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第1章 私たちが共犯になるまで
分析しないで
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10月某日、ついにこの日が来てしまった。
ちゃんとメイクして服もお気に入りの服を着ているのに、心が重い。出かける前から帰りたいと叫んでいる。
早く着きすぎては張り切っていると思われてしまう。かといって、遅れていって会話に入るのも嫌だ。時間ぴったりに着こうと思って、結局着いた時間は5分前。時間に律儀な所も私の性分かと肩を落とす。先にお店に入る勇気もないので、待っていることにする。この時間も大嫌い。
待つこと数分、現れたやたらとテンションが高い紺野さんに引き摺られるようにして、店内に入った。
合コンは3対3のごく普通のものだった。女性陣は私、紺野さん、違う学科の南さん。南さんについてはよく知らない。紺野さんと同じテニスサークルに入っているらしい。深い人付き合いを避けて来たから、葵はいつも情弱だ。
男性陣は近い方から高木くん、五十嵐くん、日野くん。皆私たちと同じ大学で、男性側の幹事は紺野さんの高校時代からの友人の日野くんらしい。失礼のないように、名前だけはちゃんと頭の中にメモをする。
「「乾杯~!」」
何のための乾杯だと思いながら、とりあえずビールに口をつける。
お酒が飲めるようになって、数ヶ月しか経っていないが、いつのまにかこの苦味にも慣れてしまった。
お酒は嫌いではない、むしろ好きだ。これは多分親からの遺伝だと思う。一人暮らしの家で、家で好きな料理を作り、好きなお酒を飲む。これが私の大人になってからの趣味だ。
そんなことを考えていると、ますます帰りたくなる。気乗りしない合コンじゃなくて、家でまったり好きなお酒を飲んでいたい。いつのまにかビールを泡眺めながら、自分の世界に入り込んでしまう。
ダメだダメだ、こんなことを考えている場合ではない、あと数時間耐えなければ……!
ふと、我に帰ると話しかけられているのに気づいた。
「葵ちゃん?聞いてる?」
こちらを伺いながら、笑みを浮かべ話しかけてくるのは、目の前に座る高木くんだ。彼は日野くんと同じ学科らしい。先ほどの自己紹介で水泳をやっていると言っていた。そのせいか程よく日焼けした肌と鍛えられた身体。人好きしそうな顔立ち。きっと女の子からの人気もあるのだろう。
「ごめん、ごめん。何の話だっけ?」
よく知らない相手に下の名前で呼ばれた若干の不快感を出さないよう、取り繕いながら返す。
「葵ちゃんって、彼氏いるの?って話。」
高木くんは、いきなり心理的距離を詰めるような質問をして来た。距離感の違いを感じながらも、合コンでは当たり前の質問かと割り切り、「いないよ。」と答える。
隣で聞いていた紺野さんは
「高木くん、葵ちゃんのこと可愛いって言っててさー。」
とニコニコしながら、会話に入ってくる。
ああ、そういうことか。紺野さんの反応を見て思った。
彼女は高木くんと私をくっ付けるために、強引に私を合コンに誘ったのかと納得した。同時に彼女が自己満足の道具に私を使おうとしていることに腹が立った。そういえば、彼女はこういう善意の押し付けみたいな所があると、小耳に挟んだことを思い出した。
「そうなんだー。でも、高木くんのこと私よく知らないし、高木くんも私のことよく知らないでしょう?」
棒読みにならないように、気をつけながら作り笑いで私は言う。
「知らないなんて酷いなあ。1年の時、英語の講義で一緒だったじゃん。グルーワークも一緒だったし。」
高木くんがちょっと怒ったように返す。それでも、人懐っこそうな態度は崩さない。
「まあまあ、1年の時だし、覚えてないのも仕方ないよー。今日の機会に知ればいいし。」
紺野さんが取りなそうとする。
私はため息を我慢して、なんて言い返そうか考えていると、邪魔が入った。男性陣の真ん中に座る五十嵐くんだ。
「紺野ー。朝霞さんに何言っても無駄だと思うよ。朝霞さんに本当に他人に興味ないんだもん。それに、興味を持たれて干渉されるのも嫌いそうだし。2年も見てれば分かるでしょう?」
気怠そうな声で話に入って来て、いきなり失礼なことをズケズケ言ってくる。
五十嵐くんは確か同じ学科、甘いルックスでかなりモテると噂では聞いたことがある。確かに見た目はかっこいい。しかし、こんな人が本当にモテるのだろうか。下の名前は……思い出せない。
「ほら、俺のことも思い出せないって顔してる。俺は五十嵐孝一。同じ学科って言うことは流石に知ってるよね。思い出した?朝霞葵さん。」
図星をつかれた私は焦って、必死に頷いてしまう。
調子に乗ったのか、そんな私に彼は追い討ちをかける。涙黒子がトレードマークの童顔からは考えられない非道さだ。黙っていてくれていたら、カッコいい五十嵐くんのままだったのに。なんだか残念だ。そんな私の思いはつゆ知らず、五十嵐くんの口は止まらない。
「朝霞さんは常に人と距離を置いてるよね?それって多分自分を守るためだよね。人のプライベートに入らないためじゃなくて、人を自分のプライベート入って来させないため。クールな人付き合いが好きに見えて、実は臆病なだけなんでしょう?」
ほぼ初対面の五十嵐くんに偉そうに言われて、苛立ちを感じた。自分でも分かっているから、わざわざそんなこと言わなくてもいいのに。
しかし、同時に臆病という私の本質をよく見抜いていると感心もした。その通りだ。私は臆病だから、距離の逆二乗則に守られたいんだ。そこまで言われて仕舞えば逆に清々しい。
「よく分かったね。私はそういう人間よ。」
笑顔で私は答える。この時の笑顔がうまくいったのか、私は分からない。私の反応がつまらなかったのか、その後五十嵐くんが私に話しかけることはなかった。
合コンは、日野くんの計らいで席替えをしたお陰で、何とか場を持ち直した。
ちゃんとメイクして服もお気に入りの服を着ているのに、心が重い。出かける前から帰りたいと叫んでいる。
早く着きすぎては張り切っていると思われてしまう。かといって、遅れていって会話に入るのも嫌だ。時間ぴったりに着こうと思って、結局着いた時間は5分前。時間に律儀な所も私の性分かと肩を落とす。先にお店に入る勇気もないので、待っていることにする。この時間も大嫌い。
待つこと数分、現れたやたらとテンションが高い紺野さんに引き摺られるようにして、店内に入った。
合コンは3対3のごく普通のものだった。女性陣は私、紺野さん、違う学科の南さん。南さんについてはよく知らない。紺野さんと同じテニスサークルに入っているらしい。深い人付き合いを避けて来たから、葵はいつも情弱だ。
男性陣は近い方から高木くん、五十嵐くん、日野くん。皆私たちと同じ大学で、男性側の幹事は紺野さんの高校時代からの友人の日野くんらしい。失礼のないように、名前だけはちゃんと頭の中にメモをする。
「「乾杯~!」」
何のための乾杯だと思いながら、とりあえずビールに口をつける。
お酒が飲めるようになって、数ヶ月しか経っていないが、いつのまにかこの苦味にも慣れてしまった。
お酒は嫌いではない、むしろ好きだ。これは多分親からの遺伝だと思う。一人暮らしの家で、家で好きな料理を作り、好きなお酒を飲む。これが私の大人になってからの趣味だ。
そんなことを考えていると、ますます帰りたくなる。気乗りしない合コンじゃなくて、家でまったり好きなお酒を飲んでいたい。いつのまにかビールを泡眺めながら、自分の世界に入り込んでしまう。
ダメだダメだ、こんなことを考えている場合ではない、あと数時間耐えなければ……!
ふと、我に帰ると話しかけられているのに気づいた。
「葵ちゃん?聞いてる?」
こちらを伺いながら、笑みを浮かべ話しかけてくるのは、目の前に座る高木くんだ。彼は日野くんと同じ学科らしい。先ほどの自己紹介で水泳をやっていると言っていた。そのせいか程よく日焼けした肌と鍛えられた身体。人好きしそうな顔立ち。きっと女の子からの人気もあるのだろう。
「ごめん、ごめん。何の話だっけ?」
よく知らない相手に下の名前で呼ばれた若干の不快感を出さないよう、取り繕いながら返す。
「葵ちゃんって、彼氏いるの?って話。」
高木くんは、いきなり心理的距離を詰めるような質問をして来た。距離感の違いを感じながらも、合コンでは当たり前の質問かと割り切り、「いないよ。」と答える。
隣で聞いていた紺野さんは
「高木くん、葵ちゃんのこと可愛いって言っててさー。」
とニコニコしながら、会話に入ってくる。
ああ、そういうことか。紺野さんの反応を見て思った。
彼女は高木くんと私をくっ付けるために、強引に私を合コンに誘ったのかと納得した。同時に彼女が自己満足の道具に私を使おうとしていることに腹が立った。そういえば、彼女はこういう善意の押し付けみたいな所があると、小耳に挟んだことを思い出した。
「そうなんだー。でも、高木くんのこと私よく知らないし、高木くんも私のことよく知らないでしょう?」
棒読みにならないように、気をつけながら作り笑いで私は言う。
「知らないなんて酷いなあ。1年の時、英語の講義で一緒だったじゃん。グルーワークも一緒だったし。」
高木くんがちょっと怒ったように返す。それでも、人懐っこそうな態度は崩さない。
「まあまあ、1年の時だし、覚えてないのも仕方ないよー。今日の機会に知ればいいし。」
紺野さんが取りなそうとする。
私はため息を我慢して、なんて言い返そうか考えていると、邪魔が入った。男性陣の真ん中に座る五十嵐くんだ。
「紺野ー。朝霞さんに何言っても無駄だと思うよ。朝霞さんに本当に他人に興味ないんだもん。それに、興味を持たれて干渉されるのも嫌いそうだし。2年も見てれば分かるでしょう?」
気怠そうな声で話に入って来て、いきなり失礼なことをズケズケ言ってくる。
五十嵐くんは確か同じ学科、甘いルックスでかなりモテると噂では聞いたことがある。確かに見た目はかっこいい。しかし、こんな人が本当にモテるのだろうか。下の名前は……思い出せない。
「ほら、俺のことも思い出せないって顔してる。俺は五十嵐孝一。同じ学科って言うことは流石に知ってるよね。思い出した?朝霞葵さん。」
図星をつかれた私は焦って、必死に頷いてしまう。
調子に乗ったのか、そんな私に彼は追い討ちをかける。涙黒子がトレードマークの童顔からは考えられない非道さだ。黙っていてくれていたら、カッコいい五十嵐くんのままだったのに。なんだか残念だ。そんな私の思いはつゆ知らず、五十嵐くんの口は止まらない。
「朝霞さんは常に人と距離を置いてるよね?それって多分自分を守るためだよね。人のプライベートに入らないためじゃなくて、人を自分のプライベート入って来させないため。クールな人付き合いが好きに見えて、実は臆病なだけなんでしょう?」
ほぼ初対面の五十嵐くんに偉そうに言われて、苛立ちを感じた。自分でも分かっているから、わざわざそんなこと言わなくてもいいのに。
しかし、同時に臆病という私の本質をよく見抜いていると感心もした。その通りだ。私は臆病だから、距離の逆二乗則に守られたいんだ。そこまで言われて仕舞えば逆に清々しい。
「よく分かったね。私はそういう人間よ。」
笑顔で私は答える。この時の笑顔がうまくいったのか、私は分からない。私の反応がつまらなかったのか、その後五十嵐くんが私に話しかけることはなかった。
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