178 / 341
学舎編
白霧の中の他夏
しおりを挟む
「おい!お前ら!」
「っなんだ…!?今こいつを引き剥がすのに……忙しいッ!」
ナジュに背を向けている雷蔵は、あらぬ場所に手を伸ばしてくる他夏を抑えている最中であり、誰か他の相手をしている暇はない。怒りを滲ませて声を掛けてきたナジュを振り返る事無く、錯乱している他夏への対応を続けたことによって、雷蔵がナジュに気付くのが少し遅くなる。他夏は雷蔵の事を主様である金竜か、今まで情交をした誰かに見えているらしく、教え込まれた作法に則り淫靡な手技でもって相手を悦ばせようとする。他夏の関心は雷蔵の下腹部に向いており、温泉の中で揺らぐ幹を掴もうと両手でゆらりゆらりと近付いて来る。雷蔵にとって他夏は尊敬できる友人である。この状況になっても男としての反応はしない上、以前の他夏を知るからこそ今の状態は他夏の本意ではないと考えている。雷蔵なりの他夏への気遣いだった。しかし、それをナジュが知る筈は無く、目下で繰り広げられる光景を、二人が湯殿で乳繰り合おうとしているとしか思えないのである。
「両方に言いたい事があるが、正直お前はいい!俺はそっちの他夏って奴に用があるんだ!大急ぎのな!?だからそいつを置いてお前は湯殿から出ろ!!湯殿で乳繰り合うんじゃねえッ!ここ風呂だぞ!?」
ナジュはいつぞやかの記憶は頭の隅に追いやり、湯殿での不埒な行為を強く非難して邪魔な雷蔵を追い払おうとする。何とか胸の飾りを他夏以外に見られる事なく、その解除方法を他夏から聞き出したいからだ。
「こんな状態の他夏を置いてけるかよ!?さてはてめえ、他夏に手ェ出そうとしてるな!?」
「はあ!?そんなわけねえだろ!!俺はそいつから聞きださなきゃいけない事があるんだよ!!そいつと乳繰り合うのは勝手だが、場所を選べ変態野郎!!俺の用事が終わったら解放してやるから、お前は大人しく部屋で待ってろ!!」
ナジュと雷蔵が互いの顔も見ずにぎゃあぎゃあと言い争いをしている内に、他夏の脳内映像に変化が起こり、その関心が分散し始める。現実と虚実と過去が入り混じる他夏の視界に、胸全体を手拭いで隠したナジュの姿が現れた。数多くの記憶の断片が混濁し、ナジュを御手付き様の会合で出会った人物であるという事実の記憶が浮上しない。目の前の人物の情報を他の誰かの情報でぼんやりと蓋をする。他夏は悦の笑みをナジュに向けた。
「ああ……主様の………来た……ケ……商…の……様…」
雷蔵の背中を見て言い争いをしているナジュも、ナジュの声に気を取られて他夏を掴む力が緩んだ雷蔵も気が付かない。湯船の中をすうー…と気配なく移動して、他夏はナジュに接近した。
「ぃひいっ!?」
「他夏!?」
雪の亡霊のように白い腕が雷蔵の横を通り、ナジュの太ももにぺたりと触れた。雷蔵に意識が向いていたナジュは、手の感触を受けて悪寒が体中に走り、鳥肌が立って硬直した。そして一瞬固まった記憶の誰かを他夏は湯船に引きこんだ。その細腕に反して強い力で足を掴まれたナジュは盛大な飛沫を上げて湯船に突っ込み、その際強かに後頭部を湯船の縁に打った。
「主様……今……御覧に……」
油断したナジュと雷蔵に、湯船の中から他夏が手を伸ばした。
「っなんだ…!?今こいつを引き剥がすのに……忙しいッ!」
ナジュに背を向けている雷蔵は、あらぬ場所に手を伸ばしてくる他夏を抑えている最中であり、誰か他の相手をしている暇はない。怒りを滲ませて声を掛けてきたナジュを振り返る事無く、錯乱している他夏への対応を続けたことによって、雷蔵がナジュに気付くのが少し遅くなる。他夏は雷蔵の事を主様である金竜か、今まで情交をした誰かに見えているらしく、教え込まれた作法に則り淫靡な手技でもって相手を悦ばせようとする。他夏の関心は雷蔵の下腹部に向いており、温泉の中で揺らぐ幹を掴もうと両手でゆらりゆらりと近付いて来る。雷蔵にとって他夏は尊敬できる友人である。この状況になっても男としての反応はしない上、以前の他夏を知るからこそ今の状態は他夏の本意ではないと考えている。雷蔵なりの他夏への気遣いだった。しかし、それをナジュが知る筈は無く、目下で繰り広げられる光景を、二人が湯殿で乳繰り合おうとしているとしか思えないのである。
「両方に言いたい事があるが、正直お前はいい!俺はそっちの他夏って奴に用があるんだ!大急ぎのな!?だからそいつを置いてお前は湯殿から出ろ!!湯殿で乳繰り合うんじゃねえッ!ここ風呂だぞ!?」
ナジュはいつぞやかの記憶は頭の隅に追いやり、湯殿での不埒な行為を強く非難して邪魔な雷蔵を追い払おうとする。何とか胸の飾りを他夏以外に見られる事なく、その解除方法を他夏から聞き出したいからだ。
「こんな状態の他夏を置いてけるかよ!?さてはてめえ、他夏に手ェ出そうとしてるな!?」
「はあ!?そんなわけねえだろ!!俺はそいつから聞きださなきゃいけない事があるんだよ!!そいつと乳繰り合うのは勝手だが、場所を選べ変態野郎!!俺の用事が終わったら解放してやるから、お前は大人しく部屋で待ってろ!!」
ナジュと雷蔵が互いの顔も見ずにぎゃあぎゃあと言い争いをしている内に、他夏の脳内映像に変化が起こり、その関心が分散し始める。現実と虚実と過去が入り混じる他夏の視界に、胸全体を手拭いで隠したナジュの姿が現れた。数多くの記憶の断片が混濁し、ナジュを御手付き様の会合で出会った人物であるという事実の記憶が浮上しない。目の前の人物の情報を他の誰かの情報でぼんやりと蓋をする。他夏は悦の笑みをナジュに向けた。
「ああ……主様の………来た……ケ……商…の……様…」
雷蔵の背中を見て言い争いをしているナジュも、ナジュの声に気を取られて他夏を掴む力が緩んだ雷蔵も気が付かない。湯船の中をすうー…と気配なく移動して、他夏はナジュに接近した。
「ぃひいっ!?」
「他夏!?」
雪の亡霊のように白い腕が雷蔵の横を通り、ナジュの太ももにぺたりと触れた。雷蔵に意識が向いていたナジュは、手の感触を受けて悪寒が体中に走り、鳥肌が立って硬直した。そして一瞬固まった記憶の誰かを他夏は湯船に引きこんだ。その細腕に反して強い力で足を掴まれたナジュは盛大な飛沫を上げて湯船に突っ込み、その際強かに後頭部を湯船の縁に打った。
「主様……今……御覧に……」
油断したナジュと雷蔵に、湯船の中から他夏が手を伸ばした。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説


義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。



別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる