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学舎編
勇猛と無謀
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五島師の意識の配分は、第二陣の神様候補と壁際で様子を伺っている神様候補に分かれている。八割は第二陣、二割は壁際。大半は様子見であるが、一部虎視眈々と戦果を狙う不届き者も混じっている。師は第二陣との交戦中に壁側からの不意打ちの攻撃を常に警戒している状態であるが、やはり意識を割いているのは第二陣。特に攻撃の意思が読み辛い他夏であった。神様でもない神様候補の作り出した火球が命中したところで五島の蛸肌に火傷を与える事はまずないが、今回の体力訓練初回講義の方針として、“各々の力量を確認する”“全ての攻撃を回避する”と五島自身が決めていた。前者は今日以降の講義での指導の為、後者は神様候補達に挫折を味あわせて、座を得るまでの間気を抜かせないようにする為である。同胞である神様候補達が戦っている姿を目にすれば、嫌が応でも己の力量が他者と比較して優っているのか劣っているのか理解するだろう。現状に危機感を持って絶えず修練に励ませるよう意図してこの初回講義を行っている。仮にこの中で一番の戦闘力を持っていたとしても、五島によって他の神様候補と同様にやり込められて粘液塗れとなるという恥を経験したならば、簡単には慢心に繋がらないであろう、という茂籠茶老の考えである。
(火球の青年を抱える者が動き出したな…こちらはわかりやすく攻撃の隙を狙っている。その殺気を隠さぬ限りこの触腕はいつでもその足を絡め取る準備が出来ているぞ…)
雷蔵の動きを気取りながら他の神様候補の攻撃をいなして弾き飛ばす。現在第二陣の中での意識の割合は、他夏雷蔵組が4割となっていた。少々数を減らした第二陣の中で、純粋に損傷に至る攻撃手段を持っているのは唐梳である。注意すべきはその刀に切られる事。しかし、その刀を扱う本体はまだ完成されていないというのが五島の見立てである。故に他夏雷蔵組に次いで警戒しているのが唐梳オウソウ組だ。その他は同様の割合である。
「他夏、火術を蛸に向かって投げろ…!」
「ぁー……」
「駄目か…!」
タンタンタンタンッと渇いた床を走り、粘液の線を素早く飛び越える。雷蔵がいくら走っても、五島師の警戒が途切れる事はない。試にそこらへんに落ちていた投げ物を拾って投擲してみても、全身に目が付いているのかと疑う程に正確に回避する。
(化物みたいな反応だな、投げる所も投げられた物も一切見てねえのに)
雷蔵は走りながら他夏を抱え直して、首に巻き着いている片方の腕の位置を肩に移動させた。
「頼むからまだじっとしててくれよ、他夏。攻撃を俺に向けてくれるなよ」
相変わらず火球を眺めている他夏に、半分も期待していないお願いを告げる。返事はない。雷蔵はふうと息を吐いて師の周囲を駆けていた足を止めた。上手く粘液のない場所に立ち止まったが、その場所は巨大な蛸が一番の迫力で見上げられる正面。二本の触腕を掻い潜らねば一撃を与えられないどころか、墨を吐く漏斗の正面でもある。
「死地だな」
冷や汗がこめかみを伝っていった。
「勇猛は評価に値するが、無謀はその逆だぞ……金鱗背負いし雑魚」
触腕で絡め取った神様候補を軽く投げ捨てて、二本の腕両方が自由になる。師の周囲を取り囲んでいた第二陣の面々も、壁際の面々も、大蛸の前に勇ましく立つ雷蔵に注目している。
「無謀な他夏の火球を必死こいて避けてたじゃねぇか、この蛸野郎」
師に対して無礼な言葉を浴びせた雷蔵に、神様候補達はざわつく。五島は背後から突こうとする木剣を奪った後、所有者に投げつけながらギョロリと目玉を動かした。
「挑発も戦法のうち、どうにも深海の如く冷静な頭が企みを看過しようと作用しているが………正面に立つその意気に免じて乗ってやろう…!」
吸盤の一つひとつが雷蔵を捕らえんとする意志のもと凶悪に蠢いている。
(火球の青年を抱える者が動き出したな…こちらはわかりやすく攻撃の隙を狙っている。その殺気を隠さぬ限りこの触腕はいつでもその足を絡め取る準備が出来ているぞ…)
雷蔵の動きを気取りながら他の神様候補の攻撃をいなして弾き飛ばす。現在第二陣の中での意識の割合は、他夏雷蔵組が4割となっていた。少々数を減らした第二陣の中で、純粋に損傷に至る攻撃手段を持っているのは唐梳である。注意すべきはその刀に切られる事。しかし、その刀を扱う本体はまだ完成されていないというのが五島の見立てである。故に他夏雷蔵組に次いで警戒しているのが唐梳オウソウ組だ。その他は同様の割合である。
「他夏、火術を蛸に向かって投げろ…!」
「ぁー……」
「駄目か…!」
タンタンタンタンッと渇いた床を走り、粘液の線を素早く飛び越える。雷蔵がいくら走っても、五島師の警戒が途切れる事はない。試にそこらへんに落ちていた投げ物を拾って投擲してみても、全身に目が付いているのかと疑う程に正確に回避する。
(化物みたいな反応だな、投げる所も投げられた物も一切見てねえのに)
雷蔵は走りながら他夏を抱え直して、首に巻き着いている片方の腕の位置を肩に移動させた。
「頼むからまだじっとしててくれよ、他夏。攻撃を俺に向けてくれるなよ」
相変わらず火球を眺めている他夏に、半分も期待していないお願いを告げる。返事はない。雷蔵はふうと息を吐いて師の周囲を駆けていた足を止めた。上手く粘液のない場所に立ち止まったが、その場所は巨大な蛸が一番の迫力で見上げられる正面。二本の触腕を掻い潜らねば一撃を与えられないどころか、墨を吐く漏斗の正面でもある。
「死地だな」
冷や汗がこめかみを伝っていった。
「勇猛は評価に値するが、無謀はその逆だぞ……金鱗背負いし雑魚」
触腕で絡め取った神様候補を軽く投げ捨てて、二本の腕両方が自由になる。師の周囲を取り囲んでいた第二陣の面々も、壁際の面々も、大蛸の前に勇ましく立つ雷蔵に注目している。
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「挑発も戦法のうち、どうにも深海の如く冷静な頭が企みを看過しようと作用しているが………正面に立つその意気に免じて乗ってやろう…!」
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