150 / 341
学舎編
掃除の対価
しおりを挟む
「いやあ綺麗になったねえ!やるじゃないか手下とお友達の羽織くん。これなら久しぶりに柔らかい寝床でぐっすりと安眠できるよ」
「服に体に臭いのが付いちゃってるよ…」
「部屋は綺麗になったのに、俺達は汚れちまったな…」
「虫…デカい虫…あのブンブンいう羽音がまだ聞こえるようだ……うう……思い出しただけで鳥肌が立ってくる。何故あいつらは人の顔面に向かって突撃してくるのだ…」
当初咳き込んで止まらなかったが、部屋が片付くと次第に空気も綺麗になっていった。片付けに掛かった時間の殆どを指図やだらけて過ごした雁尾だけは、部屋がきれいに掃除されて上機嫌であるが、他三人は部屋に充満した悪臭が纏わりつき、全身に埃やカビ、虫の死骸、その他の汚れを浴びて満身創痍の様相である。丹雀はもう形振り構っていられず、鼻と口をしっかりと守護するように羽織を結んでいた。
「良い思い出が出来たようで良かったよ」
雁尾は発掘した椅子に三人を座らせて、出所のわからない何かしらの棒に氷を出現させて三人に渡した。ナジュ達はとても喉が渇いていた為、口を潤すことが出来ると舌先で一舐めした。
「これ…塩味か?」
「疲れてるから塩分がしみるねえ~」
「出来れば昨夜のような果汁であれば良いが…桃栗の言うとおり、今なら悪くない」
「?……別に何の変哲もない無味の氷だよ」
味は全くついていない筈なのに、何故か少しだけしょっぱい氷であるらしい。三人は雁尾の言葉を聞いて一瞬動きを止めたが、味がある理由を考えないようにしながら、疲弊した身体を椅子に預けて氷を舐める。先に氷を食べ終わっていた雁尾は、三人が食べ終わるのを待つ間暇になったのか、漸く本題を話し出した。
「さて、春原の件だったね」
「そうそう、早く教えてくれ!」
ナジュは氷のついた棒を雁尾に向けて先を急がせる。
「まず、手下その一は春原の顔を見ていないと言ったね?」
「ああ、多分支給服に着替えてからは戻ってないからな。すれ違いで会わなかったんだろう」
「ふうん…そういう事か。用事も終わったからはっきり言うと、春原は君達全員知ってる筈だよ。激励会に出席していればね」
「それなら皆居たよね?僕はこっちの丹雀くんと一緒に大広間に来たし、ナジュくんとは同じ机に居たから」
桃栗の言葉にナジュと丹雀は頷いた。雁尾はそれなら話が通じるだろうと先を話す。
「なら話は早い。春原は、雷座金竜の雷に打たれた者だ」
「あ、あいつが春原!?」
「金竜様の雷に打たれて…黒こげになった…」
「僕達の目の前で惨い姿になったあの人…!?」
三人の脳裏には、昨日激励会での出来事が思い出される。突如乱入した金竜と話していたナジュと桃栗。そこに金竜に憧れる雷座志望の神様候補が来て話を遮り、不興を買った事で雷を浴びた。もしかしたら機嫌を損ねたのが自分であればと考えると、背筋が冷たくなる経験であった。
「彼何とか生きていたんだけどね、すっかり金竜に怯えてしまって……もう雷座は目指すという畏れ多い事はしないと言って。翌朝…今朝ね、御付と一緒に帰ったんだよ」
「で、でも、金竜はもう座を降りるんだろ?なら怖くないんじゃ…」
楽観的なナジュの問いに雁尾は僅かに渋い顔をした。
「神様候補となって指名されるという手順を踏むことなく、武力を持って雷座を奪い取った金竜は、雷座の力を失っても強大だ。元々破格の力が宿る雷座の神を蹴落とす実力がある。仮に春原が雷座に就けたとしても、金竜が気に入らなかったり、再び座を得たいと思えば……次は無いかもしれない」
これまでナジュ達の前では飄々としていた雁尾の真剣さが垣間見えた事で、春原の辞退した理由が命に係わる深刻なものであったのだと認識した。
「服に体に臭いのが付いちゃってるよ…」
「部屋は綺麗になったのに、俺達は汚れちまったな…」
「虫…デカい虫…あのブンブンいう羽音がまだ聞こえるようだ……うう……思い出しただけで鳥肌が立ってくる。何故あいつらは人の顔面に向かって突撃してくるのだ…」
当初咳き込んで止まらなかったが、部屋が片付くと次第に空気も綺麗になっていった。片付けに掛かった時間の殆どを指図やだらけて過ごした雁尾だけは、部屋がきれいに掃除されて上機嫌であるが、他三人は部屋に充満した悪臭が纏わりつき、全身に埃やカビ、虫の死骸、その他の汚れを浴びて満身創痍の様相である。丹雀はもう形振り構っていられず、鼻と口をしっかりと守護するように羽織を結んでいた。
「良い思い出が出来たようで良かったよ」
雁尾は発掘した椅子に三人を座らせて、出所のわからない何かしらの棒に氷を出現させて三人に渡した。ナジュ達はとても喉が渇いていた為、口を潤すことが出来ると舌先で一舐めした。
「これ…塩味か?」
「疲れてるから塩分がしみるねえ~」
「出来れば昨夜のような果汁であれば良いが…桃栗の言うとおり、今なら悪くない」
「?……別に何の変哲もない無味の氷だよ」
味は全くついていない筈なのに、何故か少しだけしょっぱい氷であるらしい。三人は雁尾の言葉を聞いて一瞬動きを止めたが、味がある理由を考えないようにしながら、疲弊した身体を椅子に預けて氷を舐める。先に氷を食べ終わっていた雁尾は、三人が食べ終わるのを待つ間暇になったのか、漸く本題を話し出した。
「さて、春原の件だったね」
「そうそう、早く教えてくれ!」
ナジュは氷のついた棒を雁尾に向けて先を急がせる。
「まず、手下その一は春原の顔を見ていないと言ったね?」
「ああ、多分支給服に着替えてからは戻ってないからな。すれ違いで会わなかったんだろう」
「ふうん…そういう事か。用事も終わったからはっきり言うと、春原は君達全員知ってる筈だよ。激励会に出席していればね」
「それなら皆居たよね?僕はこっちの丹雀くんと一緒に大広間に来たし、ナジュくんとは同じ机に居たから」
桃栗の言葉にナジュと丹雀は頷いた。雁尾はそれなら話が通じるだろうと先を話す。
「なら話は早い。春原は、雷座金竜の雷に打たれた者だ」
「あ、あいつが春原!?」
「金竜様の雷に打たれて…黒こげになった…」
「僕達の目の前で惨い姿になったあの人…!?」
三人の脳裏には、昨日激励会での出来事が思い出される。突如乱入した金竜と話していたナジュと桃栗。そこに金竜に憧れる雷座志望の神様候補が来て話を遮り、不興を買った事で雷を浴びた。もしかしたら機嫌を損ねたのが自分であればと考えると、背筋が冷たくなる経験であった。
「彼何とか生きていたんだけどね、すっかり金竜に怯えてしまって……もう雷座は目指すという畏れ多い事はしないと言って。翌朝…今朝ね、御付と一緒に帰ったんだよ」
「で、でも、金竜はもう座を降りるんだろ?なら怖くないんじゃ…」
楽観的なナジュの問いに雁尾は僅かに渋い顔をした。
「神様候補となって指名されるという手順を踏むことなく、武力を持って雷座を奪い取った金竜は、雷座の力を失っても強大だ。元々破格の力が宿る雷座の神を蹴落とす実力がある。仮に春原が雷座に就けたとしても、金竜が気に入らなかったり、再び座を得たいと思えば……次は無いかもしれない」
これまでナジュ達の前では飄々としていた雁尾の真剣さが垣間見えた事で、春原の辞退した理由が命に係わる深刻なものであったのだと認識した。
10
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説


義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。



別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる