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学舎編
尊い願いの先
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「こちらの方法も証言にばらつきがあるのですが、共通している点に"願いを抱えてその為に捧げられた命"だという事。所謂"供物""生贄"です」
「……」
「人々は災厄の終息や流行病の平癒、豊穣等様々な願いを込めて貢ぎ物を捧げます。願いへの対価……それは食物であったり、貴重な宝物であったり……生物の命であったりします。蓮の池から天界に昇り、神様からの指差しを経て天界の住人となったのは…」
「師、質問をよろしいでしょうか?」
ナジュと同じく興味深く鞠駒の話を聞いていた神様候補が、手を挙げて質問の許可を願う。鞠駒はずらりと並ぶ神様候補達の顔を見てから冊子を文机の上に置き、「どうぞ」と続きを促した。
「"神様からの指差し"…それは何でしょうか?」
「供物、生贄として捧げられた生物の一部は、蓮の池に昇天した後…死した時の姿で浮かび、蓮に身体を囚われて短い間漂います。そして、一定時間経過すると絡みついた蓮の花が枯れ始め、全て枯れると水中に沈み、それからは浮かんできません。過去に池に落ちて底に尻をついた方がおられましたが、特に遺体の残骸が溜まっているわけでなく…何の変哲もない美しい水中だったそうです。神様の指差しを得られなかった遺体は、昇天したとて天界に永く留まる力はないのでしょう。神様が気になった…興味を持った亡骸を指差すと、蓮の池は神様の願いを受け止め、亡骸に続く蓮の道を作ります。そして従者が亡骸を引き上げるか術で池から引き上げます。蓮の池から出した亡骸に神様の神通力を注ぐと、蓮の花が亡骸を包み、生前の姿に再生させるのです。その後は天界に留まれるようになります。この一連の流れを"神様の指差し"と言い、新しく配下を得たい神様や、興味本位、または光り物探しに蓮の池の側にお立ち寄りになります」
指差しの話は知る者が多くなかった為、鞠駒の講義を聞き流していた神様候補も興味を向けた。直接師に疑問をぶつけず、近くで解決しようとする者もいた。
「お前、蓮の池の話を以前していたろ?光り物って何だ?死体だけでなく捧げられた宝飾品も昇天してくるのか?」
三列先の神様候補が隣の席の者に聞く。どうやら仕える先が同じ二人のようで、もう一方が訳知りらしい。桃栗も疑問に思った箇所だったので、その二人の会話に耳を澄ませる。
「物は池に浮かばねえ。光り物って鞠駒師が呼んだのはな、神様を気遣って言葉を濁したんだろうよ。"女漁り""男漁り"じゃあ聞こえが悪いからな」
「おいおい、自分好みの死体探しに行ってんのか!?」
「うちの主様とか、ほらっよく歌合せで集まるお仲間の神様達は、この前どこどこの君が綺麗なの引き当てた~とか、汚れた顔半分で判断して、いざ指差して元に戻してみたら外れを引いた~とか話して盛り上がってたぜ。外れは道中で捨てていく神様も結構多いんだと!」
「まあ好みじゃなかったら…配下なんて足りてるもんな。態々御力を使って消滅させるのも面倒…ってな」
「そうそう!池に昇天してくる死体は、その殆どが大した術も使えねえし素養もねえ。村を助けてくれだの、飢饉をどうにかしてくれだのと、うるせえ願いばかりの役立たずって主様が話してたぜ」
桃栗は二人の話に聞き耳を立てるんじゃなかったと口を尖らせる。
(嫌な話…生き返らせておいて、気に入らなかったら捨てちゃうなんて……僕の主様は絶対そんな事しないもん…)
ふう、と暗い溜息を吐く桃栗の横で、鞠駒の話も神様候補二人の話も聞いていたナジュは、静かに膝上で握った拳を震わせていた。
「……っ」
怒りで言葉が出ないのは、初めての経験だった。
「……」
「人々は災厄の終息や流行病の平癒、豊穣等様々な願いを込めて貢ぎ物を捧げます。願いへの対価……それは食物であったり、貴重な宝物であったり……生物の命であったりします。蓮の池から天界に昇り、神様からの指差しを経て天界の住人となったのは…」
「師、質問をよろしいでしょうか?」
ナジュと同じく興味深く鞠駒の話を聞いていた神様候補が、手を挙げて質問の許可を願う。鞠駒はずらりと並ぶ神様候補達の顔を見てから冊子を文机の上に置き、「どうぞ」と続きを促した。
「"神様からの指差し"…それは何でしょうか?」
「供物、生贄として捧げられた生物の一部は、蓮の池に昇天した後…死した時の姿で浮かび、蓮に身体を囚われて短い間漂います。そして、一定時間経過すると絡みついた蓮の花が枯れ始め、全て枯れると水中に沈み、それからは浮かんできません。過去に池に落ちて底に尻をついた方がおられましたが、特に遺体の残骸が溜まっているわけでなく…何の変哲もない美しい水中だったそうです。神様の指差しを得られなかった遺体は、昇天したとて天界に永く留まる力はないのでしょう。神様が気になった…興味を持った亡骸を指差すと、蓮の池は神様の願いを受け止め、亡骸に続く蓮の道を作ります。そして従者が亡骸を引き上げるか術で池から引き上げます。蓮の池から出した亡骸に神様の神通力を注ぐと、蓮の花が亡骸を包み、生前の姿に再生させるのです。その後は天界に留まれるようになります。この一連の流れを"神様の指差し"と言い、新しく配下を得たい神様や、興味本位、または光り物探しに蓮の池の側にお立ち寄りになります」
指差しの話は知る者が多くなかった為、鞠駒の講義を聞き流していた神様候補も興味を向けた。直接師に疑問をぶつけず、近くで解決しようとする者もいた。
「お前、蓮の池の話を以前していたろ?光り物って何だ?死体だけでなく捧げられた宝飾品も昇天してくるのか?」
三列先の神様候補が隣の席の者に聞く。どうやら仕える先が同じ二人のようで、もう一方が訳知りらしい。桃栗も疑問に思った箇所だったので、その二人の会話に耳を澄ませる。
「物は池に浮かばねえ。光り物って鞠駒師が呼んだのはな、神様を気遣って言葉を濁したんだろうよ。"女漁り""男漁り"じゃあ聞こえが悪いからな」
「おいおい、自分好みの死体探しに行ってんのか!?」
「うちの主様とか、ほらっよく歌合せで集まるお仲間の神様達は、この前どこどこの君が綺麗なの引き当てた~とか、汚れた顔半分で判断して、いざ指差して元に戻してみたら外れを引いた~とか話して盛り上がってたぜ。外れは道中で捨てていく神様も結構多いんだと!」
「まあ好みじゃなかったら…配下なんて足りてるもんな。態々御力を使って消滅させるのも面倒…ってな」
「そうそう!池に昇天してくる死体は、その殆どが大した術も使えねえし素養もねえ。村を助けてくれだの、飢饉をどうにかしてくれだのと、うるせえ願いばかりの役立たずって主様が話してたぜ」
桃栗は二人の話に聞き耳を立てるんじゃなかったと口を尖らせる。
(嫌な話…生き返らせておいて、気に入らなかったら捨てちゃうなんて……僕の主様は絶対そんな事しないもん…)
ふう、と暗い溜息を吐く桃栗の横で、鞠駒の話も神様候補二人の話も聞いていたナジュは、静かに膝上で握った拳を震わせていた。
「……っ」
怒りで言葉が出ないのは、初めての経験だった。
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