父の婚約者を奪ってだめな理由はありません

秋庭海斗

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 遥か遡る物語…

□□□ ヨンガル王子の真実

 王子付きの世話係・サルエルは王妃ミツーヌからズシリと重い皮袋を受け取った。紐を解いて中を覗いて顔色が曇った。金貨の少なさの不満がストレートに現れた。

「約束の半分よ、残りは成功した後に。何か不満?」

 不満顔のサルエルはすぐに表情を取り繕った。王妃の機嫌が悪くなれば褒美どころか、命まで取り上げられてしまうかもしれない。

「ありがとうございます、仕事が終わりましたら残り半分をよろしくお願いします。では明後日に」

◾️◾️ 狩られた王子

 フォレスの森へと弓の鍛錬を兼ねた鹿狩りにやって来ていた王子は、現れた大鹿を逃すまいと追跡する。なぜかサリエルがその場を仕切って指示を出した。

「大人数だと鹿が逃げてしまうので、精鋭だけで王子に追従する、名を呼ばれたものは王子に遅れるなッ!」

 そこで呼ばれた者はラチョスとその配下者1名。サリエルを入れて3名が跡を追った。獲物を仕留めるために抜け駆けした王子が、鹿に物陰から矢を放つ準備をしているの所に3人は追いついた。そしてヨンガル王子の狩りの様子を息を殺して見守る。

 シャッ!と空を切って放たれた矢は首の致命点を射抜いた、数歩歩いて鹿はドゥッと倒れ込んだ。

「やった」

 小さく叫んで獲物は駆け寄るヨンガル。

「今だ、狙え」

 矢を番たラチョスが片膝をついて王子に狙いを定める。サリエルらの気配に気がついたヨンガル王子が振り向くのと同時に弦がビュンとなった。矢よりも先にその音が王子の耳に届き反射的に身を屈める。矢はヨンガルの肩先を引っ掻いて森の中へと消えていった。

「何をするッ!サリエル。僕だ、鹿ではないぞ」

「しくじったか、二の矢を放てッ!」

 しかし、身体能力の高い王子にはもう当たるはずもなかった。王子は森の奥へと逃げてゆく。

「追えッ!生きて帰らせるわけにはいかないぞッ」

 転々と続く血は鹿のものではなく王子の肩口から流れ出るものである、ラチョスが薄ら笑いを浮かべた。

「サリエル様、逃げた王子は長いことはない、なんせ矢尻にはタップリと、トリカブトの毒を塗り込んでありますからね。これだけの血が流れているということは、すぐに動けなくなりますよ」

「抜け目ないの、ぬしは」

「約束は守ってくださいな、褒美は山分けですよ。なんせこっちは死体運びの部下を連れてきてるんですからね。あいつにも分け前が必要なんですよ」

 人狩りの3人は確実に王子の跡を追跡した。

◾️◾️ 逃亡

 肩の傷はかすり傷と思ったが、次第に王子の感覚を失わせていた。

「おかしい…まさか毒矢だったのか…この痺れ具合は」

 体の異変を感じながらも苔むした森を何とか進む。逃げなければ追手に殺されるのは間違いなさそうだ。なぜ殺されるのかは分からないが、そう易々と殺されたくはない。
 
 意識朦朧となりながら、倒れ苔むした巨木を乗り越えた時に意識が途切れ、高さ1m程の木の幹から落ちた。落ちた先は森の中を流れる川であった。この森の存在を支えるかなりの深くて狭いがそこそこの流れの強さを持つ。

 仮死状態のヨンガル王子は冷たい流れの中へ沈んだ。

◾️◾️ 追手

「この先、跡がないぞ。探せ、どこかに潜んでいるか、くたばってる筈だ」




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