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学舎編
昨日の知り合い
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「まだ余ってるからって、おかわりのおかわり分も貰った……。今は腹いっぱいだが、少ししたら食べられるかな」
飯処で他の神様候補と厨房係と一緒にかりいを食べたナジュは、蓋の着いた器に皆で食べても残った白飯とかりいをよそって貰い、それを持って与えられた部屋に帰ろうとしていた。他の神様候補はナジュとは反対の棟に部屋があると言うので、途中までかりいの感想を話し合っていたが途中で別れた。両手でほかほかの器を持って、かりいが毀れないように慎重に階段を昇って行く。時折すれ違う神様候補が何を持っているのだろうと振り返る度、ちょっとした優越感を味わえる。
「今日の昼、飯処で食ったらよかったのになぁ。美味い飯鱈腹食えたのに」
食べ過ぎて腹は重いが、栄養は十分蓄えられている。東棟三階端の部屋の前に到着すると、とっくに学舎から去っていた春原に向けた紙が、今朝置いた時の姿でそこにあった。幾分か冷えた器を片手で持って鍵を取り出し、扉に寄りかかっている紙と重石を拾って鍵と一緒に持った。
「同部屋は二人から三人部屋って話しだったが、これからは俺一人になるのかな?それとも三人部屋から誰か来るのか…?よっと」
鍵を開けて扉を背中で押しながら入ると、まず片手に持った器を机に置き、それから鍵と紙をその横に置いた。重石を片手で弄びながら様子の変わらない部屋をぼうっと眺めた後、ふと支給服が汚れていないか気になって鏡の前に移動した。
「ちょっと裾の所が変色してるな…色は薄いから軽く濡れ布巾で叩けばいいか。まったく、あれだけ汚れてるなら一度着物を着換えてから掃除したかったな」
ナジュは荷物の中から布巾を取り出して水に濡らそうと思ったが、肝心の水が何処にあるか確かめていなかった。机の端に置いた学舎案内を手にして数枚捲ると、給水場所が宿舎学舎に複数個所設けられているようだ。宿舎に於いては各階層に給水場所があるらしい。ナジュは鍵を一本と布巾を持って三階の階段に向かう。
「この建物俺のいる三階より上があるのに、態々水瓶に足さなきゃいけないのは大変だよな」
三階の給水場所は、階段すぐ横の部屋にある。表札には給水湯と記されており、暖簾を潜って中に入ると、奥に三個の小振りな水瓶があり、右には洗い場の付いた簡単な厨房、左には共同利用する茶碗や急須、その他容器が置かれている棚がある。ナジュは左右を気にしつつ奥にある水瓶を覗き込んだ。中には一滴の水も無い。試しに手を伸ばして水瓶の底に触れてみるも、艶々とした表面の感触があるばかりで水気が無い。
「水切れてんのか。他の階に行って貰って…」
「どうしたの?」
しゃがんで水瓶の底を見るナジュの背に声を掛けるものがあった。振り返ると、昨日自分の部屋を間違えてナジュの部屋に来た南天という男であった。振り返ったナジュの顔を見た南天は、あっと声を出してすぐに「昨日は間違えてすみません」と申し訳なさそうに謝った。
「あんた…南天っていう人だよな?」
「はい……えっと、どうかしましたか?」
「水瓶に一滴も水が無いんだ。どこからか持ってこないと」
「ああ、その水瓶から水を汲むにはやり方があるんですよ」
南天は左の棚から大きい器を手に取ると、水瓶の前のナジュの側にしゃがんだ。
飯処で他の神様候補と厨房係と一緒にかりいを食べたナジュは、蓋の着いた器に皆で食べても残った白飯とかりいをよそって貰い、それを持って与えられた部屋に帰ろうとしていた。他の神様候補はナジュとは反対の棟に部屋があると言うので、途中までかりいの感想を話し合っていたが途中で別れた。両手でほかほかの器を持って、かりいが毀れないように慎重に階段を昇って行く。時折すれ違う神様候補が何を持っているのだろうと振り返る度、ちょっとした優越感を味わえる。
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「同部屋は二人から三人部屋って話しだったが、これからは俺一人になるのかな?それとも三人部屋から誰か来るのか…?よっと」
鍵を開けて扉を背中で押しながら入ると、まず片手に持った器を机に置き、それから鍵と紙をその横に置いた。重石を片手で弄びながら様子の変わらない部屋をぼうっと眺めた後、ふと支給服が汚れていないか気になって鏡の前に移動した。
「ちょっと裾の所が変色してるな…色は薄いから軽く濡れ布巾で叩けばいいか。まったく、あれだけ汚れてるなら一度着物を着換えてから掃除したかったな」
ナジュは荷物の中から布巾を取り出して水に濡らそうと思ったが、肝心の水が何処にあるか確かめていなかった。机の端に置いた学舎案内を手にして数枚捲ると、給水場所が宿舎学舎に複数個所設けられているようだ。宿舎に於いては各階層に給水場所があるらしい。ナジュは鍵を一本と布巾を持って三階の階段に向かう。
「この建物俺のいる三階より上があるのに、態々水瓶に足さなきゃいけないのは大変だよな」
三階の給水場所は、階段すぐ横の部屋にある。表札には給水湯と記されており、暖簾を潜って中に入ると、奥に三個の小振りな水瓶があり、右には洗い場の付いた簡単な厨房、左には共同利用する茶碗や急須、その他容器が置かれている棚がある。ナジュは左右を気にしつつ奥にある水瓶を覗き込んだ。中には一滴の水も無い。試しに手を伸ばして水瓶の底に触れてみるも、艶々とした表面の感触があるばかりで水気が無い。
「水切れてんのか。他の階に行って貰って…」
「どうしたの?」
しゃがんで水瓶の底を見るナジュの背に声を掛けるものがあった。振り返ると、昨日自分の部屋を間違えてナジュの部屋に来た南天という男であった。振り返ったナジュの顔を見た南天は、あっと声を出してすぐに「昨日は間違えてすみません」と申し訳なさそうに謝った。
「あんた…南天っていう人だよな?」
「はい……えっと、どうかしましたか?」
「水瓶に一滴も水が無いんだ。どこからか持ってこないと」
「ああ、その水瓶から水を汲むにはやり方があるんですよ」
南天は左の棚から大きい器を手に取ると、水瓶の前のナジュの側にしゃがんだ。
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