8 / 11
8
しおりを挟む
◾️□□□ 花婿は誰。
フォーシスは恭しく王様・王妃様の前に歩み出ると、こうべを垂れて「申し上げます」と問い掛けた。
「わたくしを妻に迎えて戴けるのはどちらのお方でしょうか?」。シヨーヌ家からサンジェルマン家への輿入れであれば双子の王子の兄・サンノロか弟・スリーンのどちらかであろうと心していた。〈誰のところへ嫁ぐかも知らされず向かわせるなんて、どういうことなの〉。フォーシスは、夜襲もこの意味不明な輿入れも、仕組まれたことと思っていた。
視線を床に落としたままに、答えをジッと待っているとフフフ…と、忍び笑う声が聞こえてきた。
〈なに?このおかしな空気は…〉
「この王を見よ」。
王の声が上から落ちて来た、命令通りに顔を上げる。
「今、見た顔が姫の婚約者だ」
王の声が表層雪崩の様にフォーシスを呑み込んでいく。
〈は?〉。混乱した、完璧に思考が混乱していた。
「そなたはこの王の妃となるのだ、相手の名前を告げられない輿入れは王の元へ嫁ぐ、そういうものじゃ」
「しかし、、、」
フォーシスは、口まで出掛かったがその言葉を、グビリと飲み込んだ。飲み込んだ言葉は〈王には妃様が既にいらっしゃる〉であった。
「そなたは第3王妃候補となるのじゃ、ワハハハ」
「だ、第3…ですと?」震えた小声でフォーシスは復唱した。《妾…》
シヨーヌ国には、多妻制度はなかった。フォーシスは、妾の言葉も言葉の意味も知っていたが、実体験としては、まるで縁のないものであった。
□ □ □
若き17歳のフォーシスが父ほど歳の離れた王に弄ばれ、世継ぎを産む〈頭が変になりそうだわ〉。ひとり、自分の部屋に通され、項垂れて彼女は想いを巡らせた。
姉様はこのことを知っていたから、あんなに抵抗をしたのかしら?私を身代わりにしたのかしら?お兄様が存命ならばこんな事には…とめどない疑念と後悔とが混じり合う。そして何で私だけが…の想いが湧き上がってくる。
母の愛を失い、継母に疎まれて信頼する最愛の兄を亡くし、挙げ句の果ては生まれた故郷を追い出されて、妾になれと迫られる。なぜなの…と再度、涙が溢れ出した。
「若い娘は精気を養うな」。サンジェルマン・サラーン王はだらしなくニヤけて胸を張ったのを思い出しただけで、彼女の中の何が崩れていった。
◾️◾️◾️
望まない婚約・そして第3夫人として慎ましやかな婚礼の儀式、床入り…〈これが私の運命ならば…いっそ〉。フォーシスは、半ば軟禁された部屋で柄にもなく、押し寄せる理不尽な状況に弱気であらぬ思いを馳せていた。
ゴトン…
ドアの外の閂鍵が動く音がした。
ギリリリリ…
音が立たないように注意しながら無骨な木の扉がゆっくりと開いてくる。開いた扉の隙間から、ふさぁ~っと廊下の闇と共に部屋の中へ影が入る。
「ムっ…何者」。フォーシスは武器は取り上げられて、丸腰であったので拳を構えた。
「しッ…静かに」。全身、黒ずくめの不審者から発する声には聞き覚えがある。
「ボクですよ…サンノロ…ですよ」
「やっぱり…」。軽い言葉遣い、聞き覚えがあるはずだ。
「さぁ…行きましょう」
「ん?」
「ん、て、、、逃げるんです」
「逃げる?どこへ」
「明日になれば、手遅れです」。
この人を信じていいのだろうか?心の葛藤が刹那の中の永遠で続く。サッと外套を羽織ると全身が黒に染まり闇の中へ溶け込むようであった。
「ここから先は、アイツが…」
数頭の馬上には、スリーンとラチョスとサバスが待っていた。闇掛けをするには最小人数だ。
「さぁ、行こう」
あの戦いの後のようにスリーンの後ろへ誘われて、すっと引き上げられてフォーシスも馬上の人となる。
「ご無事を」。サンノロが、4人を静かに送り出す。
4人は静かに縦の隊列を粛々と進め城からのある程度の距離を来て早駆けを始めた。フォーシスはスリーンの背中の温もりを感じながら2時間ほど駆けると、目前に光る大河の流れがあった。
「小さな船を用意してある、ワカレィの流れをそれで下り、港町キターノまで行くんだ」。どうやらスリーンは一緒には来るつもりは無さそうである。
「キターノへ行ったら、刀鍛冶のファイゴを訪ねるんだ。いいな、ファイゴだ。その男以外は信用するな」
「ファイゴ、わかった。スリーンは一緒には来ないよね」
「必ず、会いに行く迎えに行くまで待っていてくれ」
スリーンは、彼女を抱き寄せると素早く、その唇を奪った。突然の行為にフォーシスは驚いたが、それに彼女が抗うことはなかった。
フォーシスは恭しく王様・王妃様の前に歩み出ると、こうべを垂れて「申し上げます」と問い掛けた。
「わたくしを妻に迎えて戴けるのはどちらのお方でしょうか?」。シヨーヌ家からサンジェルマン家への輿入れであれば双子の王子の兄・サンノロか弟・スリーンのどちらかであろうと心していた。〈誰のところへ嫁ぐかも知らされず向かわせるなんて、どういうことなの〉。フォーシスは、夜襲もこの意味不明な輿入れも、仕組まれたことと思っていた。
視線を床に落としたままに、答えをジッと待っているとフフフ…と、忍び笑う声が聞こえてきた。
〈なに?このおかしな空気は…〉
「この王を見よ」。
王の声が上から落ちて来た、命令通りに顔を上げる。
「今、見た顔が姫の婚約者だ」
王の声が表層雪崩の様にフォーシスを呑み込んでいく。
〈は?〉。混乱した、完璧に思考が混乱していた。
「そなたはこの王の妃となるのだ、相手の名前を告げられない輿入れは王の元へ嫁ぐ、そういうものじゃ」
「しかし、、、」
フォーシスは、口まで出掛かったがその言葉を、グビリと飲み込んだ。飲み込んだ言葉は〈王には妃様が既にいらっしゃる〉であった。
「そなたは第3王妃候補となるのじゃ、ワハハハ」
「だ、第3…ですと?」震えた小声でフォーシスは復唱した。《妾…》
シヨーヌ国には、多妻制度はなかった。フォーシスは、妾の言葉も言葉の意味も知っていたが、実体験としては、まるで縁のないものであった。
□ □ □
若き17歳のフォーシスが父ほど歳の離れた王に弄ばれ、世継ぎを産む〈頭が変になりそうだわ〉。ひとり、自分の部屋に通され、項垂れて彼女は想いを巡らせた。
姉様はこのことを知っていたから、あんなに抵抗をしたのかしら?私を身代わりにしたのかしら?お兄様が存命ならばこんな事には…とめどない疑念と後悔とが混じり合う。そして何で私だけが…の想いが湧き上がってくる。
母の愛を失い、継母に疎まれて信頼する最愛の兄を亡くし、挙げ句の果ては生まれた故郷を追い出されて、妾になれと迫られる。なぜなの…と再度、涙が溢れ出した。
「若い娘は精気を養うな」。サンジェルマン・サラーン王はだらしなくニヤけて胸を張ったのを思い出しただけで、彼女の中の何が崩れていった。
◾️◾️◾️
望まない婚約・そして第3夫人として慎ましやかな婚礼の儀式、床入り…〈これが私の運命ならば…いっそ〉。フォーシスは、半ば軟禁された部屋で柄にもなく、押し寄せる理不尽な状況に弱気であらぬ思いを馳せていた。
ゴトン…
ドアの外の閂鍵が動く音がした。
ギリリリリ…
音が立たないように注意しながら無骨な木の扉がゆっくりと開いてくる。開いた扉の隙間から、ふさぁ~っと廊下の闇と共に部屋の中へ影が入る。
「ムっ…何者」。フォーシスは武器は取り上げられて、丸腰であったので拳を構えた。
「しッ…静かに」。全身、黒ずくめの不審者から発する声には聞き覚えがある。
「ボクですよ…サンノロ…ですよ」
「やっぱり…」。軽い言葉遣い、聞き覚えがあるはずだ。
「さぁ…行きましょう」
「ん?」
「ん、て、、、逃げるんです」
「逃げる?どこへ」
「明日になれば、手遅れです」。
この人を信じていいのだろうか?心の葛藤が刹那の中の永遠で続く。サッと外套を羽織ると全身が黒に染まり闇の中へ溶け込むようであった。
「ここから先は、アイツが…」
数頭の馬上には、スリーンとラチョスとサバスが待っていた。闇掛けをするには最小人数だ。
「さぁ、行こう」
あの戦いの後のようにスリーンの後ろへ誘われて、すっと引き上げられてフォーシスも馬上の人となる。
「ご無事を」。サンノロが、4人を静かに送り出す。
4人は静かに縦の隊列を粛々と進め城からのある程度の距離を来て早駆けを始めた。フォーシスはスリーンの背中の温もりを感じながら2時間ほど駆けると、目前に光る大河の流れがあった。
「小さな船を用意してある、ワカレィの流れをそれで下り、港町キターノまで行くんだ」。どうやらスリーンは一緒には来るつもりは無さそうである。
「キターノへ行ったら、刀鍛冶のファイゴを訪ねるんだ。いいな、ファイゴだ。その男以外は信用するな」
「ファイゴ、わかった。スリーンは一緒には来ないよね」
「必ず、会いに行く迎えに行くまで待っていてくれ」
スリーンは、彼女を抱き寄せると素早く、その唇を奪った。突然の行為にフォーシスは驚いたが、それに彼女が抗うことはなかった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。
入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。
絶倫と噂の騎士と結婚したのに嘘でした。死に戻り令嬢は本物の絶倫を探したら大神官様だった。
シェルビビ
恋愛
聖女を巡る恋の戦いに敗れたリオネルと結婚したレティ。リオネルは負け犬と陰で囁かれているが、もう一つの噂を知らない人はいない。
彼は娼婦の間で股殺しと呼ばれる絶倫で、彼を相手にすると抱きつぶされて仕事にならない。
婚約破棄されたリオネルに優しくし、父を脅して強制的に妻になることに成功した。
ルンルンな気分で気合を入れて初夜を迎えると、リオネルは男のものが起たなかったのだ。
いくらアプローチしても抱いてもらえずキスすらしてくれない。熟睡しているリオネルを抱く生活も飽き、白い結婚を続ける気もなくなったので離縁状を叩きつけた。
「次の夫は勃起が出来て、一晩中どころが三日三晩抱いてくれる男と結婚する」
話し合いをする気にもならず出ていく準備をしていると見知らぬが襲ってきた。驚きのあまり、魔法が発動し過去に戻ってしまう。
ミハエルというリオネルの親友に出会い、好きになってしまい。
伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】
ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。
「……っ!!?」
気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
憧れだった騎士団長に特別な特訓を受ける女騎士ちゃんのお話
下菊みこと
恋愛
珍しく一切病んでないむっつりヒーロー。
流されるアホの子ヒロイン。
書きたいところだけ書いたSS。
ムーンライトノベルズ 様でも投稿しています。
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
R18 優秀な騎士だけが全裸に見える私が、国を救った英雄の氷の騎士団長を着ぐるみを着て溺愛する理由。
シェルビビ
恋愛
シャルロッテは幼い時から優秀な騎士たちが全裸に見える。騎士団の凱旋を見た時に何で全裸でお馬さんに乗っているのだろうと疑問に思っていたが、月日が経つと優秀な騎士たちは全裸に見えるものだと納得した。
時は流れ18歳になると優秀な騎士を見分けられることと騎士学校のサポート学科で優秀な成績を残したことから、騎士団の事務員として採用された。給料も良くて一生独身でも生きて行けるくらい充実している就職先は最高の環境。リストラの権限も持つようになった時、国の砦を守った英雄エリオスが全裸に見えなくなる瞬間が多くなっていった。どうやら長年付き合っていた婚約者が、貢物を散々貰ったくせにダメ男の子を妊娠して婚約破棄したらしい。
国の希望であるエリオスはこのままだと騎士団を辞めないといけなくなってしまう。
シャルロッテは、騎士団のファンクラブに入ってエリオスの事を調べていた。
ところがエリオスにストーカーと勘違いされて好かれてしまった。元婚約者の婚約破棄以降、何かがおかしい。
クマのぬいぐるみが好きだと言っていたから、やる気を出させるためにクマの着ぐるみで出勤したら違う方向に元気になってしまった。溺愛することが好きだと聞いていたから、溺愛し返したらなんだか様子がおかしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる