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屋敷編
穏やかな夜、終了
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「……」
「……」
主様もナジュもさあ寝ようと言ってすぐに眠ることは出来なかった。お互いにお互いの存在を意識し、衣擦れの音や気配で相手が起きている事に気付いている。主様の手がおかしな場所に触れる等はなかったが、それでも抱かれ抱かれた仲である。身体が触れあっていれば、交わりをほんの少し思い出し、相応に意識してしまう。しかしナジュは、あまり気にしすぎるのも違うと思って、自然を装って寝返りを打った。身体の片側に体重がかかり、枕に付けている耳が少し痛んできたのもあった。主様の腕の中、反対方向を向くと、意外にも近くに白布で隠された顔がそこに在った。
(こいつ…眠る時も布つけてんのか…)
横向きになっている為、白布は枕に垂れて、薄い唇をした口元が半分程露出している。手をかざしてみると、そこから静かな吐息が当たってくる。
(そういえば、こいつの顔…見た事ないな。何で布で顔隠してるんだろう?……)
ナジュはむくりと湧き上がった好奇心に従って、白布の端を摘まむ。そのまま上に引けば隠された素顔がすぐそこにある筈だ。ナジュは恐らく寝ているであろう主様の白布をそーっと持ち上げていった。唇の全てが露出して、真っ直ぐな鼻梁が露わになり、どくんどくんと心臓が鼓動を早める。いよいよ素顔が見られる、ナジュは白布を顔の上までぱっと捲った。
「うわあっ!?」
「……」
ナジュは主様の腕の中で飛び上がった。白布の下、隠されていた目元が露わになったその時、主様は爛々とした瞳でナジュを見ていた。その反応に主様は若干傷つきながら、ゆっくりと身体を起こして白布を外す。ナジュはよほど驚いたのか、部屋の壁辺りまで下がって主様の動向を観察している。
「お、お前…起きてたのかよ!」
「……」
主様はこくりと頷いた。そして予め用意していた紙と筆に、”驚かせたか”と書いた。ナジュはそれを読み、改めて主様の素顔を見る。
(神様っていっても、そこらの優男と変わらない顔だ……。ん?でも目が…)
離れていても主様の瞳の輝きは見過ごせないものだった。ナジュが黙り込んだのを主様は気味悪がられているのかもしれないと思い、悲しそうに瞼を伏せる。
(この人外の瞳が恐ろしいのだろう……感情が高ぶっていると薄ぼんやりと赤く発光し、中心に走る縦線がきりきりと絞られて、人では無いと一目でわかるからな…)
「うう……」
ナジュは恐る恐る主様に近付き、布団の上の元の位置まで戻る。
「その目…」
「……」
異形の瞳を確かめる為主様に顔を近づける。このような状況でなければ主様は嬉しく思っていただろう。舞い上がって口付けをしてもおかしくない。ただ今は、ナジュが何を言うか、それだけが気にかかっていた。ナジュは爛々と輝く瞳を覗きこみ、「ううん?」と唸った。どうしたのだろうと主様が真っ直ぐにナジュの顔を見ると、その指先が己の顔に迫っているのを視界に捉え、目を見開いた。
「お前、すっごい目してるな……あっか!…ん?また色変わった…?」
「!」
ナジュは伏し目がちだった主様の瞼を指で上にあげ、その人外の瞳を観察する。主様から見たナジュには嫌悪は含まれておらず、ただただ好奇心のままに行動しているように見えた。とはいえ、意中の相手に顔を無遠慮に触れられ、じろじろと瞳を覗かれているこの瞬間は、主様に幸せな羞恥心を抱かせる。恥ずかしくなった主様は瞳を着物で覆って、赤くなった頬も隠した。そして僅かに腕を上げ下げしながら迫るナジュを盗み見る。
「目は不思議だけど、案外普通の顔してんだ…。神様っていうからもっと怖い顔とか、柔和な顔とか……目玉が十個あるとかじゃないんだな。こう…なんだろうな……瞳以外あんまり特徴がない…」
「!?」
主様の素顔について何か壮大な想像をしていたらしい。いざその素顔を目にしてどこか期待外れの様相をしているナジュに、主様ははっとして抗議の言葉を書いて見せた。
「!」ーナジュのような可愛らしい顔をしてる者はごく一部だ それに、私はこの顔で不満はない
「可愛らしいって言うな!俺は男前って言われたいんだよ!俺の顔かお前の顔か選べって言われたら、お前の顔の方がまだ男っぽいから、そんなにこの顔がいいなら呪いで交換しろ!」
「!」ーそれは嫌だ 断固拒否する
むっとして拗ねるその顔を内心で可愛いと思いながら、主様はおずおずと抗議を続け、穏やかな夜は続かず少しだけ騒がしく更けていく。
「……」
主様もナジュもさあ寝ようと言ってすぐに眠ることは出来なかった。お互いにお互いの存在を意識し、衣擦れの音や気配で相手が起きている事に気付いている。主様の手がおかしな場所に触れる等はなかったが、それでも抱かれ抱かれた仲である。身体が触れあっていれば、交わりをほんの少し思い出し、相応に意識してしまう。しかしナジュは、あまり気にしすぎるのも違うと思って、自然を装って寝返りを打った。身体の片側に体重がかかり、枕に付けている耳が少し痛んできたのもあった。主様の腕の中、反対方向を向くと、意外にも近くに白布で隠された顔がそこに在った。
(こいつ…眠る時も布つけてんのか…)
横向きになっている為、白布は枕に垂れて、薄い唇をした口元が半分程露出している。手をかざしてみると、そこから静かな吐息が当たってくる。
(そういえば、こいつの顔…見た事ないな。何で布で顔隠してるんだろう?……)
ナジュはむくりと湧き上がった好奇心に従って、白布の端を摘まむ。そのまま上に引けば隠された素顔がすぐそこにある筈だ。ナジュは恐らく寝ているであろう主様の白布をそーっと持ち上げていった。唇の全てが露出して、真っ直ぐな鼻梁が露わになり、どくんどくんと心臓が鼓動を早める。いよいよ素顔が見られる、ナジュは白布を顔の上までぱっと捲った。
「うわあっ!?」
「……」
ナジュは主様の腕の中で飛び上がった。白布の下、隠されていた目元が露わになったその時、主様は爛々とした瞳でナジュを見ていた。その反応に主様は若干傷つきながら、ゆっくりと身体を起こして白布を外す。ナジュはよほど驚いたのか、部屋の壁辺りまで下がって主様の動向を観察している。
「お、お前…起きてたのかよ!」
「……」
主様はこくりと頷いた。そして予め用意していた紙と筆に、”驚かせたか”と書いた。ナジュはそれを読み、改めて主様の素顔を見る。
(神様っていっても、そこらの優男と変わらない顔だ……。ん?でも目が…)
離れていても主様の瞳の輝きは見過ごせないものだった。ナジュが黙り込んだのを主様は気味悪がられているのかもしれないと思い、悲しそうに瞼を伏せる。
(この人外の瞳が恐ろしいのだろう……感情が高ぶっていると薄ぼんやりと赤く発光し、中心に走る縦線がきりきりと絞られて、人では無いと一目でわかるからな…)
「うう……」
ナジュは恐る恐る主様に近付き、布団の上の元の位置まで戻る。
「その目…」
「……」
異形の瞳を確かめる為主様に顔を近づける。このような状況でなければ主様は嬉しく思っていただろう。舞い上がって口付けをしてもおかしくない。ただ今は、ナジュが何を言うか、それだけが気にかかっていた。ナジュは爛々と輝く瞳を覗きこみ、「ううん?」と唸った。どうしたのだろうと主様が真っ直ぐにナジュの顔を見ると、その指先が己の顔に迫っているのを視界に捉え、目を見開いた。
「お前、すっごい目してるな……あっか!…ん?また色変わった…?」
「!」
ナジュは伏し目がちだった主様の瞼を指で上にあげ、その人外の瞳を観察する。主様から見たナジュには嫌悪は含まれておらず、ただただ好奇心のままに行動しているように見えた。とはいえ、意中の相手に顔を無遠慮に触れられ、じろじろと瞳を覗かれているこの瞬間は、主様に幸せな羞恥心を抱かせる。恥ずかしくなった主様は瞳を着物で覆って、赤くなった頬も隠した。そして僅かに腕を上げ下げしながら迫るナジュを盗み見る。
「目は不思議だけど、案外普通の顔してんだ…。神様っていうからもっと怖い顔とか、柔和な顔とか……目玉が十個あるとかじゃないんだな。こう…なんだろうな……瞳以外あんまり特徴がない…」
「!?」
主様の素顔について何か壮大な想像をしていたらしい。いざその素顔を目にしてどこか期待外れの様相をしているナジュに、主様ははっとして抗議の言葉を書いて見せた。
「!」ーナジュのような可愛らしい顔をしてる者はごく一部だ それに、私はこの顔で不満はない
「可愛らしいって言うな!俺は男前って言われたいんだよ!俺の顔かお前の顔か選べって言われたら、お前の顔の方がまだ男っぽいから、そんなにこの顔がいいなら呪いで交換しろ!」
「!」ーそれは嫌だ 断固拒否する
むっとして拗ねるその顔を内心で可愛いと思いながら、主様はおずおずと抗議を続け、穏やかな夜は続かず少しだけ騒がしく更けていく。
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