158 / 260
学舎編
火花
しおりを挟む
ナジュは満足そうな顔で、貰った火起こし道具を大切に抱えている。桃栗はニコニコとしながらナジュの隣に立ち、一緒にこれから始まる催しを待っている。男は温まった客の雰囲気を感じながら次の品を披露する。
「サテ、木の棒を必死に擦り合わせていた時代は、そちらのお兄さんの持つ道具の登場で終わりまして、それからそれから幾年。時代が進めば文化も発展致します。皆様にお見せするのはこちら!」
男は机の下から二つの道具を取り出した。一つは黒っぽい色の角ばった石、もう一つは持ち手の着いた金具であった。
「これなるは、先程の火起こし器より後の時代の代物でございまして、石の方を“火打石”金具の方を“火打金”と申します。この二つで一つの火起こし器、先に紹介した品とは比べ物にならぬほど有用な品でございます!」
「なに…?」
ナジュは木で出来た火起こし器を手にして喜んでいたが、男の言葉を聞いて視線をその道具に映す。客達の中にもその二つの道具について知らない者が半分程居たようで、ナジュと似たような反応を示した。
「ふふ、僕はあの道具の方が馴染み深いかなあ」
「私もだ」
「えっあれ有名なのか?」
「僕の生まれた時代はほぼアレを使ってたよ。火起こしは勿論、ちょっと遠くに出掛ける時とか、芸事、賭け事、商売繁盛祈願…」
「そ、そんな……火を起こせるだけで便利なのに、欲張りすぎるだろ…!」
「出かけには火打石を打って安全祈願をしたり、厄払いの意味もある。考えたら我々の生活に深く根付いているものだな」
二人の解説をナジュ以外も聞いており、へえと感心したような声を出す客の様子に、男は自分が説明する筈だったのにと心の中で思いながら、それに乗っかる形で注目を自分に集める。
「おや、物知りな方々だ!そうです、こちらは縁起物でもございまして、二つを素早く擦り合わせて火花を出しますと厄払い、各種祈願ともなります。うちの店も開店前にはこれを二、三度打って商売繁盛を願っておりまして、そのお蔭で沢山のお客様に集まっていただいております。それでは皆様に火付けを披露しましょう」
「見物だな…俺の火起こし器とどれだけ性能が違うのか…!」
「すっかり我が物顔だな」
「さあさあ近付いてようく見ていてください。火花がチリと飛びますからね!」
客達はそろそろと前に進み、最前列に居た三人は皆が見えるように机の前でしゃがんだ。ナジュはしっかりと火起こし器を抱いて、男の手際に目を凝らす。男は先程と同じように火口を机に置いて、両手に火打石と火打金を持つ。
「いきますよ……ほっ!」
カッ!という音を鳴らして火打石と火打金が擦り合うと、橙色のような火花が一瞬発生した。男は火口に火花を正確に飛ばす練習を何度もしており、その腕前は熟練である。発生した火花は机の上の火口に落下し、道具を机に置いた男が素早くそれを抱えて息を吹きかける。ナジュはまさかと男の手元を見ていると、燃えている証拠である白い煙が上がった。
「あちちっ!ほおら、この通りあっという間に火が生まれました!」
大袈裟に熱がって見せた男が、火口を人のいない地面に向かって投げる。静かに燃え上がる火口がぽとりと土の上に落ちると、ナジュと幼い子ども数名がその火を取り囲み、凄い凄いと言って見下ろしている。
「お兄ちゃんの持ってる道具より早い!」
「こっちの方がいい!カチカチしてみたい!」
「ははは、どれ危なくないよう俺が見てやろう」
名乗りを上げたのは最初に火起こし勝負をした恰幅の良い客であった。わいわいと盛り上がる子ども達の輪から離れて桃栗と丹雀の元に戻ったナジュは、少ししゅんとしていた。
「サテ、木の棒を必死に擦り合わせていた時代は、そちらのお兄さんの持つ道具の登場で終わりまして、それからそれから幾年。時代が進めば文化も発展致します。皆様にお見せするのはこちら!」
男は机の下から二つの道具を取り出した。一つは黒っぽい色の角ばった石、もう一つは持ち手の着いた金具であった。
「これなるは、先程の火起こし器より後の時代の代物でございまして、石の方を“火打石”金具の方を“火打金”と申します。この二つで一つの火起こし器、先に紹介した品とは比べ物にならぬほど有用な品でございます!」
「なに…?」
ナジュは木で出来た火起こし器を手にして喜んでいたが、男の言葉を聞いて視線をその道具に映す。客達の中にもその二つの道具について知らない者が半分程居たようで、ナジュと似たような反応を示した。
「ふふ、僕はあの道具の方が馴染み深いかなあ」
「私もだ」
「えっあれ有名なのか?」
「僕の生まれた時代はほぼアレを使ってたよ。火起こしは勿論、ちょっと遠くに出掛ける時とか、芸事、賭け事、商売繁盛祈願…」
「そ、そんな……火を起こせるだけで便利なのに、欲張りすぎるだろ…!」
「出かけには火打石を打って安全祈願をしたり、厄払いの意味もある。考えたら我々の生活に深く根付いているものだな」
二人の解説をナジュ以外も聞いており、へえと感心したような声を出す客の様子に、男は自分が説明する筈だったのにと心の中で思いながら、それに乗っかる形で注目を自分に集める。
「おや、物知りな方々だ!そうです、こちらは縁起物でもございまして、二つを素早く擦り合わせて火花を出しますと厄払い、各種祈願ともなります。うちの店も開店前にはこれを二、三度打って商売繁盛を願っておりまして、そのお蔭で沢山のお客様に集まっていただいております。それでは皆様に火付けを披露しましょう」
「見物だな…俺の火起こし器とどれだけ性能が違うのか…!」
「すっかり我が物顔だな」
「さあさあ近付いてようく見ていてください。火花がチリと飛びますからね!」
客達はそろそろと前に進み、最前列に居た三人は皆が見えるように机の前でしゃがんだ。ナジュはしっかりと火起こし器を抱いて、男の手際に目を凝らす。男は先程と同じように火口を机に置いて、両手に火打石と火打金を持つ。
「いきますよ……ほっ!」
カッ!という音を鳴らして火打石と火打金が擦り合うと、橙色のような火花が一瞬発生した。男は火口に火花を正確に飛ばす練習を何度もしており、その腕前は熟練である。発生した火花は机の上の火口に落下し、道具を机に置いた男が素早くそれを抱えて息を吹きかける。ナジュはまさかと男の手元を見ていると、燃えている証拠である白い煙が上がった。
「あちちっ!ほおら、この通りあっという間に火が生まれました!」
大袈裟に熱がって見せた男が、火口を人のいない地面に向かって投げる。静かに燃え上がる火口がぽとりと土の上に落ちると、ナジュと幼い子ども数名がその火を取り囲み、凄い凄いと言って見下ろしている。
「お兄ちゃんの持ってる道具より早い!」
「こっちの方がいい!カチカチしてみたい!」
「ははは、どれ危なくないよう俺が見てやろう」
名乗りを上げたのは最初に火起こし勝負をした恰幅の良い客であった。わいわいと盛り上がる子ども達の輪から離れて桃栗と丹雀の元に戻ったナジュは、少ししゅんとしていた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる