127柱目の人柱

ど三一

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学舎編

一夜明け

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明け方になっても同室の神様候補は終ぞ帰ってはこなかった。眠気の残るまま眼を擦り、無理矢理に瞼を上げて横を見ると、一切乱れの無い寝床がそこにある。出入り口の方を見ても荷物は増えず、この部屋の共同主二人に用意された二本の鍵の内、一本は昨夜置いた場所にそのまま残っている。もう一本はナジュの寝床の隅に置かれた紙束に栞代わりに利用されている。

「何処か他の場所で寝てんのか…?昨日の南天って奴みたいに、部屋を間違って…?」

ナジュは身体を起こして伸びをすると、寝間着に使用していた着物を着換えて学舎の支給服に袖を通した。箪笥をよく調べてみると、神様候補の着物は講義を受ける為の基本衣装と、講義が無い日に着用する普段着が用意されていた。普段着の方は簡素な着流し風で、真っ白い生地に薄く色付く花模様が金糸で縫われている。学舎での講義が始まるのは明日からであるので、今日一日は着流しで過ごす事になる。朝はまだ肌寒い為着流しの中に一枚薄手の襦袢を着て帯を締めた。部屋の鏡の前でおかしな所が無いか確かめていると、宿舎に響き渡る鐘の音が聞こえた。ナジュは文机の上にある学舎宿舎案内と題された小冊子を広げて読む。

「確かこの案内によると…宿舎の一階奥に飯処があって、鐘の音が鳴って一刻迄が食事が提供される時間だな。終わりにはもう一度鐘が鳴って、宿舎での次の食事は夕餉…昼餉は学舎内の広間で食べる……今日みたいな講義の無い日の場合はどうなるんだろう…?とりあえず飯処に行ってみるか」

留守にする時は鍵を持ち歩く様にと案内に記されていた。ナジュは紙束の間から鍵を取り出して、付属している紐を首に掛けると、棚の上にあるもう一本の鍵を手に取る。今朝もとうとう姿を現さなかった者が、今日になって来るのだろうか。ナジュは少し考えると、一枚紙を取り出してそこに文章を書いた。そして学舎までの道中で拾った川原の石を葛籠から探す。角がすべて落ちてあまりにも滑らかな丸石であるのを珍しく思い、股右衛門に見せるも、ただの石だから捨て置けと言う為、こっそり持って来たのだ。部屋から出て扉に鍵を掛けると、扉に紙を立て掛けて、廊下に接している部分に丸石を置いた。

「”春原へ、この部屋の鍵が欲しかったら俺の所に来い…ナジュ”。う~ん……文字はそれなりだが、もっといい文章がありそうだな……人質取った決闘みたいだ…。”春原へ、鍵は預かった。返して欲しかったら…”これも何か違う気がするな……」

ナジュはぶつぶつと独りごとを話しながら一階の飯処に向かう。他の神様候補も支給された普段着を身に着けているが、中には自分で持ち寄った着物を着用している者もおり、階段近くで誘導している学舎の者が特に咎める様子も無い為、普段着に関しては特に取り決めはないようだ。

「念の為着物持って来て良かった。支給服を洗濯したら着る物が無くなるからな」

誘導の者に軽く挨拶をして階段を降りる。昨夜の握り飯は美味かったな、等思いながら朝餉を楽しみにしていた。
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