34 / 99
第7話 それが箱の泥の中から出土した
7-③
しおりを挟む
プレハブの一番奥の調査室で、一織は、先ほどの時貞の説明を訊きながら、いつしかテーブルに両肘をついて、ウトウトと寝てしまった。
時貞がそれに気づくと、一織が何か寝言を云っている。「……ぞい、ぞいぞい」
時貞は、そんな一織の寝顔を見ると、優しく微笑んで立ち上がった。
椅子の背もたれに掛けてある上着を取ると、そっと肩にかけてやった。
睡眠不足が続いていた一織は、よほど疲れているのか、死んだように熟睡している。大地震が起きても、頭の上にジャンボジェット機が落ちてきても、まったく起きそうになかった。
七冊の古文書の中に『第六天魔王・織田信長』と、背表紙に書いているものがあった。時貞は、武田信玄関係の調査を優先し、この古文書の解読は、外部業者に委託して行ってもらっていた。その結果が昨日届いた。
時貞は、その解読結果を見て愕然とした。正直な話し、とても信じられなかった。
そこに書かれていた内容は、明らかに他の古文書とは色合いが異なっていた。
時貞は、ノートパソコンの解読内容に目を通しながら、補足事項を打ち込んでいた。
______________________________________
元亀二年(1571年)、九月十二日。織田信長は比叡山延暦寺を焼き討ちした。
比叡山延暦寺は天台宗の総本山で、平安京の皇城の東にあり、構図は東塔、西塔、横川の三塔からなっていた。
延暦寺の僧侶は、僧侶とは名ばかりに、戒律を屁とも思わず、女を山中に引き込み、稚児の尻を愛で、般若湯に酔いしれて、山下(山の麓)に乱暴狼藉を働く、無頼集団であった。
信長は、この比叡山を攻め入った際に、地下にあった深い穴の中で、何かを見つけた。そして、その後に信長は、比叡山の僧俗男女三千人を皆殺しにした。そして、これを機に信長は、自らを『第六天魔王』と名乗り、次第に行動が残忍になっていった。
―――その二年後。
◆天正一年(1573年)
・四月十二日〈武田信玄が死亡する〉
・四月十五日〈諏訪湖に、大きな石箱を沈める〉
・八月十八日〈朝倉義景、山田荘賢松寺で自刀。義景、四十一歳であった〉
・八月二十七日〈浅井長政、久政、小谷城で自刀。長政、二十九歳であった〉
◆天正二年(1574年)、正月。
岐阜城で、信長が、義景、長政、久政の、三人の頭蓋骨の薄濃(ドクロを朱塗りし、金粉をかけたもの)を、参賀の人に披露し、酒を煽る……。
______________________________________
時貞は、他の資料で明らかになっている事柄を付け足した。
(いったい信長は、比叡山の穴の中でなにを見たんだ?)
時貞は、パソコンのキーを叩きながら、次第に憂鬱な顔になっていった。
時貞がそれに気づくと、一織が何か寝言を云っている。「……ぞい、ぞいぞい」
時貞は、そんな一織の寝顔を見ると、優しく微笑んで立ち上がった。
椅子の背もたれに掛けてある上着を取ると、そっと肩にかけてやった。
睡眠不足が続いていた一織は、よほど疲れているのか、死んだように熟睡している。大地震が起きても、頭の上にジャンボジェット機が落ちてきても、まったく起きそうになかった。
七冊の古文書の中に『第六天魔王・織田信長』と、背表紙に書いているものがあった。時貞は、武田信玄関係の調査を優先し、この古文書の解読は、外部業者に委託して行ってもらっていた。その結果が昨日届いた。
時貞は、その解読結果を見て愕然とした。正直な話し、とても信じられなかった。
そこに書かれていた内容は、明らかに他の古文書とは色合いが異なっていた。
時貞は、ノートパソコンの解読内容に目を通しながら、補足事項を打ち込んでいた。
______________________________________
元亀二年(1571年)、九月十二日。織田信長は比叡山延暦寺を焼き討ちした。
比叡山延暦寺は天台宗の総本山で、平安京の皇城の東にあり、構図は東塔、西塔、横川の三塔からなっていた。
延暦寺の僧侶は、僧侶とは名ばかりに、戒律を屁とも思わず、女を山中に引き込み、稚児の尻を愛で、般若湯に酔いしれて、山下(山の麓)に乱暴狼藉を働く、無頼集団であった。
信長は、この比叡山を攻め入った際に、地下にあった深い穴の中で、何かを見つけた。そして、その後に信長は、比叡山の僧俗男女三千人を皆殺しにした。そして、これを機に信長は、自らを『第六天魔王』と名乗り、次第に行動が残忍になっていった。
―――その二年後。
◆天正一年(1573年)
・四月十二日〈武田信玄が死亡する〉
・四月十五日〈諏訪湖に、大きな石箱を沈める〉
・八月十八日〈朝倉義景、山田荘賢松寺で自刀。義景、四十一歳であった〉
・八月二十七日〈浅井長政、久政、小谷城で自刀。長政、二十九歳であった〉
◆天正二年(1574年)、正月。
岐阜城で、信長が、義景、長政、久政の、三人の頭蓋骨の薄濃(ドクロを朱塗りし、金粉をかけたもの)を、参賀の人に披露し、酒を煽る……。
______________________________________
時貞は、他の資料で明らかになっている事柄を付け足した。
(いったい信長は、比叡山の穴の中でなにを見たんだ?)
時貞は、パソコンのキーを叩きながら、次第に憂鬱な顔になっていった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
大和型戦艦4番艦 帝国から棄てられた船~古(いにしえ)の愛へ~
花田 一劫
歴史・時代
東北大地震が発生した1週間後、小笠原清秀と言う青年と長岡与一郎と言う老人が道路巡回車で仕事のために東北自動車道を走っていた。
この1週間、長岡は震災による津波で行方不明となっている妻(玉)のことを捜していた。この日も疲労困憊の中、老人の身体に異変が生じてきた。徐々に動かなくなる神経機能の中で、老人はあることを思い出していた。
長岡が青年だった頃に出会った九鬼大佐と大和型戦艦4番艦桔梗丸のことを。
~1941年~大和型戦艦4番艦111号(仮称:紀伊)は呉海軍工廠のドックで船を組み立てている作業の途中に、軍本部より工事中止及び船の廃棄の命令がなされたが、青木、長瀬と言う青年将校と岩瀬少佐の働きにより、大和型戦艦4番艦は廃棄を免れ、戦艦ではなく輸送船として生まれる(竣工する)ことになった。
船の名前は桔梗丸(船頭の名前は九鬼大佐)と決まった。
輸送船でありながらその当時最新鋭の武器を持ち、癖があるが最高の技量を持った船員達が集まり桔梗丸は戦地を切り抜け輸送業務をこなしてきた。
その桔梗丸が修理のため横須賀軍港に入港し、その時、長岡与一郎と言う新人が桔梗丸の船員に入ったが、九鬼船頭は遠い遥か遠い昔に長岡に会ったような気がしてならなかった。もしかして前世で会ったのか…。
それから桔梗丸は、兄弟艦の武蔵、信濃、大和の哀しくも壮絶な最後を看取るようになってしまった。
~1945年8月~日本国の降伏後にも関わらずソビエト連邦が非道極まりなく、満洲、朝鮮、北海道へ攻め込んできた。桔梗丸は北海道へ向かい疎開船に乗っている民間人達を助けに行ったが、小笠原丸及び第二号新興丸は既にソ連の潜水艦の攻撃の餌食になり撃沈され、泰東丸も沈没しつつあった。桔梗丸はソ連の潜水艦2隻に対し最新鋭の怒りの主砲を発砲し、見事に撃沈した。
この行為が米国及びソ連国から(ソ連国は日本の民間船3隻を沈没させ民間人1.708名を殺戮した行為は棚に上げて)日本国が非難され国際問題となろうとしていた。桔梗丸は日本国から投降するように強硬な厳命があったが拒否した。しかし、桔梗丸は日本国には弓を引けず無抵抗のまま(一部、ソ連機への反撃あり)、日本国の戦闘機の爆撃を受け、最後は無念の自爆を遂げることになった。
桔梗丸の船員のうち、意識のないまま小島(宮城県江島)に一人生き残された長岡は、「何故、私一人だけが。」と思い悩み、残された理由について、探しの旅に出る。その理由は何なのか…。前世で何があったのか。与一郎と玉の古の愛の行方は…。
水性探偵とスワンプマン
四季の二乗
ミステリー
活火山により沈んだ町で、神様は揺蕩う。
伝統的な”図書館”で働く高校生、青木緑は湖の底に迷い込む。
其処はかつて栄えた街。しかし、唐突な災害とともに消えた街だった。
彼らの記録を残し、この街の人々を描き続けている神様に彼は出会う。
これは人々の人生と、役目を続ける神様の話。
そして人が人を救う話である。
沈んだ人々を。忘れられたその情景を、今でも一神は抱え続けるだろう。
神様は誰かの為に存在する。それは、もしかしたら君かもしれない。
そして、君を想う誰かは。
君の神様かもしれない。
偽典尼子軍記
卦位
歴史・時代
何故に滅んだ。また滅ぶのか。やるしかない、機会を与えられたのだから。
戦国時代、出雲の国を本拠に山陰山陽十一カ国のうち、八カ国の守護を兼任し、当時の中国地方随一の大大名となった尼子家。しかしその栄華は長続きせず尼子義久の代で毛利家に滅ぼされる。その義久に生まれ変わったある男の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる