ベノムリップス

ど三一

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灼熱の祭典編ー後

第96話 ユンのリリナグ漫遊記

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ユンは会場である学校から出ると、まず最初にリリナグリリィのセールをチェックしようと市場に向かった。キュート選手権参加者が投票する際に一言アピールをするのだが、その際に言っていた真夏の新商品入荷や、明日の納涼祭に向けて、リリナグでは珍しい異国情緒のあるエキゾチック衣装の入荷、そして何より全品20%オフのセールをしていると聞いて、足を運ばない訳にいかない。ユンが学校を出る時、ベンガルはまだ学校に居たので、彼女の姉が店番をしてるのだろう。

(エキゾチックな衣装……ベンガルちゃんが今朝着ていた一枚布のような衣服かしら?明日は仕事だけれど、可愛いのがあったら買っちゃおうかしら)

リリナグリリィの前は女性客で混雑している。ちらほらと男性客の姿も見えるが、客のその殆どが女性。店から出て来た客達が手に持つ紙袋は、真夏用の爽やかなデザインの袋に変化していた。

(あ、あの袋可愛い。詰所にお菓子を持っていく時とか、誰かにお土産を渡す時に使えそうだわ~!)

リリナグリリィは、芸術祭の時のように今日も通りの使用許可を得て、店前にロープで四方を囲んだスペースを作り、そこに新作商品やエキゾチック衣装を着たマネキンを展示している。丁度複数人のグループが店内に入って行くのを見たユンは、少し時間をずらして店内に入る事にした。展示されているマネキンの中で一番目を惹くのはエキゾチック衣装。納涼祭に合わせて、とマネキンの隣にある看板に書かれている。女性用の衣装を着たマネキンが多いが、中には男性用の衣装もあり、男女が揃いの衣装を着て談笑している場面を再現している。

(明日の納涼祭は誘えなかったわね…きっとグンカ君とニスと見るだろうし。下手したらもっと人が集まってたかも。ギャリアーの家は海の側で、花火を見るのに絶好のポジションなのよね)

ユンはエキゾチック衣装を着たギャリアーと自分の姿を想像する。あの衣装を着て、通りにある出店を覗きながら2人で花火を見られたら最高のデートになるだろう、と。その後は…と考えて、自分の家にも相手の家にも同居人が居る事を思い出し、そこで妄想は途切れた。


店内に入ると、正面の一番目立つ場所にエキゾチック衣装を着たマネキンと、色取り取りの柄の衣装がハンガーに掛けられていた。この配置からして、今日の目玉商品であることは間違いない。しかし、他の普段着の新商品コーナーに比べて人は少なく感じた。

(可愛い柄もあるけれど……そうよね。着なれないものって手を出すのに勇気がいるもの)

ユンは人の疎らな納涼祭コーナーに立ち、その場で切ることが出来る試着用の衣装を羽織って見た。近くに設置された鏡で一枚布を肩に掛けた自分の姿を確認してみると、悪くない気がした。

「ふうん…あのベルトと合わせると…どうかしら…」
「いらっしゃいませ」
「ああ、どうも店長さん」

エキゾチック衣装が気になっている様子のユンにライアが声を掛けた。衣装が気になっている人は遠巻きに見ており、中々手に取ってくれない。だがユンは入店してすぐに手に取ってくれたので、興味があると思ったからだ。

「この衣装、浴衣っていう着物と帯…ベルトね。組み合わせが自分の好みで出来るからお勧め。髪飾りもちょっと大きめのを付けても違和感はないし、とても素敵。気に入ったのはある?」
「そうね~……これと…これかな?」

ユンが選んだのは、明るい青系統の色合いに大輪の花が散りばめられた浴衣と、白と黄緑二色の色の帯であった。ライアはそれを受け取ると、こっちと言ってユンを試着室に案内した。

「一式着てみるとまた違うものよ?着付けてあげる」
「忙しいんじゃないの?お店の中、こんなにお客さんが居るし」
「臨時アルバイトを雇っているから大丈夫。それに貴女が着てるのを見たら、他の足踏みしている人も手に取ってくれるかもしれないから」

ライアは浴衣と帯に加えて、アクセサリーコーナーにある大輪の花を模した髪留めを手に取って、ユンと共に試着室に入った。暫くするとユンの「可愛い~!」という声が試着室の中から聞こえ、こっそり様子を伺っていた客達が、ユンがどんな様子で出てくるか気にしている。試着室の中では他の客に聞こえないようにコソコソと、ある秘密の交渉が行われていた。

「このまま着て行ったら、帯の分タダ…!?」
「ええ…どうかしら?確か貴女うちの妹も参加するキュート選手権の審査委員長よね?今日一日着てくれるなら、このアクセサリーも付けるわ」
「あら、賄賂は選手権規則違反よ?」
「これは選手権とは関係なく、うちの店の売り上げに貢献してほしいってお願い。この夏の目玉商品で、反応が良かったらこれから季節物として定期的に売り出していきたいの」

ユンは少し考えて、了承を伝えた。

「ありがとう。それじゃあ、タグここで切っちゃうわね」

ライアはポケットから鋏を取り出した。

「用意がいいわね~?」
「ふふ、商売はスピードが大事な時もあるから」

ユンが浴衣を着て試着室を出ると、周囲の視線が一気に集まった。髪止めで飾られた薄いピンク色の髪も、夏らしく涼しそうなヘアアレンジとなっている。ユンがレジにて会計をすると、夏用の袋に着ていた衣類を入れてライアが手渡した。袋の中には浴衣の着付けの仕方とお勧めヘアアレンジがわかり易く記された紙が入っている。他の客に聞こえる位に、商品を購入して店を後にするお客様に挨拶をする。

「お買い上げ有難うございましたー!」

周りの客達は横を堂々と通り過ぎるユンの姿を見て、1人、また1人と納涼祭コーナーに集まってくる。ユンが店に来る以前に、納涼祭コーナーで踏ん切りがつかずにいた客がライアに声を掛けた。

「あの…さっきの人みたいに……着て行けるんですか?」
「ええ、今日お買い上げ頂いたお客様に着付けのサービルをしています。次回着る時は、一緒にお渡しする着付けについての説明の紙を読んで頂けたら、御自分でも着付けができるので」
「それじゃあ、お願いします…!」

1人2人と浴衣を着て店を出て行くと、興味を持った人が店を訪れてくれる。手に持ったリリナグリリィと書かれた紙袋も宣伝になっている。疎らだった納涼祭コーナーが新商品のコーナーと同じくらい人が集まり、着付け待ちの客が出るほどだ。ライアは手応えを感じ、心の中でグッと拳を握った。


浴衣を着たユンは一度普段着を家に置いて、それからまた家を出た。午後の演説までに昼食を食べて、校庭にて審査委員長として同席しなければいけない。時間的にはまだ余裕があるので、海の方で開催されているイベントを覗きつつ、腹を満たすことにした。

「海鮮大食い大会…本当は出たかったけれど、あまり食べすぎると動きたくなくなっちゃうから参加できないわね。残念。例年通りなら浜焼きと海鮮料理の出店がある筈ね」

リリナグの漁業関係者が所有する船舶が多数係留されている港に着くと、大きな建造物の側を通りがかる。そこでは朝水揚げされたばかりの新鮮な魚がセリに掛けられ、元気のいい声が響いている。ここで競り落とされた魚が氷に詰められて、町内の魚屋だったりレストランだったり、町外へと運ばれていくのである。ユンはそこを通り過ぎて、賑わいの声が大きくなる方角に進んで行く。

「次のエントリーはこの方々です!」
「あっもうやってるみたい…!」

ユンは小走りで建物の間を通り、港の開けた場所に出た。そこでは横一列にテーブルが置かれて、大食い大会の参加者が各々自分の席に着いて、競技開始を待っている。ユンは参加者を応援する集団の一番後ろで見学する事にした。

「うう~僕そんな大食漢じゃないのに…」
「僕だってそうだよ。下手したらスミより食べないよ?」
「何で参加しようなんて言ったのさ!ちゃんと参加費も取られるし!」
「食べ放題みたいな事かと思って…へへ、ごめんね?」
「僕午後からの運動大会で農業組合の選手に選ばれてるのに…!これじゃ腹の中に重石だよっ」
「はっはっは!僕だって飲食店組合の選手だ。一緒に重石抱えて午後に備えようじゃないか」

ユウトは自分の腹をポンポンと叩いた。スミは諦めた表情をして自分の席でうなだれた。そしていよいよ海鮮大食い大会の開始の合図である。参加者の隣には、食べ終わった皿を片付け、海鮮の盛りつけられた皿に交換する役目のサポーターがつく。スミの隣には、赤く長い髪を後ろで1つに縛った漁業関係者がついた。

「あれって…ニス?」
「時間制限は10分です。それではスタート!!」

参加者たちの前に、一斉に海鮮の盛り付けられた皿が置かれる。スミはとりあえず、イカの刺身を箸でとり醤油につけて口に入れる。

「美味しい……今は…」
「ほら!じゃんじゃん食べないと、元取れないよ!おじさん、おかわり!」

ユウトは早くも1皿目を片付けて、2皿目をサポーターに要求した。

「おおっと、早くも2皿目に突入している参加者がいるようですね!気になる2皿目のメニューはなんと…大盛り海鮮パエリアです!」

ユウトの前には薄く大きなフライパンに乗った、米料理が運ばれてきた。黄色く、色づいた米の上には輪切りのイカや黒い貝、大きな魚の切り身など、様々な種類の海鮮が乗っている。それはとても美味しそうな匂いを放ち、参加者とそれを応援する周囲の鼻をくすぐる。ユンも他の応援の人達も口々に美味しそうだと話す。それを聞いた司会の漁業関係者が、待っていましたと言わんばかりに宣伝をする。

「美味しそうですよね、この海鮮パエリア!なんとこれと同じものが、近くの出店で買えちゃいます!たくさんご用意しているので、皆さんご昼食にどうぞ!」

ユンは早くも大食い大会観戦を切り上げると、すぐさま司会が言っていた出店に向かって歩き出す。美味しいものには目がない。赤い髪のサポーターは、やっとのことでイカの刺身を食べ終えたスミの前に大盛り海鮮パエリアを置く。

「どうぞ…」
「半分…いや4分の1でお腹いっぱいだよ…」

スミはスプーンを手に取って多めに一口食べた。この芳しい香りを裏切らず、パエリアは絶品であった。他の参加者もパエリアに舌鼓を売っている暇はなく、急いで食べなければいけないのが惜しいほどだ。

「速さで勝負~!お腹いっぱいだと感じる前に、腹に入れちゃえば良いんだから」

ユウトはまだ全然余裕といった様子だ。そんな中、1人の参加者が人々の注目を集めた。

「早い早い早い!パエリア完食です!他の参加者の方は早い方でまだ半分程!マイスプーンとマイフォークをお持ちのエントリーナンバー10番の匿名希望さん、3皿目に突入しました!鼻から上をマスクで覆い、とてもミステリアスです!」
「は、早い……!」

参加者達も、そのサポーターも、10番の食べっぷりに見惚れ、手元口元が疎かになる。ここで司会が大差が付くと判断して10番の参加者にインタビューを敢行した。

「すごい食べっぷりですね!普段からこのくらい食べるんですか!?」
「…いえ、もぐ……普段は……もぐむぐ……かなり、むぐ……抑えています」
「今日の日の為に何か大食いの練習などは?」
「何も……最近…もぐもぐ…でなら、芸術祭の…もぐ…ケーキを……もっ……沢山食べました」

3皿目のイカの一夜干し(丸ごと)が敢えなく10番の歯に噛みちぎられていく。両手で獲物(一夜干し)を持って小さくポテンとした口で噛み付く姿は、捕食者さながらである。司会進行は、観客のボルテージが上がって来たのを感じ、さらに盛り上げる。

「さあ、10番の匿名希望さんに追いつける参加者はいるのか!?観客の皆様、どうぞこの戦いの結末を最後まで見届けて下さい!!尚、この大食い大会のメニューは全て、この港内の出店にて販売しておりますので、どうぞッお買い求めくださいぃ!!」

赤い髪のサポーターは、大きな一夜干しを見て2人にお土産として買って帰ろうかなとぼーっと考えた。スミはまだ大盛り海鮮パエリアから抜け出せていない。他の参加者はまだ気力でより多くのメニューを食べようと奮闘しているが、スミはもう息も絶え絶えだ。赤い髪のサポーターは暇だった。

「あ、あれユンちゃんじゃない?ご飯食べてるの?」
「本当だ…珍しい格好してるね?何か可愛い…」
「リリナグリリィの紙袋持ってるから、そこで買ったんじゃない?それに、あそこ結構奇抜な服もあるし」
「今確かセール中だよね?この間行ったけど、ご飯食べたら見に行ってみる?」

ユンはパエリアに舌鼓を打ち、ご機嫌でイベントを回る。
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