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学舎編
新しき時代の人
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近代室に到着したナジュ達の前には、神様候補達が各々指差して会話に花を咲かせている姿と、宿舎の内装と似た窓が近代室の白壁に三つ設置されており、中の様子が見える。窓枠の上部はナジュの見たことの無い紋様や草花を模した装飾が施されており、その精巧な造りに目を奪われる。
「うわあ…すっげえ細かい……みんな本物みたいな出来だな…」
「宿舎と同じで、これ障子や襖じゃなくて硝子だから外から部屋の中の様子が見られるし、外の灯りを取り込めるんだ。日中でも屋敷の内部だと真っ暗な部屋ができちゃうけど、これなら程良く見通せていいね!あと、僕達が怠慢していないか、他の師が見に来たりして!こっちの内側の布は無かったな…陣幕とか御簾みたいなものかな?」
「む…この織物…手触りがいいな。着物に使用しても問題ないくらいだ」
窓で盛り上がっている三人だったが、近代室の中で歓声が上がると、ナジュはそちらに興味を唆られたようで窓の細かい細工をじっくり眺めている二人に声を掛けた。
「面白そうなものがありそうだから、俺先に中に入ってみるぞ」
「あっ僕達も!」
三人は幾らか出入りの落ち着いた扉の前に立つ。こちらも宿舎と同じく取手が付いた物だったが、明らかに手の加えられ方が段違い。取手一つでも、巻く波を模した優美な佇まいと色彩が目を惹き、桃栗と丹雀は現世で流行した海の絵を思い出したが、それとはまた違った柔らかな趣きだ。それに取手は二枚扉の中段端に寄せられ、二枚扉の丁度中央に立つと胴体の前に取手がくる。桃栗には少し高い位置だったが、ナジュと丹雀ならば腰より少し上にあたり丁度いい高さだ。先程神様候補が出入りするのを見ていた為、それに倣ってナジュは二つの取手を掴んで三割ほど回し、扉を外に向かって押した。
「わあ、なんか素敵…」
「上部の白壁に下部の木造り……壁に取り付けられた行灯は見たことの無い形だ」
「うおっ!?床に綺麗な布が敷いてあるぞ!履き物脱がなくていいのか!?」
近代室の内装や調度品は、ナジュだけでなく桃栗や丹雀、他の神様候補達にとっても"新たな時代"を垣間見たものだった。入り口で興味津々に中を見回している三人の横で、神様候補が行灯に似た明るい硝子箱の下に貼り付けられた紙片に記された文字を読む。
「"ガス灯擬き"…?」
「中で燃えているのは火術だな。師の施したものだろうか?橙の炎が煌々としているな」
他所では、用意された机と椅子に神様候補達が着席した正面にある、黒い壁に注目が集まっている。
「折角三面が美しい白壁なのに勿体無いな。屏風か掛け軸でも添えたならば師の威厳も高まろうに」
「黒壁の下に返しのついた板が続いている。白い粉が所々積もっているようだな…白粉か?」
「まさか我々が師の覚えめでたくなるよう化粧でも学ぶというのか?はっはっは!」
着席している神様候補は少ない。皆物珍しさにあちらこちらと移動して、これはなんだあれはなんだと話し合っている。考察するもの、茶化すもの、好奇心に心躍るもの、その誰もがこの近代室を過去の風景だと言い出す者は居ない。
「あっ、ここに近代室を作った人の名前があるよ!」
「ええーっと……ひ、りょう、さか?」
「比良坂と読むのだ」
「うわあ…すっげえ細かい……みんな本物みたいな出来だな…」
「宿舎と同じで、これ障子や襖じゃなくて硝子だから外から部屋の中の様子が見られるし、外の灯りを取り込めるんだ。日中でも屋敷の内部だと真っ暗な部屋ができちゃうけど、これなら程良く見通せていいね!あと、僕達が怠慢していないか、他の師が見に来たりして!こっちの内側の布は無かったな…陣幕とか御簾みたいなものかな?」
「む…この織物…手触りがいいな。着物に使用しても問題ないくらいだ」
窓で盛り上がっている三人だったが、近代室の中で歓声が上がると、ナジュはそちらに興味を唆られたようで窓の細かい細工をじっくり眺めている二人に声を掛けた。
「面白そうなものがありそうだから、俺先に中に入ってみるぞ」
「あっ僕達も!」
三人は幾らか出入りの落ち着いた扉の前に立つ。こちらも宿舎と同じく取手が付いた物だったが、明らかに手の加えられ方が段違い。取手一つでも、巻く波を模した優美な佇まいと色彩が目を惹き、桃栗と丹雀は現世で流行した海の絵を思い出したが、それとはまた違った柔らかな趣きだ。それに取手は二枚扉の中段端に寄せられ、二枚扉の丁度中央に立つと胴体の前に取手がくる。桃栗には少し高い位置だったが、ナジュと丹雀ならば腰より少し上にあたり丁度いい高さだ。先程神様候補が出入りするのを見ていた為、それに倣ってナジュは二つの取手を掴んで三割ほど回し、扉を外に向かって押した。
「わあ、なんか素敵…」
「上部の白壁に下部の木造り……壁に取り付けられた行灯は見たことの無い形だ」
「うおっ!?床に綺麗な布が敷いてあるぞ!履き物脱がなくていいのか!?」
近代室の内装や調度品は、ナジュだけでなく桃栗や丹雀、他の神様候補達にとっても"新たな時代"を垣間見たものだった。入り口で興味津々に中を見回している三人の横で、神様候補が行灯に似た明るい硝子箱の下に貼り付けられた紙片に記された文字を読む。
「"ガス灯擬き"…?」
「中で燃えているのは火術だな。師の施したものだろうか?橙の炎が煌々としているな」
他所では、用意された机と椅子に神様候補達が着席した正面にある、黒い壁に注目が集まっている。
「折角三面が美しい白壁なのに勿体無いな。屏風か掛け軸でも添えたならば師の威厳も高まろうに」
「黒壁の下に返しのついた板が続いている。白い粉が所々積もっているようだな…白粉か?」
「まさか我々が師の覚えめでたくなるよう化粧でも学ぶというのか?はっはっは!」
着席している神様候補は少ない。皆物珍しさにあちらこちらと移動して、これはなんだあれはなんだと話し合っている。考察するもの、茶化すもの、好奇心に心躍るもの、その誰もがこの近代室を過去の風景だと言い出す者は居ない。
「あっ、ここに近代室を作った人の名前があるよ!」
「ええーっと……ひ、りょう、さか?」
「比良坂と読むのだ」
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