかった。
「では、まずあの石箱が何で、何故に沈められたのかと云う事から説明をします。先に結論から云いますと、諏訪湖に沈めたのは、信玄の遺言であり、……あれは間違い無く、武田信玄の石棺です」
と、岩城部長が云い切った。席上からは、『やっぱり』などの声が漏れた。
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