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学舎編
同室の行方
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朝餉を終えて飯処から移動していたナジュ達が宿舎の階段の前まで戻ると、そこには看板に知らせを貼っている学舎の者が居た。看板の周りには神様候補達が集まって、何やら神妙に話し合っている。
「あれ…どうしたんだろうね。宿舎に貼るって事は僕達に関わる事だと思うけれど」
「俺達も見に行ってみよう」
「桃栗っ私は一旦部屋に…!」
「丹雀くんも一回見てからね。化粧完了するまで長いから」
ナジュを先頭に桃栗が丹雀を引っ張って看板の正面に移動する。それなりに背丈があるナジュと丹雀は既に集まっている神様候補達の後ろでも看板が見えるが、背の低い桃栗は誰かの背中しか見えない為、ナジュと丹雀に担ぎ上げて貰った。
「なになに…"雷座志望 春原、辞退せり"だって……誰?」
桃栗が首を傾げて丹雀に聞くと、彼は知らないと答えた。
「春原って…もしかして…」
「ナジュくん知り合い?」
「いや…顔は見てないが、俺の同室の奴の名前が"春原"で、寝床の上に支給服は無かったから、俺が来るより前には部屋に入ってる筈だ、でも……多分昨日から部屋に来ていないと思う。寝床に乱れが無かったからな」
「初日でもう辞退なのか…?」
ナジュの言葉に丹雀も何故と考える。知らせには春原という者が辞退したとしか記されていない為、理由が不明だ。そこで桃栗は神様候補達の間を掻き分けて入り、知らせを貼り終わった学舎の者を呼び止めた。
「すみません、この春原っていう人は、何で辞退しちゃったんですか?」
詳しい事情を聞かせて欲しいと言うと、学舎の者は複雑そうな顔をしてうーんと唸る。
「口止めされているのか、他の神様候補に不都合でもあるのか…」
「いや、そういうわけではないんだが…」
「俺、その春原って奴と同室なんだ。昨日から部屋に来てないが、大丈夫なのか?」
ナジュと春原の間に親交は無い。しかし学舎の者はナジュの物言いから関係があると思ったのか、迷った様子で周りの神様候補達をぐるりと見渡し、この場で話して良いものかと考える。口止めはされていないが、態々広める事でもない。周囲の期待の視線が注がれて気まずくなった学舎の者は、「ここでの情報開示はしない」と言って踵を返す。丁度集団の後ろにはナジュが立っており、そのすれ違い様に学舎の者は一言溢した。
「春原の件について知りたければ、師である雁尾様に尋ねるといい。昨日君達と共に居ただろう」
「う゛っ……ガンビサマか……」
ナジュが少し嫌そうな顔をする。それを見た丹雀は何故?とまた一つ疑問が浮かぶ。激励会にて師である雁尾が披露した霜座の力は、美しく芸術的な催しであった。印象として現れた氷菓の形は、背後に大輪の花でも咲いているかの様な、見事な雄孔雀であった為丹雀も満足すると共に、給仕の慧眼を褒めてやった。
「何故そのような顔をする…?素晴らしい力を持った方ではないか」
「お前は俺達が昨日どんな目に遭ったか知らないからそんな事が言えるんだ…帰ったら尻が赤くなってたんだぞ」
「……そういえば、桃栗も尻が赤いと嘆いていたな」
「ナジュくん、これからどうするの?」
帰って来た桃栗に学舎の者から聞いた事を話した。
「空いてるかわからないけれど、一度学舎に行ってガンビサマから聞いてこようかな」
「僕達も行っていい?どうしたのか気になるもんね」
「私は行かないぞ」
「丹雀くん昨日朝餉の後に町を案内してくれるって約束したよね?化粧全速力ででかして来て!百数え終わったら行くよ」
「百で出来るか!」
丹雀は羽織を被ったまま、半ば強制的に同行させられる事となった。少々気の毒に思ったナジュだが、町にも行ってみたいと思っていたので静かにしていた。
「あれ…どうしたんだろうね。宿舎に貼るって事は僕達に関わる事だと思うけれど」
「俺達も見に行ってみよう」
「桃栗っ私は一旦部屋に…!」
「丹雀くんも一回見てからね。化粧完了するまで長いから」
ナジュを先頭に桃栗が丹雀を引っ張って看板の正面に移動する。それなりに背丈があるナジュと丹雀は既に集まっている神様候補達の後ろでも看板が見えるが、背の低い桃栗は誰かの背中しか見えない為、ナジュと丹雀に担ぎ上げて貰った。
「なになに…"雷座志望 春原、辞退せり"だって……誰?」
桃栗が首を傾げて丹雀に聞くと、彼は知らないと答えた。
「春原って…もしかして…」
「ナジュくん知り合い?」
「いや…顔は見てないが、俺の同室の奴の名前が"春原"で、寝床の上に支給服は無かったから、俺が来るより前には部屋に入ってる筈だ、でも……多分昨日から部屋に来ていないと思う。寝床に乱れが無かったからな」
「初日でもう辞退なのか…?」
ナジュの言葉に丹雀も何故と考える。知らせには春原という者が辞退したとしか記されていない為、理由が不明だ。そこで桃栗は神様候補達の間を掻き分けて入り、知らせを貼り終わった学舎の者を呼び止めた。
「すみません、この春原っていう人は、何で辞退しちゃったんですか?」
詳しい事情を聞かせて欲しいと言うと、学舎の者は複雑そうな顔をしてうーんと唸る。
「口止めされているのか、他の神様候補に不都合でもあるのか…」
「いや、そういうわけではないんだが…」
「俺、その春原って奴と同室なんだ。昨日から部屋に来てないが、大丈夫なのか?」
ナジュと春原の間に親交は無い。しかし学舎の者はナジュの物言いから関係があると思ったのか、迷った様子で周りの神様候補達をぐるりと見渡し、この場で話して良いものかと考える。口止めはされていないが、態々広める事でもない。周囲の期待の視線が注がれて気まずくなった学舎の者は、「ここでの情報開示はしない」と言って踵を返す。丁度集団の後ろにはナジュが立っており、そのすれ違い様に学舎の者は一言溢した。
「春原の件について知りたければ、師である雁尾様に尋ねるといい。昨日君達と共に居ただろう」
「う゛っ……ガンビサマか……」
ナジュが少し嫌そうな顔をする。それを見た丹雀は何故?とまた一つ疑問が浮かぶ。激励会にて師である雁尾が披露した霜座の力は、美しく芸術的な催しであった。印象として現れた氷菓の形は、背後に大輪の花でも咲いているかの様な、見事な雄孔雀であった為丹雀も満足すると共に、給仕の慧眼を褒めてやった。
「何故そのような顔をする…?素晴らしい力を持った方ではないか」
「お前は俺達が昨日どんな目に遭ったか知らないからそんな事が言えるんだ…帰ったら尻が赤くなってたんだぞ」
「……そういえば、桃栗も尻が赤いと嘆いていたな」
「ナジュくん、これからどうするの?」
帰って来た桃栗に学舎の者から聞いた事を話した。
「空いてるかわからないけれど、一度学舎に行ってガンビサマから聞いてこようかな」
「僕達も行っていい?どうしたのか気になるもんね」
「私は行かないぞ」
「丹雀くん昨日朝餉の後に町を案内してくれるって約束したよね?化粧全速力ででかして来て!百数え終わったら行くよ」
「百で出来るか!」
丹雀は羽織を被ったまま、半ば強制的に同行させられる事となった。少々気の毒に思ったナジュだが、町にも行ってみたいと思っていたので静かにしていた。
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