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学舎編
服に迷う
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昼餉を終えたナジュは桃栗達と一度別れ、自室で葛籠を漁り午後の講義に着て行く着物を見繕っていた。桃栗や丹雀は一緒に探そうか?と言ってくれたが、食事の時に化粧直しをしなければいけないと話していたので遠慮する事にした。丹雀は未だ羽織を頭から被っている為、化粧が必要であるかナジュにはよくわからなかったが。
「う~ん……汚れても良くて、動きやすい着物……駄目だ、皆貴重そうで綺麗な布だ。この中で一番古いの……俺が天界に来て目覚めてから着せられてたこの着物も、昔じゃ考えられない程すっげえ良さそうな生地なんだよなあ。現世に居た頃に着てたぼろきれなら、木の枝に引っ掛けて少々破れたって何度も繕ってきたから丁度いいんだが…」
葛籠から一枚着物を取り出しては広げて、これではないと寝具の上に放った。それを繰り返していくうちに葛籠の中の着物は無くなり、寝床の上に色取り取りの着物が乱雑に広がっている。騒がしい色合いになった寝具を振り返ったナジュは、眉間に皺を寄せて唸る。
「んん゛……こんなに綺麗な着物を汚れる場所に持ってくのは勿体無さすぎる…。まして破れたり切れたりなんてもっての外だ。ぼろきれなら俺でも直せるが、柄物は流石に本職じゃねえと元に戻らないからな…」
ナジュはもう一度全ての着物を確かめて散々迷った末に、天界に来てからずっと着用している夜着を着ていく事にした。支給服から着替えて鏡の前に立って姿を見ると、目立った解れは少ないが布の端に擦り切れがみられる。屋敷に居た頃は、ナジュの着物の擦り切れを使用人が見つけると、すぐさま新しいのに取り換えると持って行こうとした。それを「ほぼ新品だろ!」と言って股右衛門の膝に置いてあったこの夜着をひったくるように胸に抱いた出来事が懐かしい。
「あとは紐で袖を……うん、難しいな…これは後で誰かにやってもらおう」
懐に紐を仕舞って準備を整える。桃栗と丹雀の部屋では、鍛錬用の着物に着替えた二人が化粧に勤しんでいた。桃栗は“ひたたれ“と呼ばれる袴の下を縛って上が膨らんだ様な着物を、丹雀は髪を一つに結び袴を着ている。
「丹雀くんは羽織どうするの?武術とかの講義は視界が遮られて素早く動けないでしょう?」
「身に着けていく。…実力は十分に発揮できないがな」
「そっか。じゃあその羽織を脱ぐときは、丹雀くんが本気のときだ。ちょっと手合せして見たいかも!」
「桃栗、お前の得物は?」
「短刀も長物も投擲も、武器全般得意だよ!その中で一番得意なのは、強いて言うなら……う~ん、素手?」
桃栗は力拳を作ってみせる。残念ながら着物の下なので、丹雀に披露する事は出来なかったが、その得意げな顔を見れば自信がある事は一目瞭然だ。見た所小柄で、袖から出る手足もそれ相応に小さいが、掌には潰れたマメの跡が残る。日々鍛錬していなければそのような手にはならない。長身だが痩身の丹雀は、足りない筋力を術で補っているというのに羨ましい事だと内心で思う。綺麗に整えた化粧に満足した二人は、余裕を持って部屋を出たのだった。
「う~ん……汚れても良くて、動きやすい着物……駄目だ、皆貴重そうで綺麗な布だ。この中で一番古いの……俺が天界に来て目覚めてから着せられてたこの着物も、昔じゃ考えられない程すっげえ良さそうな生地なんだよなあ。現世に居た頃に着てたぼろきれなら、木の枝に引っ掛けて少々破れたって何度も繕ってきたから丁度いいんだが…」
葛籠から一枚着物を取り出しては広げて、これではないと寝具の上に放った。それを繰り返していくうちに葛籠の中の着物は無くなり、寝床の上に色取り取りの着物が乱雑に広がっている。騒がしい色合いになった寝具を振り返ったナジュは、眉間に皺を寄せて唸る。
「んん゛……こんなに綺麗な着物を汚れる場所に持ってくのは勿体無さすぎる…。まして破れたり切れたりなんてもっての外だ。ぼろきれなら俺でも直せるが、柄物は流石に本職じゃねえと元に戻らないからな…」
ナジュはもう一度全ての着物を確かめて散々迷った末に、天界に来てからずっと着用している夜着を着ていく事にした。支給服から着替えて鏡の前に立って姿を見ると、目立った解れは少ないが布の端に擦り切れがみられる。屋敷に居た頃は、ナジュの着物の擦り切れを使用人が見つけると、すぐさま新しいのに取り換えると持って行こうとした。それを「ほぼ新品だろ!」と言って股右衛門の膝に置いてあったこの夜着をひったくるように胸に抱いた出来事が懐かしい。
「あとは紐で袖を……うん、難しいな…これは後で誰かにやってもらおう」
懐に紐を仕舞って準備を整える。桃栗と丹雀の部屋では、鍛錬用の着物に着替えた二人が化粧に勤しんでいた。桃栗は“ひたたれ“と呼ばれる袴の下を縛って上が膨らんだ様な着物を、丹雀は髪を一つに結び袴を着ている。
「丹雀くんは羽織どうするの?武術とかの講義は視界が遮られて素早く動けないでしょう?」
「身に着けていく。…実力は十分に発揮できないがな」
「そっか。じゃあその羽織を脱ぐときは、丹雀くんが本気のときだ。ちょっと手合せして見たいかも!」
「桃栗、お前の得物は?」
「短刀も長物も投擲も、武器全般得意だよ!その中で一番得意なのは、強いて言うなら……う~ん、素手?」
桃栗は力拳を作ってみせる。残念ながら着物の下なので、丹雀に披露する事は出来なかったが、その得意げな顔を見れば自信がある事は一目瞭然だ。見た所小柄で、袖から出る手足もそれ相応に小さいが、掌には潰れたマメの跡が残る。日々鍛錬していなければそのような手にはならない。長身だが痩身の丹雀は、足りない筋力を術で補っているというのに羨ましい事だと内心で思う。綺麗に整えた化粧に満足した二人は、余裕を持って部屋を出たのだった。
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