ベノムリップス

ど三一

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不思議な同居編

第23話 宴会

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「物盗りが1件、潜源石の原石の持ち出しが4件内3件は悪意なしで放免、不審者通報1件」
「まあまあありましたね~?時間帯は~?」
「0時前4件、0時以降2件だ…」
「隊長~お疲れですね~?」
「…何のことはない。では、私は退勤する」

グンカが引き継ぎの隊員達に申し送りをして警備隊詰所を後にする。目の前の大通りは、通勤、通学の人で賑わいだしている。町を歩いて時折警備隊の隊員から挨拶をされながら、海辺のギャリアー宅へ向かう。

「一眠りしたら、店の予約をせねばな…」

グンカは連日好天気のリリナグの日差しに眩しそうに目を細め、あくびを噛み殺す。以前は自主的に超過勤務をして、眠気など無縁のものだった。しかしギャリアーの家で3人で暮らすようになって通常の勤務が続き、規則正しい生活を送っているうちに、人並みに眠気を感じるようになった。

グンカが家着くと、2人は既に起床しているようで、新聞がポストに入っていない。いつもは1番早起きのグンカが回収している。

「ただいま帰った」
「お帰りなさい…」
「お疲れさん」

ニスとギャリアーは朝御飯の準備中だった。2人とも寝間着の格好のままで、ニスは赤い長髪を緩く編んで下の方で結んでいる。部屋に上がってニスの側を通ると、相変わらず良い匂いがした。

2人はそれぞれ役割を分担しており、ギャリアーがバターを引いたフライパンでオムレツを作り、ニスがサラダを作っている。トントンと小気味良い音が眠気を誘う。

「朝飯は?」
「……起きてからで良い。身体を清めて寝る」

グンカは明るい浴室でシャワーを浴びた。汗を流し終わると、朝食の片づけをしている2人の横で寝床を用意する。寝転がった視点から2人の姿が見える。ニスの緩く結んでいる三つ編みの髪が、寝癖で先が跳ねている。

「あっ…」

皿を洗い終わったニスがグンカの側にしゃがんで、「中にヨーグルトもあるから」と話す。

「……わかった」

グンカは反対を向いて眠りに入る。

起きると2人の姿は無い。ギャリアーは店だとして、ニスは何処に行ったのだろう?ニスの行き先をギャリアーに聞くと、近くの工房にお使いだという。直ぐに帰るとも。

「私も少し出てくる」

ギャリアーに言い残して向いの店のドアを叩く。グンカが幹事を務めることとなった警備隊宴会の場所に選ばれたのは、喫茶うみかぜだった。

グンカは前半の営業時間終わりに来店し、何事かと警戒するウォーリーと、テーブルを拭いていたチャムに、宴会の予約をしたいと申し入れた。日時を伝えると、チャムがパタパタとカウンターから予約表を出して、その日の予約を確認する。

「叔父さん、仕入れは間に合う?」
「あ……えっと……人数によるが…」

ウォーリーはチャムに聞かれて、慌てて仕入れ先の事情を思い浮かべる。

「人数は20人程、多少前後するかも知れない。料理は任せるが取り分けやすい物だと助かる。料金は…」
「あっ……ああ…」

チャムは決まった事を予約表にウキウキと書き入れている。

「それでは頼む」
「ありがとうございましたー!」

チャムが元気にグンカを見送ると、ウォーリーに歩み寄る。

「どう?叔父さん」
「なんだ…?」
「あたしが3人の同居を勧めた理由の一つ!警備隊長のグンカさんがうちの前に住んでくれれば、話を聞いた警備隊員の人達が利用してくれる機会も多くなる。現にユンちゃんとランちゃんと一緒に来てた隊員さんも休日に来てくれるようになったし!」
「た、確かに…っ」
「グンカさんから今回大きい予約を貰った」
「おおっ!」
「これが【真うみかぜ計画】!それぞれを立てつつ、喫茶うみかぜにお客さんを呼び込む策だよ!」

チャムは自慢気に胸を張る。ウォーリーは商魂逞しい姪を尊敬の眼差しで見つめる。

「流石俺の姪っ子だ!賢いぜ!」
「よし、そうと決まったらメニューを決めよう!それとグンカさんはお酒も用意して欲しいって言ってたから、早めに酒屋さんに連絡しよう」
「おうっ!」

以前より多くなった客を捌きながら、喫茶うみかぜは、来る宴会に向けて大急ぎで準備を進める。


宴会当日。
ギャリアー宅の前の喫茶うみかぜからは、眩い明かりと盛り上がる声が溢れていた。

「う~ん!このおつまみ美味しい~!」
「肝醤油がまったりとして…」
「?…この醤油何か入っているのか?」

警備隊員は当初20名の予定から、少しだけ顔を出して帰った者も含めて30人にもなった。厨房では忙しく料理の準備と飲み物の準備をしている。嬉しい悲鳴だ。しかし人手が足りない。

「チャム、ユウトまだ酒屋か!?」
「さっき行ったばっかりだよ!飲むペースが早いからユウトももう何往復してるかっ」
「猫の手でも借りたいとはこの事だ!チャム、誰か臨時バイトいねえか!?片付けて運んでくれるだけでいい!」

チャムは次の皿を用意しながらぱっと思いついた2人の名前を言う。

「いい人選だ!バイト代は出すからってすぐ呼んで来てくれ!」
「わかった!」

チャムはエプロンを台に置いて、裏口から外に出て、心当たりに向けて走った。

その頃ギャリアー宅では、ニスとギャリアーが2人ソファに座って晩御飯を食べていた。今日のメニューは、ニスが先程6杯釣ってきたうちの2杯のイカの刺身と焼き魚をメインに、豆のスープ、サラダにバケット。

「…パンにサラダとイカ乗せると美味いな!」
「イカ、生だとコリコリ…甘くて美味しい…」
「これ無くなったらもう一杯捌くか?」
「うん」

2人仲良く、一つの長皿に乗ったイカの刺身を分け合って食べていると、裏口の扉をノックする音がした。

「2人とも~いる~!?」
「チャムだ、どうしたんだ?」

扉を開けるなり、チャムはお願い!と2人に向かって手を合わせる。


ニスとギャリアーは夕飯を冷蔵庫に仕舞って、喫茶うみかぜに連れられて行った。チャムから渡されたエプロンを付けて、ニスは髪を三つ編みにして白い三角布を被った。

「それじゃあ2人は配膳と回収ね。手が空いたらお皿洗いして貰って、お酒はこっちで作るから注文取ってきて。かなり飲むペース早いから、忙しくなるよ…!よろしく!」
「…まさかここでバイトする事になるとは」
「……あ、呼んでる」

ニスが厨房からホールに出ると、真っ先にグンカがニスを見つけて目を丸くする。

「…ご注文は?」
「あれえ?チャムちゃんじゃない?バイトさん?」
「…ええ」
「じゃあ、ビールジョッキで3杯と、ウィスキーロック、オレンジカクテルで」
「オレンジカクテルってあるか?チャム?」

ニスに続いてホールに出たギャリアーが聞くと、厨房の方からあると返事が返ってきた。

「あら~~ギャリアーさんじゃなあい」
「渦中の3人が一堂に会したわけですね~隊長~!」

酔っぱらった隊員がグンカに絡む。
グンカは3杯ほど飲んで頬を少し赤くしながら、面倒くさそうに隊員を見る。

「え~なになに?」
「隊長、この店員さん2人と一緒に暮らしてるんだぜー?」
「ええ~!グンカさん、一人暮らしでしたよね?え、寂しくなっちゃったとか?」
「そんな訳あるかっ…!」

グンカの周りには酒が入り無礼講となった隊員達が、普段は聞けない面白そうな話題を察知し集まってくる。

「3人で暮らすのってどうですか?楽しい?」
「…私は任務として」
「楽しそうだったわよ~!あの子と一緒に釣りに行ったりして、釣竿も買っちゃったんだから~」

よくギャリアー宅を訪れるユンが得た情報を隊員に披露する。

「ここは港町なのだから釣り位珍しくもない」
「え~前は趣味なんてないって言ってたのに、最近は釣りの話するじゃないですか!」
「そうそう!釣りに詳しい隊員にどの竿がいいか聞いてたって」
「素直に言えばいいのにね~?好きになっちゃったって~」

ユンの物言いを怒って咎めるが、その口は全く止まらない。

「絶対好きになったらメロメロになるタイプなんだから~」
「えっユンちゃん、グンカさんの恋愛話握ってんの?」
「隊長とは長い付き合いだからね~」
「聞きたーい!」
「こらっ待て!ユン!」

立ちあがろうとするグンカの前には、注文を取っていたニスがメモ帳を手にして立っていた。

「……」
「貴様…」
「あっ俺レモンサワーね!」
「あたし濁り白酒!」
「緑茶ハイ!」
「トマト!」
「……ご注文は?」

皆の注文を書き込んだニスは、最後にグンカの注文を聞く。

「…海中ワイン」
「空いた皿片付けるぞ」

ニスが厨房に帰る様子をじっと見るグンカ。その前をテキパキと片付けるギャリアーに周囲の興味が移った。

「技師さんですよね?そこの」
「ああ」
「どうして3人暮らしOKしたんですか?」

ギャリアーは少し考えて、柔和な笑みで言った。

「この隊長さんが、俺と彼女だけじゃ心配だって聞かないんだよ。俺だってあの子と2人きりの方が都合がいい」
「えー?何ー?」
「ユンに聞いたら独身だって言ってたから、そういう?」

警備隊女性陣が期待の目でギャリアーを見ている。ユンは度数の強い酒をショットで一気飲みして周りを沸かせている。

「隊長さんが居なかったら、口説いて嫁さんにしてたかも。…なんて」
「むっ…!!」

きゃあきゃあと黄色い声が上がる中、1人不機嫌そうな顔で酒を煽る双子の妹が居た。
グンカを恨めし気に見ながら、イカの焼き物を摘まむ。本当は2人きりで飲むはずだった酒は、大人数となってしまった。せめて2人きりの場面が作られるよう少人数でと願ったが、予想以上の参加希望者が集まった。職務の前の者や、予定があって短時間の参加、いつの間にか人数は増えていった。

「むう……」
「らーん!」
「ユンか…だいぶ出来上がっているな」
「飲まなきゃやってられないわよ~!」

ユンがボトルに口を付けて上品に飲む。ランが手を出すとそこに飲んでいたボトルを渡す。

「今夜は計画通りに行かなかったみたいだけど、頑張ったじゃない~!奥手なランにしては」
「まあな……自分でも、ちょっとだけ進歩だと思っている」

ランがボトルに口を付けると、再びユンにボトルを渡す。
町でも人気の美人双子姉妹の仲睦まじい様子に、警備隊員達はほおと熱いため息を吐く。

厨房ではホールの盛り上がりに、チャムが嬉しそうに微笑む。

「いいね、賑わってて」
「そうだな…忙しくて堪らねえが」
「お待たせ!酒追加来たよ!」

酒瓶が入った箱を荷台に乗せて、ユウトが裏口から入って来る。

「お疲れ様!丁度切れるとこだったよ!」
「お疲れさん。…珍しいのあんな」
「そこに居る警備隊の人、結構知ってる顔も多いからさ、うちの店に来た時頼むやつ持ってきた。単価は…」

ユウトがウォーリーに耳打ちする。

「おえっ!?そんなんで済むのかよ!」
「うち居酒屋だからね~他の店より安く仕入れられるんだよ」
「……俺の飲んでるの、本当はいくらなんだ」
「あっ、うちは薄めたりしてないからね?親の方針で。薄めて酩酊する客に出そうとしたら怒られたんだから」
「お前は本当に狡賢い…」
「叔父さん!締めの皿出来たよ!」

チャムの言われて慌てて仕事に戻るウォーリー。ユウトは側にあった椅子で疲れた足を数分休めると、自身も注文を取りに行った。流石に飲み屋の息子だけあって、営業トークが上手いとギャリアーは感心した。

「これなんか、肌に良い成分が~」
「これ飲めたら、もう酒好き名乗っていいね。渋いお兄さんにぴったり」
「…ボトルいっちゃいます?」

どんどん捌けていく酒のストックに、ウォーリーは初めてユウトの手腕を見た。

「……喫茶うみかぜ二号店、夢じゃねえかもな」

チャムとユウトの息のあった仕事を見て、しみじみとそう思った。


「隊長!ご馳走様です!」
「…ああ、気を付けて帰るように」

飲み放題以外の注文はグンカが持った。そのうちの飲み物半分位はユンが飲んだが、隊員達は揃ってお礼を言って家に帰ってゆく。ユンは複数名とユウトの家の飲み屋に行って飲み直すようだ。機嫌よくボトルを天に突き上げ、隊員同士肩を組んで町に消えて行った。

「…ふう」

グンカは生温い海風を涼しく感じる。酒をいつも以上に飲んで身体が熱っている。

「隊長!」
「ランか…」

「お前の提案のおかげで、皆英気を養えたと思う。感謝する」
「い、いえっ私は…」

ランは酒の勢いを信じてみることにした。

「良かったら…これから、飲み直しませんか…?2人で…」

上目使いでグンカを見上げるラン。
赤くなった頬は酒のせいだけではない。

「いや、今夜は少々飲みすぎた。帰るとする」
「そ、そうですか」

しょんぼりと小さくなるランに、グンカはふと思い当たることがあった。

「祭りが終われば、またユン辺りが宴会だと騒ぎ出すだろう。その時にでも時間を作ろう」
「は、はいっ!約束ですからね、隊長…!」

グンカはランが職務上の事などで、ストレスを溜めているのだろうと思った。最近のランの様子がおかしいこともそれで説明がついてしまう。部下の愚痴を聞くのも、上司である自分のだと、口を緩ませて喜ぶランを見る。

「それではっ失礼します!」
「気を付けて」

ランを見送ると、手伝いを終えて喫茶うみかぜから出てくる2人に声を掛けられた。

「ほら、ウォーリーがもたせてくれたんだ」
「今夜のお料理」

ニスの手には大きめのタッパーが二つ入った袋。そしてそこから覗く封筒。

「少しの時間だったけどね…」
「俺までバイト代貰っちゃったな」
「…大分忙しくさせただろうからな。警備隊の今日来ていた者達は酒好きも多かった」
「それでね…」
「?」

ニスとギャリアーが後ろに持っていた物をグンカに見せる。それぞれ一本ずつ酒瓶を持っていた。

「これはユウトから。お礼は今度ユウトの家の店に来てくれればいいってさ」
「…商魂逞しいな」

グンカは狡賢そうな顔をした少年を思い出す。

「それとな、今日ニスが釣ってきたイカがあるんだ」
「ほう」
「それで飲み直そうって……」

2人は如何にイカが美味しかったか語る。夕飯の途中で抜けてきて、まだ食べ終えていないことも話した。

「はあ……私はもうだいぶ飲んだぞ…飲めて1、2杯だ」
「イカの刺身にする…?」
「焼くのもいいよなあ…」

3人は台所に立って酒を飲みながらイカを摘まむ。
ユウトの酒のセレクトは的確で、飲みやすい種類だった。
明るい光と楽しげな声は、喫茶うみかぜからギャリアー宅に移った。

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