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第9話 貴公子の初陣
9-③
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怪物は、そんな会話はお構い無しに、時貞へ向かって歩いてくる。
源次は、木製の長いテーブルを持ち上げると、力任せに怪物に投げつけた。
しかし、怪物は少しバランスを崩しただけで、益々怒りを露わにした。
「怒らさないでよ。顔が怖いんだから」
と、時貞は、室内を見渡した。部屋の広さは、二〇帖程はあった。
右奥の手術台のような金属製のテーブルの上に、もう一体の怪物が仰向けで、両腕は切断されて、腹が切り開かれていた。
そのテーブルの後ろに隠れるようにして、さっき声をあげた男がビデオカメラを回している。その後ろの壁には、配電盤が埋め込んである。この部屋はレーザーなどを使うので、電圧を増幅していた。
部屋の左奥には、女が一人倒れている。そのすぐ脇は血の海で、両腕と首の無い胴体が、自分の頭を腹の下で抱えるようにして突っ伏していた。
部屋の中程には天井に固定されたウインチがあり、重いものを持ち上げるための頑丈な金属製の輪が連なった鎖が、幾重にも垂れ下がっていた。
天井のウインチが取り付けてある天板は、鉄材で強化されており、それが壁の強化された鉄の柱へと繋がっていた。
「博士、あれは」と、左手の壁際に田辺博士を見つけると、時貞が鎖を指差した。
「ああ、それは、フグの解体の様に、吊るして立たせた状態で解体するものが出て来たときのためじゃ」と、田辺博士が応えた。
「博士、それは?」と、時貞が、田辺博士の手にあるものに気が付いて訊いた。
田辺博士は、大きな爪のようなものを、巨大なペンチで掴み上げていた。
「ああ、これは、そいつの右腕に付いている切断器具と同じもので、石箱から出てきたあれから取ったものだ」と、右奥の仰向けの怪物を目顔で合図した。
「二体、入っていたんですか」
と、時貞が、ゆっくりと自分へ向かってくる怪物を気にしながら云った。
「いいや、入っていたのは、あの死んでいる一体だけで、そいつがどこから来たのか、あと何体いるのかも判らない」と、田辺博士は、怪物の背後に近寄っていった。
鍛冶屋が焼けた刀を挟んでつかむような大きな器具で、剥がした怪物の爪を掴んでいる。
怪物は、どうやら一番大きな源次に狙いを絞ったようであった。
源次の後ろにいる時貞も含めて、他の者は大した戦力では無いと思った。
「博士、それで何を?」
と、テーブルの上についていた金属性の平板を、軽々と振り回している源次の後ろに隠れながら、時貞が声をかけた。怪物が間近まで迫っていた。
田辺博士は顔を向けると、
「こいつらの皮膚は異常なほど硬く、どんなものも歯が立たない。しかし、この爪もそれに劣らないくらいに、鋭利で鋭く、どんなものでも切断できる」
「それで、どっちが強いか試すわけですね。強固な外皮か、鋭利な平爪か」と、時貞は頷いた。
「ほれっ、ほれ」
と、時貞はかけ声を入れながら、源次の後ろで鉄筋を槍のように突き出している。
「ほれっ、ほれ」
「…教授」
「ほれっ、ほれ」
「……教授っ!」
「えっ?」と、源次の声に、時貞が顔を上げた。
「届いてませんよ」
「んっ?」
「棒が全然、届いてませんよ!」と、源次が背中を向けたままで云った。
「ありゃ~、こりゃ、すまん、すまん」と、時貞が頭を掻いた。
さっきから、時貞は鉄筋を使って、源次の後ろで槍のように突いてはいるのだが、掛け声だけで、一度も怪物の体に届いてはいなかった。源次に取っては、邪魔でしかなかった。怪物が思っているように、まったく戦力にはなっていなかった。
源次は、木製の長いテーブルを持ち上げると、力任せに怪物に投げつけた。
しかし、怪物は少しバランスを崩しただけで、益々怒りを露わにした。
「怒らさないでよ。顔が怖いんだから」
と、時貞は、室内を見渡した。部屋の広さは、二〇帖程はあった。
右奥の手術台のような金属製のテーブルの上に、もう一体の怪物が仰向けで、両腕は切断されて、腹が切り開かれていた。
そのテーブルの後ろに隠れるようにして、さっき声をあげた男がビデオカメラを回している。その後ろの壁には、配電盤が埋め込んである。この部屋はレーザーなどを使うので、電圧を増幅していた。
部屋の左奥には、女が一人倒れている。そのすぐ脇は血の海で、両腕と首の無い胴体が、自分の頭を腹の下で抱えるようにして突っ伏していた。
部屋の中程には天井に固定されたウインチがあり、重いものを持ち上げるための頑丈な金属製の輪が連なった鎖が、幾重にも垂れ下がっていた。
天井のウインチが取り付けてある天板は、鉄材で強化されており、それが壁の強化された鉄の柱へと繋がっていた。
「博士、あれは」と、左手の壁際に田辺博士を見つけると、時貞が鎖を指差した。
「ああ、それは、フグの解体の様に、吊るして立たせた状態で解体するものが出て来たときのためじゃ」と、田辺博士が応えた。
「博士、それは?」と、時貞が、田辺博士の手にあるものに気が付いて訊いた。
田辺博士は、大きな爪のようなものを、巨大なペンチで掴み上げていた。
「ああ、これは、そいつの右腕に付いている切断器具と同じもので、石箱から出てきたあれから取ったものだ」と、右奥の仰向けの怪物を目顔で合図した。
「二体、入っていたんですか」
と、時貞が、ゆっくりと自分へ向かってくる怪物を気にしながら云った。
「いいや、入っていたのは、あの死んでいる一体だけで、そいつがどこから来たのか、あと何体いるのかも判らない」と、田辺博士は、怪物の背後に近寄っていった。
鍛冶屋が焼けた刀を挟んでつかむような大きな器具で、剥がした怪物の爪を掴んでいる。
怪物は、どうやら一番大きな源次に狙いを絞ったようであった。
源次の後ろにいる時貞も含めて、他の者は大した戦力では無いと思った。
「博士、それで何を?」
と、テーブルの上についていた金属性の平板を、軽々と振り回している源次の後ろに隠れながら、時貞が声をかけた。怪物が間近まで迫っていた。
田辺博士は顔を向けると、
「こいつらの皮膚は異常なほど硬く、どんなものも歯が立たない。しかし、この爪もそれに劣らないくらいに、鋭利で鋭く、どんなものでも切断できる」
「それで、どっちが強いか試すわけですね。強固な外皮か、鋭利な平爪か」と、時貞は頷いた。
「ほれっ、ほれ」
と、時貞はかけ声を入れながら、源次の後ろで鉄筋を槍のように突き出している。
「ほれっ、ほれ」
「…教授」
「ほれっ、ほれ」
「……教授っ!」
「えっ?」と、源次の声に、時貞が顔を上げた。
「届いてませんよ」
「んっ?」
「棒が全然、届いてませんよ!」と、源次が背中を向けたままで云った。
「ありゃ~、こりゃ、すまん、すまん」と、時貞が頭を掻いた。
さっきから、時貞は鉄筋を使って、源次の後ろで槍のように突いてはいるのだが、掛け声だけで、一度も怪物の体に届いてはいなかった。源次に取っては、邪魔でしかなかった。怪物が思っているように、まったく戦力にはなっていなかった。
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