127柱目の人柱

ど三一

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学舎編

友?

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股右衛門と別れて、ナジュは今初めて学舎の敷地を一人で歩いている。一歩足を踏み出す毎に緊張を自覚し、胸が鼓動を早める。周りに居る神様候補達は何とも澄ました顔をしていて、ナジュはこれだけ緊張しているのは自分だけかと少し恥ずかしくなった。支給された着物も着ているんだか着られているんだかわからない心地だ。ナジュは羽織の長さを気にしながら学び舎の正面の扉を進むと、連なった赤い柱が特徴的な広い廊下を経て、学舎の者達が立っている扉の前に着いた。

「これより大広間にて、学舎の師達による挨拶が行われる!候補者達はこちらの扉を通り、己の名前が記された席に着席するように!」
「取り敢えず…皆集まって何かするんだな……」

ナジュも扉の大広間に入ると、そこには幾つもの丸い机が点在し、その上には神様候補一人ずつに盛り付けられた料理が用意されていた。机の中央には嗜好の違う生け花が飾られ、学舎への入学祝いのような雰囲気だった。

「こりゃあ…自分の席を捜すのに苦労しそうだ…」

広間の奥には横一列になった机が並んでおり、恐らくそちらが師達の席なのだろう。ナジュはそれ以外で現在空いている席を見て回る。

「こちらには君の名前はないみたいだね」
「そうか、すまないな」

自分の名前が無いか覗きに行くと、机に突っ伏して眠っている者や、睨み付ける者、既に料理に手を付けている者がいて、ナジュの様子に気付いて着席してる神様候補が声を掛けて来る事もあった。席はここではないとわかった時でも、自分の名前を見せてよろしくと握手を求める者も居た。半分くらいの丸机を回って漸く自分の名前が記された席を見つけた。そこにはまだ誰も座っていなかった為、ナジュは1人ちょこんと座って他の神様候補を待つ。

(花見宴会の料理には適わないが、これも結構豪華な料理だな……内容は皆同じか…?)

隣の席の料理に目を向けた時、料理の前にある名札が視界に入った。そこに記されている名前は”他夏”

(これは……!)

ナジュの脳内に、御手付き様達の宴での出来事が蘇り、胸飾りの存在をジンと感じて手を伸ばす。新たな着物に着替えても、他夏に取り付けられた呪いの掛かった髪飾りが今も両胸の先にぶら下がっている。ふつふつと怒りが湧いてきたナジュは、他夏が来たらすぐに捕まえて、髪飾りを外すよう雷の如く怒鳴ってやろうと心に決めた。口をへの字にして他夏を待ち構えていると、来たのは同席の神様候補だった。

「あっもう誰かいる!良かった~!こんにちは~!」
「あ、ああ…」

その神様候補は手を振りながらナジュの近くまで来て抱きついた。怒りに傾いていた心は、突然現れた明るい雰囲気の神様候補によって困惑が混じる。

桃栗ももくりですっよろしく!君はナジュくん?」
「そうだけど……」

ナジュが狼狽えたのには理由がある。この桃栗という神様候補は名前の通りの桃色の髪だった。横で二つに束ね、後ろは肩の直ぐ上あたりで切り揃えられている。煌めく瞳が印象的な可愛らしい顔をしていた。

「いきなりで驚かせちゃったかな?ごめんごめん、御付きの人と門で別れて寂しかったから誰かと友達になりたかったんだ!」
「俺も同じようなものだ。知らない奴ばっかりで少し緊張してた」
「そっか!なら、改めてよろしくねナジュ君!いきなり抱きついてごめんね」
「いや、可愛らしい女の子に抱きつかれて寧ろ俺の方が得だ。よろしく」

ナジュは自分から手を差し出して桃栗に握手を求める。桃栗はその手を握り、太陽の様な笑顔を向けて言葉を返す。

「わたし、男だよっ」
「え゛」

その発言の衝撃に固まったナジュは、ゆっくりと重なった2人の手に視線を落とす。そこには、骨張り血管の浮きあがった男の手しかなかった。

「へへ、桃栗っ男の子!」
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