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□□□ 流されて
「なに?何を拾ったと言ったの」
「この男です」
そのイーチバァーン族の指差す先にはグニャリとした物が引き摺られて来ていた。身なりからするに外界の男のようであるが、顔色は蒼白で死人の色を呈している。
「亡くなっているのなら葬ってあげなさい」
「いや、まだ微かに生きています」
「それを早く言いなさい、こちらへ」
ムツキはその男の濡れた衣服を脱がせ、全身の異常を素早く確認した。すぐに乾いた綿法衣でくるんで、更に舐めした柔らかな鹿皮で覆った。
「傷は肩の小さなものだけで出血はもう止まっています。およそ毒によるものでしょう、解毒治療します」
「ムツキ様、治療は薬草で?それともヒールで?」
「この状態から両方をします、あとはこの者の運命次第」
□□□
身体が温かな湯に入っているような心地よさだった。自分の呼吸する音を聞いて、生きていることを実感した。
「誰かいますか、ここはどこですか?」
ヨンガルはその辺りの人の気配に向かって語り掛けると、足元の方から返事が帰ってきた。
「まだ起きない方がいいでしょう。傷は肩だけです、気が付いたということは毒は消えましたね」
「アイツらは、追手はどうしました?」
「そういう人は分かりません、現れてませんね」
「そうですか…ところであなたは?」
「私はイーチバァーンのムツキです」
それを聞いて心地よく横たわっていたヨンガルは素早く起き上がると当たりに武器がないか探すと同時に、緊張感を持って身構えた。
「どうしました?まだ寝ていた方が…」
「イーチバァーンと言えば蛮族で悪魔使いの者、私に何をしたッ?」
「あはははは、手当てをしただけよ。そうねそれ以外はあなたを裸にもしたわ」
そう柔らかな声に言われ、心地良く包まれていた物を跳ね除けた自分が全裸なのに気がついた。なぜか警戒心が弛んでいく。
「そ、そ、そうか…助けてくれて、あ、ありがとう」
「もう大丈夫そうね、ところで貴方はだぁれ?」
「私の名はシヨーヌのヨンガルだ」
正直に名乗ったが、王子であるとは明かさなかった。
「ヨンガル…あなた、強い星のもとに生まれたのね。その肩の傷は大したことないけど、毒が全身に回ったのよ。そして冷たい川に流されたのでしょう、そして私たちに拾われたのよ。普通なら冷たい水に浸かって命を落としたのでしょうが毒が少量で体を温めてくれたから死ななかった」
「そうなのか…」
「奇跡ね、それも貴方の強い運命よ。傷が癒えたら自分の領域に帰ってくださいな、ここはイーチバァーン族の暮らすところですから」
「分かった、改めて礼を言う。助けてくれてありがとう、ムツキ。ところで私の着るものはあるのかな?裸では何かと落ち着かない」
□□□
「気を失っている間、夢を見たんだ」
「どんな?」
「シヨーヌの城にいる妹に会いに戻って、自分は信頼していた者に殺されるのだと、妹も気をつけろと伝えたかったのだが伝わったかどうか…」
「その夢を見たのは私の魔法のせいかもしれないわ、ヒール魔法を使うとそれは稀に魂の解放を伴うのよ。意識だけが身体を残して自由に飛び回れるの」
「ムツキよ、長いこと匿ってもらって感謝する。このままこの地で暮らしたいのは山々なんだが、なんだかこのところ胸騒ぎが激しくなってきた、城の情勢が気になる」
「ヨンガルの心配ことをムツキに流し込んで。さすれば私がその原因となる物の遠くを見通しましょう」
「そうなのか、やはり一族の不思議な能力はすごいな」
しきりに感心するヨンガルの両手をムツキは取って軽く握った。既に契りを交わした2人なら、この程度で気の交流が可能になっていた。
「どうだ感じているか?ムツキ」
「ヨーツの平原が見えてます、そこに間違いなく妹フォンヌ様とフォーシス様が居られます」
一族の力のひとつである遠隔透視での結果を口にした。
「よし、ならば我等も向かおう。驚かせてやろうぞ、この元気な姿をみせてやろう」
「なに?何を拾ったと言ったの」
「この男です」
そのイーチバァーン族の指差す先にはグニャリとした物が引き摺られて来ていた。身なりからするに外界の男のようであるが、顔色は蒼白で死人の色を呈している。
「亡くなっているのなら葬ってあげなさい」
「いや、まだ微かに生きています」
「それを早く言いなさい、こちらへ」
ムツキはその男の濡れた衣服を脱がせ、全身の異常を素早く確認した。すぐに乾いた綿法衣でくるんで、更に舐めした柔らかな鹿皮で覆った。
「傷は肩の小さなものだけで出血はもう止まっています。およそ毒によるものでしょう、解毒治療します」
「ムツキ様、治療は薬草で?それともヒールで?」
「この状態から両方をします、あとはこの者の運命次第」
□□□
身体が温かな湯に入っているような心地よさだった。自分の呼吸する音を聞いて、生きていることを実感した。
「誰かいますか、ここはどこですか?」
ヨンガルはその辺りの人の気配に向かって語り掛けると、足元の方から返事が帰ってきた。
「まだ起きない方がいいでしょう。傷は肩だけです、気が付いたということは毒は消えましたね」
「アイツらは、追手はどうしました?」
「そういう人は分かりません、現れてませんね」
「そうですか…ところであなたは?」
「私はイーチバァーンのムツキです」
それを聞いて心地よく横たわっていたヨンガルは素早く起き上がると当たりに武器がないか探すと同時に、緊張感を持って身構えた。
「どうしました?まだ寝ていた方が…」
「イーチバァーンと言えば蛮族で悪魔使いの者、私に何をしたッ?」
「あはははは、手当てをしただけよ。そうねそれ以外はあなたを裸にもしたわ」
そう柔らかな声に言われ、心地良く包まれていた物を跳ね除けた自分が全裸なのに気がついた。なぜか警戒心が弛んでいく。
「そ、そ、そうか…助けてくれて、あ、ありがとう」
「もう大丈夫そうね、ところで貴方はだぁれ?」
「私の名はシヨーヌのヨンガルだ」
正直に名乗ったが、王子であるとは明かさなかった。
「ヨンガル…あなた、強い星のもとに生まれたのね。その肩の傷は大したことないけど、毒が全身に回ったのよ。そして冷たい川に流されたのでしょう、そして私たちに拾われたのよ。普通なら冷たい水に浸かって命を落としたのでしょうが毒が少量で体を温めてくれたから死ななかった」
「そうなのか…」
「奇跡ね、それも貴方の強い運命よ。傷が癒えたら自分の領域に帰ってくださいな、ここはイーチバァーン族の暮らすところですから」
「分かった、改めて礼を言う。助けてくれてありがとう、ムツキ。ところで私の着るものはあるのかな?裸では何かと落ち着かない」
□□□
「気を失っている間、夢を見たんだ」
「どんな?」
「シヨーヌの城にいる妹に会いに戻って、自分は信頼していた者に殺されるのだと、妹も気をつけろと伝えたかったのだが伝わったかどうか…」
「その夢を見たのは私の魔法のせいかもしれないわ、ヒール魔法を使うとそれは稀に魂の解放を伴うのよ。意識だけが身体を残して自由に飛び回れるの」
「ムツキよ、長いこと匿ってもらって感謝する。このままこの地で暮らしたいのは山々なんだが、なんだかこのところ胸騒ぎが激しくなってきた、城の情勢が気になる」
「ヨンガルの心配ことをムツキに流し込んで。さすれば私がその原因となる物の遠くを見通しましょう」
「そうなのか、やはり一族の不思議な能力はすごいな」
しきりに感心するヨンガルの両手をムツキは取って軽く握った。既に契りを交わした2人なら、この程度で気の交流が可能になっていた。
「どうだ感じているか?ムツキ」
「ヨーツの平原が見えてます、そこに間違いなく妹フォンヌ様とフォーシス様が居られます」
一族の力のひとつである遠隔透視での結果を口にした。
「よし、ならば我等も向かおう。驚かせてやろうぞ、この元気な姿をみせてやろう」
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