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第7話 それが箱の泥の中から出土した

7-③

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プレハブの一番奥の調査室で、一織は、先ほどの時貞の説明を訊きながら、いつしかテーブルに両肘をついて、ウトウトと寝てしまった。
時貞がそれに気づくと、一織が何か寝言を云っている。「……ぞい、ぞいぞい」

時貞は、そんな一織の寝顔を見ると、優しく微笑んで立ち上がった。
椅子の背もたれに掛けてある上着を取ると、そっと肩にかけてやった。

睡眠不足が続いていた一織は、よほど疲れているのか、死んだように熟睡している。大地震が起きても、頭の上にジャンボジェット機が落ちてきても、まったく起きそうになかった。

七冊の古文書の中に『第六天魔王だいろくてんまおう・織田信長』と、背表紙に書いているものがあった。時貞は、武田信玄関係の調査を優先し、この古文書の解読は、外部業者に委託して行ってもらっていた。その結果が昨日届いた。
時貞は、その解読結果を見て愕然とした。正直な話し、とても信じられなかった。
そこに書かれていた内容は、明らかに他の古文書とは色合いが異なっていた。
時貞は、ノートパソコンの解読内容に目を通しながら、補足事項を打ち込んでいた。

______________________________________
元亀二年(1571年)、九月十二日。織田信長は比叡山延暦寺を焼き討ちした。
比叡山延暦寺は天台宗てんだいしゅうの総本山で、平安京の皇城こうじょうの東にあり、構図は東塔、西塔、横川の三塔からなっていた。
延暦寺の僧侶は、僧侶とは名ばかりに、戒律かいりつを屁とも思わず、女を山中に引き込み、稚児ちごの尻を愛で、般若湯はんにゃとうに酔いしれて、山下(山の麓)に乱暴狼藉らんぼうろうぜきを働く、無頼集団ぶらいしゅうだんであった。
信長は、この比叡山を攻め入った際に、地下にあった深い穴の中で、何かを見つけた。そして、その後に信長は、比叡山の僧俗そうぞく男女三千人を皆殺しにした。そして、これを機に信長は、自らを『第六天魔王』と名乗り、次第に行動が残忍になっていった。

―――その二年後。
◆天正一年(1573年)
 ・四月十二日〈武田信玄が死亡する〉
 ・四月十五日〈諏訪湖に、大きな石箱を沈める〉
 ・八月十八日〈朝倉義景、山田荘賢松寺で自刀。義景、四十一歳であった〉
 ・八月二十七日〈浅井長政、久政、小谷城で自刀。長政、二十九歳であった〉

◆天正二年(1574年)、正月。
 岐阜城で、信長が、義景、長政、久政の、三人の頭蓋骨の薄濃はくだみ(ドクロを朱塗りし、金粉をかけたもの)を、参賀の人に披露し、酒を煽る……。
______________________________________

時貞は、他の資料で明らかになっている事柄を付け足した。
(いったい信長は、
時貞は、パソコンのキーを叩きながら、次第に憂鬱な顔になっていった。
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