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 スリーン・サンジェルマンとフォーシス・シヨーヌは、母が隠れ住んでいたジエロ島を抜け出しフォダ砂漠へと向かった。総勢30名の目的は古代遺跡に暮らすイーチバァーン族である。この古代種族は魔法使いの血筋で、不思議な力を持つと伝承されている。ただその存在を確認するのが困難で幻の種族とも言われ、その気質は気難しく排他的とも噂される。

◾️◾️◾️サンジェルマン王宮

「アハハハハハハハハ、実の息子に婚約者を連れ去られるとは前代未聞、そして末代までの恥だわ」

 王妃は何が楽しいのか大きな笑いをあげて、王の愚かさを中傷した。同席した双子の王子の片割れもギョッとする程の異常性である。

「このサラーン王を愚弄しても良いのはそなたのみだ王妃よ、他の者ならば即刻斬首刑だがな。しかし心配無用だ、替わりの婚約者が今日にも到着するはずだ、逃げたフォーシス王女の姉だぞ、楽しみで堪らん」

「そこの双子のもう一人に攫われないようにしないとな」

「母上、私はそんなことは致しませぬ、馬鹿な弟とは違います。この国に忠誠を、王と王妃に真心を捧げます」

「よう言ったサンノロよ、流石は我が息子じゃな。もう裏切り者スリーンは我が息子でもお前の弟でもない。反逆者だ、この王に恥をかかせた犯罪人だ、捉えて成敗してくれる。サンノロよ、再び兵を引き連れ討伐へ向かうのじゃ」

「承知致しました我が王よ、直ちに」

 謁見の間から足早に立ち去ったサンノロは、早速500騎の騎馬隊を引き連れ総兵力2000で、サンジェルマン城を後にするとワカレィ河を越えてシヨーヌ領へと侵攻し、東ヨーツ平原に本陣を張った。

「スリーン、待ってろよ」

◾️◾️◾️シヨーヌ家

 ヨルダン・シヨーヌ王が長女へ頼み込んでいる。

「愛しのフォンヌよ、心を決めてサンジェルマンへ嫁いでくれないか、この国のために家族のために」

「フォンヌ、自分のことばかりを考えていてはダメよ、この家に生まれた以上はこの家の為に尽くすのは当然よ」

 ミツーヌ王妃も説得する為に言葉を添えるが、そこには優しさなどは存在せず、義理の娘を権力維持をするための道具ぐらいにしか考えていないのが透けてみえる。

「妹が婚約しに行ったじゃないの、フォーシスはどうしたの、なんでまたこの私が辛い思いをしなくてはならないのよ。そんなの不公平じゃない、私だって長女に生まれたくて生まれたわけじゃないわ」

 平原の彼方にサンジェルマンの部隊が集結していると斥候から報告が入ると、更にヨンガル王は焦りを募らせた。ミツーヌ王妃が王へと耳打ちをする。

「もう時間がないわ、聞き分けのないフォンヌを縛って捉えてでも差し出しましょう、そうしないと国ごと滅ぼされてしまうかもしれませんことよ」

 王は躊躇した、自分のかわいい娘である。彼女に縄を掛けてまでという親心と、国王としての責務がせめぎ合い葛藤を招いている。それを見かねて悪鬼の形相でミツーヌ王妃が命令を下した。

「衛兵ッ!フォンヌ王女を捉えなさい」
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