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闇に蠢くものたち
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救出した蓮人を抱え、すぐ王宮で信頼できる口の堅い魔法師を呼んだ。
まず、ジャウハリー公の館にいたディは両目を潰されていた。俺たちが乗り込んできた時に真っ先に状況を伝え、蓮人の無事を願っていた。目は潰されていたが、蓮人が連れ去られる足音、人数、距離から監禁されているであろう場所を的確に伝えたのち意識を失っている。
回復魔法により傷は癒えたが、魔法師による拘束具は暴れるほどに魔力を吸い取る代物だったようで、それにより消耗しきったのか今は別室で寝ている。
(問題はこっちだが・・・)
蓮人の状態は魔法では治せない。
怪我や病であれば回復魔法が効くのだが、あくまでこれは薬による物理的な発情状態。
解毒薬でなければ効果は無い。医師も呼んだがどうやら投与された薬は新しく出回り始めた薬の為、まだ解毒薬が存在しないのだそうだ。
「だが、放置するわけにはいきませぬ。解毒薬が無いとは言え多少なりとも効果はありましょう。発情を抑える元来の解毒薬と水分を十分に飲ませつつ、体内から薬を抜いていきましょう。そのためには都合の良い女を呼んで・・・。」
「ああ、いや・・・待て。つまりは水分と解毒薬を飲ませ、排出させれば治るんだな?」
「さようでございます。あまりに強い薬ゆえ、ほおっておけばその熱により気が触れることさえあると聞きます。少しずつで構いませぬ。それしか現時点では治す方法がありません」
「分かった。こちらで対応しよう。また報告を上げるから解毒薬を置いて一度下がってもらえるか。魔法師殿も協力感謝する。決してこの場で見聞きしたことは外へは漏らしてはならぬ」
背中越しに魔法師と医者が静かに扉を閉める音がする。
部屋の中には、今なお劣情に喘ぎ苦しむ者の息遣いだけが響いており俺はその者の汗に濡れる額を優しく撫でた。
「蓮人。聴こえたか。お前のそれは魔法では治らん。だが、危険な薬ゆえ体外へ排出しなければ・・・出来そうか?」
「ふ、・・・・っぁ、わか・・・った」
薄っすらと重い瞼を持ち上げて見上げてくる彼は、苦しいだろうに何とか掠れた声を出してうなづいた。
震える手が牛歩のごとく己の股にぶら下がるそれを引き出そうと動いている。
だが、下穿きの中に手を入れる動作すら過敏に反応してうまくできないようだ。俺はなるべく負担にならない触り方でそれを補助し脱がせると、解放された男のそれが涎を垂らしながら天井を向いた。
「ゆっくりでいい。そう、ここには俺しかいない、大丈夫だ」
「ふぅ・・・・・は、・・・・」
奥歯を噛みしめながら、ゆるゆると動かすも過ぎた快楽に思うようにいかぬのだろう。眉間にしわを寄せ、ただ口の隙間から零れ落ちるその声が屈辱さを滲み表している。
「蓮人。水を飲め。先ほど医者が置いていった解毒薬を混ぜてある。あまり意味はないがな・・・」
両手が汚れているので俺が代わりに口に含み、その喉に流し込んでやる。
頭を固定し上を向かせ噎せぬよう少しずつ。
涙のたまった光と幽かに重なり、それすら快楽に感じてしまうのだろう頬を赤く染め、口の中で柔らかく優しく動くいきものに必死に絡みついてくる。喉を動かし味わうようにこくりこくりと飲み込む様に、思わずこちらも飲み込まれそうになり凝視してしまう。
美しく、女さえ霞んでしまうような目の前の青年は、無意識かつ強制的にとはいえ男を惹きつける。
もう少し助けが遅ければ心に傷を負わせてしまっていたであろう。
こんな違法のものを使われ、あの場で奴らを八つ裂きにしなかったことを後悔した。
目が覚めて、自分を助けるために蓮人自らが宰相に嘆願してくれたことを知る。
彼は己を助けるために怪我までしたそうだ。
アペプ狩りは自己満足の行為だった。
ただ国に利用される者として蓮人も自分も変わりないはずだったのに、なぜだが他人のことで苛立ちや悔しさ、怒りなど翻弄される日々。
冷静でないと同僚にも笑われ、頭を冷やす意味もあった。
最初に見つけた彼の命を伸ばす方法も、アペプ狩りをすれば少しは助けになるのではないかというついでに近いものだったはずだ。
なのに、頭ではわかっていても何度も彼に魔石を届けるたびに自分の心臓も温かくなっていった。
自己満足感に浸っているだけであろうと何も思わないでいたのだが。
彼の体内に流れる僅かばかりの自分の魔力が暴れ叫んでいるのを感じたとき、ひどく焦ったのを覚えている。
融合する際に、少しでも魔力の反発を無くそうとアペプの血に魔力を少しだけ練り込ませ流し込んでいたのだ。
それが暴れ、他の魔力に侵されている。蓮人の身に何かあったのは明白で城中を捜しまわり彼が公爵の招待を受け出かけていると知ったときは、その場にいた疲れた顔のテピイ宰相を引っ張り出していた。
公爵相手では、こいつの力がきっと役立つと考えてのことである。そして見事役に立った。
テピイは貴族として立場のある者が過ちを犯し、見てしまったからには何らかの処罰をせねばならないと頭が痛そうにしていたがそんなことは知らん。そのあたりは宰相の管轄である。奴に任せた。
そうして見つけ出した惨状に頭が真っ白となる。
手足を寝台に拘束され、肌を晒しよがり狂う青年の姿。
胸元に術式が描かれ、誰かが魔石を無理やり心臓に融合させていたのだ。
部屋に転がるたくさんのそれを時間もかけずに与えたことは、どのぐらい苦しみと痛みを与えたのだろうか。
あまつさえ薬を使ってその肉体を楽しむなど。全員炭とするべきだったのだ。
後ろにいる宰相の存在を思い出さなければ実行していたのは否めない。
違法の薬を抜くためにこうして公にしない形でしまいこんでいるのは彼の為ではあるが、女を呼んだ方が早いと医師の提案を断ったのは完全な自分自身の都合であった。
見せたくなかったのだこれ以上誰にも。
何故だか女に彼を渡したくなかったのだ。
彼を思うならば女をあてがった方が一番早く楽になる方法とわかっていたのに、己の心は我儘であった。
しかし、やはり彼自身に自分を慰めさせるのは無理があったか、触れてはいてもいつまでも欲を放出することができずにいる。
「キリがないな。触れてもいいだろうか。嫌ならしない」
「う。触れて・・・くれ、すまなっ・・・はっ、ぁ!手に力が、入らない・・・だ」
「・・・わかった」
男のそれを触れること自体初めてのことである。
だが、女の身体を扱うよりも自分の肉体にもあるものの扱い方はよく知っていた。
薔薇色の先を優しく指で撫で、根元から乳を絞り出すように触れてやる。
身体全体がしっとりと濡れ、頬も肩も、青白い肌に映える蓮の花ような淡い桃色。
その熱が一か所に集まって、本人の意思なんて無視をして早く出させてくれと熱くなっている。
ようやく得られるそれに期待して膨張する存在の限界は近い。
別の生き物のように上向いて叫びを手の中に放った時、関与する全ての筋が痙攣し弓反りとなる。
曝け出された喉に嚙みついて、流れ落ちるように首の窪みや男の胸元を飾るささやかな蕾の蜜を吸った。
何かが溢れ出るわけでもないのに甘さすら感じ、軽く歯を立てればより一層高く鳴いた。
耳に届く嬌声は心地よく。すでに散らされていた花びらの痕を上書きするかのようにさらに強い花を咲かせていく。
吐息の湿りも、温かさもお互いの呼吸が早くなっていく状態の中でわからぬほど俺は馬鹿ではない。
認めよう、自分の気持ちを。
(俺は、嫉妬していた)
然り。彼らにつけられた肉体的なそれも、女に抱かれることを想像し断ったのも全部自分以外が触れることに嫌悪したからだ。
ずっと彼を見てきて、彼の心も肉体も全て喰らいつくしてしまいたい。
この腕の中で悶え声を上げる時に自分自身だけを見てほしいのだと思ってしまうのだ。
灼熱の大地に放り出せばすぐに枯れてしまうこの蓮の花を囲って守りたいと。そう思うのだ。
そうして、ただ男の吐息と喘ぎが響く部屋の中で、何度も何度も吐き出させ口づけをして水を流し込み、ようやく熱のおさまりが見えた頃、糸が切れるようにして蓮人は眠った。
「改めてありがとうセペド。迷惑をかけた」
「いや、そんなことはない。もう大丈夫か?」
公爵の一件で、俺は違法の薬を使われてしまった。
そのためおさまりが付かない熱を吐き出させるためにセペドはわざわざ手伝ってくれたのだ。
男のものを握らせてしまうなんて嫌だったろうに申し訳ないことをした。
けれど意識朦朧のまま見ず知らずの女性で童貞を喪失していたよりはましである。俺とて心構えというものがあるのだ。セペドには感謝をしよう。
お互いに事のあらましを話終え、ようやっと正常な判断をしたところでディの行方が気になってきた。
「セペド!ディは無事なのか!?彼はどこに」
「落ち着け。奴も無事だ。傷ももう魔法で癒えている。会いたいなら案内するから立てそうか?」
「あ、ああ」
俺は彼に謝らなくてはならない。状況故に彼は気にするなときっと笑うだろう。
お前のせいではないと。
別室で休んでいた彼の部屋を訪ねれば、上半身だけ起こしいつもどおり手を振って俺たちを出迎えたディ・ラーディン。
一度は失われたファイアンスの光沢の如き青色は、その輝きを取り戻していた。
それゆえに胸が締め付けられるのだ。
「ディ。すまなかった」
「・・・言うと思った。気にするなと言ってもお前は抱え込むんだろうな」
「・・・・・」
苦悶の表情を浮かべる俺と対比するように明るく振舞ってくれるそれがなによりも辛い。
回復魔法で治る問題ではない。あの時これが瞳で無かったら、彼の心臓に刃が向かっていたらと想像せずにはいられないのだ。震える手に気付いているのかいつものふざけた笑顔よりもだいぶ穏やかな微笑みを携えてディはそれでも俺に言ったのだ。
「蓮人。俺は代理とはいえ護衛騎士。護衛対象が騎士の心配をする必要はない。むしろ謝罪しなければならないのは俺の方さ。任務を全うできなかったからな。お前を守れなかった。騎士失格だ。」
「そうだ。お前は蓮人を守れなかった。そして俺も」
「セペド!!」
「蓮人、こいつの言うことは正しい。力はあっても任務を全うできない騎士に何の価値があろうか」
「・・・・・」
「俺の方こそすまなかった。お前が犠牲を伴って国の為に能力を使っていたなんてな。今回の件で、俺は代理の任務をセペドに返そうと思う。けれど、忘れないでくれ。任務を外れたとて次に俺の傍でお前が危険な状況にあったら命を懸けてお前を守ると誓おう」
深いお辞儀と共に誓いの言葉を立てられて、返す言葉が思いつかなかった。
騎士という人間に、戦の何も知らない人間が何の言葉を紡げるというのだろう。
自分の謝罪も罪悪感もすべて受け入れて、それでいて彼らは紛うことなき騎士であったのだ。
何も言えなくなった俺は、この喉まででかかった言葉を静かに飲み下すしかできない。
そのあとはお互いの差し障りのない会話をしてセペドと二人、自室へ戻ったのだった。
数日後、正式にセペドが本来の護衛騎士として再任命を受けたことを宰相の通達により知らされた。
全員の体調も戻り、万全となった日。
俺は宰相宮にいた。
どうして押し潰されそうな空気の中、目の前の不機嫌な顔を隠すこともなく紅茶をすする宮の主人とお茶をしているかと言えば、後ろに控え立つ護衛騎士のせいである。
「あれだけアペプ狩りをして頭がようやく冷えたかと思えば・・・むしろ魔獣の血を浴びすぎて気が違えたようですねセペド・アイヤーシュ」
「俺は正気だ」
正直もう黙っていてほしい。相手は優雅に紅茶を飲んでいるように見えるが、どうみても修羅がうずまいていることに気付かないのか。いや、気付いていてこの態度であれば質が悪い。
セペドは今回己が気を失っている間に、蓮人が辱しめを受けたこと及びそれを守れなかったことに大変にご立腹したようだ。よって早急に離れていた護衛騎士を復帰した。そこまでならまだよかった。
彼は何を思ったのか、さらに砂漠への緑化魔法を使わせるにあたり俺を連れてアペプ狩りの旅にも行かせろという。
何を言っているのだこの男はと俺も問いたいが彼の言い分はこうだ。
護衛騎士として自分は蓮人を守らねばならない。
蓮人は国の依頼を全うしなければならず、それには生命力が必要不可欠である。
生命力を枯渇させないためには、アペプの新鮮な血と魔石が必要だ。
だが今回のように討伐の間に蓮人の身に何かあってはならない。
なので、ラムルアペプの討伐を行いながら緑化をしていくことを許せ。だそうだ。
「・・・・・」
言いたいことはわかる。わかるがしかし。
「なぜこんなにも問題を起こす者どもばかり・・・王になんと申し上げればよろしいのか」
何だか、ナジーブ宰相が冷酷にならざるを得なかった理由を垣間見てしまった気がする。
項垂れて頭痛そうだ。あとで胃に優しい紅茶を探して贈ってあげよう。ルイボスティーあたりか爽やかなハーブティーがいいだろうか。彼はこの国に生きる民には珍しく甘くしないさっぱりとした紅茶を好むのだ。
此度の一件で公爵には、いくつかの制裁が下された。例えば統治していた土地のいくつかを国へ返還。国と被害者への賠償金などである。
その賠償金がとんでもない額だったため、俺の懐はいま暖かい。一生遊んでも暮らしていける額だった。
それでいいだろうにと思えど、何故か本人ではないセペドの方が制裁が甘すぎだと憤慨しており戸惑いを隠せないでいる。
誤解しないでほしい。あの事件で尻は掘られてはいない。
数日前からセペドの調子はずっとこんなである。
今まで冷静かつ多くを語らない男ではあったのだが、変なことに意見をはっきり述べてくるようになったのだ。そう、主に俺の事柄に対してだ。
どうやら露骨に過保護になってしまうほどに、心配をかけてしまったらしい。
「セペド。言いたいことは分かるが、あんたの救出に行くのだって相当ナジーブ宰相に迷惑をかけたんだ。それを緑化の合間に討伐もしたいとは・・・流石に危険だしこれ以上の我儘は難しいと思うよ」
「俺が守ればいい」
「いや、うん」
何を言っても曲げない意志を感じた。
どうしたらいいのだろうかと宰相に向きなおれば、相手は不憫でならないといった目線をこちらによこして大きくため息をついている。そもそもに宰相に向かってこの横暴な態度を向けてお咎めが無いのは、セペドが魔剣士としての積み上げてきた実績からくるものなのか。宰相殿の器の大きさ故なのか。後者だと思う。
「貴方が進言してくること自体が珍しいことではありますが、確かに此度明らかとなったアペプの魔石による蓮人殿の生命値の向上は得難いものです。そしてアペプが減れば街や行路の安全性に繋がることもわかります。ですが、蓮人殿は戦える戦士ではないのですぞ。貴方がいかに国一番の剣士とはいえ、万が一が無いとも限りませぬ。もし、蓮人殿のお命に何かあればこの国はそれこそ国救の力を永遠に失うこととなるのです。その責任が貴方に取れますか?」
「その保守的な考えで城に匿ったとて結果は同じではありませんか。守るどころか果てはあのようなことになっている始末。ならば、方向性をそろそろ変えるべきではないか」
なんて居心地の悪い空間なのだろう。板挟みである。
隠しきれなかった己の生命値と魔石の不思議な効果。公爵に関わる事件の報告をするにあたりどうしても隠し続けることは難しく、宰相をはじめたとした王族にその詳細は明かされた。今回のような悪だくみを考える貴族が今後また現れるとも限らないためにその存在を知る全ての人間に緘口令が敷かれた。現場にいたディ然り。破った者は位に関わらず重罰となる。
この席に座らず自分の後ろで仁王立ちして進言し続ける魔剣士と向かい合う冷酷宰相の異様な空間に挟まれ、貴重な甘くない美味しい紅茶が喉の奥で苦みを感じた。
「分かりました。許可を致しましょう。但し条件を付けさせてもらいます」
異様なお茶会の話し合いの結末を答えるならば、一部妥協して宰相が折れた。
それはもう唸ってげんなりしていた。見るに忍びない。
宰相が提示した条件のうち絶対守れとセペドに圧をかけていた事柄とは
【命を賭してでも蓮人を守りぬくこと】
【討伐をしに行く際には、必ず最寄りのその地を統治する貴族に報告を上げ、自分に伝えること】
【長期間の討伐行為は禁止】
などがあげられる。どちらかでも大けがを負った時点で早急に城へと戻るなどほかにも細かい取り交わしを行っていた。もはやその取り交わしの中に俺の意見という言葉は存在していない。
保護者のような態度で話を進めたセペドに腹が立ったので、あとで腹に一発いれてやったが硬い筋肉は相変わらずビクともせず己の拳が痛くなるだけだった。
目を焼いてしまうほどに眩しい太陽が顔を出す。
大地は燃え上がり、僅かな水分さえ奪ってしまう。
蒸発した水分が茹る空気として空中を漂い喉を焦がす。
俺とセペドは現在、城から南東方面へ向かっている。
宰相に依頼された地点の緑化を進めるためだ。
どうせなら体力が有り余っているうちに向かう行路さえ森にしてしまいたい衝動に駆られるも、異常な過保護さを最近見せる男がそれを許してはくれない。少し立ち眩みをしようものなら慌てて抱き着いて心配してくる始末。砂漠で引っ付いてくるのは正直暑苦しいのでやめていただきたい。
魔法師達に埋め込まれた魔石はラムルアペプだけのものではなかった。けれど大量に魔石を融合されてもアペプの魔石以外は、生命値に増加の変化もなく、他の数値も変わりがない。
体調も大きな変化が見られないので問題にしていないが、あとから悪影響が出ていないかとじっとこちらを観察してくるのだ。目線が痛い。
(強いて言えば、アペプの探知はしやすくなったことだろうか・・・)
強引な実験により体内の魔の力が濃くなったせいで、アペプの居そうな場所がわかるようになってきたのである。これは、セペドを見つけた時と同じ感覚だ。体内に存在するセペドの微力な魔力を基にして彼を見つけ出せたように。
アペプのいる方角などおおよそではあるが探知できるようになってしまったので、緑化を行う地点に危険な気配があればセペドにお願いをしてついでに討伐していくことにしたのだ。
(それがアペプの魔石の取り込みすぎなのか、アペプの血を飲まされたのが原因かはわからないけど・・・)
考えても仕方がない。出来る最善を尽くすことが今は大切である。
太陽が頂点から少し傾いた頃には予定地点での緑化に成功し、アペプが近くにいる気配がしたためその村を統治する者に討伐する旨を伝えたのだ。
「さて、どのあたりから気配がする蓮人」
「村の入り口から左奥へ進んでみよう。何となくだがその方角にいる、気がする」
「わかった。いいな、約束どおり俺から離れるなよ。」
歩きづらい砂は、簡単に足を飲み込んでいく。
浜辺などの砂とは全く違う細かすぎて簡単に風に持っていかれるほどにきめ細かい粒子。
手に取って握りしめたとしても固めることなどできない。掌を開けばさらさらと飛んで行ってしまう。
少し進んだところに見えてきたのは砂の中から少しだけ顔を出している井戸が見えた。
かつては村の住民に愛されたであろう場所は今は静寂にこちらの訪問を出迎えている。
井戸は一般的な手掘りの穴と穴の周りを補強する平たい岩が積み上げられている。中を覗けば随分と前に枯れてしまったのか暗い穴の底からは潤いを感じられない。
「・・・何となくだけどこの穴の底が気になるかな」
「わかった。先に降りて中を確かめる」
そう言うと、セペドは乾いた井戸の底へ本来水を汲むべく使用される縄を使い器用に下りて行った。
穴の奥に降りたであろうセペドは、底の壁を剣で確かめておりカツンカツンと岩を叩く音が反響する。
「・・・何もないな」
「そう。勘違いだったとは思えないけど、俺も降りてみていい?」
腑に落ちない自分を納得させるためにも、同じようにして縄を使って井戸の壁を少しずつ降りていく。
手掘りの穴はごつごつしていて足場を探すには困らない。身体を支える足元から乾いた砂を落としながら何とか底にたどり着けば成人の男二人が入ってもまだ少しだけ余裕のある広さであった。
ぐるりと見上げても砂の壁が佇んでいるだけで特段珍しいものは何もない。自分も手で壁の感触を確かめても乾いただけのものに変わりなく。
だが、一番魔の気配を感じるのがこの場所なのだ。つい先ほどまで魔物がこの井戸に居座っていたとは考えにくい。意識して一番魔を感じる場所を探しセペドに声をかけた。
「セペド。この部分を魔法で破壊できないかな?何となくだけど気になるんだここ」
「ああ、ちょっと下がっていろ」
壁を触りながら気になった部分とは足元付近の壁だ。
少しだけ魔の気配が一番濃い気がした。
魔法で少しでも削ることが出来るのならば、何かその原因がつかめるかもしれないとお願いしたのだが、俺の指示通り彼は壁を見事に破壊した。魔法を使わず拳で。
「こんなところに虚の入り口があったとは・・・・」
「セペド。公爵の家でも感じてはいたんだけど、そんな馬鹿力どこから湧いてくるの?」
「わからん。だが、最近壁くらいなら破壊できるようになった」
「・・・そう」
壁を拳で破壊できる人間はそうそういないと思われる。
鍛え方が違うのだろうか。もはや魔剣士とはという存在の意義さえ考えざるを得ない。
余程彼の方が規格外の人間と思ってしまうが、彼の存在がいることで異界から来た規格外の魔力を持つ自分自身がまだ人間の範囲であると安心できるのだ。
そうして足元にぽっかりとできた虚の入り口に身体を滑り込ませ、俺たちは虚の内部へ入っていく。
この虚もかつては大きな水脈だったのだろう。その水脈を源として井戸が作られ村が潤っていた。
それが枯渇し、井戸としての用途を果たせなくなり放置されたままの姿がこの場所なのだ。真っ暗な虚は一寸先すら見通しは不可能。俺は火の魔法であたりを照らし、セペドは剣に炎をまとった。
地上の暑さなど感じぬほどに、虚の中はひんやりと涼しい。
「・・・居そうだな。絶対離れるな」
「虚全体を照らそうか?」
「規模が分からないんだ無駄に魔力を消費するな、何が出るかわからん」
少しずつ先を進んでもただ暗い闇があるだけだ。こないだの場所のようなアペプの大群は居ない。
僅かな周囲しか照らせないため奥へ歩けば歩くほど方向感覚が狂っていく。
前へ進んでいるのか、もしかしたら後退しているのか。
それほどに奥が長く続く虚なのだ。
何かがこちらをずっと伺っている気配を肌に感じて気味が悪い。闇すべてがざわつき蠢いているとすら錯覚してしまう。前を歩く男は緊張感も崩さず言葉もない。僅かな物音にすら耳をそばだてて逃さぬようにしている。
「あまり広大なら一度出直そうか?」
「いや、その必要はない。お出ましだ」
目の前からずるずると現れたのは巨大なラムルアペプ。砂の中を泳ぎ生きる人食い怪物である。
剣を構えなおしたセペドの邪魔にならぬよう後ろに下がったと同じくらいだろうか。闇から炎の灯りに反射して現れるその身体の全容に背筋が凍る。
(死体は見慣れていたが、生きているものの迫力がこんなにも違うとは・・・)
簡単に人間を飲み込めてしまう大きな口と光るぎょろりとした目。
街を襲った時の光景を思い出し足が震えてしまう。
あの時より大分小さい個体ではあるが、それでもこの虚の主であるに相応しい大きさだ。
このようなものがいきなり目の前に出てくれば考える暇もなく人間は喰われてしまうだろう。
下がるだけ下がった壁際で思わず腰を抜かしてしまう俺とは違い、魔剣士はその刃をアペプへと向けた。
魔獣の口から炎が飛び出す。
あと数秒遅れていればその場所に人間だったものが塵となっていた。
俊敏に攻撃をかわし、セペドは次の動作に移っている。槍上に形成した氷をアペプの目の前の地に数本突き刺した。そうすることで奴をそれ以上こちらへ近づかせないようにしてくれている。
アペプの身体はぶよぶよとした皮膚で一見柔らかいように見えるがその柔らかさと硬い皮膚ゆえに刃が通りにくい。
魔法を纏った剣で何度も斬りつけたとてほとんど意味を持たないのだ。身体をのたうち回らせセペドに食らいつこうと動くアペプをうまくあしらいながらその身体に飛び移り魔法を放つ。
体力が奪われる前に何とか仕留めるならば、アペプが弱るまで攻撃し続けるのではだめだ。硬い皮膚でなく刃が入りやすい口の中などを狙うしかないのだが、彼は一体どうやって倒すのかと目を離せずにいる。
その為、いきなり両足に絡みつく幾重もの魔物の陰に判断が遅れたのだ。
気付いて逃れようにもすでに絡み取られた足はビクともせず、それは次第に身体を伝い這い上がってくる。
セペドも気づいたのか、こちらの状態を確認するなり俺の名を叫んだ。
「蓮人!アディードファウダーか!!!?くそっ他にも魔物がいたのか!?・・・いや、呼んだか」
アディードファウダー。
砂の中に生える数多の混沌。オアシスに存在する植物などに擬態をし、近づいてきたものを襲う。
見た目だけでは、細い草藁であったり、太いぶどうの蔓などに見え魔物と判断するのが難しい。
分裂をして子孫を増やしていく無性生殖生物のため、定期的に退治をしなければ恐ろしいほどに増えていく。この虚の周辺で長い間餌を待ちながら増え続けたその姿。次から次へと砂から這い出てくるそれは蓮人の身体にまとわりついていった。
まず、ジャウハリー公の館にいたディは両目を潰されていた。俺たちが乗り込んできた時に真っ先に状況を伝え、蓮人の無事を願っていた。目は潰されていたが、蓮人が連れ去られる足音、人数、距離から監禁されているであろう場所を的確に伝えたのち意識を失っている。
回復魔法により傷は癒えたが、魔法師による拘束具は暴れるほどに魔力を吸い取る代物だったようで、それにより消耗しきったのか今は別室で寝ている。
(問題はこっちだが・・・)
蓮人の状態は魔法では治せない。
怪我や病であれば回復魔法が効くのだが、あくまでこれは薬による物理的な発情状態。
解毒薬でなければ効果は無い。医師も呼んだがどうやら投与された薬は新しく出回り始めた薬の為、まだ解毒薬が存在しないのだそうだ。
「だが、放置するわけにはいきませぬ。解毒薬が無いとは言え多少なりとも効果はありましょう。発情を抑える元来の解毒薬と水分を十分に飲ませつつ、体内から薬を抜いていきましょう。そのためには都合の良い女を呼んで・・・。」
「ああ、いや・・・待て。つまりは水分と解毒薬を飲ませ、排出させれば治るんだな?」
「さようでございます。あまりに強い薬ゆえ、ほおっておけばその熱により気が触れることさえあると聞きます。少しずつで構いませぬ。それしか現時点では治す方法がありません」
「分かった。こちらで対応しよう。また報告を上げるから解毒薬を置いて一度下がってもらえるか。魔法師殿も協力感謝する。決してこの場で見聞きしたことは外へは漏らしてはならぬ」
背中越しに魔法師と医者が静かに扉を閉める音がする。
部屋の中には、今なお劣情に喘ぎ苦しむ者の息遣いだけが響いており俺はその者の汗に濡れる額を優しく撫でた。
「蓮人。聴こえたか。お前のそれは魔法では治らん。だが、危険な薬ゆえ体外へ排出しなければ・・・出来そうか?」
「ふ、・・・・っぁ、わか・・・った」
薄っすらと重い瞼を持ち上げて見上げてくる彼は、苦しいだろうに何とか掠れた声を出してうなづいた。
震える手が牛歩のごとく己の股にぶら下がるそれを引き出そうと動いている。
だが、下穿きの中に手を入れる動作すら過敏に反応してうまくできないようだ。俺はなるべく負担にならない触り方でそれを補助し脱がせると、解放された男のそれが涎を垂らしながら天井を向いた。
「ゆっくりでいい。そう、ここには俺しかいない、大丈夫だ」
「ふぅ・・・・・は、・・・・」
奥歯を噛みしめながら、ゆるゆると動かすも過ぎた快楽に思うようにいかぬのだろう。眉間にしわを寄せ、ただ口の隙間から零れ落ちるその声が屈辱さを滲み表している。
「蓮人。水を飲め。先ほど医者が置いていった解毒薬を混ぜてある。あまり意味はないがな・・・」
両手が汚れているので俺が代わりに口に含み、その喉に流し込んでやる。
頭を固定し上を向かせ噎せぬよう少しずつ。
涙のたまった光と幽かに重なり、それすら快楽に感じてしまうのだろう頬を赤く染め、口の中で柔らかく優しく動くいきものに必死に絡みついてくる。喉を動かし味わうようにこくりこくりと飲み込む様に、思わずこちらも飲み込まれそうになり凝視してしまう。
美しく、女さえ霞んでしまうような目の前の青年は、無意識かつ強制的にとはいえ男を惹きつける。
もう少し助けが遅ければ心に傷を負わせてしまっていたであろう。
こんな違法のものを使われ、あの場で奴らを八つ裂きにしなかったことを後悔した。
目が覚めて、自分を助けるために蓮人自らが宰相に嘆願してくれたことを知る。
彼は己を助けるために怪我までしたそうだ。
アペプ狩りは自己満足の行為だった。
ただ国に利用される者として蓮人も自分も変わりないはずだったのに、なぜだが他人のことで苛立ちや悔しさ、怒りなど翻弄される日々。
冷静でないと同僚にも笑われ、頭を冷やす意味もあった。
最初に見つけた彼の命を伸ばす方法も、アペプ狩りをすれば少しは助けになるのではないかというついでに近いものだったはずだ。
なのに、頭ではわかっていても何度も彼に魔石を届けるたびに自分の心臓も温かくなっていった。
自己満足感に浸っているだけであろうと何も思わないでいたのだが。
彼の体内に流れる僅かばかりの自分の魔力が暴れ叫んでいるのを感じたとき、ひどく焦ったのを覚えている。
融合する際に、少しでも魔力の反発を無くそうとアペプの血に魔力を少しだけ練り込ませ流し込んでいたのだ。
それが暴れ、他の魔力に侵されている。蓮人の身に何かあったのは明白で城中を捜しまわり彼が公爵の招待を受け出かけていると知ったときは、その場にいた疲れた顔のテピイ宰相を引っ張り出していた。
公爵相手では、こいつの力がきっと役立つと考えてのことである。そして見事役に立った。
テピイは貴族として立場のある者が過ちを犯し、見てしまったからには何らかの処罰をせねばならないと頭が痛そうにしていたがそんなことは知らん。そのあたりは宰相の管轄である。奴に任せた。
そうして見つけ出した惨状に頭が真っ白となる。
手足を寝台に拘束され、肌を晒しよがり狂う青年の姿。
胸元に術式が描かれ、誰かが魔石を無理やり心臓に融合させていたのだ。
部屋に転がるたくさんのそれを時間もかけずに与えたことは、どのぐらい苦しみと痛みを与えたのだろうか。
あまつさえ薬を使ってその肉体を楽しむなど。全員炭とするべきだったのだ。
後ろにいる宰相の存在を思い出さなければ実行していたのは否めない。
違法の薬を抜くためにこうして公にしない形でしまいこんでいるのは彼の為ではあるが、女を呼んだ方が早いと医師の提案を断ったのは完全な自分自身の都合であった。
見せたくなかったのだこれ以上誰にも。
何故だか女に彼を渡したくなかったのだ。
彼を思うならば女をあてがった方が一番早く楽になる方法とわかっていたのに、己の心は我儘であった。
しかし、やはり彼自身に自分を慰めさせるのは無理があったか、触れてはいてもいつまでも欲を放出することができずにいる。
「キリがないな。触れてもいいだろうか。嫌ならしない」
「う。触れて・・・くれ、すまなっ・・・はっ、ぁ!手に力が、入らない・・・だ」
「・・・わかった」
男のそれを触れること自体初めてのことである。
だが、女の身体を扱うよりも自分の肉体にもあるものの扱い方はよく知っていた。
薔薇色の先を優しく指で撫で、根元から乳を絞り出すように触れてやる。
身体全体がしっとりと濡れ、頬も肩も、青白い肌に映える蓮の花ような淡い桃色。
その熱が一か所に集まって、本人の意思なんて無視をして早く出させてくれと熱くなっている。
ようやく得られるそれに期待して膨張する存在の限界は近い。
別の生き物のように上向いて叫びを手の中に放った時、関与する全ての筋が痙攣し弓反りとなる。
曝け出された喉に嚙みついて、流れ落ちるように首の窪みや男の胸元を飾るささやかな蕾の蜜を吸った。
何かが溢れ出るわけでもないのに甘さすら感じ、軽く歯を立てればより一層高く鳴いた。
耳に届く嬌声は心地よく。すでに散らされていた花びらの痕を上書きするかのようにさらに強い花を咲かせていく。
吐息の湿りも、温かさもお互いの呼吸が早くなっていく状態の中でわからぬほど俺は馬鹿ではない。
認めよう、自分の気持ちを。
(俺は、嫉妬していた)
然り。彼らにつけられた肉体的なそれも、女に抱かれることを想像し断ったのも全部自分以外が触れることに嫌悪したからだ。
ずっと彼を見てきて、彼の心も肉体も全て喰らいつくしてしまいたい。
この腕の中で悶え声を上げる時に自分自身だけを見てほしいのだと思ってしまうのだ。
灼熱の大地に放り出せばすぐに枯れてしまうこの蓮の花を囲って守りたいと。そう思うのだ。
そうして、ただ男の吐息と喘ぎが響く部屋の中で、何度も何度も吐き出させ口づけをして水を流し込み、ようやく熱のおさまりが見えた頃、糸が切れるようにして蓮人は眠った。
「改めてありがとうセペド。迷惑をかけた」
「いや、そんなことはない。もう大丈夫か?」
公爵の一件で、俺は違法の薬を使われてしまった。
そのためおさまりが付かない熱を吐き出させるためにセペドはわざわざ手伝ってくれたのだ。
男のものを握らせてしまうなんて嫌だったろうに申し訳ないことをした。
けれど意識朦朧のまま見ず知らずの女性で童貞を喪失していたよりはましである。俺とて心構えというものがあるのだ。セペドには感謝をしよう。
お互いに事のあらましを話終え、ようやっと正常な判断をしたところでディの行方が気になってきた。
「セペド!ディは無事なのか!?彼はどこに」
「落ち着け。奴も無事だ。傷ももう魔法で癒えている。会いたいなら案内するから立てそうか?」
「あ、ああ」
俺は彼に謝らなくてはならない。状況故に彼は気にするなときっと笑うだろう。
お前のせいではないと。
別室で休んでいた彼の部屋を訪ねれば、上半身だけ起こしいつもどおり手を振って俺たちを出迎えたディ・ラーディン。
一度は失われたファイアンスの光沢の如き青色は、その輝きを取り戻していた。
それゆえに胸が締め付けられるのだ。
「ディ。すまなかった」
「・・・言うと思った。気にするなと言ってもお前は抱え込むんだろうな」
「・・・・・」
苦悶の表情を浮かべる俺と対比するように明るく振舞ってくれるそれがなによりも辛い。
回復魔法で治る問題ではない。あの時これが瞳で無かったら、彼の心臓に刃が向かっていたらと想像せずにはいられないのだ。震える手に気付いているのかいつものふざけた笑顔よりもだいぶ穏やかな微笑みを携えてディはそれでも俺に言ったのだ。
「蓮人。俺は代理とはいえ護衛騎士。護衛対象が騎士の心配をする必要はない。むしろ謝罪しなければならないのは俺の方さ。任務を全うできなかったからな。お前を守れなかった。騎士失格だ。」
「そうだ。お前は蓮人を守れなかった。そして俺も」
「セペド!!」
「蓮人、こいつの言うことは正しい。力はあっても任務を全うできない騎士に何の価値があろうか」
「・・・・・」
「俺の方こそすまなかった。お前が犠牲を伴って国の為に能力を使っていたなんてな。今回の件で、俺は代理の任務をセペドに返そうと思う。けれど、忘れないでくれ。任務を外れたとて次に俺の傍でお前が危険な状況にあったら命を懸けてお前を守ると誓おう」
深いお辞儀と共に誓いの言葉を立てられて、返す言葉が思いつかなかった。
騎士という人間に、戦の何も知らない人間が何の言葉を紡げるというのだろう。
自分の謝罪も罪悪感もすべて受け入れて、それでいて彼らは紛うことなき騎士であったのだ。
何も言えなくなった俺は、この喉まででかかった言葉を静かに飲み下すしかできない。
そのあとはお互いの差し障りのない会話をしてセペドと二人、自室へ戻ったのだった。
数日後、正式にセペドが本来の護衛騎士として再任命を受けたことを宰相の通達により知らされた。
全員の体調も戻り、万全となった日。
俺は宰相宮にいた。
どうして押し潰されそうな空気の中、目の前の不機嫌な顔を隠すこともなく紅茶をすする宮の主人とお茶をしているかと言えば、後ろに控え立つ護衛騎士のせいである。
「あれだけアペプ狩りをして頭がようやく冷えたかと思えば・・・むしろ魔獣の血を浴びすぎて気が違えたようですねセペド・アイヤーシュ」
「俺は正気だ」
正直もう黙っていてほしい。相手は優雅に紅茶を飲んでいるように見えるが、どうみても修羅がうずまいていることに気付かないのか。いや、気付いていてこの態度であれば質が悪い。
セペドは今回己が気を失っている間に、蓮人が辱しめを受けたこと及びそれを守れなかったことに大変にご立腹したようだ。よって早急に離れていた護衛騎士を復帰した。そこまでならまだよかった。
彼は何を思ったのか、さらに砂漠への緑化魔法を使わせるにあたり俺を連れてアペプ狩りの旅にも行かせろという。
何を言っているのだこの男はと俺も問いたいが彼の言い分はこうだ。
護衛騎士として自分は蓮人を守らねばならない。
蓮人は国の依頼を全うしなければならず、それには生命力が必要不可欠である。
生命力を枯渇させないためには、アペプの新鮮な血と魔石が必要だ。
だが今回のように討伐の間に蓮人の身に何かあってはならない。
なので、ラムルアペプの討伐を行いながら緑化をしていくことを許せ。だそうだ。
「・・・・・」
言いたいことはわかる。わかるがしかし。
「なぜこんなにも問題を起こす者どもばかり・・・王になんと申し上げればよろしいのか」
何だか、ナジーブ宰相が冷酷にならざるを得なかった理由を垣間見てしまった気がする。
項垂れて頭痛そうだ。あとで胃に優しい紅茶を探して贈ってあげよう。ルイボスティーあたりか爽やかなハーブティーがいいだろうか。彼はこの国に生きる民には珍しく甘くしないさっぱりとした紅茶を好むのだ。
此度の一件で公爵には、いくつかの制裁が下された。例えば統治していた土地のいくつかを国へ返還。国と被害者への賠償金などである。
その賠償金がとんでもない額だったため、俺の懐はいま暖かい。一生遊んでも暮らしていける額だった。
それでいいだろうにと思えど、何故か本人ではないセペドの方が制裁が甘すぎだと憤慨しており戸惑いを隠せないでいる。
誤解しないでほしい。あの事件で尻は掘られてはいない。
数日前からセペドの調子はずっとこんなである。
今まで冷静かつ多くを語らない男ではあったのだが、変なことに意見をはっきり述べてくるようになったのだ。そう、主に俺の事柄に対してだ。
どうやら露骨に過保護になってしまうほどに、心配をかけてしまったらしい。
「セペド。言いたいことは分かるが、あんたの救出に行くのだって相当ナジーブ宰相に迷惑をかけたんだ。それを緑化の合間に討伐もしたいとは・・・流石に危険だしこれ以上の我儘は難しいと思うよ」
「俺が守ればいい」
「いや、うん」
何を言っても曲げない意志を感じた。
どうしたらいいのだろうかと宰相に向きなおれば、相手は不憫でならないといった目線をこちらによこして大きくため息をついている。そもそもに宰相に向かってこの横暴な態度を向けてお咎めが無いのは、セペドが魔剣士としての積み上げてきた実績からくるものなのか。宰相殿の器の大きさ故なのか。後者だと思う。
「貴方が進言してくること自体が珍しいことではありますが、確かに此度明らかとなったアペプの魔石による蓮人殿の生命値の向上は得難いものです。そしてアペプが減れば街や行路の安全性に繋がることもわかります。ですが、蓮人殿は戦える戦士ではないのですぞ。貴方がいかに国一番の剣士とはいえ、万が一が無いとも限りませぬ。もし、蓮人殿のお命に何かあればこの国はそれこそ国救の力を永遠に失うこととなるのです。その責任が貴方に取れますか?」
「その保守的な考えで城に匿ったとて結果は同じではありませんか。守るどころか果てはあのようなことになっている始末。ならば、方向性をそろそろ変えるべきではないか」
なんて居心地の悪い空間なのだろう。板挟みである。
隠しきれなかった己の生命値と魔石の不思議な効果。公爵に関わる事件の報告をするにあたりどうしても隠し続けることは難しく、宰相をはじめたとした王族にその詳細は明かされた。今回のような悪だくみを考える貴族が今後また現れるとも限らないためにその存在を知る全ての人間に緘口令が敷かれた。現場にいたディ然り。破った者は位に関わらず重罰となる。
この席に座らず自分の後ろで仁王立ちして進言し続ける魔剣士と向かい合う冷酷宰相の異様な空間に挟まれ、貴重な甘くない美味しい紅茶が喉の奥で苦みを感じた。
「分かりました。許可を致しましょう。但し条件を付けさせてもらいます」
異様なお茶会の話し合いの結末を答えるならば、一部妥協して宰相が折れた。
それはもう唸ってげんなりしていた。見るに忍びない。
宰相が提示した条件のうち絶対守れとセペドに圧をかけていた事柄とは
【命を賭してでも蓮人を守りぬくこと】
【討伐をしに行く際には、必ず最寄りのその地を統治する貴族に報告を上げ、自分に伝えること】
【長期間の討伐行為は禁止】
などがあげられる。どちらかでも大けがを負った時点で早急に城へと戻るなどほかにも細かい取り交わしを行っていた。もはやその取り交わしの中に俺の意見という言葉は存在していない。
保護者のような態度で話を進めたセペドに腹が立ったので、あとで腹に一発いれてやったが硬い筋肉は相変わらずビクともせず己の拳が痛くなるだけだった。
目を焼いてしまうほどに眩しい太陽が顔を出す。
大地は燃え上がり、僅かな水分さえ奪ってしまう。
蒸発した水分が茹る空気として空中を漂い喉を焦がす。
俺とセペドは現在、城から南東方面へ向かっている。
宰相に依頼された地点の緑化を進めるためだ。
どうせなら体力が有り余っているうちに向かう行路さえ森にしてしまいたい衝動に駆られるも、異常な過保護さを最近見せる男がそれを許してはくれない。少し立ち眩みをしようものなら慌てて抱き着いて心配してくる始末。砂漠で引っ付いてくるのは正直暑苦しいのでやめていただきたい。
魔法師達に埋め込まれた魔石はラムルアペプだけのものではなかった。けれど大量に魔石を融合されてもアペプの魔石以外は、生命値に増加の変化もなく、他の数値も変わりがない。
体調も大きな変化が見られないので問題にしていないが、あとから悪影響が出ていないかとじっとこちらを観察してくるのだ。目線が痛い。
(強いて言えば、アペプの探知はしやすくなったことだろうか・・・)
強引な実験により体内の魔の力が濃くなったせいで、アペプの居そうな場所がわかるようになってきたのである。これは、セペドを見つけた時と同じ感覚だ。体内に存在するセペドの微力な魔力を基にして彼を見つけ出せたように。
アペプのいる方角などおおよそではあるが探知できるようになってしまったので、緑化を行う地点に危険な気配があればセペドにお願いをしてついでに討伐していくことにしたのだ。
(それがアペプの魔石の取り込みすぎなのか、アペプの血を飲まされたのが原因かはわからないけど・・・)
考えても仕方がない。出来る最善を尽くすことが今は大切である。
太陽が頂点から少し傾いた頃には予定地点での緑化に成功し、アペプが近くにいる気配がしたためその村を統治する者に討伐する旨を伝えたのだ。
「さて、どのあたりから気配がする蓮人」
「村の入り口から左奥へ進んでみよう。何となくだがその方角にいる、気がする」
「わかった。いいな、約束どおり俺から離れるなよ。」
歩きづらい砂は、簡単に足を飲み込んでいく。
浜辺などの砂とは全く違う細かすぎて簡単に風に持っていかれるほどにきめ細かい粒子。
手に取って握りしめたとしても固めることなどできない。掌を開けばさらさらと飛んで行ってしまう。
少し進んだところに見えてきたのは砂の中から少しだけ顔を出している井戸が見えた。
かつては村の住民に愛されたであろう場所は今は静寂にこちらの訪問を出迎えている。
井戸は一般的な手掘りの穴と穴の周りを補強する平たい岩が積み上げられている。中を覗けば随分と前に枯れてしまったのか暗い穴の底からは潤いを感じられない。
「・・・何となくだけどこの穴の底が気になるかな」
「わかった。先に降りて中を確かめる」
そう言うと、セペドは乾いた井戸の底へ本来水を汲むべく使用される縄を使い器用に下りて行った。
穴の奥に降りたであろうセペドは、底の壁を剣で確かめておりカツンカツンと岩を叩く音が反響する。
「・・・何もないな」
「そう。勘違いだったとは思えないけど、俺も降りてみていい?」
腑に落ちない自分を納得させるためにも、同じようにして縄を使って井戸の壁を少しずつ降りていく。
手掘りの穴はごつごつしていて足場を探すには困らない。身体を支える足元から乾いた砂を落としながら何とか底にたどり着けば成人の男二人が入ってもまだ少しだけ余裕のある広さであった。
ぐるりと見上げても砂の壁が佇んでいるだけで特段珍しいものは何もない。自分も手で壁の感触を確かめても乾いただけのものに変わりなく。
だが、一番魔の気配を感じるのがこの場所なのだ。つい先ほどまで魔物がこの井戸に居座っていたとは考えにくい。意識して一番魔を感じる場所を探しセペドに声をかけた。
「セペド。この部分を魔法で破壊できないかな?何となくだけど気になるんだここ」
「ああ、ちょっと下がっていろ」
壁を触りながら気になった部分とは足元付近の壁だ。
少しだけ魔の気配が一番濃い気がした。
魔法で少しでも削ることが出来るのならば、何かその原因がつかめるかもしれないとお願いしたのだが、俺の指示通り彼は壁を見事に破壊した。魔法を使わず拳で。
「こんなところに虚の入り口があったとは・・・・」
「セペド。公爵の家でも感じてはいたんだけど、そんな馬鹿力どこから湧いてくるの?」
「わからん。だが、最近壁くらいなら破壊できるようになった」
「・・・そう」
壁を拳で破壊できる人間はそうそういないと思われる。
鍛え方が違うのだろうか。もはや魔剣士とはという存在の意義さえ考えざるを得ない。
余程彼の方が規格外の人間と思ってしまうが、彼の存在がいることで異界から来た規格外の魔力を持つ自分自身がまだ人間の範囲であると安心できるのだ。
そうして足元にぽっかりとできた虚の入り口に身体を滑り込ませ、俺たちは虚の内部へ入っていく。
この虚もかつては大きな水脈だったのだろう。その水脈を源として井戸が作られ村が潤っていた。
それが枯渇し、井戸としての用途を果たせなくなり放置されたままの姿がこの場所なのだ。真っ暗な虚は一寸先すら見通しは不可能。俺は火の魔法であたりを照らし、セペドは剣に炎をまとった。
地上の暑さなど感じぬほどに、虚の中はひんやりと涼しい。
「・・・居そうだな。絶対離れるな」
「虚全体を照らそうか?」
「規模が分からないんだ無駄に魔力を消費するな、何が出るかわからん」
少しずつ先を進んでもただ暗い闇があるだけだ。こないだの場所のようなアペプの大群は居ない。
僅かな周囲しか照らせないため奥へ歩けば歩くほど方向感覚が狂っていく。
前へ進んでいるのか、もしかしたら後退しているのか。
それほどに奥が長く続く虚なのだ。
何かがこちらをずっと伺っている気配を肌に感じて気味が悪い。闇すべてがざわつき蠢いているとすら錯覚してしまう。前を歩く男は緊張感も崩さず言葉もない。僅かな物音にすら耳をそばだてて逃さぬようにしている。
「あまり広大なら一度出直そうか?」
「いや、その必要はない。お出ましだ」
目の前からずるずると現れたのは巨大なラムルアペプ。砂の中を泳ぎ生きる人食い怪物である。
剣を構えなおしたセペドの邪魔にならぬよう後ろに下がったと同じくらいだろうか。闇から炎の灯りに反射して現れるその身体の全容に背筋が凍る。
(死体は見慣れていたが、生きているものの迫力がこんなにも違うとは・・・)
簡単に人間を飲み込めてしまう大きな口と光るぎょろりとした目。
街を襲った時の光景を思い出し足が震えてしまう。
あの時より大分小さい個体ではあるが、それでもこの虚の主であるに相応しい大きさだ。
このようなものがいきなり目の前に出てくれば考える暇もなく人間は喰われてしまうだろう。
下がるだけ下がった壁際で思わず腰を抜かしてしまう俺とは違い、魔剣士はその刃をアペプへと向けた。
魔獣の口から炎が飛び出す。
あと数秒遅れていればその場所に人間だったものが塵となっていた。
俊敏に攻撃をかわし、セペドは次の動作に移っている。槍上に形成した氷をアペプの目の前の地に数本突き刺した。そうすることで奴をそれ以上こちらへ近づかせないようにしてくれている。
アペプの身体はぶよぶよとした皮膚で一見柔らかいように見えるがその柔らかさと硬い皮膚ゆえに刃が通りにくい。
魔法を纏った剣で何度も斬りつけたとてほとんど意味を持たないのだ。身体をのたうち回らせセペドに食らいつこうと動くアペプをうまくあしらいながらその身体に飛び移り魔法を放つ。
体力が奪われる前に何とか仕留めるならば、アペプが弱るまで攻撃し続けるのではだめだ。硬い皮膚でなく刃が入りやすい口の中などを狙うしかないのだが、彼は一体どうやって倒すのかと目を離せずにいる。
その為、いきなり両足に絡みつく幾重もの魔物の陰に判断が遅れたのだ。
気付いて逃れようにもすでに絡み取られた足はビクともせず、それは次第に身体を伝い這い上がってくる。
セペドも気づいたのか、こちらの状態を確認するなり俺の名を叫んだ。
「蓮人!アディードファウダーか!!!?くそっ他にも魔物がいたのか!?・・・いや、呼んだか」
アディードファウダー。
砂の中に生える数多の混沌。オアシスに存在する植物などに擬態をし、近づいてきたものを襲う。
見た目だけでは、細い草藁であったり、太いぶどうの蔓などに見え魔物と判断するのが難しい。
分裂をして子孫を増やしていく無性生殖生物のため、定期的に退治をしなければ恐ろしいほどに増えていく。この虚の周辺で長い間餌を待ちながら増え続けたその姿。次から次へと砂から這い出てくるそれは蓮人の身体にまとわりついていった。
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ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
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2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
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