127柱目の人柱

ど三一

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学舎編

◯◯◯からの預かり物

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「左の襖の中に文机があるからそれを使って。座布団は右の襖にあるから、私の分も含めて三人分用意してもらうよ。ここ学舎に於いては私達は師弟関係であるから、礼儀として師を上座に、神様候補を下座に。講義が終わったら使用した物を元の場所に戻して、戸棚にある塵取りと小型の箒で部屋を軽く掃除してもらうからね。準備が出来たら講義を開始しよう」
「わかったよ。…俺が準備するからお前は動かずそこに居ろ」
「……んん」

返事のような、ただのため息のような、判断のつかない声を出す他夏は、部屋の中をふらふらと歩くでも無く、黙ってナジュが示した場所に立ち尽くしていた。文机と座布団を準備したナジュは、他夏を横に座らせて空座用の冊子をそれぞれの机に置いて準備を終えた。

「ご苦労様。それじゃあ始めようか」

号左は持参した書と巻物を懐から取り出して、巻物に巻きつけてある紐を解きながら、この巻物の元の持ち主との会話を思い出す。


"すみませんね雁尾殿。麒麟殿が空座の担当を私にと進言したようで…"

雁尾と号左、二人は茂籠茶老に呼び出され、直々に担当の座を変えるという話を聞いた。突然の変更に雁尾は長々と文句を垂れて茂籠茶老を困らせていた。変更の経緯を知る号左は、火の粉がこちらに降りかからないよう早めに先手を打ったのだ。

"いやいや!空座は少人数で楽だし、私の手下が空座の神候補に居るので色々とこき使えて楽だから担当を申し出ただけだよ。はあ~雷座は人数が多いから、骨が折れそうだ"
"良かったら、私が用意した冊子をお使いください。既存の物では足りぬ箇所もあったので、学ぶべき事を追加して新たに仕立てた物です"

雁尾は、態とらしい大きなため息も吐いてみるものだと、内心ほくそ笑む。受け取った書をその場で何枚か捲って読んでみると、かなり親切に解説が記されている。号左が時間を掛けてしっかりと事前準備をしていた事は明らかだ。また一から準備をするのも大変だと、雁尾は術を使って自室にある巻物を己の着物の袖の中に転移させた。

"それはありがたいよ。じゃあ…号左殿に私が使おうと思っていた巻物を預けよう"
"ありがとうございます。……これは、書庫にある空座の書とは違うようですが、雁尾殿が用意されたので?"
"貰い物だよ。じゃあ宜しく~"


号左は雁尾と別れて自室に戻った後、書庫から持って来て既に読み終わった空座の書を横に置いて、託された巻物を開いて中を確かめた。

"これは……!"

書庫に保管されている空座の書。実はその内容は白紙と変わらず、空座の役割、座の力について核心に迫るようなことは記されていない。他の座との共通事項だけが短文で記されているばかり。号左が目を見開いたのは、書には無かった情報が記されていたからであった。

"歴代の…空座に座した神々の名前……こちらの書に記されている順番と同じであるが……確か最後は依木よりぎの君という通り名の神であった筈……なのに何故……"

巻物を一回り、二回り、三回りさせると、寄木の後に続く名前がずらりとあり、その名前の一つひとつに×が付けられていた。号左はこれを雁尾の悪戯かとも思ったが、好奇心に後押しされ、更に続きを確かめていく。

"×が付いていない神も居るな…依木の君より後がある事もだけど、×の意味も知りたいところだ……"

結局巻物の端までは読めなかった。開こうとしても紙同士がくっついて無理矢理に先を見ようとすれば破れてしまうかもしれない。書については読座の茂籠茶老の専門。他夏の事だけでなく、この巻物の件についても相談があったのだ。

(雁尾殿にも聞こうと思っていたが、会う事が出来なかった。この巻物を何処で手に入れたのか…貰い物と言っていたが…)

ナジュ達に講義をする間にも、号左の中では疑問への答えを探していた。

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