127柱目の人柱

ど三一

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学舎編

初めての神業

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「この大広間の何処か…どこでもって言われると迷うな…。誰でも出来るって話だったが、やってみないことにはな。場所か人物を思い浮かべて…う~ん」

誰の声ともわからない【ウタラ】という言葉が聞こえ、周囲ではもう紙が空を舞っている。すぐそこの床や、大広間の四隅、天井など遠近関係なく目的の場所に紙が到着すると、一瞬張り付いて空中であれば落下する。神様候補の中には大広間に居る友人に向かって紙を飛ばしている者も居るようだ。紙の行先で迷っているナジュの膝にもひらりと紙が舞い落ちて来た。それを手に取って見ると、可愛らしい花や動物の絵が記された紙面に“桃栗”と名があった。ナジュは頭を上げて辺りを確認すると、丁度対角線の位置にある席に桃栗が居て手を振っていた。

「桃栗の紙だ!よし、なら俺も名前を書いて桃栗に送ってみよう…!えーと大広間の向かいの席に居る桃栗を思い浮かべて~……【ウタラ】!」

目にした景色をそのまま頭の中に浮かべながら言葉を唱えた後、紙に記した【ウタラ】の文字が僅かに光ったような気がした。ナジュは目を凝らして文字を見返したが、文字は書いた時のように黒いまま。

「あれ?気のせいか?…んんん……紙が上に引かれて……うおっ!」

人差し指と親指で摘まんでいた紙が、突如上に向かってぐぐぐ…と引っ張られているような感覚がして、挟んでいる指を少し緩めると、ナジュと名前が記された紙は宙に浮いて対角線に居る桃栗の方へ向かって飛んでいく。神様候補達の頭上、紙が飛び交う中を器用に避けて、ナジュの方に身体を向けている桃栗の胸の前で揃えられた手のひらの上にひらりと舞い落ちた。ナジュと大きく記された紙を掲げて、「届いたよ~!」と唇の動きで伝える桃栗。ナジュは初めての術が上手くいって、嬉しそうに手を振りかえした。

「すげえ…!本当に俺の紙が空を飛んだ!」

天界に来て主様の使う不思議な力を目にする機会はあったが、それを自分が使えるとは露ほども思えなかったナジュの喜びはひとしおである。たとえそれが誰にでも使える術だとしても、胸が高鳴りじわじわと喜びが心に沁みて自然と笑顔になる。そんなナジュの様子を目にしていたのは桃栗だけではなかった。学舎の者は、宙に浮かぶ紙の数が少なくなってきた所で手を叩いて注目を自分に集めた。

「皆問題なく出来た事かと思う。それでは今日はこれで解散とする。明日からは通常の講義日程どおりに進んで行くので、準備を怠らぬように。また毎日掲示板か看板を確認しておくこと。それでは解散」

神様候補達の大凡は、解散の言葉を聞いてさっさと大広間を出て行った。残っているのは特に行き先も目的も無い者か、友人と話をしたい者。ナジュは真っ直ぐに桃栗の座る席に向かい、術を使用できた感動を伝える。桃栗に届いた紙を見せると、大きくナジュと名前があり確かに自分の紙だと再認識して破顔する。ナジュが喜んでいる様子を、桃栗は微笑ましそうに何度も頷いて耳を傾けていた。
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