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罪人探し編
第34話 観劇に行こう!
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ニスが持つチケットは、公演中日。
前日に演劇を鑑賞した人々は、口々にその素晴らしさを述べ、その反響が新聞にも掲載されたことで、残り二日間のチケットを買い求める人がこのリリナグの市場でも看板を手に立っている。内容は、チケットを1~1,3倍の値段で買い取るというもの。譲渡の際に定められた上限は1,3倍まで。近くには2倍の値段でチケットを販売すると言うダフ屋も出てきて、それを取り締まる警備隊の仕事が増えた。偽物のチケットを販売している現場を取り押さえた事例もある。
グンカはイベントの開催時期が来るたびに増える違法行為にため息を吐きそうになる。いくら事前に取締りの告知をしても、必ず警備隊の目を掻い潜って不正に利益を得ようとする輩が現れる。本日6件目の違法ダフ屋を取り締まって帰還したユンが、逮捕者の書類を睨むグンカに軽口をたたく。
「イタチごっこは何時までも続くって事ですよ~、わたし達の仕事に終わりはありませんね~」
はいこれ、と渡されたのは、中央に送ったギャリアーの血液検査と、ニスの血液検査、そして貝殻に入っていた紅の成分検査の結果が入った封筒だった。まだ開けられた形跡はない。
「先程届いたのか?」
「見回りの途中にね~。郵便屋さん忙しそうだったから、警備隊宛ての郵便物貰ってきたの~」
そう言うとユンは、封筒の宛名を見て本人宛てと部門宛てに分ける。グンカは受け取った封筒をじっと見て、今開封するかどうか考える。その横顔をチラチラと盗み見ていたランが、時計を確認してグンカに進言した。
「隊長、そろそろ退勤のお時間では?」
ランに言われて時計を見ると、数分超過していた。
持っていた封筒の中身が気になるが、引き出しに仕舞って鍵を掛けた。
「ああ、そうだな…本日はこれで退勤する」
「隊長隣町に劇を見に行くんですよね~?」
ユンの言葉に、周りの警備隊員がわあと騒ぐ。警備隊内でも初日に演劇を見に行った者が複数おり、その評判を広めていた。ユンが観劇の予定がある事を知っているのは、ユンと勤務を交代したからである。先日休憩時間を交代した礼、というにはつり合わないが、演劇のパンフレットを買って見せてほしいというユンのお願いには頷いた。隊員達は羨ましい、明日のチケット状況を聞いてほしい、と大分興味がある様子だ。それはランも同じで。
「羨ましい……私が隣町まで買いに行った時は目の前で売り切れて…悔しい思いをしました」
「それは…不運だったな」
「隊長いつ買いに行ったんですか~?リリナグから出てないですよね~」
警備隊の幹部以上は、勤務地リリナグから出る時は事前の報告が必要になる。休日の際にも、報告なしにリリナグの町から出てはいけない決まりがあった。そしてグンカの勤務表には、リリナグを出た記録が無かった。チケットは隣町に前のりしている劇団員が設置した、仮設チケット売り場で販売していた。
「ニスがチケットを貰ったんだ、3人分」
「ニスが…?」
「珍奇世界商店という乾物屋の手伝いをしたら貰ったと」
「な、なんです~?その店…」
その店名に引き攣った顔をするユン。一方ランはニスを介してその店と関わりを持っていたので、平坦な反応だった。
「白装束の乾物屋だ。偶に我が家の食卓にも、そこの干物を出しているぞ」
「ええっ!?」
「あの肉屋の隣の…?」
「まさか…昨日の……お肉…」
「ああ、そこで買い求めた」
ユンはショックを受ける。町でも有名な怪しい店の怪しい干物を口にしてしまったショックだった。双子の姉の狼狽える様子に、昨夜の夕食担当のランは少しむくれる。
「ユンなんて、美味しい~!と言って二度もおかわりしていただろう?」
「お、美味しいは美味しいけど~…」
「む、米櫃を空にしたくせに、私の料理にけちをつけるのか?」
「ランのお料理じゃなくて~…素材が…」
双子の諍いは、立ち上がったグンカによって中断した。
「わ、私はそろそろ上がるぞ…」
巻き込まれぬうちに退散しようとしたグンカの腕をユンが掴んだ。それを見たランも制服の片腕の部分を遠慮気味に引いた。
「パンフレットよろしくね~」
「後で感想を聞かせてください…!」
「わ、わかった…」
キラキラと目を輝かせる双子に見送られて、グンカは家路に急いだ。通り過ぎる隣町行きの馬車にはかなりの数の人が乗っている。
「おっ!来たな」
「お帰り…」
「少し遅れたか?」
「いや、余裕だろ。荷馬車が無理なら歩いても公演には間に合うからな」
家に入って制服から普段着に着替える。店の前で待っていた2人も、朝に着ていた作業着から普段着になっていた。
大衆演劇なので、ドレスコードはない。グンカが最後に戸締りを確認して、貰った鍵で施錠すると2人に合流した。
「じゃあ、行くか。チケットは?」
「持ってる」
ニスは買い物鞄から封筒を出して、中から3枚のチケットを出して見せた。公演の日付も合っている。ギャリアーがよし、と言うとニスは大切に鞄の底にチケットを置いた。鞄の中には財布とハンカチ、巾着に入った家の鍵が入っている。3人は馬車乗り場に向かった。
「おお…結構混んでるな。ニス、つかまってな」
「うん…」
馬車が集まる町の出入り口の近く。人の行列が出来ており、人数が集まり次第次々に出発している。臨時の馬車が出ているが、それでも3人の乗る順番がいつ来るかわからない。
「どうする?歩くか?」
「そうだな…」
「間に合うように行くなら…」
3人はいつ馬車に乗れるかわからないので、歩いて行くことにした。町の出入り口には、検問の警備隊が立っており、行き来する人々、荷馬車の荷物検査をしている。
「馬車に乗っている人も検査するの?」
「ああ、荷馬車以外の馬車には警備隊の交通部門の隊員が乗車しているからな。潜源石を探知する動物の力を借りて、乗車する人間から潜源石の匂いがした場合、それを隊員に伝えてくれる。あの出入り口での手荷物検査の際も、潜源石の匂いがする人間がいないか窺っている」
グンカが指さすと、全員が乗った馬車から警備隊の制服を着て動物を連れた隊員が降りてくるところだった。
「俺達には無臭だが、あの動物には探知できるみたいだな」
「潜源石に香水など強い香りをもつものをふりかけても探知できる。加工後は反応しないが」
3人は町の出入り口の手荷物検査の列に並ぶ。段々と順番が近づいてくると、ギャリアーが「あ」と声を出した。
「何だ?」
「俺、原石触ったが大丈夫か?」
「少し止められるかもしれないが、まあ問題ないだろう。持っていなければ問題ない」
最初にニスが検査を受けて、その次にギャリアーが検査を受けていると、動物を連れた警備隊員が近付いて来た。そしてギャリアーは別室に連れて行かれる。ニスがギャリアーを心配していると、今度はグンカが検査担当の警備隊員の前に立った。警備隊隊長となれば、すぐに通されるだろうとニスは思った。グンカも余裕そうに立っている。
「ご苦労」
グンカが隊員を労う。制帽と制服を着ている時ならば敬礼しているだろう。
「?……ああ、どうも。それじゃ検査するので立っててくださいね」
「……」
ところが、その警備隊員は隊長のグンカだとは気付かず、見慣れない人物として念入りに検査しだした。
「気づかれてない……」
ニスは殺人未遂の嫌疑で拘束されていた自分よりも、やたら長く検査を受けているグンカを哀れそうに見る。最初の余裕の表情は崩れ、自分だと気付かない隊員に対し目で訴えている。隊員はその鋭い目つきに怪しい気配を感じて靴の中まで調べた。幸い動物は反応していなかったので、隊員は最後まで疑念を抱きながらグンカを渋々通した。先に解放されていたギャリアーとニスが迎える。
「随分捕まってたな」
「フン……」
「怪しまれてたね……」
「~っ時間に遅れる!さっさと行くぞ!」
ずんずんと先を歩いて行くグンカの後ろを、早歩きをして着いてゆく2人。3人の横を荷馬車が何台も通り過ぎてゆく。初めて町の外に出たニスは、周りの景観を眺めながら隣町について聞いた。
「チケットには、サブリナ公演って書いてあるけど…どんな町なの…?」
「主要産業は林業と農業…畜産…等だな。ちなみに隣町では潜源石は採掘されない」
「近いのに…?」
「だから希少なんだ。リリナグの土地にしかない」
「リリナグへ向かう途中の町、というイメージだったが、最近は芸術、娯楽分野に力を入れているとの事だ。今回有名な劇団カメリア一座を誘致したのも、内外にアピールする為だろうな」
「隣町だけど結構違うよなー。今日は演劇が終わる頃には夜になるから観光する時間はあまり無いが、始まる前に少し町を回ってみるか?」
「うん、少しだけ…」
ニスが町について質問するのは、単純な観光目的ではない。
警備隊詰所で見た容疑者たちの人相書き、そのグループの仲間の1人がその町で捕まった。リリナグと隣町を移動し、盗品を捌いていた。グループについて何か手掛かりがあるかも知れないとニスは考えた。次来る時の為に、ある程度町の様相を把握しておいた方がいい。
町の入り口、警備隊の手荷物検査は簡単に通ることが出来た。これからは1人でも隣町に足を伸ばせる。徒歩で行ける距離ならばその日の明るいうちに帰ることもできる。
「楽しみね…」
ニスが2人の間で微笑んだ。ギャリアーは珍しいものを見たと思いながら、そうだなと返事をして笑顔を向けた。一方でグンカは、その微笑みに既視感を感じた。刑事部門のティタンから話を聞いている時の口角が上がった赤い唇。あの時、隣町で男が捕まったという情報をニスも得たはず。この公演のチケットをギャリアーとグンカの前に出した時、ほんの少しグンカには疑う心があった。しかし、それとなくチケットの元の持ち主、乾物屋店員に確認すると、自分が礼に渡した物だと肯定のジェスチャーが返ってきた。ニスの意志とは別に手に入れたものだ。それに安心した自分が居た。
町を出て、検問の警備隊が小さく見える距離程進むと、後ろから馬車の走る音が近づいてきた。ガタガタと音を鳴らして、結構な人数が乗っているのだろうと3人は馬車を振り返る。
「ん?」
「あれは…」
3人の目には、通常より乗用部分の天井が高い馬車が見えた。
「大きいな…」
「要人でも乗っているのか…」
その馬車は3人のすぐ先で止まると、中から1人出て来て手を振った。
「お婿さ~ん!おねえさ~ん!」
海猫運輸の娘達の妹の方、ベンガルだった。彼女はどしどしと3人の方に駆けてくる。3人は徐々に顔を天に向けていった。
「と、おにいさん!お散歩ですか?演劇ですか?」
ベンガルは首を傾けて3人に聞いた。
「演劇…」
「3人で隣町に向かってるところだ。ベンガルは…配送、か?」
「あたしも演劇観に行くんです、お姉ちゃんと!ママに伝手があって社員、家族行きたい人全員で行こうって話になって、この馬車はあたしとお姉ちゃん用の天井が高いやつです」
馬車の小窓から姉のライアが手を振っている。
「まだ席はありますから、乗って行きますか?お話もしたいです」
ベンガルは甘えるようにギャリアーとニスを腕に包んだ。ギャリアーは苦笑いを浮かべ、グンカとニスに判断を委ねる。中にはライアの他に2人の父親も乗っているようだ。ギャリアーは少々気まずい思いをするが、この馬車に乗れば時間は大分余裕である。
「ご好意に甘えようか」
「うん…乗せてくれる?」
「あたしの膝にですね?それともあたしがおねえさんの膝に乗りますか?」
馬車の中は広く、ニスの膝を枕にしてベンガルが横になれる程のスペースがあった。
「ごめんなさいね、ニス。この子ったら甘えん坊で」
ライアはニスの隣に座り、妹の頭を撫でている。
「やっと15歳に成れたので、このちょっとえっちな演劇を見る許可を得られたんですよ。思春期なのでドキドキします」
「…本当に連れて行っていいのか?」
「年齢的には問題ないから…」
グンカの質問にライアが困った顔で答える。
ベンガルはニスの手を取り自分の心臓に当てると、確かにニスに早まる鼓動が伝わってくる。
「あたしが前編んだやり方で、髪してますね」
「俺がやったんだ。折角のお出掛けだから少しおめかし。上手いもんだろ?」
自慢げに笑うギャリアーに、ベンガルは親指を立てて合格を与えた。
「君はうちの娘の事をどう考えているのかね?そのお嬢さんとは…」
「あっ…いや、それは…奥さんが…」
場所の隅に座ったギャリアーのすぐ側にピッタリとくっついて座る父親。母親が娘と同じ年頃だったら、このギャリアーを選ぶと話していた事を聞き、本気で娘と結婚する気があるのか、愛しているのか確かめるつもりだ。
飄々としたギャリアーも、隣町に着くまで父親の質問攻めに遭い、憔悴した。
前日に演劇を鑑賞した人々は、口々にその素晴らしさを述べ、その反響が新聞にも掲載されたことで、残り二日間のチケットを買い求める人がこのリリナグの市場でも看板を手に立っている。内容は、チケットを1~1,3倍の値段で買い取るというもの。譲渡の際に定められた上限は1,3倍まで。近くには2倍の値段でチケットを販売すると言うダフ屋も出てきて、それを取り締まる警備隊の仕事が増えた。偽物のチケットを販売している現場を取り押さえた事例もある。
グンカはイベントの開催時期が来るたびに増える違法行為にため息を吐きそうになる。いくら事前に取締りの告知をしても、必ず警備隊の目を掻い潜って不正に利益を得ようとする輩が現れる。本日6件目の違法ダフ屋を取り締まって帰還したユンが、逮捕者の書類を睨むグンカに軽口をたたく。
「イタチごっこは何時までも続くって事ですよ~、わたし達の仕事に終わりはありませんね~」
はいこれ、と渡されたのは、中央に送ったギャリアーの血液検査と、ニスの血液検査、そして貝殻に入っていた紅の成分検査の結果が入った封筒だった。まだ開けられた形跡はない。
「先程届いたのか?」
「見回りの途中にね~。郵便屋さん忙しそうだったから、警備隊宛ての郵便物貰ってきたの~」
そう言うとユンは、封筒の宛名を見て本人宛てと部門宛てに分ける。グンカは受け取った封筒をじっと見て、今開封するかどうか考える。その横顔をチラチラと盗み見ていたランが、時計を確認してグンカに進言した。
「隊長、そろそろ退勤のお時間では?」
ランに言われて時計を見ると、数分超過していた。
持っていた封筒の中身が気になるが、引き出しに仕舞って鍵を掛けた。
「ああ、そうだな…本日はこれで退勤する」
「隊長隣町に劇を見に行くんですよね~?」
ユンの言葉に、周りの警備隊員がわあと騒ぐ。警備隊内でも初日に演劇を見に行った者が複数おり、その評判を広めていた。ユンが観劇の予定がある事を知っているのは、ユンと勤務を交代したからである。先日休憩時間を交代した礼、というにはつり合わないが、演劇のパンフレットを買って見せてほしいというユンのお願いには頷いた。隊員達は羨ましい、明日のチケット状況を聞いてほしい、と大分興味がある様子だ。それはランも同じで。
「羨ましい……私が隣町まで買いに行った時は目の前で売り切れて…悔しい思いをしました」
「それは…不運だったな」
「隊長いつ買いに行ったんですか~?リリナグから出てないですよね~」
警備隊の幹部以上は、勤務地リリナグから出る時は事前の報告が必要になる。休日の際にも、報告なしにリリナグの町から出てはいけない決まりがあった。そしてグンカの勤務表には、リリナグを出た記録が無かった。チケットは隣町に前のりしている劇団員が設置した、仮設チケット売り場で販売していた。
「ニスがチケットを貰ったんだ、3人分」
「ニスが…?」
「珍奇世界商店という乾物屋の手伝いをしたら貰ったと」
「な、なんです~?その店…」
その店名に引き攣った顔をするユン。一方ランはニスを介してその店と関わりを持っていたので、平坦な反応だった。
「白装束の乾物屋だ。偶に我が家の食卓にも、そこの干物を出しているぞ」
「ええっ!?」
「あの肉屋の隣の…?」
「まさか…昨日の……お肉…」
「ああ、そこで買い求めた」
ユンはショックを受ける。町でも有名な怪しい店の怪しい干物を口にしてしまったショックだった。双子の姉の狼狽える様子に、昨夜の夕食担当のランは少しむくれる。
「ユンなんて、美味しい~!と言って二度もおかわりしていただろう?」
「お、美味しいは美味しいけど~…」
「む、米櫃を空にしたくせに、私の料理にけちをつけるのか?」
「ランのお料理じゃなくて~…素材が…」
双子の諍いは、立ち上がったグンカによって中断した。
「わ、私はそろそろ上がるぞ…」
巻き込まれぬうちに退散しようとしたグンカの腕をユンが掴んだ。それを見たランも制服の片腕の部分を遠慮気味に引いた。
「パンフレットよろしくね~」
「後で感想を聞かせてください…!」
「わ、わかった…」
キラキラと目を輝かせる双子に見送られて、グンカは家路に急いだ。通り過ぎる隣町行きの馬車にはかなりの数の人が乗っている。
「おっ!来たな」
「お帰り…」
「少し遅れたか?」
「いや、余裕だろ。荷馬車が無理なら歩いても公演には間に合うからな」
家に入って制服から普段着に着替える。店の前で待っていた2人も、朝に着ていた作業着から普段着になっていた。
大衆演劇なので、ドレスコードはない。グンカが最後に戸締りを確認して、貰った鍵で施錠すると2人に合流した。
「じゃあ、行くか。チケットは?」
「持ってる」
ニスは買い物鞄から封筒を出して、中から3枚のチケットを出して見せた。公演の日付も合っている。ギャリアーがよし、と言うとニスは大切に鞄の底にチケットを置いた。鞄の中には財布とハンカチ、巾着に入った家の鍵が入っている。3人は馬車乗り場に向かった。
「おお…結構混んでるな。ニス、つかまってな」
「うん…」
馬車が集まる町の出入り口の近く。人の行列が出来ており、人数が集まり次第次々に出発している。臨時の馬車が出ているが、それでも3人の乗る順番がいつ来るかわからない。
「どうする?歩くか?」
「そうだな…」
「間に合うように行くなら…」
3人はいつ馬車に乗れるかわからないので、歩いて行くことにした。町の出入り口には、検問の警備隊が立っており、行き来する人々、荷馬車の荷物検査をしている。
「馬車に乗っている人も検査するの?」
「ああ、荷馬車以外の馬車には警備隊の交通部門の隊員が乗車しているからな。潜源石を探知する動物の力を借りて、乗車する人間から潜源石の匂いがした場合、それを隊員に伝えてくれる。あの出入り口での手荷物検査の際も、潜源石の匂いがする人間がいないか窺っている」
グンカが指さすと、全員が乗った馬車から警備隊の制服を着て動物を連れた隊員が降りてくるところだった。
「俺達には無臭だが、あの動物には探知できるみたいだな」
「潜源石に香水など強い香りをもつものをふりかけても探知できる。加工後は反応しないが」
3人は町の出入り口の手荷物検査の列に並ぶ。段々と順番が近づいてくると、ギャリアーが「あ」と声を出した。
「何だ?」
「俺、原石触ったが大丈夫か?」
「少し止められるかもしれないが、まあ問題ないだろう。持っていなければ問題ない」
最初にニスが検査を受けて、その次にギャリアーが検査を受けていると、動物を連れた警備隊員が近付いて来た。そしてギャリアーは別室に連れて行かれる。ニスがギャリアーを心配していると、今度はグンカが検査担当の警備隊員の前に立った。警備隊隊長となれば、すぐに通されるだろうとニスは思った。グンカも余裕そうに立っている。
「ご苦労」
グンカが隊員を労う。制帽と制服を着ている時ならば敬礼しているだろう。
「?……ああ、どうも。それじゃ検査するので立っててくださいね」
「……」
ところが、その警備隊員は隊長のグンカだとは気付かず、見慣れない人物として念入りに検査しだした。
「気づかれてない……」
ニスは殺人未遂の嫌疑で拘束されていた自分よりも、やたら長く検査を受けているグンカを哀れそうに見る。最初の余裕の表情は崩れ、自分だと気付かない隊員に対し目で訴えている。隊員はその鋭い目つきに怪しい気配を感じて靴の中まで調べた。幸い動物は反応していなかったので、隊員は最後まで疑念を抱きながらグンカを渋々通した。先に解放されていたギャリアーとニスが迎える。
「随分捕まってたな」
「フン……」
「怪しまれてたね……」
「~っ時間に遅れる!さっさと行くぞ!」
ずんずんと先を歩いて行くグンカの後ろを、早歩きをして着いてゆく2人。3人の横を荷馬車が何台も通り過ぎてゆく。初めて町の外に出たニスは、周りの景観を眺めながら隣町について聞いた。
「チケットには、サブリナ公演って書いてあるけど…どんな町なの…?」
「主要産業は林業と農業…畜産…等だな。ちなみに隣町では潜源石は採掘されない」
「近いのに…?」
「だから希少なんだ。リリナグの土地にしかない」
「リリナグへ向かう途中の町、というイメージだったが、最近は芸術、娯楽分野に力を入れているとの事だ。今回有名な劇団カメリア一座を誘致したのも、内外にアピールする為だろうな」
「隣町だけど結構違うよなー。今日は演劇が終わる頃には夜になるから観光する時間はあまり無いが、始まる前に少し町を回ってみるか?」
「うん、少しだけ…」
ニスが町について質問するのは、単純な観光目的ではない。
警備隊詰所で見た容疑者たちの人相書き、そのグループの仲間の1人がその町で捕まった。リリナグと隣町を移動し、盗品を捌いていた。グループについて何か手掛かりがあるかも知れないとニスは考えた。次来る時の為に、ある程度町の様相を把握しておいた方がいい。
町の入り口、警備隊の手荷物検査は簡単に通ることが出来た。これからは1人でも隣町に足を伸ばせる。徒歩で行ける距離ならばその日の明るいうちに帰ることもできる。
「楽しみね…」
ニスが2人の間で微笑んだ。ギャリアーは珍しいものを見たと思いながら、そうだなと返事をして笑顔を向けた。一方でグンカは、その微笑みに既視感を感じた。刑事部門のティタンから話を聞いている時の口角が上がった赤い唇。あの時、隣町で男が捕まったという情報をニスも得たはず。この公演のチケットをギャリアーとグンカの前に出した時、ほんの少しグンカには疑う心があった。しかし、それとなくチケットの元の持ち主、乾物屋店員に確認すると、自分が礼に渡した物だと肯定のジェスチャーが返ってきた。ニスの意志とは別に手に入れたものだ。それに安心した自分が居た。
町を出て、検問の警備隊が小さく見える距離程進むと、後ろから馬車の走る音が近づいてきた。ガタガタと音を鳴らして、結構な人数が乗っているのだろうと3人は馬車を振り返る。
「ん?」
「あれは…」
3人の目には、通常より乗用部分の天井が高い馬車が見えた。
「大きいな…」
「要人でも乗っているのか…」
その馬車は3人のすぐ先で止まると、中から1人出て来て手を振った。
「お婿さ~ん!おねえさ~ん!」
海猫運輸の娘達の妹の方、ベンガルだった。彼女はどしどしと3人の方に駆けてくる。3人は徐々に顔を天に向けていった。
「と、おにいさん!お散歩ですか?演劇ですか?」
ベンガルは首を傾けて3人に聞いた。
「演劇…」
「3人で隣町に向かってるところだ。ベンガルは…配送、か?」
「あたしも演劇観に行くんです、お姉ちゃんと!ママに伝手があって社員、家族行きたい人全員で行こうって話になって、この馬車はあたしとお姉ちゃん用の天井が高いやつです」
馬車の小窓から姉のライアが手を振っている。
「まだ席はありますから、乗って行きますか?お話もしたいです」
ベンガルは甘えるようにギャリアーとニスを腕に包んだ。ギャリアーは苦笑いを浮かべ、グンカとニスに判断を委ねる。中にはライアの他に2人の父親も乗っているようだ。ギャリアーは少々気まずい思いをするが、この馬車に乗れば時間は大分余裕である。
「ご好意に甘えようか」
「うん…乗せてくれる?」
「あたしの膝にですね?それともあたしがおねえさんの膝に乗りますか?」
馬車の中は広く、ニスの膝を枕にしてベンガルが横になれる程のスペースがあった。
「ごめんなさいね、ニス。この子ったら甘えん坊で」
ライアはニスの隣に座り、妹の頭を撫でている。
「やっと15歳に成れたので、このちょっとえっちな演劇を見る許可を得られたんですよ。思春期なのでドキドキします」
「…本当に連れて行っていいのか?」
「年齢的には問題ないから…」
グンカの質問にライアが困った顔で答える。
ベンガルはニスの手を取り自分の心臓に当てると、確かにニスに早まる鼓動が伝わってくる。
「あたしが前編んだやり方で、髪してますね」
「俺がやったんだ。折角のお出掛けだから少しおめかし。上手いもんだろ?」
自慢げに笑うギャリアーに、ベンガルは親指を立てて合格を与えた。
「君はうちの娘の事をどう考えているのかね?そのお嬢さんとは…」
「あっ…いや、それは…奥さんが…」
場所の隅に座ったギャリアーのすぐ側にピッタリとくっついて座る父親。母親が娘と同じ年頃だったら、このギャリアーを選ぶと話していた事を聞き、本気で娘と結婚する気があるのか、愛しているのか確かめるつもりだ。
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