127柱目の人柱

ど三一

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学舎編

知らない君

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「まず、以前の他夏はこんなんじゃなかったって話はしたよな。他夏は主様…金竜様の配下で、俺達のまとめ役みたいな役柄をしていた。主様は来るもの拒まずだから他の神様の下じゃ奉公できねぇ粗暴な奴らが結構集まってくる。中には聞きわけのねえ奴もいるが、他夏は上手く纏めていた。人徳だ。」
「じんとく?」
「人に徳って書いて人徳。周りから慕われているって意味だな、大体。主様への接し方や最低限の礼儀作法も教えてた。配下の教育は別に任されちゃいなかったんだろうが、自然と皆あいつに教わってたよ」

雷蔵はすやすやと眠る他夏を見つめた。湯殿での淫靡な表情は、会合の日以来見たのは二度目。金竜配下達で妓楼に遊びに行った時も、他夏は側についた娼に酌をさせるだけで、閨に誘われてもやんわりと断っていた記憶が雷蔵にはある。翌日屋敷で何故妓楼で夜を明かさなかったのか聞くと、好いている相手以外とは関係を持つつもりはないと話していた。雷蔵はその言葉を聞いて、惚れた相手がいるのか?と質問した。他夏は眉尻を下げて苦笑しながら返答した。

"いるけれど……望み薄な相手だから……心の内に秘めるばかりさ……"

他夏は御手付き様の宴会の中に居ても見劣りしない美丈夫である。それこそ引く手数多、より取り見取り。いくら温厚冷静な他夏といえども人肌恋しい寂しい夜もあるだろうに、惚れた相手に操を立てて日々を重ねるいじらしさ。それがこの変貌である。雷蔵は何故と他夏に問うたが、その答えが返ってきた事は一度として無い。

「……俺の主様は自由気儘、機嫌次第で行動される方だ。配下や使用人がヘマをしても笑って許す度量の広さもあるが、反面…何が気に障ったのかわからないが…酷く荒れる時もある。他夏は側人の補佐として主様の居所まで着いていく事もあったからよ……いつ主様の不興を買ってもおかしくは無かった。仲間内で他夏を最近見てないって話にはなってたんだが、主様の側人が別の仕事を与えてるって聞いて特に深く考えなかった。俺も丁度主様から退座の話を聞かされて……憧れはあったからな。座を得る機会が訪れるってんで少し浮かれてた。そして、宴会場の隣で再会ってわけだ。俺もその宴会に参加している意味位分かる、主様に召されたんだってな。それだけならいい。だが、明らかに様子がおかしいし、会合以後さらに様子が変になっちまった。正直お手上げだ」

雷蔵の話に耳を傾けていたナジュは、現在の他夏から胸飾りの解呪方法を聞き出す事は難しいと思わざるをえなかった。だが、ナジュはこの胸飾りについて覚えている事がある。それを頼りに解呪への道筋を探したい。

「おい」
「何だ」
「お前の主様に他夏がいつも着けろって言われてる櫛がある。それには呪いが掛けられていて、着けたら……その…あ、ある条件を満たさないと外れないようになっている。俺はどうしてもその条件を呑めない。だから別の解呪方法を探すか、呪いの大元を探して解呪させなきゃならん。他夏の言ってた事が本当なら、金竜がこの飾りについて知ってるって事だよな?」
「…俺は主様が呪法を使うのを目にした事がないからな。何とも言えない」

煮え切らない雷蔵の返事と、安眠中の他夏に怒りが沸々と湧き上がったナジュは、支給服の合わせ目左右に開いて飾りを雷蔵に見せた。

「このぐーすか寝てる奴のせいで、俺はこんなおかしなモン着けられてんだ!他夏が無理だってんならお前がこれを外すのを手伝え!責任とれ!」
「……引っ張りゃ取れんじゃねえのか?」
「いぎっ!!?」

雷蔵が乱暴に飾りを引っ張ると、ナジュの胸先は飾りにしたがって伸ばされ痛みが走る。今日二回目の拳が雷蔵の頭に直撃した。
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