127柱目の人柱

ど三一

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学舎編

火付け棒

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男は客達が矮小な棒をひとしきり目にしたと判断すると、いよいよその利便性を披露する段階へと移行する。

「このちっぽけな棒を用いて、一瞬にして火を起こして見せましょう!神様方が使う術程の火力はございませんが、我々市井の民の生活には十分。瞬きの内ですよ、前列のお客様はしゃがんでいただけますと幸いです。この棒の先端の、赤い部分にご注目!」

矮小な棒と一緒にそれが入っていた小箱も掲げると、男は赤い部分を素早く小箱の側面に擦り付けた。すると赤い先端部分にボウと火が灯り、男の手元を見ていた客達は本当に瞬く間に火が点いた、と驚きが広がっている。ナジュ達三人もまさかこれ程短時間で火が点くと思わなかった為目を丸くしていた。

「凄い!火口を用意する必要も無く、あっという間に火が点いた!」
「ふむ…火花も無いのに一体どうして火が灯るのか……神様の術でも見ているかのようだ」
「ナジュくんの持ってる火起こし道具は、連続して回転させることで摩擦熱を発生させているけれど、火種が出来るような摩擦はどう見ても起こっていない。どちらも金物じゃないし…ううん…不思議」
「……」
「ナジュくんも言葉がないみたいだね。突いても何の反応も示さないよ」
「桃栗、あまり…指がめり込むほど頬を突くのは…」

ぽかんと口を開けて固まったナジュを突く桃栗をそっと諌めているその横では、その簡易な使用方法と火を点けるまでの手間が省かれた利便性に、その棒を欲しいと言う客達が机の前に群がっている。

「一つおくれ!」
「こっちが先だよ!二箱分頼む!」
「こりゃあ沢山買っといて、他に売るのもありか……町の外で同じことすりゃ…よし、百程あるかい!?」
「待て待て値段を先に言ってくれ!」
「皆様、お買い求めいただきありがとうございます。相応の数の用意がございますので、暫しお待ちを…」

客達の好反応に内心笑いが止まらない男は、この商品を提案してくれた人物に感謝の念を送った。

(ふふふ…この天界という不思議の世界…座に就くとは違った形で仰ぎ見られる傑物が混じっているのが実に面白い。学舎の比良坂様……白だか赤だかの何かが生成できれば等我々には理解できないお話をされていた。それから比良坂様の方で箱を用意するから、同じ長さと太さに整えた小さな棒を用意し、先端を赤く塗ればいいと指示され半信半疑に従っていたが、この火付け棒……絶対に売れる…!先端が赤く色付けされているから、ここを擦りつけるのだと解り易いし、何より誰でも使える!携帯するのに最適で使い捨てというのは売り手側にも嬉しい…!幾度も同じ商品を買ってくれるからな!)

男は意気揚々と布で隠していた火付け棒が入った小箱の山を客達に見せる。小箱が乗った机の前には値札が張りつけられており、比良坂の助言通り毎日使用し定期的に買い替えても手の届く値段を設定している。高値を気にして様子を伺っていた客達も、その値段を見て試しに買ってみてもいいと思い、火付け棒を求める集団に加わった。

「僕も一つ買ってみようかな~珍しい物を試してみたいし。丹雀くんとナジュくんは?」
「私も一つ…どのような仕掛けがあるのか調べてみたい」
「おっ……俺はこれがあるから…!」

市井が火付け棒で賑わっている中、学舎の私室では火付け棒の提案者である比良坂が、箱から葉を包んだ紙を取り出して中身を一つまみすると、机の上にある煙管の火皿に丸めて入れる。そして火付け棒を一本取り出して小箱の側面に擦ると、灯った火を葉に近付けて燃やす。そして吸い口を咥えてすうと煙を吸い込んで、満足そうに目を瞑っていた。
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