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学舎編
昇天の事
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「この天界の始まりについて恐らく全てを知る者は居ないでしょう。長年神様として座に就いていらっしゃる茂籠茶老様でも。しかし、最初からではありませんが、ある時期からの記録は残っています。この記録を纏めたのは茂籠茶老様…天界に長らく住む多くの方々からの証言や細かな日誌等を参考にして作り上げました。諸君らに配布したのは、歴史書の内容を簡単に纏めたものです。直接的に座に関係あるかは何とも言えない所ですが、神様として座すのならば確実に自らも歴史の一部として刻まれる事になるのです。諸君らには、歴史を作ってきた先人たちに学んで高い視座から衆生を見守り、善き神として君臨される事を期待します。ではまず、……」
講義が始まると、ナジュの知らない天界の事実が明らかになってきた。他の神様候補の殆どは承知の事であったのか、眠そうに舟を漕ぐ者や心ここに在らずで適当に冊子を捲っている者等がちらほらと見える。一方天界に来たばかりと言っても過言でないナジュは、鞠駒の話す天界についての事柄を興味深そうに聞いていた。
「この天界に存在する者は、その由来から大きく二種類に分けられます。天界で生まれた者と天界に昇ってきた者です」
鞠駒は紙を一枚捲るように指示する。ひら、と畳部屋の各所から紙の捲れる音がして、次の紙面を見ると、天界と現世という文字と共に図解が載っていた。現世から天界に伸びる矢印の隣には“昇天”という文字が、天界から現世へと延びる矢印には“天下り”という文字が添えられている。ナジュは、己に関係のありそうな話が聞ける気配がしてより一層鞠駒の説明に集中する。
「天界に昇る…昇天した者は、現世にて命尽きた者。元々が霊的な存在である方は命が尽きたという表現が正しいか一考の余地がありますが。昇天する方法で確認されている主な例を二つ紹介しましょう。聞きとった話しに多少の違いがありましたが共通点を。まず、現世で信仰を集めていたとされる方です」
(稲葉がそうだって言ってたな)
「信仰を得る事で、特別な力が有る無しに関わらず、その生物が衆生より上の存在と位置づけられる。ある程度の信仰を得ている方は、衆生の思念に押し上げられるように天界に昇り、天界のどこかに顕現する。現世と天界の風景は似通っていますが、数々の証言から現世と同じ土地、またその過去でも未来でもないとされています。そのため、現世で最期を迎えた場所から真っ直ぐ上に昇る…という単純な仕組みではないようですね。我々の居る天界が現世とどれだけ離れているのか?その位置関係は?図解では現世より上に天界を置いていますが、実は“昇天”ではなく“降天”なのかも……そんな疑問が一部では話し合われています。…話が逸れましたね。」
鞠駒はコホンと咳払いをすると、「もう一つ」と他の昇天経路について話し出す。
「この学舎より南方の地に、神々とその御付きだけが足を踏み入れられる美しい蓮の池とそれを囲む建物があります。そちらは神々の会合の場所であり、風光明媚な遊行地でもあり、年々出入りの多い土地。現世からその美しい蓮池に昇る方法です。こちらは信仰を得ての昇天とは違い、天界でも特殊な昇天方法の一つ」
ナジュの身体に眠る地獄のような痛みの記憶がジリジリと蘇ってくる。足元から焼ける肉の嫌な香りが一瞬平常な思考を妨げた。
講義が始まると、ナジュの知らない天界の事実が明らかになってきた。他の神様候補の殆どは承知の事であったのか、眠そうに舟を漕ぐ者や心ここに在らずで適当に冊子を捲っている者等がちらほらと見える。一方天界に来たばかりと言っても過言でないナジュは、鞠駒の話す天界についての事柄を興味深そうに聞いていた。
「この天界に存在する者は、その由来から大きく二種類に分けられます。天界で生まれた者と天界に昇ってきた者です」
鞠駒は紙を一枚捲るように指示する。ひら、と畳部屋の各所から紙の捲れる音がして、次の紙面を見ると、天界と現世という文字と共に図解が載っていた。現世から天界に伸びる矢印の隣には“昇天”という文字が、天界から現世へと延びる矢印には“天下り”という文字が添えられている。ナジュは、己に関係のありそうな話が聞ける気配がしてより一層鞠駒の説明に集中する。
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(稲葉がそうだって言ってたな)
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鞠駒はコホンと咳払いをすると、「もう一つ」と他の昇天経路について話し出す。
「この学舎より南方の地に、神々とその御付きだけが足を踏み入れられる美しい蓮の池とそれを囲む建物があります。そちらは神々の会合の場所であり、風光明媚な遊行地でもあり、年々出入りの多い土地。現世からその美しい蓮池に昇る方法です。こちらは信仰を得ての昇天とは違い、天界でも特殊な昇天方法の一つ」
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