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第4話 箱の引き上げとやんちゃ姫

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湖上に小型のタグボートが二隻浮いていた。船上にある各六台、計十二台のエアポンプからは、空気が水中に送られている。
サルベージ船を使うには、運搬を含めて諏訪湖に浮かべるまでの費用が掛かり過ぎる為に諦めた。準備は、三か月前から始められていた。
工事を請け負ったのは、地元では大手の建設会社『賀寿蓮組がじゅれんぐみ』であった。

まず、湖底で作業ができる潜水夫を二十人雇った。湖底の作業と、地上の特設会場の建設工事が並行して行われた。
二十名の潜水夫は交替で潜って、湖底を掘った。ほとんど人力であった。

湖底の中は濁っていて、視界が効かない。ドロドロの土を掘っては湖上の船に引き上げた。そしてダンプカーでそれを近くの山に運ぶ。
何度となくその作業が繰り返された。掘っても掘っても周りの土砂が崩れて、なかなか石箱は姿を現さなかった。

一ヵ月が過ぎる頃、やっと上面の石蓋の大きさがあらわになった。その蓋の大きさは、縦二〇メートル、横十二.三六メートルの黄金比であった。

石蓋の上には、藻や苔や、貝殻等が付着していた。現れた石蓋の中央は、円形にくり貫かれており、それを囲むようにして、ひし形が四つ並んでいた。推定五百年前に沈んだ石蓋の、その四つのひし形は、紛れもなく武田家のシンボルであった。―――全てが、若き天才、神童時貞教授の考えていた通りだった。

潜水夫は、次に石箱の側面を掘って、水中ドリルで、箱に小さな穴を開けていく。水中ドリルの先からは、勢いよく気泡が浮き上がっていった。側面に二メートル間隔で穴を開けた。
石箱の厚さは三〇センチ近くある。開けた穴には、鉄の杭のような棒を入れた。鉄の杭の先には、傘の骨のようなものが付いていて、中に入れると、それが開いて二度と抜けなくなる仕組みであった。まるで、開いたイカリである。

その、規則正しく並んだ杭の先に、ワイヤーを通した。湖底の箱の石蓋の上に、円形の開いたパラシュートのようなシートを被せた。分厚いテントの材質に似ている。そこへワイヤーを取り付けて、石蓋の上に固定した。その気球は、箱よりも数倍は大きかった。
そして、円形のシートの内側の中央部分から、箱の四隅にワイヤーが張られた。空気を入れたときに、中央部分だけが膨らんで、萎んだパラシュートのようになるのを防ぐためであった。

今、その気球に地上から空気が注がれている。当初は、そこに空気よりも軽いメタンガスを入れる事なども検討されたが、費用と安全面から中止になった。
引き上げる際に、石箱が崩れる懸念があった。石は、水の中で五百年は経っていた。
しかし、石箱は一枚の岩盤をくり貫いて作ってあり、ドリルを入れて調べた所によれば、石の強度は今も健在であった。

気球で水面に浮き上がった箱の下にワイヤーを通して、地上に建てた四機のクレーンで、湖畔に一気に引き寄せる計画であった。
途中までは海中の気球の浮力で浮かせて移動し、岸に近づけてから、ゆっくりと湖上に持ち上げる予定である。そして、逆L字型に並んだ建物の中庭に当たる場所に降ろす計画であった。

箱の中には、七.五〇メートル四方のもうひとつの正方形の石箱がある事を、X線で確認していた。外側の上面の石蓋の、中央に開けられた直径二メートル程の円形の穴からは、内部にある正方形の石蓋が覗いていた。

箱は二重構造になっており、外側の直方体の箱の中に、少し小さな正方体の箱が、中央で動かないように固定されている。その正方体の箱の回りは、空洞になっていた。
まるで、外側の大きな箱は、中の箱を守る為だけの役目のようであった。
しかし、内箱を守るのであれば、外側の石蓋に開いた円形の丸い穴の説明が出来ない。―――時貞は頭の中で引っかかっていた。
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