死に急ぎ魔法使いと魔剣士の話

彼岸

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煩いと怪

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城へと戻り、宰相宮で報告を行う。


宰相は報告の結果に落胆するどころか予想はある程度ついていたらしく、さほど驚きの表情すら浮かべなかった。むしろかなり状況は良いとすら言う。
すぐに埋めることのできない溝を埋める機会を与えらえただけでもかなり大きく、これからは我ら地上の民の行い次第であると宰相は言っている。宰相のように国民に等しく優しくできる権力者がこれからも現れることを願うことしか今は出来ない。


その後、必要事項の打ち合わせを簡単に終えたのち蓮人はセペドと共に自室へと戻っていった。
宰相宮から自室へ戻る城の廊下は普段であればさほどかからない時間も、今日に限ってはとても長く感じた。
出来ることであれば、あと数時間くらいは着かなくてもよいと思うほどに現実を思い出させた。


自室への距離がこんなにも短く感じたのは初めてだ。
何度も、城の大きさに慣れず幾度となく迷子になったのは記憶に新しい。王族と、貴族、そしてそれに従属する者達が幾人も出入りする城は、たった少しの期間しか暮らしていない蓮人には到底把握は不可能。まして最低限の場所しか使わない蓮人に取っては末端の場所にはどんな人間が暮らしていて、どんな部屋が眠っているかなどわからぬものだ。自室や図書館など最低限の場所さえ覚えるのにも大変だったと言わざるを得ない広さ。けれど今はその距離ですらとても短い。後ろをつき従うように歩く男の目線が背中に突き刺さる。


あの誘拐事件のあとに部屋に一度は戻ってきてはいたのだが、バタバタと世話しなく頭からすっかり抜け落ちていた。本来誘拐される前に、自分は彼に身体を許してしまったのだ。それに悩み一人馬房で考えていた際の事件。答えなどまだ出ていない。


「・・・・・」


何となくゆっくりと歩くその足取りの重さを彼は気づいているのだろうか。
重苦しい空気がまとう。ああ、もうどうにでもなれと蓮人は既に諦めの境地であった。



「嫌なら殴ってでも逃げるんだな・・・」



「っ・・・・!!」



部屋に入るや否や、セペドは後ろ手に部屋の鍵をかけ、蓮人にそう言い放った。
その目は抑えの効かぬ獣のように、赤く光る。魔による影響が色濃く出ているのであろう。
蓮人はただ立ち尽くし、震え、迫りくる男のたくましい腕に捕らえられると呼吸もまともにできぬほど荒く激しい力でその口を塞がれた。


脚がおぼつかなくなり、膝が崩れ落ちても倒れることなどなく腰と顎を強く支えられたまま口づけは続く。
呼吸のできぬ苦しさに生理的な涙が溢れ落ち床で光が散った。抗うことなど考えられぬほどに目の前の男のたくましい肉体にどうしようもなく動くことが出来なかった。セペドは強く抱き寄せ耳や首筋に舌を這わせその熱い吐息が己の身体をさらに震え上がらせた。


「お前の馬鹿力から逃げることなど出来ないこと、知っているだろうに・・・」



「それは言い訳に過ぎないな・・・殺そうと思うくらいに動けばいいだけだ」



「それ、は・・・・!」


蓮人の能力を使えば、相手の生命力を全て奪い去ってしまうことも出来るのだ。つまり力など関係ない。触れることさえできれば殺すことなどいとも容易い。けれど出来ないからこそ煽っている。蓮人の性格を知っていて嫌な煽り方をするようになったものだ。不機嫌さを隠すこともしない表情で睨み上げた。
睨まれてもさらに興奮するだけでセペドは身体を這わせる動きをやめない。


「どうしたやらないのか?抵抗せねばお前が喰われるぞ?」


「性格が悪い・・・」

いつの間にか組み敷かれ己のものが握られている。自分の意志に反して尻尾を振るように喜ぶそいつが憎らしい。無理やり愛撫され身体の奥はその熱を喜び放つのをただ待っている。相手の高ぶりが己の奥を貫いて精を放っても一度で終わってくれるはずもなく。

視界が朦朧となり、汗と吐息、高い声だけが機械的に吐き出されていく。
太いそれに突かれるたびに抑えられない嬌声が理性を溶かしていく。
圧迫感に逃げることのできないその大きな衝動を己の爪でセペドの背中に突き立てた。それすら気付いていないようだ。己の股の間で動く男はただ動物のような目で、牙で、己を喰らうのみ。

汗ばんだ柔肉に歯を立て、跡を残される。すでに味わっていない場所を探す方が難しく、遠くなりかけた意識はその度に浮上させられ、気絶することすらできない。

「セペド・・・・・ぁっ!は、ぁあ・・・・!」

せめて気を失えば己は楽になるというのに、それすら許されぬ快楽の暴力。
粘り気のある音がどこから溢れ落ちる音ももう何度目なのか。声を上げて抗議したくも名を呼ぶだけで精いっぱいだ。ようやっともう、抜いてくれと言葉にすれば大きく引き抜きまた最奥へと叩き込まれ、目の奥で光が飛び散り腰が壊れてしまいそうだ。

次第に零れ落ちる激情の涙で喉も掠れ果て、水音と吐息のみになっていた。


腹の奥に幾度目かの熱い欲を叩きつけられ、震える身体は胸を突き出すように反った。



己の体力の限界をとうに超え、酸素が欠乏し、意識が落ちる間も肉体を貪るその姿に勘弁してくれと蓮人は思ったのだった。


セペドは、意識を失った腕の中の男を愛おしそうに撫で上げた。
汗ばんだ白い肌。酷使されほのかに赤く彩る花弁。呼吸がか細く今にも砂の隙間に落ちて行ってしまいそうな。
幾度となく命のやり取りが行われる身体。短期間で死にかけ寿命を延ばした身体は少しずつ疲労がたまっていた。例え何事も無ければ長期間生きることも出来るようになったとて器の魂が急激に増えたり減ったりすれば悲鳴を上げるのは当然である。内側の臓器すら痛めつけ、こいつはケロリとしている。されど、ずっと傍で見ていれば自ずと気づく。本人すら無自覚であろうとも白い肌は青ざめ目の周りには陰りが落ちた。

言ってもどうせ分からぬならば強制的な休息を取らせるしかない。
言葉巧みに誘導することが得意ではない自分が取れる手段は限られている。
彼が出来ぬと知っている状況まで追い込み、そしてその身体を再び暴いた。

最低であると思われてもよい。やっていることは蛮族のそいつらと変わりないことも承知の上だった。
だが、今は確かな休息を。そうセペドは彼の者の髪を優しく撫でながら願った。




湿り気のある空気と気だるさを起こしかけた蓮人は己が再び、男に身体を暴かれたことを思い出し一度眉間にしわを寄せながら瞼の裏を見た。
裸の男が二人抱き合い寝ている様は、侍女が万が一入ってきたとしても言い逃れのできない状況。
すぐに衣服を着て起き上がろうにも、のしかかり眠る男の肉体は大きく容易に抜け出せない。
そうして身じろぎをしているうちに、その赤い瞳がこちらを映し、冷やりとした。力を入れ床から飛び出そうにも遅く、両の手を押さえつけられまた男の欲望が叩き込まれた。

何度もその形を覚え込ませるように解された肉筒は、咥えられぬほどに太いものさえ簡単に飲み込んでしまう。打ち付けられる楔は硬く熱く、この長時間の荒波にはきっとどんな女も一瞬で落ちるであろう。
絶え絶えの呼吸、喘ぎ、ざわざわと背筋を駆け上がる快感。
蓮人はもう精魂尽き果てており、いい加減にしろと叫んだ。

「頼むからもう・・・許してくれ・・・」


「駄目だ。今のお前は、ただ俺の下で喘いでいればいい」


「わかった。わかったからせめてゆっくり・・・」


「俺にはお前説き伏せる話術は無い。憎むなら憎め。」


「・・・・・はぁ、お前のことが時々よく分からない」


貪るほどに己を抱きつぶしているくせに、なぜそんなに切ない表情で乞うてくるのか。蓮人には理解しがたかった。
無理やり手に入れたいのならば気持ちなど捨ててしまえ。強引ではあるが、己の気持ちも気遣う素振りが中途半端すぎて、嫌いにもなれず流されていく。
時々目の前の男が何を考え自分を見つめているのか頭の中を全て暴いてしまいたい時がある。
だが、きっとこの男の頭の中を覗いても己では理解できない何かがきっと確かに存在するとも本能で感じ取った。人間は分かり合えるが、同じ存在ではないから。

男の熱が再び動き出すと、吐息が漏れ、見下ろす赤い瞳を見上げた。



それから数日経ち、幾度となく地下に住む人々に会いに蓮人は訪れ、城の人間と繋ごうと努力をした。だが、ガイルの決意はそう簡単に崩れることもなく、徒労に終わることが常であった。
蓮人とセペドは地下の住人と同じ体質を持つ現在唯一の地上の人間だったこともあり、地下の人間も自分たちがいればそう強く出てこない。時にはココナッツを差し入れてみたり、生きた豚や家畜を渡し繋ぎとした。そんなある日のことであった。常ならば、茶会のあとは簡単な世間話をして帰る流れだったのだが、蓮人がそろそろ帰るかと腰を上げたときのことだ。ガイルがふっと思い出したかのように口を開いた。


「なぁ、蓮人。折り入ってお前に頼みたいことがあるのだがよいだろうか。」



「頼み事とは?」



「国の管轄する森の一つに薬草が多く生える場所があっただろう。その中の一つを分けてはくれないか。」



話を聞けば、ペルメル王国が重要指定しているとある森に生える貴重な薬草が欲しいらしい。薬草によっては毒薬を生成できてしまうのできちんと明確な種類を確認すれば睡眠薬を作りたいのだという。通常出回っている薬では長命の彼らにはあまり効果が無いようで困っているのだそうだ。



「一族の中にはやはり長すぎる時の流れに疲れ果ててしまう者も出てくるのだ。そういう者は悪夢にうなされる。眠れぬ日々というものは、体力があるものだとしても堪えるものよ」


「そうですか、ならば宰相に聞いて入手できるか確認して次回お伝えしますね」



ペルメル王国が砂漠化していった際にたくさん失われた森林草花。それでも生き残った原生林及び現在絶滅危惧される貴重な薬草がある森は国が厳重に管理し、せめてそこは砂漠化させてなるものかと守り続けてきた場所も数か所ではあるが、存在は知っていた。それに不眠というものは辛いものだ。
蓮人が日本で働いていた時のことだ。残業や日々の疲労で帰宅して早々にベッドに倒れ込むも疲れすぎていて逆に眠れない時も多々あった。薬に頼り目を瞑り続けて気づけば視界の端が明るくなっていく。そして新たな一日が始まってしまう絶望は身体をより重くさせた。体力をつけようと滋養のある物を食べても、体を鍛えても肉体には限界がある。せめて休息の時間くらいは現実を忘れたいと何度願ったことか。その気持ちとは違えども、彼らの無窮の時の中の眠れない日々がどれだけ長くて辛いかと想像すれば解決してあげたいと素直に思う。
そんな素直な反応にガイルは口に思わず手をやり笑いをこらえながら漏れ出る低い声を出すものだから蓮人は首を傾げた。


「蓮人よ。やはりお前は素直すぎる。交渉には向かん男よ。宰相くらいのしたたかさをもう少し学んだ方がいいぞ」



「薬草を餌に貴方達に譲歩しろと?確かに出来たかもしれませんね。でもこれを天秤にかけるほど貴方達の土台は低くはないはずだ」



「・・・・・」



一般人でさえ手の届かない貴重な薬草、大枚をはたいたって入手できる量は多くない。
交渉ごとに使うには十分な材料ではあるが、蓮人はこれを行わなかった。彼らの道程を知っていれば、そんなものに交渉を使うなど馬鹿らしくなってしまう。そう思ったのだがガイルは予想とは違ったようだ。蓮人の答えに目を数回瞬かせた後、ふっと読めない笑顔を向けたのだ。


「・・・ならば良い知らせを待っている」



「では、本日はこれで」


深々と礼をして立ち去る足取りはいつもより軽かった。
地下の町を出、ナキの背に乗る間も後ろに控えるセペドの表情は暗く仏頂面であった。どうにも最初の出会いが悪かったせいか、セペドのガイルに対する評価はあまりよくないようだ。俺がガイルに会いに行く日は特段不満げな表情を隠そうともしない。ガイルはセペドのそんな表情もなんとも思わずあっけらかんと口の端に笑みを浮かべて出迎えすらする余裕さだ。それがまたセペドを煽っていることも承知である。大きなため息を一つ、空を見上げた。青く吸い込まれそうな、何にも遮られず視界に広がるどこまでも飛んでいきたくなるそんな空は蓮人は好きであった。背中をセペドに預け空を見つめたまま蓮人は呟いた。



「いいかげん、仏頂面やめたらどうだ?」



「・・・・・」



「今回は何が不満だ?」



「お前は、そのままでいい」



「は?はぁ・・・そんなことかよ」


思わずこめかみを抑えて呆れた。つまり、ガイルに宰相の爪の垢を煎じて飲めとか、交渉ごとにお前は向かないなどと笑われたことが不満だったようだ。まるで幼子のそれだ。こやつはいつ頃からこんなに態度が丸くなったのか。最初の厳格とした騎士の雰囲気はどこへ行った。否、もともときっと内なる心は変わりないのであろう。顔に出なかったから他人に気付かれなかっただけで、思ったよりもこの男の心内は騒がしかったのだ。蓮人は呻いた。
太陽が痛いほど眩しい。


数日後、蓮人とセペドは国の重要指定である森に入ることと植物の採取を行うことの許可を得た。
その森は太古より存在し、蓮人が作り出す森より木々は太くより鬱蒼としていた。立ち入りは余程のことが無い限り許しが出ず、荒くれ者達による不法侵入で、絶滅を危惧される薬草を根こそぎ奪われないように魔法で厳重に守っているのだ。
入ることが許されたのは、蓮人とセペド、そしてガイルである。
ガイルは遥か昔、遊牧民として暮らしていたため食べられる植物など草花の知識も豊富であり、それ故に自分自身で選び取り採取したいという希望がある。その知識は城の植物学者より遥かに凌ぐ。

だが、外部の人間を一人だけ侵入させることは出来ないため、監視の意味で城の者である蓮人と腕の立つセペドがいる。


森は随分と植物が伸び、場所によっては草の背丈は胸より上だ。それをかき分けて進むのは骨が折れた。自分が作り出した森であれば歩きやすいように風魔法や、炎の魔法で整備することも可能だ。だが、それもこの場所では行えない。この森には数歩進むごとに学者が泣いて喜ぶほどに貴重な草花が群生する場所。採取も慎重に行わなければならない。


「それにしても保護された森と言えど、動物がいてもおかしくないのに驚くほど静かだ・・・」


「・・・確かにな。魔法で保護されて侵入できないのは人間及び凶暴な魔物だけであって無害な鳥や動物は問題なく入れるはずだが・・・・」



森と言えば小鳥の鳴き声、草食の小動物が走り去る音などが聴こえるものだが驚くほどに静寂。
まるで近づくことさえ恐れてしまうほどに音が無い。



「不気味だな・・・」


ガイルが森の奥を見つめ目を細めた。だがその目に恐れはない。
三人はさっさと目的の薬草を探すべく森の奥へと歩を進めた。途中には小さな泉があり、澄んでいてキラキラと太陽の光を跳ね返す水面の美しさは息をのむ。小指ほどの魚が数匹だけ確認できたので、生き物が全くいないわけではなさそうだ。


「美しい森なのに、妙に張り詰めた・・・胸騒ぎは何なのだろうか・・・」


「蓮人よ。怖気づいたか?この張り詰めた空気はな、隠しもせぬ怪がいる証拠よ。」


え・・・と蓮人はガイルの方を向いた。
セペドはそのガイルの発言に驚きもしない。どうやらセペドもいつからか気づいていたようだ。誰かがこの森に棲み、久しく侵入してきた者達を見ていると。


「賊でも無さそうだ」


「いや、これは・・・ちょっと難しいな」



セペドとガイルは見つめあい、歯切れの悪い言葉でお互いを横目で見ながら言い合った。
蓮人だけ状況について行けず二人の様子を見守ることしか出来ず歯がゆい。どうやら、この森に棲む者は人間のようではあるが、魔物ではない。けれどはっきり人間とも言い難い何かであると二人は判断したようだ。


「この封じられた森に侵入できるほどの実力者なのか、たまたま運悪く紛れて出られなくなった流れ者か」


「ひとまず様子見と言ったところか。一定の距離からこちらには近づいて来ておらぬ。」


「複数いるのか?」


「いや、たった一人よ」


己の質問にガイルは答えた。セペドは剣から手を放さず柄に触れたまま警戒を解いていない。
その怪の正体が恐ろしくて動物が寄り付かなくなってしまったのか、それとも別の理由であったのか。


「近づいてこないならさっさと薬草を採取して、出よう。もし、魔法を使う手練れだった場合、この森で戦うのはまずい。出られないならば、封印したまま宰相に報告して別のやり方で片付ければいいのでは・・・」



「うむ。蓮人の意見のとおり、むやみやたらに戦うのも老体には疲れる。奥へ進もう」


「・・・どこが老体だか。若作りの爺さんよ」


「お前もいづれは同じ道を辿るのだぞ?」



先ほどの殺気めいた二人は、もうすでに通常のあっけらかんととしたやり取りへと変化していた。
セペドが相手に突っかかり、ガイルが静かに笑い流している。薄暗い静かな森の中で口喧嘩する二人のやり取りが異様に響いていた。



奥の茂みへ進んだところで周囲の草をかき分け薬草を手分けして探した。
ガイルと蓮人が薬草を探し、セペドは周囲の警戒に当たる。
どれもこれも似たような植物ばかりで図鑑で見た薬草はなかなか見つからない。流石に希少性の高さから簡単には見つからないか。そんなことを考えていれば、ガイルが訪ねるようにして蓮人に話しかけた。


「そういえば、蓮人は自分の生命力を削り森を作ったりすることができるらしいな。」


「・・・そうですね」


「ならば、なぜ希少性の高い薬草や絶滅危惧種の植物を大量に作らない。現時点での能力も砂漠が広がるこの国では十分価値があることは承知しているが、それを行えばなおのこと重宝されるだろうに。あえてしないのは己の保身故か?」


「それは・・・」


蓮人の能力は主に移行と昇華に特化した能力である。
つまり今まで行ったように、自分の生命力を削り出し命の水に変え植物を生み出す能力。
他人や自分自身の生命値を目視し、その値を奪ったり与えたりする能力。
最近知ることとなった、瘴気をも以降することさえできた。

ガイルも他人や自分自身の生命力や瘴気を移行する能力は持っていたが、あくまでそれだけであり、植物を生み出すことは出来ない。それに植物が生み出せるのなら、もっと有効的な使い方を彼なら使い快適に暮らすであろう。

結局のところ、爆発的な潜在能力を持っていたところで蓮人も自分自身の能力がまだまだ未知なところがあった。どこまで限界があるのか。どこまで出来てしまうのか。生命力を弄れるところですでに人知を離れてしまっていたが、もはやそういう話とかの次元ではない。


「・・・はっきり述べてしまえば分からないと言ったところが正しいでしょうか。私自身の能力は結局自分の生命力を削ったり体内に抑え込むことを対価としている部分があります。よって生命力が尽きれば終わるであろう能力も、幸か不幸かセペドが長命を得たことによりその命を借り生きながらえている状況です。既にこの手に余る・・・急を急いていない限りはなるべく試すことさえ躊躇してしまうのです。ただ最初の頃一度、本で見た植物を作り出そうとしましたが、それは失敗に終わりました。」


「ふむ・・・難儀な能力だな。お前がこの時代に来たことは運がいい。今までも苦労はあったろうが、時代が違えばもっと扱いは酷かったろう」


「そう、でしょうね・・・」


急を急いていない限りはなるべく新しいことはしたくない。これは嘘ではなかった。現時点で既に己の生命力はとうに尽きており、セペドが定期的に生命力をわけてくれなければ緑化を行うことすら最早できないのだ。他人の命によって生かされている。無理に貰うことも与えることもできる能力であるのに、間借りさせてもらっているようないたたまれない気持ちだ。
そして、ガイルが言うことも最もな意見であった。
国に尽くしてあげるならば、貴重な薬草を増やしたり、絶滅してしまった木々を蘇らせることも出来るのではないのかと。けれど不思議なことに蓮人が生み出すものはよく知っている木々に限ったのだ。
日本でよく見た植物。森。この世界に来てから食べた果物の果樹などは生み出すことが出来た。
けれど図鑑に載っているすでに絶滅した木々は生み出すことが出来ないのだ。


「・・・制約の可能性か」



「え?」



「魔法も万能ではないということよ。魔法を使う者達は必ず代償を理解し詠唱を行ったりする。規則に外れた魔法は発動しないのと同じ。つまり原因は不明だが、其方の能力でうまく発動できない理由が必ずあるということだ。それを理解するのも時間をかけて知っていくといい」


「はぁ・・・」


考え事をしながら、当たり障りのない葉っぱを一枚摘んで両手で揉むように弄んだ。
大魔法を使うには、巨大な魔力量、経験、耐えられる肉体、発動を行うための時間などが必要である。
それと似たように己のこの奇妙な能力にも一定の制約があるのであろうかと疑問すら浮かぶ。現状答えなどでない蒸し暑さと植物があたる肌のかゆみで思考も散漫とした。


「蓮人、見つけたぞ!この植物だ。これだけあれば十分な薬が出来る。宰相殿に感謝せねばな。」


「・・・・・」


ガイルが目的の薬草を無事発見できたのを確認し、その採取を行う姿を眺めながら蓮人は己の掌を開いたり閉じたりした。


(やはり無理か)


目の前で初めて見る植物を真似て発現させてみようとしたが、手の中で生命力が暖かく光るだけだった。
図鑑で無く直接見たことのあるもので無ければいけない条件なのかとも思ったが、どうやらそれが発動条件というわけではないようだ。


「・・・わかりやすい能力であれば、どんなに良かったか」



「まぁ、気持ちはわかるがな。そう疎んでやるな。お前だけの能力であり、お前を何度も助けてくれた能力であることも確かであるのだからな。何もその能力を得たことで悪い出来事ばかりだったわけではないだろう?」


「流石ですね、ガイルは・・・まだ己はその境地に立つには少し時間がかかりそうです。あまりにもいろんなことが自分の周りで起きすぎて・・・一つ一つに気持ちを繋げるのがどうにも遅くて・・・悪い癖です。」


「ハハ、そんなことないさ。大いに悩め若者よ。私だってそんな時期もあったさ。」


「そうなんですか」


「人間誰しも立派なものか。かく言う私とて女の腹より生まれ、歳を重ねたにすぎん。それが多少長すぎるだけよ。お前たちもいずれこうなる。」


「・・・・・」


ガイルのその一言にどれだけの経験が詰まっているのかと考えれば、蓮人は何も言えずにいた。
そんな瞬間であった。必要な分の薬草を鞄につめそろそろ引き上げようとセペドに声をかけたのだが、茂みから蓮人に飛び掛かって来る黒い影に咄嗟に両腕で顔を守った。


「っ・・・・・・!」


「蓮人!」



腕に走る鋭い痛み、熱、そして衝撃。
ガイルが蓮人の腕に噛みつくそれを蹴とばし魔法でさらに奥へと弾き飛ばしたあと、セペドが剣で応戦し距離を取ってくれたのだ。
己の二の腕から垂れる血の量と傷の痛々しいほどの深さのわりに痛みはそれほどではない。それよりも心臓がバクバクと暴れ、その正体を見た。


「なんだあれ・・・」


「悍ましいな・・・」


セペドと対峙するそれは、二本足で立つ化け物であった。
人間のような形のそれは黒い瘴気を纏い、顔すら拝めぬ。二本足で立つ魔物であるのか本物の魔族でも表れてしまったのか。
それとも瘴気を纏い過ぎて慣れ果ててしまった何かなのか。
三人全員に緊張が走る。黄色い目玉はぎょろりとはっきり大きく、セペドが腕を斬りつけ落とそうにもその斬ったはずの腕は一度垂れさがるものの粘着を帯びた音を立てながら元の位置へと再生していく。
漂い放つ匂いは腐った沼地のようで鼻が捥げそうだ。

通常の剣では全く歯が立たず、セペドも舌打ちをして魔法を纏いなおした剣でもあまり効果が無い。

その化け物は動きが俊敏でセペドが応戦をやめればあっという間に全員が殺されてしまうであろう。


「セペド!!俺が一度魔法を放つ!!!だから一度・・・!!」


「馬鹿!!お前の魔力はケタ違いだと言ってるだろ!!!森ごと吹っ飛ばす気か!!」


「じゃあ!どうやって」


援助しようと声をかけたが拒否された。力になれない自分が歯がゆさしかない。強大な魔力を持ちすぎても厄介な荷物この上ない。何度も何度もこれまでも感じたことだ。
蓮人が歯を食いしばっていると、セペドとの会話を腕を組みながら横目で静観していたガイルが咄嗟に耳打ちしてきた。

「蓮人、お前の膨大な魔力を少し貸してはくれないか?」


「でも!それでは私の魔力が強すぎて森が吹き飛びます!!」


「いや、直接ではない。この符に込めてほしいのだ。」


そういうと、懐から紙を取り出してガイルは己の指を噛み千切り血で呪文をその紙に描いた。ニルがよく神託などを受ける際などに使う魔具にも似たような符は複数あるが、この呪文は見たことが無い。


「もしかして・・・相手の生命を奪い取るつもりか・・・?」


「正体もわからんような者の命を奪おうとは思わん。お前とてそうだろう?」


「じゃあこれは?」


「まぁ、見ていろ」


符を蓮人に一度渡してほとんど使っていないような魔力を注ぎ込んでやると、符に描かれた血文字が怪しく光る。それをセペド達の方へガイルが投げ飛ばすと、まるで意志を持ったかのように自由にその符は空を飛び化け物近くへ寄っていく。

そうして。


「捕らえた!!」


ガイルが赤く光る眼を見開き、伸ばした掌が何かを掴み取る仕草をしたと同時に符は変化した。
赤く細い糸のような。
蜘蛛の糸のように粘着のある巨大な糸が網のように広がってその化け物を縛り上げたのだ。
藻掻けば藻掻くほど複雑に絡み合って解けそうになく、その化け物は怒りの声を上がる。


「無駄よ無駄よ。その符は一度嵌れば”生きている者”である以上絶対逃れることは出来ぬ。血を用いた特別性は特にな」


化け物が暴れるほどにその糸は鋭利で狭い檻となり、身体に食い込んでゆく。怒りを帯びた大きな目玉が動きこちらを睨みつけている。蓮人は背筋が凍ったが、ガイルはむしろ笑っていた。
その笑みから隙間見える尖った刃と赤い瞳が嬉々として、獲物を捕らえた様は凄まじく、森に棲む怪を静かに飲み込んだ。
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「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
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閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

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