6 / 9
6
しおりを挟む遥か遡る物語…
□□□ ヨンガル王子の真実
王子付きの世話係・サルエルは王妃ミツーヌからズシリと重い皮袋を受け取った。紐を解いて中を覗いて顔色が曇った。金貨の少なさの不満がストレートに現れた。
「約束の半分よ、残りは成功した後に。何か不満?」
不満顔のサルエルはすぐに表情を取り繕った。王妃の機嫌が悪くなれば褒美どころか、命まで取り上げられてしまうかもしれない。
「ありがとうございます、仕事が終わりましたら残り半分をよろしくお願いします。では明後日に」
◾️◾️ 狩られた王子
フォレスの森へと弓の鍛錬を兼ねた鹿狩りにやって来ていた王子は、現れた大鹿を逃すまいと追跡する。なぜかサリエルがその場を仕切って指示を出した。
「大人数だと鹿が逃げてしまうので、精鋭だけで王子に追従する、名を呼ばれたものは王子に遅れるなッ!」
そこで呼ばれた者はラチョスとその配下者1名。サリエルを入れて3名が跡を追った。獲物を仕留めるために抜け駆けした王子が、鹿に物陰から矢を放つ準備をしているの所に3人は追いついた。そしてヨンガル王子の狩りの様子を息を殺して見守る。
シャッ!と空を切って放たれた矢は首の致命点を射抜いた、数歩歩いて鹿はドゥッと倒れ込んだ。
「やった」
小さく叫んで獲物は駆け寄るヨンガル。
「今だ、狙え」
矢を番たラチョスが片膝をついて王子に狙いを定める。サリエルらの気配に気がついたヨンガル王子が振り向くのと同時に弦がビュンとなった。矢よりも先にその音が王子の耳に届き反射的に身を屈める。矢はヨンガルの肩先を引っ掻いて森の中へと消えていった。
「何をするッ!サリエル。僕だ、鹿ではないぞ」
「しくじったか、二の矢を放てッ!」
しかし、身体能力の高い王子にはもう当たるはずもなかった。王子は森の奥へと逃げてゆく。
「追えッ!生きて帰らせるわけにはいかないぞッ」
転々と続く血は鹿のものではなく王子の肩口から流れ出るものである、ラチョスが薄ら笑いを浮かべた。
「サリエル様、逃げた王子は長いことはない、なんせ矢尻にはタップリと、トリカブトの毒を塗り込んでありますからね。これだけの血が流れているということは、すぐに動けなくなりますよ」
「抜け目ないの、ぬしは」
「約束は守ってくださいな、褒美は山分けですよ。なんせこっちは死体運びの部下を連れてきてるんですからね。あいつにも分け前が必要なんですよ」
人狩りの3人は確実に王子の跡を追跡した。
◾️◾️ 逃亡
肩の傷はかすり傷と思ったが、次第に王子の感覚を失わせていた。
「おかしい…まさか毒矢だったのか…この痺れ具合は」
体の異変を感じながらも苔むした森を何とか進む。逃げなければ追手に殺されるのは間違いなさそうだ。なぜ殺されるのかは分からないが、そう易々と殺されたくはない。
意識朦朧となりながら、倒れ苔むした巨木を乗り越えた時に意識が途切れ、高さ1m程の木の幹から落ちた。落ちた先は森の中を流れる川であった。この森の存在を支えるかなりの深くて狭いがそこそこの流れの強さを持つ。
仮死状態のヨンガル王子は冷たい流れの中へ沈んだ。
◾️◾️ 追手
「この先、跡がないぞ。探せ、どこかに潜んでいるか、くたばってる筈だ」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる